1. 歌詞の概要
「Telepathy」は、Crosses (†††) のセルフタイトル・アルバム『††† (Crosses)』(2014年)に収録された楽曲であり、心と心が言葉を超えて通じ合う“テレパシー”という概念をテーマにしながら、愛・執着・孤独・信仰の境界を曖昧に描き出すミスティックな楽曲である。
「テレパシー」という言葉が示すのは、通常ならロマンティックで奇跡的な結びつきを意味するものだが、Crossesのこの曲においてはそれが安らぎではなく“取り憑かれるような精神的同調”として描かれている。
語り手は相手の心と繋がることを望みながらも、その繋がりが自分の内部を蝕み、現実と幻覚の境界を曖昧にしていく恐れを抱えている。
音数を絞ったミニマルな構成と、チノ・モレノの囁き声のようなボーカル、鈍く揺れるシンセの余韻が合わさって、この曲は“感じること”と“理解すること”のあいだに潜む、不可視の震えを体現している。
2. 歌詞のバックグラウンド
Crosses (†††)は、Deftonesのチノ・モレノとFarのショーン・ロペスが中心となって立ち上げたプロジェクトであり、その音楽性はオルタナティブ・ロックの深層とエレクトロニカの陶酔感、そして宗教的象徴性を融合した唯一無二の音世界にある。
「Telepathy」は、そのなかでも特に内向的でスピリチュアルなテーマを持った楽曲であり、語り手の“声なきコミュニケーション”への渇望、あるいはすでに存在しない何かと繋がっているという錯覚/信仰が、静かに語られていく。
この楽曲はリリース当初から、アルバム内でも特に“祈りのような質感”を持ったトラックとして注目されており、Crossesの持つ神秘的な美学と、チノ・モレノの詩的表現が見事に結晶化した1曲といえる。
3. 歌詞の抜粋と和訳
“Can you hear me now / Through the walls we built around?”
今 僕の声は聞こえているかい?
僕たちが築いた壁の向こうから“Telepathy / Or something more than sound?”
これはテレパシーかい?
それとも 音以上の“なにか”なのか“I feel your thoughts / They echo in my veins”
君の思考が感じられる
僕の静脈の中で それが反響しているんだ“And even in silence / I still hear your name”
沈黙の中でも
僕には君の名前が はっきりと聞こえる
※ 歌詞引用元:Genius(非公式)
4. 歌詞の考察
「Telepathy」の核心には、“言葉を超えたつながり”への憧れと、そのつながりによって失われる自己の輪郭というテーマがある。
語り手は相手との精神的接触を夢見ているが、それは理想的なものではなく、どこか病的で、霊的で、危ういものとして描かれる。
「君の思考が僕の静脈を流れていく」という表現は、テレパシーが身体的なものとしても作用していることを暗示している。ここでCrossesは、通常は“感覚”にとどまるテレパシーを、肉体の中にまで侵入してくる感情の化け物のように扱っているのだ。
また、「沈黙の中でも君の名前が聞こえる」というラインは、語り手がすでに現実の音ではなく、“幻聴”のような記憶や感情の残響の中に生きていることを示唆している。
つまりこの曲における“テレパシー”は、実際に他者と繋がっているわけではない。むしろ**“繋がりたいと願いすぎたがゆえに、感覚が暴走してしまった心の声”**とも読めるのである。
このように、「Telepathy」は単なるSF的概念ではなく、存在の不安と孤独から派生した“精神のゆらぎ”のメタファーとして、非常に現代的かつ詩的なかたちで提示されている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Knife Prty” by Deftones
声にならない悲鳴と快楽が交錯する、チノ・モレノの異形の官能表現。 - “Weird Fishes / Arpeggi” by Radiohead
内面世界への潜水、意識の解体と再構築を描いた神秘的ポストロック。 - “Hearts and Lungs” by Gloria Deluxe
肉体の奥にある“感情の血流”を静かに描く、アートフォークの名曲。 - “Elysian Fields” by Godspeed You! Black Emperor
死後の楽園=現実からの逃避を描いたインストゥルメンタルの黙示録。 -
“Machine Gun” by Portishead
機械的なサウンドの中に浮かぶ、絶望と執念の内的世界。
6. “声なき声”の美学——「Telepathy」に宿る、孤独とつながりの詩学
「Telepathy」は、Crossesが一貫して描いてきた“感情と信仰のあいだにある透明な膜”を、
最も繊細で美しいかたちで可視化(あるいは可聴化)した楽曲である。
それは、誰かと繋がりたいという祈りが、祈りであることを忘れて“感覚そのもの”になってしまった瞬間の物語であり、
テレパシーとは実在ではなく、孤独に耐えきれなくなった魂が見ている幻影なのかもしれない。
「Telepathy」は、声にならない思いが世界に放たれるとき、その余韻だけが音楽として残っていくことを、静かに証明している。
それは、誰にも届かないかもしれない。でも、届いてほしいと願うだけで、音はそこに生まれるのだ。
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