アルバムレビュー:The Ascension by Sufjan Stevens

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:2020年9月25日

ジャンル:エレクトロニカ、シンセポップ、アート・ポップ、インディー・ポップ、実験的ポップ、アンビエント・ポップ

概要

Sufjan StevensのThe Ascensionは、2020年に発表された8作目のソロ・スタジオ・アルバムであり、彼のキャリアの中でも特に大規模で、内省的で、電子音響に深く沈み込んだ作品である。Sufjan Stevensは、2000年代以降のアメリカン・インディーを代表するソングライターとして、フォーク、チェンバー・ポップ、宗教音楽、電子音楽、オーケストレーション、個人的な記憶を高度に結びつけてきた。MichiganやIllinoisでは、アメリカの地理と歴史を精緻なポップ・オーケストレーションで描き、Carrie & Lowellでは母の死と家族の記憶を極限まで静かなアコースティック・サウンドに落とし込んだ。一方で、The Age of Adzでは電子音、ノイズ、オートチューン、終末的なヴィジョンを取り入れ、Sufjanのもう一つの側面である過剰で不安定なエレクトロニック表現を示していた。

The Ascensionは、そのThe Age of Adzの延長線上にある作品といえるが、性格は大きく異なる。The Age of Adzが外部の芸術家Royal Robertsonの黙示録的なヴィジュアルや妄想的世界と結びついた爆発的なアルバムだったのに対し、The Ascensionはより現代的で、個人的で、信仰と社会への失望が内側から崩れていくような作品である。シンセサイザー、ドラムマシン、電子的な反復、広大なアンビエント的空間が中心となり、フォーク的な親密さは大きく後退している。しかし、Sufjan特有の繊細なメロディ、祈りのような声、宗教的な問いは失われていない。むしろ電子音の冷たさの中で、彼の声はより孤独に響く。

タイトルのThe Ascensionは、「昇天」「上昇」「昇華」を意味する。キリスト教的には、キリストの昇天を連想させる言葉であり、信仰、救済、天上への移行を示す。しかし本作における「ascension」は、単純な救済や霊的な上昇としては描かれない。むしろ、上昇しようとしても上がれない、救済を求めても届かない、信じていたものが崩れていく中でなお祈ろうとする、その不可能性が中心にある。タイトルは希望の言葉であると同時に、深い皮肉と失望を含んでいる。

本作が発表された2020年という時代も重要である。アメリカ社会は政治的分断、パンデミック、不安、孤立、資本主義への失望、宗教的・国家的理念の空洞化に直面していた。The Ascensionは、特定の出来事を直接描写するニュース的なアルバムではないが、アメリカという理念への幻滅、信仰の危機、個人の孤独、自己責任の重圧、消費社会の空虚さが全編に漂っている。Sufjanはここで、自分自身の魂の問題と、アメリカ社会の精神的疲労を重ね合わせている。

音楽的には、アルバムは約80分に及ぶ長大な作品であり、非常に密度が高い。曲数も多く、シンセサイザーの層、ビート、声の処理、反復が積み重ねられる。Carrie & Lowellの静かな余白とは対照的に、本作は音が厚く、持続時間も長く、しばしば息苦しい。だが、その息苦しさは意図的である。ここでは電子音が未来への希望ではなく、閉じ込められた精神の空間として機能している。広大なのに出口がない。美しいのに苦しい。この矛盾が、本作の中心的な感覚である。

歌詞面では、信仰、罪、自己嫌悪、祈り、愛の失敗、アメリカへの失望、消費社会、自己実現神話の崩壊が繰り返し現れる。Sufjan Stevensの作品では、信仰は常に単純な安心ではない。神を信じたいが信じきれない、祈りたいが言葉が空回りする、罪と救済の間で揺れる。この葛藤は初期から一貫しているが、The Ascensionではそれがより徹底して暗いものになっている。ここでの祈りは、教会の中の穏やかな祈りではなく、電子ノイズの中で途切れそうになる声である。

The Ascensionは、Sufjan Stevensの入門作としては決して聴きやすくない。長く、重く、同じ質感が続く場面も多い。だが、彼の作家性を深く理解するうえでは非常に重要な作品である。これは美しいフォーク・ソングの作家が、現代アメリカの精神的な廃墟の中で、なお神と自己と社会に問い続けるアルバムである。救済の約束は弱まり、上昇は失敗し、祈りは断片化する。それでも声は続く。その持続が、本作の力である。

全曲レビュー

1. Make Me an Offer I Cannot Refuse

アルバム冒頭の「Make Me an Offer I Cannot Refuse」は、タイトルからして誘惑と取引のイメージを持つ楽曲である。「断れない申し出をしてくれ」という言葉は、映画的には権力や脅迫を連想させるが、ここでは愛、信仰、欲望、救済への願いが混ざり合っている。語り手は、自分を変えてくれる何か、抗えない力を求めているように響く。

音楽的には、シンセサイザーの広がりと電子ビートが中心で、アルバムの巨大な電子空間へ聴き手を導く。Sufjanの声は柔らかいが、背景の音は厚く、不安定である。美しい旋律がある一方で、音像はどこか冷たく、人工的で、すでに安心できない。

歌詞のテーマは、救済への依存と誘惑である。語り手は自由な主体として選択するのではなく、「断れないもの」を求める。それは神の愛かもしれないし、恋愛かもしれないし、資本主義的な成功の約束かもしれない。いずれにしても、自分を超えた力に身を委ねたいという願いがある。

オープニングとしてこの曲は非常に効果的である。The Ascensionは、最初から自律した強い主体の物語ではない。むしろ、迷い、弱り、何かに差し出されたいと願う声から始まる。この弱さが、アルバム全体の精神的な軸になっている。

2. Run Away with Me

「Run Away with Me」は、タイトル通り、誰かと逃げ出すことを願う楽曲である。Sufjan Stevensの作品では、逃避はしばしば救済と結びつくが、同時にそれが本当に可能なのかという疑いも伴う。この曲でも、逃げ出す願望は美しく歌われるが、その背後には現実の重さがある。

音楽的には、前曲よりもやや開かれたメロディを持ち、シンセポップ的な明るさがある。ビートは穏やかで、声は柔らかく重なる。表面上はロマンティックな曲に聞こえるが、電子音の質感にはどこか距離があり、逃避の夢が完全には現実にならないことを示している。

歌詞では、相手と一緒にどこかへ行きたいという願いが繰り返される。これは恋愛の歌であると同時に、現代社会からの脱出願望としても読める。政治的な混乱、精神的な疲弊、自己の限界から逃れるために、誰かと共に別の場所へ行きたい。しかし、Sufjanの歌う逃避には常に儚さがある。

「Run Away with Me」は、本作の中では比較的親しみやすい曲であり、Sufjanのメロディメイカーとしての美しさがよく出ている。しかし、その美しさは完全な安心ではなく、逃げたいほど現実が苦しいことの裏返しでもある。

3. Video Game

「Video Game」は、本作の中でも特に現代的なテーマを扱う楽曲である。タイトルはビデオゲームを意味し、自己演出、承認欲求、デジタル時代の競争、スコア化された人生を連想させる。Sufjanはここで、現代社会における自己実現や成功のゲーム化を批判的に見つめている。

音楽的には、明るく整ったシンセポップとして聴ける。ビートは軽快で、メロディもキャッチーである。しかし、その明るさは歌詞の批評性と緊張関係にある。聴きやすいポップ・ソングの形式そのものが、現代の快適な消費物としての音楽を反映しているようにも感じられる。

歌詞では、他人からの評価や名声のために生きることへの拒否が歌われる。人生をゲームのように扱い、勝ち負け、ポイント、注目度、成功によって自分を測る社会に対して、語り手は距離を置こうとする。しかし、その拒否も完全に自由ではない。現代人は、ゲームから降りたいと思いながら、すでにそのルールの中で生きている。

「Video Game」は、The Ascensionの社会批評的な側面を分かりやすく示す曲である。Sufjanはここで、自己表現と自己商品化の境界を問い直している。ポップな曲調だからこそ、その批判はより鋭く響く。

4. Lamentations

「Lamentations」は、「哀歌」や「嘆き」を意味するタイトルを持つ楽曲であり、聖書の『哀歌』も連想させる。Sufjan Stevensの宗教的な言語感覚において、このタイトルは非常に重要である。ここでは個人的な悲しみと、共同体的・歴史的な嘆きが重なっている。

音楽的には、電子音の反復と不穏なビートが中心で、曲には閉塞感がある。声は美しいが、音の周囲には冷たい空気が漂う。嘆きは生身の叫びとしてではなく、機械化された空間の中で反響するように響く。これが本作らしいところである。

歌詞では、喪失や罪、祈りの失敗が暗示される。Lamentationとは、単なる悲しみではなく、神や歴史に向かって発せられる嘆きである。なぜこのような状態になったのか、なぜ救いは来ないのか。問いはあるが、答えはない。

この曲は、The Ascensionの宗教的な暗さを支える重要曲である。Sufjanは信仰を明るい慰めとしてではなく、嘆き続けるための言葉として扱っている。救われない者が、それでも祈りの形式を失わない。その姿勢がここにある。

5. Tell Me You Love Me

「Tell Me You Love Me」は、本作の中でも特に感情的で、直接的なタイトルを持つ楽曲である。「愛していると言ってほしい」という言葉は非常に素朴だが、Sufjanの歌うその願いには深い不安がある。愛されたいという欲望は、自己の不確かさと結びついている。

音楽的には、序盤は静かに始まり、徐々に音が大きく広がっていく。シンセサイザー、ビート、声の重なりが積み上がり、曲は祈りのような高まりを見せる。しかし、その上昇は完全な解放ではない。むしろ、愛を求める声が大きくなるほど、その欠如も強く感じられる。

歌詞のテーマは、承認と愛への渇望である。誰かに愛していると言われることによって、自分の存在を確認したい。しかし、その言葉は本当に十分なのか。愛を求めるほど、自分の空虚さが露わになる。この矛盾が曲の核心である。

「Tell Me You Love Me」は、The Ascensionの中で非常に重要な感情的ピークの一つである。Sufjanの声は柔らかいが、そこに込められた願いは切実である。愛の言葉は救済に近いが、同時に非常に脆い。

6. Die Happy

「Die Happy」は、「幸せに死ぬ」という強いタイトルを持つ短い楽曲である。死と幸福が同じ言葉の中に置かれており、Sufjanらしい宗教的・存在論的な緊張がある。これは明るい願望にも、絶望的な諦めにも聞こえる。

音楽的には、ミニマルな反復が中心で、ほとんど祈りやマントラのように響く。長大なアルバムの中では短い曲だが、同じ言葉や感覚が反復されることで、強い余韻を残す。電子音は柔らかいが、どこか無機質でもある。

歌詞の内容は非常に簡潔であり、だからこそ解釈の余地が大きい。幸せに死にたいという願いは、人生の完成を求める言葉かもしれないし、もうこれ以上苦しみたくないという言葉かもしれない。信仰の文脈では、死後の救済への願いにも聞こえる。

「Die Happy」は、本作の死生観を短く凝縮した曲である。幸福は生の中で得られるものなのか、それとも死によって初めて完成するものなのか。Sufjanはその問いを、説明ではなく反復によって提示している。

7. Ativan

「Ativan」は、抗不安薬の名前をタイトルにした楽曲であり、本作の中でも特に現代的な精神不安を直接的に扱っている。薬の名前がそのまま曲名になることで、信仰や愛ではなく、医療や薬物によって不安を管理する現代の状態が浮かび上がる。

音楽的には、曲は長く、暗く、徐々に展開していく。電子音の層が重なり、ビートは重く、不安定である。Sufjanの声は弱く、漂うように響き、薬によって意識がぼやける感覚にも通じる。曲全体が、パニックと鎮静の間を揺れている。

歌詞では、不安、身体の反応、精神的な崩れが描かれる。Ativanは不安を抑える薬だが、薬が不安の原因を消すわけではない。ただ、一時的に身体と意識を制御する。その制御の中にも別の不安がある。自分の精神が薬によって管理されることの安心と恐怖が同時に存在する。

「Ativan」は、The Ascensionの中でも特に重い曲である。Sufjanはここで、現代的な不安を宗教的な罪や救済の問題だけでなく、身体と薬の問題として描いている。精神の危機が、非常に具体的な薬名として現れる点が重要である。

8. Ursa Major

「Ursa Major」は、おおぐま座を意味するタイトルを持つ楽曲であり、宇宙的なイメージを含む。Sufjanの作品には、個人的な感情を天体や広大な空間へ拡張する傾向があるが、この曲もその一つである。人間の小さな不安と、宇宙のスケールが重なり合う。

音楽的には、比較的リズミカルで、シンセサイザーの反復が印象的である。曲は軽快さを持ちながら、どこか不安定で、浮遊している。星座の名前が示すように、地上から見上げる視点があり、同時に自分が宇宙の中で迷っている感覚もある。

歌詞のテーマは、自己の位置を探すこととして読める。星座は人間が夜空に意味を与えるための図である。しかし、その意味は人間が作ったものであり、宇宙そのものが答えを与えてくれるわけではない。Sufjanはここで、広大な世界の中で自分を位置づけようとする不安を歌っている。

「Ursa Major」は、アルバムの中で少し空間を広げる曲である。閉じた自己の不安から、夜空のスケールへ視線が移る。しかし、その広がりも完全な救済にはならない。宇宙は美しいが、沈黙している。

9. Landslide

「Landslide」は、地滑りや大規模な崩落を意味するタイトルを持つ楽曲である。これは自然災害のイメージであると同時に、精神や社会が崩れていく比喩としても機能する。本作における崩壊の主題が、ここでは非常に直接的に表れている。

音楽的には、電子音の反復とビートが不安定に重なり、曲全体に崩れていくような感覚がある。サウンドは巨大だが、足場は確かではない。声も音の中に埋もれがちで、個人が大きな崩壊に飲み込まれていくように響く。

歌詞では、安定していたはずのものが崩れる感覚が描かれる。信仰、愛、社会、自己像。そのどれもが地滑りのように一気に崩れてしまう可能性がある。Sufjanの歌詞では、外部の自然現象が内面の状態としばしば重なるが、この曲では特にその結びつきが強い。

「Landslide」は、本作の不安定な精神状態を象徴する曲である。崩壊は突然起こるが、その前には長い時間をかけて地面が緩んでいる。アルバム全体に蓄積されてきた不安が、ここで地形そのものの崩れとして表現されている。

10. Gilgamesh

「Gilgamesh」は、古代メソポタミアの叙事詩『ギルガメシュ叙事詩』に由来するタイトルを持つ楽曲である。ギルガメシュは、死すべき人間でありながら永遠の命を求める王であり、友情、喪失、死への恐怖、不死への願望を象徴する存在である。このタイトルは、Sufjanの宗教的・神話的想像力と深く結びつく。

音楽的には、暗く、重く、儀式的な響きがある。シンセサイザーとビートは古代的というより未来的だが、曲全体には神話の重さが漂う。過去の神話と現代の電子音が接続され、時間感覚が曖昧になる。

歌詞では、死への恐れと永遠への願いが感じられる。ギルガメシュが友の死をきっかけに不死を求めるように、Sufjanの音楽でも喪失はしばしば信仰や永遠への問いを呼び起こす。しかし、本作では永遠への道は明確ではない。人間は死を恐れながら、それでも死を避けられない。

「Gilgamesh」は、The Ascensionの神話的な側面を担う曲である。現代の不安は新しいものに見えるが、死への恐れと救済への願いは古代から続いている。Sufjanはその長い人間の歴史を、電子音の中に浮かび上がらせている。

11. Death Star

「Death Star」は、明らかにポップ・カルチャー的な響きを持つタイトルであり、同時に死の星という強いイメージを持つ。巨大な破壊装置、帝国的な力、宇宙的な死の象徴として読むことができる。Sufjanはここで、神話や宗教だけでなく、現代のSF的イメージも取り込んでいる。

音楽的には、ビートとシンセサイザーが比較的明確に前へ出て、冷たい機械的な質感がある。曲はポップでありながら、不穏である。タイトルの通り、巨大な人工物の中に閉じ込められているような感覚がある。

歌詞のテーマは、破壊的な力への接近として読める。Death Starは外部の悪の象徴であると同時に、現代社会の中にある巨大なシステムの比喩にもなる。国家、軍事、資本、テクノロジー、あるいは自己破壊的な心理。それらはすべて、個人を圧倒する巨大な装置として現れる。

「Death Star」は、本作のSF的・政治的な側面を支える曲である。Sufjanの音楽はしばしば宗教的だが、ここでは救済ではなく破壊の巨大装置が宇宙に浮かぶ。上昇するはずの魂は、死の星の重力に引き寄せられる。

12. Goodbye to All That

「Goodbye to All That」は、「それらすべてに別れを告げる」という意味を持つ楽曲であり、過去、信念、関係、社会的な幻想への別れを示す。タイトルはRobert Gravesの回想録を連想させる言葉でもあり、戦争後の過去との決別のニュアンスも帯びている。

音楽的には、比較的軽やかなシンセポップとして始まるが、歌詞には強い終わりの感覚がある。Sufjanの声は柔らかく、別れを叫ぶのではなく、静かに受け入れるように響く。しかし、その受け入れには深い疲れがある。

歌詞では、何かを手放すことが歌われる。愛、信仰、自己像、アメリカ的な夢、若さ、成功への期待。すべてに別れを告げることは、解放であると同時に喪失である。Sufjanはここで、過去を美化するのではなく、その重さから離れようとしている。

「Goodbye to All That」は、アルバムの後半へ向かう重要な転換点である。ここから本作は、崩壊を嘆くだけでなく、何を手放すのかという問題へ進んでいく。別れは終わりであり、同時にわずかな自由でもある。

13. Sugar

「Sugar」は、本作の中でも特に印象的な長尺曲であり、甘さ、依存、欲望、消費をテーマにした楽曲である。砂糖は快楽を与えるが、過剰になると身体を蝕む。Sufjanはこの甘さを、恋愛、資本主義、自己欺瞞、快楽への依存の比喩として使っている。

音楽的には、曲は長く、シンセサイザーとビートがゆっくりと展開する。反復が多く、陶酔的でありながら、どこか不穏である。タイトル通り、甘いメロディがあるが、その甘さは純粋ではない。人工甘味料のような冷たさもある。

歌詞では、甘さを求める欲望が描かれる。人は苦しみを忘れるために甘いものを求める。愛、娯楽、消費、宗教的慰め、成功の物語。それらは一時的に心を満たすが、根本的な空虚を解決するわけではない。砂糖の比喩は、現代社会の依存構造を鋭く示している。

「Sugar」は、The Ascensionの中で非常に重要な曲である。美しい電子ポップとして聴ける一方、その中身は欲望の過剰摂取への警告である。甘さに包まれた毒が、この曲の魅力である。

14. The Ascension

タイトル曲「The Ascension」は、アルバム全体の精神的な中心であり、非常に重要な楽曲である。ここでSufjanは、信仰、自己、社会、愛、成功への失望を静かに総括する。タイトルは昇天を意味するが、曲の響きは勝利や救済ではなく、深い疲労と諦念を帯びている。

音楽的には、比較的抑制されており、声と電子音が静かに重なる。長大なアルバムの中で、この曲は大きく爆発するのではなく、むしろ内側へ沈む。Sufjanの声は非常に近く、祈りというより告白のように響く。

歌詞では、自分が信じてきたもの、望んできたものが十分ではなかったことが語られる。アメリカ、神、愛、自己実現、成功。それらへの幻滅が静かに表明される。ここで重要なのは、Sufjanが信仰を完全に捨てるというより、信じることの難しさを正面から見つめている点である。昇天は起こらないかもしれない。それでも、その不在を歌うことが残る。

「The Ascension」は、本作の中でも最も痛切な曲の一つである。アルバムのタイトルを担いながら、そこにあるのは上昇の達成ではなく、上昇できない者の祈りである。この反転が、本作全体の核心である。

15. America

アルバム最後を飾る「America」は、12分を超える長大な終曲であり、本作の政治的・宗教的・個人的なテーマをすべて集約する楽曲である。タイトルはあまりにも大きい。Sufjan Stevensにとってアメリカは、地理であり、神話であり、信仰の場であり、失望の対象でもある。彼のキャリア初期には「50州プロジェクト」という構想があり、アメリカという国を音楽で描こうとしていた。本曲は、その長い関係の暗い総括にも聞こえる。

音楽的には、長大な電子音のうねりと、繰り返されるフレーズによって構成される。曲は静かに始まり、徐々に広がり、終盤ではほとんど祈りと崩壊が一体化するような音響になる。ビート、シンセ、声が重なり、アメリカという巨大な概念が電子ノイズの海に沈んでいくように響く。

歌詞では、アメリカへの失望が率直に歌われる。神の国、自由の国、希望の国としてのアメリカは、もはや信じられない。語り手はアメリカに裏切られ、同時に自分自身もその一部であることから逃れられない。これは外部からの批判ではなく、内側からの痛みである。

「America」は、The Ascensionの終曲として非常に重い。ここには救済の明確な答えはない。長い曲の終わりに残るのは、巨大な国への失望、信仰の危機、そしてなお歌い続ける声である。Sufjanはアメリカを拒絶しながら、そこから完全には離れられない。その矛盾が、この曲を非常に深いものにしている。

総評

The Ascensionは、Sufjan Stevensのディスコグラフィの中でも最も重く、長く、精神的に疲弊したアルバムの一つである。Carrie & Lowellの静かな喪失感や、Illinoisの華やかな構築性を期待すると、本作はかなり異質に響く。ここにはアコースティック・ギターを中心とした親密なフォークの温かさは少なく、代わりにシンセサイザー、電子ビート、反復、巨大な音の壁がある。しかし、その電子音の奥には、Sufjanらしい祈りと孤独が深く残っている。

本作の最大のテーマは、信じていたものの崩壊である。神、愛、アメリカ、自己実現、成功、幸福、救済。これらはすべて、Sufjanの歌の中で問い直される。The Ascensionというタイトルは、救済や上昇を期待させるが、実際には上昇の不可能性が描かれる。語り手は天へ昇るのではなく、電子音の迷宮の中で立ち尽くす。それでも声を出し続ける。その苦しさが本作の本質である。

音楽的には、非常に野心的である一方、聴き手に大きな負荷をかける作品でもある。約80分という長さ、似た質感の電子音、重い歌詞、反復の多さは、アルバムを一気に聴くことを容易にはしない。だが、この過剰さは欠点であると同時に、現代的な精神状態の表現でもある。情報、欲望、不安、政治、宗教、自己責任が過剰に積み重なった時代に、簡潔で美しい答えを出すことはできない。本作の長さと息苦しさは、その時代の重さを反映している。

歌詞面では、Sufjan Stevensの宗教的葛藤が非常に深く表れている。彼は神を単純に肯定するわけでも、完全に拒絶するわけでもない。むしろ、神を求めながら、信仰が機能しなくなっている現実を見つめる。これは非常に現代的な信仰の姿である。祈りの形式は残っているが、答えは返ってこない。神の沈黙の中で、歌だけが続く。

また、本作はアメリカへの失望のアルバムでもある。Sufjanは過去にアメリカの州や土地を音楽化し、その歴史や風景に詩的な光を当ててきた。しかし「America」では、そのアメリカがもはや信じられないものとして歌われる。これは政治的批判であると同時に、個人的な喪失でもある。自分を形作ってきた国、自分が歌ってきた国が、失望の対象になる。その痛みがアルバム全体に広がっている。

The Ascensionは、Sufjanの作品の中で最もポップな瞬間と、最も重い瞬間が同居している。「Video Game」や「Sugar」は比較的キャッチーで、シンセポップとしての魅力を持つ。一方で、「Ativan」「The Ascension」「America」は非常に重く、精神的な深みに沈んでいる。この明暗の混在は、本作が単純な暗黒アルバムではないことを示している。甘いメロディがあるからこそ、その甘さの毒が見える。

日本のリスナーにとって本作は、Sufjan Stevensの入門盤としては難しい。しかし、彼の電子音楽への関心、信仰への葛藤、現代アメリカへの批判、自己の崩壊を理解するには極めて重要な作品である。まずCarrie & LowellやIllinoisで彼のメロディと詩情に触れたうえで本作を聴くと、その変化の大きさがより明確になる。

総合的に見て、The Ascensionは、Sufjan Stevensが現代の信仰、愛、国家、自己をめぐる危機に正面から向き合った大作である。美しいが重い。ポップだが苦しい。宗教的だが救済されない。電子的だが人間の弱さに満ちている。昇天を願いながら、上昇できない者の歌。それが本作である。Sufjan Stevensはここで、希望の言葉を簡単には信じず、それでも祈りの声を手放さない。その矛盾が、The Ascensionを彼のキャリアにおける重要な一枚にしている。

おすすめアルバム

1. Sufjan Stevens – The Age of Adz(2010年)

Sufjan Stevensの電子音楽的側面が初めて大規模に展開された重要作である。ノイズ、シンセサイザー、オーケストレーション、終末的なイメージが混ざり合い、The Ascensionの過剰な電子音響の前史として非常に重要である。

2. Sufjan Stevens – Carrie & Lowell(2015年)

母の死と家族の記憶を静かなアコースティック・サウンドで描いた代表作である。音楽的にはThe Ascensionと対照的だが、喪失、信仰、自己の弱さというテーマは深くつながっている。Sufjanの内面的な作詞を理解するために欠かせない。

3. Sufjan Stevens – Illinois(2005年)

アメリカの地理、歴史、人物、神話を豪華なチェンバー・ポップで描いた代表作である。終曲「America」で示されるアメリカへの失望を理解するには、かつてSufjanがアメリカをどのように歌っていたかを知ることが重要である。

4. Sufjan Stevens – Enjoy Your Rabbit(2001年)

十二支をテーマにした初期の電子音楽作品であり、Sufjanの実験的・構築的な側面が強く出ている。The Ascensionの電子音響が突然現れたものではなく、初期からの関心であることを確認できる作品である。

5. Thom Yorke – The Eraser(2006年)

RadioheadのThom Yorkeによるソロ作品であり、電子ビート、政治的不安、孤独、現代社会への失望がミニマルに表現されている。The Ascensionと同じく、電子音を使って現代的な精神不安と社会的な危機を描く作品として関連性が高い。

コメント

タイトルとURLをコピーしました