アルバムレビュー:Ascension by A Flock of Seagulls

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:2018年7月6日

ジャンル:ニュー・ウェイヴ、シンセポップ、オーケストラル・ポップ、エレクトロ・ポップ

概要

A Flock of Seagullsの『Ascension』は、1980年代ニュー・ウェイヴを代表するバンドの代表曲群を、プラハ・フィルハーモニック・オーケストラとの共演によって再構築したアルバムである。単なるベスト盤やリミックス集ではなく、バンドの過去のレパートリーをオーケストラ・アレンジによって再解釈する企画であり、1980年代的なシンセサイザーの未来感と、クラシック音楽由来の壮大な響きを接続する試みとして位置づけられる。

A Flock of Seagullsは、1980年代前半のMTV時代を象徴する存在として知られる。リヴァプール出身のバンドであり、Mike Scoreの特徴的なヘアスタイル、宇宙的なイメージ、シンセサイザーを多用したサウンド、そして鋭いギター・リフによって、ニュー・ウェイヴ期のポップ・カルチャーに強い印象を残した。特に「I Ran (So Far Away)」は、アメリカでMTVが音楽の聴かれ方と見られ方を大きく変えていく時代に広く浸透し、バンドの代名詞となった。

彼らの音楽は、一般的にはシンセポップとして語られることが多いが、実際にはギター・ロック、ポスト・パンク、エレクトロニック・ポップ、スペース・ロック的なイメージが入り混じっている。Duran DuranやSpandau Balletのような洗練されたニューロマンティック系とは異なり、A Flock of SeagullsにはよりSF的で、少し無機質で、時に不安定な感覚がある。また、The CarsやGary Numan、Ultravoxなどと比較されることも多く、ロック・バンドの編成を保ちながら、シンセサイザーによって未来的な音像を作るグループとして評価できる。

『Ascension』の意義は、そうしたA Flock of Seagullsの楽曲が持っていた“空間的な広がり”を、オーケストラの響きによって拡張した点にある。1980年代のシンセサイザーは、当時のリスナーにとって未来的で人工的な音だった。ストリングス、ブラス、パーカッションを含むオーケストラは、それとは対照的に、歴史的で有機的な音として受け取られやすい。『Ascension』は、この二つを対立させるのではなく、もともと楽曲に備わっていたドラマ性やロマンティシズムを別の角度から浮かび上がらせる。

タイトルの“Ascension”は「上昇」「昇天」「高みへ向かうこと」を意味する。これは、バンドの過去の楽曲をより大きなスケールへ引き上げるというアルバムのコンセプトに合致している。また、A Flock of Seagullsの音楽には、逃走、距離、宇宙、空、夢、孤独といったイメージがしばしば現れる。『Ascension』という言葉は、そのイメージ群とも自然につながる。地上から遠くへ、日常から別の場所へ、あるいは過去の記憶から新たな解釈へ向かうアルバムといえる。

本作には、バンドの代表曲「I Ran」「Space Age Love Song」「Wishing (If I Had a Photograph of You)」「The More You Live, the More You Love」などが含まれており、A Flock of Seagullsのキャリアを俯瞰するような内容になっている。さらに、オーケストラの導入によって、メロディの骨格やコード進行、歌詞の情緒がより明確に聴こえる場面も多い。1980年代のプロダクションに馴染みが薄いリスナーにとっては、楽曲そのものの強さを再確認する入り口にもなる作品である。

一方で、このアルバムは懐古的なノスタルジーだけで成立しているわけではない。ニュー・ウェイヴやシンセポップは、しばしば“時代の音”として扱われるが、その中には今なお有効なテーマが含まれている。テクノロジーと感情の関係、都市生活の孤独、映像文化と音楽の結びつき、未来への憧れと不安。A Flock of Seagullsの楽曲は、こうした1980年代的な問題意識をポップな形で表現していた。『Ascension』は、それらをオーケストラという別の言語で再提示し、単なる時代物ではなく、長く残るメロディとテーマを持つ作品群として示している。

全曲レビュー

1. I Ran

「I Ran」はA Flock of Seagulls最大の代表曲であり、『Ascension』においてもアルバムの中心的な存在である。オリジナル版では、切り込むようなギター・リフ、疾走感のあるリズム、冷たいシンセサイザーが組み合わさり、1980年代ニュー・ウェイヴの象徴的なサウンドを作っていた。本作のヴァージョンでは、その鋭さを保ちながら、オーケストラの響きによって楽曲のドラマ性がさらに拡大されている。

歌詞は、強烈な出会いと逃走のイメージで構成されている。語り手は、空から降りてきたような、あるいは非現実的な美しさを持つ人物に出会い、その圧倒的な感情から逃げ出す。タイトルの“I Ran”は、単なる物理的な逃走ではなく、説明できない感情や未知の存在に直面したときの本能的な反応を示している。恋愛の歌でありながら、SF映画のような感覚を持つ点がこの曲の独自性である。

オーケストラ・アレンジでは、ストリングスが楽曲の緊迫感を高め、ブラスや打楽器的なアクセントが逃走劇のスケールを広げる。オリジナルのシンセサイザーが作っていた未来的な空間は、ここでは映画音楽的な広がりに置き換えられている。これによって、「I Ran」は単なる80年代ヒットではなく、ロマンティックなパニックを描いた劇的なポップ・ソングとして再認識される。

2. Modern Love Is Automatic

Modern Love Is Automatic」は、A Flock of Seagulls初期の重要曲であり、バンドのニュー・ウェイヴ的な感性をよく示している。タイトルは「現代の愛は自動化されている」という意味を持ち、テクノロジー社会における恋愛や感情の変質を皮肉に描いている。1980年代初頭は、コンピューター、ビデオ、電子楽器、機械的なイメージがポップ・カルチャーの中で急速に広がっていた時代であり、この曲はその空気を反映している。

オリジナル版では、硬質なリズムとシンセサイザーが、タイトル通り“自動化された”感情の冷たさを表現していた。『Ascension』のヴァージョンでは、そこにオーケストラの動きが加わることで、機械的なテーマと人間的な感情の対比がより鮮明になる。ストリングスの流麗な響きは、無機質なビートの中に隠れていたロマンティックな側面を引き出している。

歌詞のテーマは、恋愛が自然な感情ではなく、社会システムやテクノロジーによって管理されるものになっていく不安である。これは1980年代の未来観であると同時に、現代のSNSやマッチングアプリ時代にも通じる問題である。人間関係がデータ化され、反応がパターン化される時代において、「Modern Love Is Automatic」は今なお有効な問いを持つ楽曲といえる。

3. Telecommunication

「Telecommunication」は、A Flock of Seagullsのテクノロジー志向を明確に示す楽曲である。タイトルが示す通り、通信、情報、距離、声の媒介といったテーマが中心にある。ニュー・ウェイヴの時代には、電話、テレビ、衛星通信、電子メディアが日常感覚を大きく変えつつあり、多くのアーティストがその変化を音楽に取り込んだ。この曲もその流れの中にある。

サウンド面では、リズムの反復とシンセサイザーのフレーズが、通信信号のような機械的な感覚を作る。『Ascension』では、その反復にオーケストラが加わることで、単なる電子的なミニマリズムではなく、よりダイナミックな構成になっている。ストリングスや管楽器のアクセントは、情報が空間を飛び交うような広がりを生み出す。

歌詞は、遠く離れた相手とつながろうとする欲望と、その媒介が生む距離感を扱っている。通信は人を近づけるが、同時に直接的な接触を失わせる。A Flock of Seagullsはこの矛盾を、ダンス可能なニュー・ウェイヴ・サウンドの中に組み込んだ。現代の視点から聴くと、デジタル・コミュニケーションの孤独を先取りした楽曲としても読める。『Ascension』のアレンジは、そのテーマをより大きな時間軸で響かせている。

4. Space Age Love Song

「Space Age Love Song」は、A Flock of Seagullsの楽曲の中でも特にロマンティックで、透明感のある名曲である。タイトルは「宇宙時代のラヴ・ソング」という意味を持ち、バンドのSF的なイメージと、普遍的な恋愛感情が美しく結びついている。オリジナル版では、きらめくギター、浮遊するシンセ、Mike Scoreの素朴で切実なヴォーカルが、青春の一瞬を宇宙的な広がりへ変えていた。

『Ascension』のヴァージョンでは、オーケストラのストリングスが楽曲の叙情性を大きく引き上げている。もともとこの曲は、コード進行とメロディに非常に強い美しさがあり、オーケストラ化との相性が高い。シンセサイザーによる未来感は、ここでは弦楽の広がりに置き換えられ、より映画的でノスタルジックな雰囲気を持つ。

歌詞は非常にシンプルで、相手を見た瞬間に恋に落ちる感覚を描いている。しかし、そのシンプルさこそが強みである。複雑な物語や説明ではなく、視線、感情の高まり、心が奪われる瞬間だけを切り取ることで、時代や場所を超えた普遍性を獲得している。“Space Age”という言葉は、恋愛を未来的なものとして装飾しているが、実際に歌われているのは極めて人間的な感情である。この対比が、曲に独特の魅力を与えている。

5. Ascension

タイトル曲「Ascension」は、本作のために用意されたコンセプトを象徴する楽曲であり、アルバム全体の方向性を示す重要なトラックである。A Flock of Seagullsの既存曲を再構築するアルバムの中で、この曲は“上昇”というテーマを音楽的に提示し、過去の楽曲群を新しい響きの中へ導く役割を果たしている。

音楽的には、オーケストラの壮大さが前面に出ており、ニュー・ウェイヴというよりも映画音楽やシンフォニック・ポップに近い感覚がある。ストリングスの上昇するフレーズや、広がりのあるアレンジは、タイトルの意味をそのまま音にしたような印象を与える。A Flock of Seagullsの楽曲に通底する空、飛翔、遠方への憧れといったイメージが、ここで明確な形を取る。

歌詞や曲想の面では、過去から未来へ、低い場所から高い場所へ、閉塞から解放へ向かう感覚がある。これはバンドのキャリアにも重ねることができる。1980年代の一時代を象徴する存在として固定されがちな彼らが、楽曲をオーケストラの文脈で再提示することは、単なる懐古ではなく、再評価への上昇でもある。「Ascension」はアルバムのタイトルにふさわしく、作品全体の精神的な軸となっている。

6. Wishing (If I Had a Photograph of You)

「Wishing (If I Had a Photograph of You)」は、A Flock of Seagullsの代表曲の中でも特にメランコリックな美しさを持つ楽曲である。オリジナル版では、シンセサイザーの柔らかな音色とミドル・テンポのリズムが、失われた相手への想いを静かに支えていた。『Ascension』では、オーケストラの導入によって、曲の持つ郷愁と喪失感がより大きく広がっている。

タイトルにある“photograph”は、記憶と不在の象徴である。写真は相手の姿を留めるが、相手そのものではない。歌詞では、もし相手の写真があれば、記憶を保てるのではないか、失われたものに触れられるのではないかという願いが表現される。このテーマは、1980年代の楽曲でありながら、現代にも強く響く。人は画像や記録を通じて記憶を保存しようとするが、その行為は同時に不在を強く意識させる。

オーケストラ・アレンジでは、ストリングスが感情を過度に押し出すのではなく、静かな切なさを拡張している。シンセポップの冷たい美しさが、クラシカルな叙情性へ変換されることで、楽曲の普遍的なメロディが際立つ。A Flock of Seagullsのソングライティングの中でも、最も繊細な側面を示す一曲である。

7. Nightmares

「Nightmares」は、タイトル通り悪夢や不安をテーマにした楽曲であり、A Flock of Seagullsの暗い側面をよく表している。彼らはポップなイメージで語られることも多いが、その楽曲には孤独、不安、逃走、未知への恐怖が頻繁に登場する。この曲は、そうした心理的な緊張を比較的直接的に扱っている。

音楽的には、ニュー・ウェイヴ特有の硬質なビートと不穏なメロディが基盤になっている。『Ascension』では、オーケストラの低音やストリングスの緊張感が、悪夢的な雰囲気をさらに強めている。シンセサイザーだけでは冷たく平面的になりがちな不安が、オーケストラによって立体的なドラマへと変化している。

歌詞では、眠りの中に現れる恐怖だけでなく、日常生活の中で消えない不安が描かれる。悪夢とは、単に夜に見る映像ではなく、心の中に残り続ける恐れや記憶の表れである。A Flock of Seagullsの未来的な音像は、しばしば明るい未来ではなく、不確かな未来への緊張を含んでいた。「Nightmares」は、その不安の側面を強調する楽曲として、アルバムの中で重要な陰影を与えている。

8. The More You Live, the More You Love

「The More You Live, the More You Love」は、A Flock of Seagulls後期の代表曲であり、人生経験と愛の関係を扱った成熟したポップ・ソングである。タイトルは「生きれば生きるほど、愛するようになる」と訳せるが、単純な楽観ではなく、経験を重ねるほど愛の複雑さや痛みも深まるというニュアンスを含んでいる。

オリジナル版では、1980年代中期らしい洗練されたシンセポップの質感があり、初期の鋭いSF感覚よりも、より広いポップ・フィールドに接近していた。『Ascension』では、オーケストラによって曲のスケールが広がり、人生を俯瞰するような印象が強まっている。ストリングスの流れは、時間の経過や感情の積み重なりを音楽的に表している。

歌詞は、愛を若い衝動としてではなく、経験とともに変化する感情として描く。生きることは、喜びだけでなく、失望や別れ、誤解や再会を含む。その中で愛は単純になるのではなく、むしろ多層的になる。A Flock of Seagullsの楽曲の中では比較的成熟したテーマを持ち、『Ascension』のオーケストラ・アレンジによって、その人生的な広がりがより明確になっている。

9. Transfer Affection

「Transfer Affection」は、感情の移動や置き換えをテーマにした楽曲である。タイトルは「愛情の転移」と訳すことができ、心理学的な響きも持つ。誰かへの想いが別の対象へ移ること、過去の感情が現在の関係に影響すること、あるいは本来向けられるべき感情が別の場所へ流れていくことを示唆している。

音楽的には、A Flock of Seagullsらしいメロディアスなシンセポップを基盤にしながら、やや内省的なムードを持つ。『Ascension』では、オーケストラのアレンジによって、感情の流れがより滑らかに表現されている。ストリングスは、直接的な悲しみというより、心の中で静かに動いていく感情の変化を描く役割を担っている。

歌詞では、恋愛や人間関係の中で感情が必ずしも一直線に向かわないことが示される。人は過去の記憶や傷を抱えたまま新しい関係に入るため、感情はしばしば混ざり合い、ずれ、転移する。このような心理的な複雑さは、A Flock of Seagullsの楽曲において重要なテーマである。外見上は未来的で電子的なバンドでありながら、その中心には非常に人間的な不安や揺らぎがある。

10. Who’s That Girl (She’s Got It)

「Who’s That Girl (She’s Got It)」は、A Flock of Seagullsのポップな側面が強く表れた楽曲である。タイトルは、視線を奪う女性への驚きや関心を示しており、ニュー・ウェイヴ的な軽快さと、1980年代ポップらしいキャッチーな感覚が結びついている。

音楽的には、リズムの弾みとメロディの明快さが特徴である。『Ascension』のオーケストラ・アレンジでは、このポップな輪郭に華やかさが加わり、曲全体がよりショー的な雰囲気を帯びる。ストリングスやブラス的な響きは、人物の登場を演出するように機能し、タイトルにある“彼女は何かを持っている”という感覚を音で補強している。

歌詞は、謎めいた魅力を持つ人物への視線を描いている。A Flock of Seagullsの楽曲では、相手がしばしば現実離れした存在として描かれる。「I Ran」でも、出会いはほとんど異星人的な衝撃として描かれていた。この曲でも、相手の魅力は具体的に説明されるより、視線を奪う現象として表現される。軽快なポップ・ソングでありながら、バンドらしい非日常的な魅力の描き方が残っている。

11. DNA

「DNA」は、A Flock of Seagullsの初期作品において重要なインストゥルメンタル曲であり、バンドの音楽的な構造を理解するうえで欠かせない楽曲である。もともと彼らは、単にシンセサイザーを使ったポップ・バンドではなく、ギター、ベース、ドラム、シンセの絡み合いによって、独自の空間的なサウンドを作るバンドだった。「DNA」は、その演奏面の魅力を示す曲である。

オリジナル版では、鋭いギター・ラインとシンセサイザーの反復、リズム隊の推進力が組み合わさり、言葉を使わずに未来的な緊張感を生み出していた。『Ascension』のヴァージョンでは、オーケストラがその構造をさらに立体化している。旋律の受け渡しや音域の広がりによって、楽曲はよりシンフォニックなスケールを持つ。

タイトルの“DNA”は、生命の設計図を意味する言葉であり、楽曲をバンドの音楽的遺伝子として捉えることもできる。A Flock of Seagullsの音楽には、反復、推進力、空間性、未来的な質感が組み込まれている。この曲は歌詞を持たないからこそ、その要素がむき出しになる。『Ascension』においては、バンドの楽曲がオーケストラに変換される可能性を示す重要なインストゥルメンタルである。

12. Electrics

「Electrics」は、タイトルからも分かるように、電気的なエネルギーや電子音楽的な感覚を前面に出した楽曲である。A Flock of Seagullsというバンドは、1980年代初頭において、電気的な音そのものをポップ・ミュージックの中心に置いた存在だった。ギターもシンセも、彼らの音楽では単なる伴奏ではなく、未来的なイメージを作る装置として機能していた。

『Ascension』の中で「Electrics」は、電子的なテーマとオーケストラの有機的な響きがぶつかる興味深い曲である。電気的な鋭さをオーケストラで再現することは簡単ではないが、本作ではストリングスの刻みや打楽器的なアクセントによって、エネルギーの流れが表現されている。シンセサイザーの冷たい光が、弦楽器の運動性に置き換えられることで、曲の持つ緊張感が別の形で浮かび上がる。

歌詞の面では、電気、刺激、反応といったイメージが、人間の感情や関係性に重ねられる。ニュー・ウェイヴの重要な特徴は、感情を自然なものとしてだけでなく、機械や信号のようなものとして捉える点にあった。「Electrics」もその系譜にあり、人間の内面とテクノロジーの語彙を接続している。『Ascension』では、そのテーマがよりクラシカルな響きの中で再解釈されている。

13. Transfer Affection / Orchestral Reprise

アルバムの終盤に置かれる「Transfer Affection」のオーケストラ・リプライズは、作品全体の余韻を整える役割を持つ。歌入りの楽曲として提示された感情のテーマが、ここではより抽象的な音楽として再提示される。言葉が後退することで、感情の流れそのものが前面に出る構成である。

オーケストラ・リプライズという形式は、『Ascension』のコンセプトを象徴している。A Flock of Seagullsの楽曲は、しばしばシンセサイザーやギターの音色によって記憶されるが、ここではメロディと和声の強さがむき出しになる。つまり、1980年代的なプロダクションを取り払っても、楽曲が十分に成立することを示している。

「Transfer Affection」というテーマが再び現れることで、アルバムは感情の移動、記憶の反復、過去の再解釈という意味を帯びる。『Ascension』そのものが、過去の楽曲への愛情を別の形式へ移し替える作品であるため、このリプライズは非常に象徴的である。単なるボーナス的な再演ではなく、アルバム全体の構造を締める内省的な終章として機能している。

総評

『Ascension』は、A Flock of Seagullsの代表曲をオーケストラとともに再録することで、バンドの音楽に含まれていたドラマ性、ロマンティシズム、未来的な想像力を再発見させるアルバムである。1980年代のニュー・ウェイヴは、しばしばファッション、映像、シンセサイザーの音色と結びつけて記憶される。A Flock of Seagullsも、特徴的なビジュアル・イメージやMTV時代の象徴として語られることが多い。しかし本作は、その外面的なイメージの奥にある楽曲の構造と感情を明らかにする。

このアルバムで特に重要なのは、A Flock of Seagullsの曲が単なる時代の流行ではなく、強いメロディと明確なテーマを持っていたことが確認できる点である。「I Ran」は逃走と未知への衝撃を描く劇的なポップ・ソングであり、「Space Age Love Song」は未来的な装飾をまとった普遍的な恋愛歌である。「Wishing」は記憶と不在をめぐる繊細なバラードであり、「The More You Live, the More You Love」は人生経験と愛の複雑さを扱う成熟した楽曲である。オーケストラの導入によって、これらの曲の情緒的な核がよりはっきりと見える。

音楽的には、シンセポップとオーケストラの関係が本作の最大の焦点である。シンセサイザーは1980年代において未来の象徴だったが、オーケストラはより歴史的で身体的な響きを持つ。『Ascension』は、その二つを単に重ねるのではなく、電子的な冷たさの中にあった人間的な感情を、オーケストラの豊かな音色で浮かび上がらせている。特に「Space Age Love Song」や「Wishing」では、その効果が顕著である。

一方で、すべての曲がオーケストラ化によって同じように成功しているわけではない。A Flock of Seagullsの初期楽曲には、シンセサイザーの硬質な質感やギターの鋭い音色そのものが魅力となっていたものも多い。そのため、オーケストラ・アレンジによって角が丸くなり、オリジナルの緊張感が薄れる場面もある。しかし、このアルバムの目的はオリジナルを置き換えることではなく、別の視点から楽曲を聴き直すことにある。その意味では、『Ascension』は再録アルバムとして十分に意義を持っている。

歌詞の面では、A Flock of Seagullsが扱ってきたテーマが改めて浮かび上がる。逃走、距離、通信、写真、夢、悪夢、愛、記憶、テクノロジー、未来。これらは1980年代ニュー・ウェイヴの典型的なモチーフであると同時に、現代にも通じるテーマである。デジタル技術が生活の隅々に入り込み、人間関係が画面や記録を通じて形成される時代において、「Telecommunication」や「Wishing」はむしろ新しい意味を帯びて聴こえる。

A Flock of Seagullsは、しばしば“一発屋”的な文脈で語られることもあるが、『Ascension』を聴くと、その評価がいかに限定的であるかが分かる。彼らの楽曲には、ポップ・ソングとしての即効性だけでなく、80年代特有の未来観、ロック・バンドとしての推進力、そして意外なほど繊細なメロディが備わっている。本作は、その美点を大きな音響空間の中で再提示する作品であり、キャリアの再評価という意味でも重要である。

日本のリスナーにとって『Ascension』は、1980年代ニュー・ウェイヴを新しい形で聴く入口になり得るアルバムである。オリジナルのプロダクションに強い時代性を感じる場合でも、オーケストラ版を通じて楽曲のメロディや構成に注目しやすくなる。また、シンセポップ、映画音楽、クラシカル・クロスオーバー、80年代ポップの再評価に関心があるリスナーにとっても興味深い作品である。

『Ascension』は、A Flock of Seagullsの音楽を過去に閉じ込めるのではなく、別の光の中へ持ち上げるアルバムである。タイトルが示す通り、これは上昇の作品であり、時代の記憶としてのニュー・ウェイヴを、より広い音楽的空間へと解き放つ試みである。オリジナルの鋭さを求めるなら初期作品が不可欠だが、楽曲の核にあるメロディ、ロマンティシズム、未来への憧れを再確認するうえで、『Ascension』は価値ある再解釈作品といえる。

おすすめアルバム

1. A Flock of Seagulls – A Flock of Seagulls(1982年)

バンドのデビュー・アルバムであり、「I Ran」「Space Age Love Song」「Telecommunication」「DNA」など、彼らの代表的な楽曲を含む重要作。シンセサイザー、鋭いギター、SF的なイメージが一体となり、1980年代ニュー・ウェイヴの魅力を凝縮している。『Ascension』で再解釈された楽曲の原点を知るために欠かせない一枚である。

2. A Flock of Seagulls – Listen(1983年)

「Wishing (If I Had a Photograph of You)」を収録したセカンド・アルバム。デビュー作よりも音作りが洗練され、シンセポップとしての完成度が高まっている。メロディの美しさと未来的な音響がより滑らかに結びついており、『Ascension』の叙情的な側面に惹かれるリスナーに向いている。

3. Ultravox – Vienna(1980年)

ニュー・ウェイヴとシンセポップ、ヨーロッパ的なロマンティシズムを結びつけた名盤。荘厳なシンセサイザー、ドラマティックなヴォーカル、クラシカルな構成感が特徴であり、『Ascension』のオーケストラ的な広がりと比較して聴くと興味深い。1980年代初頭の英国シンセポップの芸術的な側面を理解するうえで重要である。

4. Gary Numan – The Pleasure Principle(1979年)

無機質なシンセサイザーと疎外感のある歌詞で、ニュー・ウェイヴ/シンセポップの方向性を決定づけた作品。A Flock of Seagullsよりも冷たくミニマルだが、テクノロジーと人間の感情の関係を扱う点で共通している。「Modern Love Is Automatic」や「Telecommunication」の背景を理解するうえで有効なアルバムである。

5. The Human League – Dare(1981年)

シンセポップをメインストリームへ押し上げた代表的アルバム。電子音を使いながらも強いポップ・ソングの構造を持ち、1980年代の音楽シーンに大きな影響を与えた。A Flock of Seagullsの未来的なロック感覚とは異なるが、同時代のシンセポップがどのようにポップ・ミュージックへ浸透したかを理解するために重要である。

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