発売日: 2015年7月16日(サプライズ・リリース)
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、アートロック、ガレージロック
猫と混沌と自由——Wilco流“アンチ完璧主義”のロック的衝動
2015年、Wilcoは突如としてこのStar Warsというアルバムを予告なしにフリーダウンロードでリリースした。
タイトルは誰もが知るSF映画から無断(?)で引用され、ジャケットには猫のアップというシュールなビジュアル。
その突拍子もない振る舞いからして、これはWilcoが「何かを壊したい」と思った作品であることは明白だった。
内容も、前作The Whole Loveの緻密で優美な構成美とは一転、ラフで歪んだギターサウンドとガレージロック的な即興性が全面に押し出されている。
だがこの“混沌”は決して投げやりではない。
むしろ、構築美の対極にある即興性とノイズの中に、Wilcoというバンドの体温や直感を再確認できるような作品なのである。
全曲レビュー
1. EKG
約1分30秒のインストによる幕開け。
ノイジーなギターと崩れかけたビートが耳を貫き、アルバム全体の“反美学”を予告する。
2. More…
ドラムのぶっきらぼうなリズムと、トゥイーディのしゃがれたヴォーカルが絶妙に絡む。
欲望の連鎖と倦怠を歌う、どこかパンキッシュな1曲。
3. Random Name Generator
キャッチーなリフとダルなノリがクセになる、アルバムの中核的ナンバー。
無意味な言葉の組み合わせが、現代社会の情報過多を風刺しているかのよう。
4. The Joke Explained
ミディアムテンポのローファイ・ポップ。
「ジョークの説明をするなんてジョークじゃない」というタイトルが、Wilco流の皮肉と知性を物語る。
5. You Satellite
アンビエント的なギターのレイヤーと、じわじわと盛り上がる構成。
バンドが即興演奏のように波を作るダイナミズムが印象的。
6. Taste the Ceiling
アコースティックな質感が際立つフォーク寄りの楽曲。
トゥイーディの優しい歌声とメロディが、ノイジーな周囲と対比的に際立つ。
7. Pickled Ginger
ソリッドで鋭いガレージ風ロックチューン。
歌詞の意味より音の質感を楽しむような感覚で聴ける。
8. Where Do I Begin
タイトルに反して終盤のような静けさを湛えたバラード。
淡々と問いを重ねる歌詞が、余韻とともにリスナーの中に残る。
9. Cold Slope
リズム重視のロックチューン。
無愛想なようでいて、バンドのグルーヴ感と意図的な粗さが心地よい。
10. King of You
反復するギターリフとルーズなビートが、90年代オルタナ的感触を呼び起こす。
Wilcoが本来持つ“雑味”のような魅力が詰まっている。
11. Magnetized
ラストは一転してシンセや音響を駆使したアートポップ的バラード。
「磁化された」というタイトルが象徴するように、人と人の不可思議な引力を描いているようだ。
総評
Star Warsは、Wilcoがあえて“完成された美”を壊しにかかったアルバムである。
だが、それは衝動的な破壊ではなく、自由を取り戻すための意識的な解体行為である。
磨かれた技巧や構成ではなく、その瞬間に鳴る音の手触りを大切にした姿勢は、むしろバンドの成熟を示している。
このアルバムを理解するには、“作品”としてではなく、“現在のWilcoとの対話”として聴く必要がある。
ラフで、奇妙で、冗談のようで、しかしどこか愛おしい。
Wilcoが何者であるかを、改めて自ら問うた11曲なのである。
おすすめアルバム
-
Being There by Wilco
——初期Wilcoの雑多なエネルギーを封じ込めた2枚組。混沌の原点。 -
A Moon Shaped Pool by Radiohead
——静けさと実験精神が共存する、ロックの“崩壊後”の美学。 -
Bee Thousand by Guided by Voices
——ローファイの快楽とメロディの断片が詰まった名盤。 -
No Cities to Love by Sleater-Kinney
——反復と衝動のパワーで押し切る、現代のガレージ・ロックの極北。 -
Good News for People Who Love Bad News by Modest Mouse
——ポップと皮肉が交錯する、奇妙で親密な音楽世界。
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