発売日: 2022年7月15日
ジャンル: ポストパンク・リバイバル、インディーロック、アートロック
虚構の向こうに光はあるか——静寂に託された希望の残響
20年以上にわたって都市の孤独と陰影を描いてきたInterpolが、2022年に放った通算7作目のアルバムThe Other Side of Make-Believe。
前作El Pintorでの再構築を経て、本作ではパンデミック下での制作という背景のもと、内省的で穏やかな音像へと舵を切っている。
タイトルの「虚構の向こう側」という言葉が象徴するように、ここで描かれるのは現実と幻想のはざまで揺れる人間の心情、
その中でもなお光を見出そうとする静かな“希望”の気配である。
陰鬱な空気は維持しつつも、これまでよりも開かれたコード感とリリカルなメロディが顔を出し、Interpolの表現が“祈り”に近づいているのが印象的だ。
全曲レビュー
1. Toni
ピアノのフレーズから始まる、柔らかくも不穏な幕開け。
バンクスの抑えた歌声が、閉じた感情をそっと開こうとする。
淡々としたリズムの中に、焦燥と希望の両方が同居している。
2. Fables
よりメロディックな展開を見せる、アルバムでも異色の明るさを持つ曲。
虚構(fables)の中にこそ真実が宿るという、寓話的な視点が詩的に響く。
3. Into the Night
滑らかなギターと深いベースラインが支配する、夜のドライブのような一曲。
夢と現実の境界を曖昧にしながら、心を漂わせるような構成。
4. Mr. Credit
ポストパンクらしいシャープなギターとユーモラスなボーカルの交錯が新鮮。
タイトルの通り、現代社会の皮肉と空虚感が軽やかに描かれる。
5. Something Changed
内省的なバラード調のミドルテンポ。
「何かが変わった」と呟くようなフレーズが、変化の兆しを示す。
希望というよりも、淡い確信のような響きをもつ。
6. Renegade Hearts
ギターの層とリズムの反復が生む美しさ。
“背を向けて進む者たち”への賛歌とも取れる内容で、静かな情熱を感じさせる。
7. Passenger
一聴すると淡々としているが、繰り返すほどに奥行きが見えてくる佳曲。
流されるままの存在でありながら、その中にも確固たる意志を秘めた視点。
8. Greenwich
浮遊感のあるギターと、皮肉とも願望ともとれるボーカルの絡みが印象的。
現実と幻想の緩衝地帯である“グリニッジ”という地名も象徴的だ。
9. Gran Hotel
死者の記憶と対話するような、幽玄なミディアムナンバー。
リリックの美しさと、空間を意識した音作りが際立つ。
10. Big Shot City
これまでのInterpolにはなかったファンク/アートロック的なアプローチが見られる曲。
挑戦的なサウンドの中に、バンドの柔軟性と新たな探求心が宿っている。
11. Go Easy (Palermo)
穏やかで、まるで夜明けの光を描くような締めくくり。
“Go easy”というフレーズが、全体を通して張り詰めた感情をゆるやかにほどいていく。
総評
The Other Side of Make-Believeは、Interpolにとって「開かれた静けさ」への一歩である。
これまでの作品が都市の喧騒の中での孤独や痛みを描いてきたとすれば、本作はより内省的で、
その中にも微かな赦しや再生を見出そうとする、成熟したポストパンクの形である。
不安定な時代を通過したあとに鳴らされたこのアルバムは、
諦念や哀しみを含みながらも、それでも“虚構の向こう”に何かがあることを信じる、静かな詩なのだ。
おすすめアルバム
-
Sleep Well Beast / The National
内省と崩壊、そして再構築を描いた音楽の祈り。静かな戦いの記録。 -
Sea Change / Beck
繊細でメランコリックなアプローチが共通。個人的な空間に深く潜る感覚。 -
Heaven Up Here / Echo & the Bunnymen
幻想的なギターとメランコリーが織りなす、初期ポストパンクの逸品。 -
Boxer / The National
言葉少なな感情と、繊細なサウンドが交差する名盤。Interpolとの親和性も高い。 -
Tranquility Base Hotel & Casino / Arctic Monkeys
現実逃避とメディア批評が入り混じる、内向的で実験的なロック作品。
コメント