発売日: 2022年7月8日
ジャンル: インディーポップ、ドリームポップ、ベッドルームポップ
概要
『Stay Proud of Me』は、ロサンゼルス出身のシンガーソングライター、NoSo(本名:Baek Hwong)が2022年にリリースしたデビューアルバムであり、
アイデンティティと成長、内なる孤独を繊細に描いた作品である。
韓国系アメリカ人として育ったNoSoは、文化的ルーツやジェンダーアイデンティティ、そして自己受容をめぐる葛藤を音楽のテーマに据え、
滑らかなギターサウンドとドリーミーなプロダクションでそれらを表現した。
アルバムタイトル「Stay Proud of Me」には、”自分を誇りに思ってほしい”という、親や社会に対する静かな願いと、
同時に”自分自身を誇りに思いたい”という内向きの希望が込められている。
リリース直後から、NoSoのリリカルな世界観と卓越したギターワークは高く評価され、
特に若い世代から共感を集めた。
ベッドルームポップ的な親密さと、ドリームポップ的な浮遊感が心地よく融合した、静かながら強く胸を打つ作品である。
全曲レビュー
1. Parasites
軽やかなギターリフと、やわらかなボーカルが特徴的なオープニングトラック。
成長とともに心に巣食う不安や期待を、繊細なタッチで描き出している。
2. Suburbia
アメリカ郊外の単調な日常をテーマにした一曲。
退屈と安心が交錯する感覚を、ゆったりとしたビートと甘やかなメロディで表現する。
3. Sorry I Laughed
友情や恋愛における気まずさ、すれ違いを描く。
タイトルの”笑ってごめん”という言葉に、無防備な感情の露呈と、それを悔やむ微妙なニュアンスが込められている。
4. Honey Understand
シンセを取り入れたドリーミーなサウンドが印象的。
恋人への理解を求める切実な気持ちと、それに伴う不安が滲む。
5. Man Who Loves You
ストレートなラブソングのようでいて、アイデンティティの揺らぎをテーマにしている。
ジェンダー規範に対する静かな抵抗と、個人的な愛の形を優しく歌い上げる。
6. David
架空のキャラクターに思いを託して歌った、感傷的なナンバー。
理想と現実のギャップを受け入れる過程を、やわらかいアコースティックサウンドが支える。
7. I’m Embarrassed I Still Think of You
過去の恋愛に対する未練と自己嫌悪を、正直に綴ったバラード。
淡々とした語り口が、逆に胸に迫る。
8. Sorry, I Laughed (Reprise)
3曲目の短いリプライズ。
断片的な音像が、記憶のあいまいさと切なさをより際立たせる。
9. Everything I’ve Got
愛すること、失うことへの恐れをテーマにした美しいスロウナンバー。
NoSoのボーカルが、柔らかくも芯のある強さを感じさせる。
10. Stay Proud of Me
アルバムの締めくくりとなるタイトル曲。
自己肯定と愛を求める願いが、シンプルなギターと穏やかなメロディに乗って、静かに、しかし確かに響く。
総評
『Stay Proud of Me』は、自己探求と自己受容という普遍的なテーマを、驚くほど親密で優しいトーンで描き切った作品である。
ベッドルームポップならではのDIY的な温もりを持ちながらも、
ギターアレンジやメロディ構成には明確な美意識があり、
一曲一曲が丁寧に編み上げられていることがわかる。
特に、アイデンティティの問題──民族的なルーツ、ジェンダー、セクシュアリティ──を、
直接的なメッセージではなく、あくまで日常の中に自然に溶け込ませる手法が印象的だ。
それによって、聴く者はNoSo自身の物語を通じて、
自分自身の”かつての痛み”や”まだ癒えていない傷”を静かに見つめ直すことになる。
音楽的にはシンプルでありながら、感情のレイヤーは非常に豊かであり、
繰り返し聴くごとに新たなニュアンスが浮かび上がってくる。
『Stay Proud of Me』は、静かな声で、しかし確かに、「あなたはそのままでいい」と語りかけてくる。
そんな、ささやかながらかけがえのない一枚なのである。
おすすめアルバム(5枚)
- Clairo『Immunity』
ベッドルームポップ的な親密さと、自己探求をテーマにしたリリックが共鳴する。 - Japanese Breakfast『Soft Sounds from Another Planet』
ドリーミーなサウンドと個人的な物語性の融合が似ている。 - Soccer Mommy『Color Theory』
内省的で、感情の繊細な描写に優れたインディーポップ作品。 - Beabadoobee『Fake It Flowers』
90年代的ギターポップに乗せた、若さと葛藤の物語が響き合う。 - Snail Mail『Lush』
孤独と成長をテーマにしたリリックと、清冽なギターサウンドが共通している。
制作の裏側(Behind the Scenes)
『Stay Proud of Me』の制作において、NoSoは”完全に自分自身をさらけ出すこと”を目標に掲げていた。
ほとんどの楽曲は自宅スタジオで制作され、ギター、ベース、プログラミングのほとんどを自ら担当している。
また、アルバム制作中、特に意識したのは”声の自然さ”だったという。
ピッチ修正やエフェクトを最小限に抑え、
完璧ではない、むしろ揺れやブレのある歌声をそのまま残すことで、
感情のリアリティを強く伝えようとしたのである。
この誠実なアプローチが、『Stay Proud of Me』全体に漂う”静かなる本気”を支えているのだ。
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