
発売日:1990年
ジャンル:アナーコ・パンク、ポスト・パンク、インディー・ロック、ダンス・ロック、政治的ポップ、オルタナティヴ・ロック
概要
Chumbawambaの『Slap!』は、1990年に発表されたアルバムであり、バンドがアナーコ・パンクの政治的直接性から、よりポップでダンサブルなサウンドへ移行していく過程を示す重要作である。Chumbawambaは、イングランドのリーズ周辺のアナーキスト・パンク/DIYシーンから登場したバンドで、1980年代には反資本主義、反戦、反国家主義、フェミニズム、反ファシズム、メディア批判といった政治的テーマを、パンク、フォーク、コラージュ、合唱、演劇的な構成を通じて表現していた。
後年のChumbawambaは、1997年の「Tubthumping」の大ヒットによって世界的に知られることになるが、『Slap!』はその大衆的成功以前の、よりラディカルで実験的な時期に位置している。ただし、本作は初期の『Pictures of Starving Children Sell Records』や『Never Mind the Ballots』のような、アナーコ・パンク直系の鋭い政治的コラージュ作品とは少し異なる。ここでは、パンクの攻撃性に加え、ダンス・ビート、サンプリング的な感覚、ポップなコーラス、皮肉なユーモア、そしてメディア的な引用がより前面に出ている。
アルバム・タイトルの『Slap!』は、非常に短く、暴力的で、同時にコミカルな響きを持つ。平手打ちのような直接的な衝撃、目を覚まさせる一撃、あるいは社会の偽善に対する痛烈な反応。Chumbawambaの音楽は、説教的な政治歌であるだけではなく、聴き手を驚かせ、笑わせ、踊らせながら、権力やメディアの構造を暴くことを狙っている。本作のタイトルは、その姿勢を端的に表している。
1990年という時代背景も重要である。イギリスではサッチャー政権末期の社会的分断が続き、労働者階級、失業、反核運動、反人頭税運動、アイルランド問題、メディア操作、警察権力への不信が強く意識されていた。一方で音楽シーンでは、マッドチェスター、アシッド・ハウス、インディー・ダンス、サンプリング文化が広がり、パンク以後の政治的バンドも、単純なギター・ロックだけではない方法を模索していた。『Slap!』は、まさにそうした過渡期の作品である。
Chumbawambaの特徴は、政治的な怒りを単純なスローガンに閉じ込めない点にある。彼らは歴史上の革命家や政治的事件を取り上げる一方で、それを真面目な追悼だけにしない。皮肉、風刺、童謡的なメロディ、騒がしいコーラス、ダンス・ミュージック的な反復を用いながら、聴き手に「政治とは生活の外にあるものではなく、日常の言葉、メディア、身体、娯楽の中に入り込んでいるものだ」と気づかせる。本作は、その手法が非常に鮮明に表れたアルバムである。
音楽的には、アナーコ・パンク、ポスト・パンク、インディー・ポップ、サンプル・コラージュ、ダンス・ロック、フォーク的な合唱が混ざり合っている。楽曲はしばしば直線的なロック・ソングの形を取りながら、声の重なりや引用、急な展開によって、単なるバンド演奏以上の情報量を持つ。Chumbawambaにおけるポップ性は、政治性を弱めるためのものではない。むしろ、ポップな形を使うことで、政治的なメッセージをより広い聴き手へ拡散するための武器として機能している。
全曲レビュー
1. Ulrike
「Ulrike」は、ドイツの極左組織RAF、いわゆる赤軍派と関係するUlrike Meinhofを想起させる楽曲である。Chumbawambaは、歴史上の政治的抵抗や革命運動をしばしば題材にしてきたが、この曲では単純な英雄化ではなく、国家暴力、抵抗、メディアによる人物像の形成、そして革命家の神話化が複雑に扱われている。
サウンドは、パンク的な緊張感とポスト・パンク的な硬さを併せ持つ。ボーカルは個人の感情を吐露するというより、複数の視点が交差するように配置されている。Chumbawambaの音楽では、歌い手が一人の主人公として語るよりも、集団的な声、報道の声、権力の声、抵抗の声が重なっていくことが多い。この曲もその方法を取っている。
歌詞のテーマは、政治的暴力と記憶の扱いである。Ulrike Meinhofという人物は、国家からはテロリストとして語られ、支持者からは抵抗の象徴として語られた。Chumbawambaは、そのどちらか一方へ単純に収めるのではなく、彼女をめぐる言説そのものに注目している。誰が歴史を書くのか。誰が抵抗者を犯罪者と呼ぶのか。誰が死者の意味を決めるのか。「Ulrike」は、『Slap!』の政治的な鋭さを冒頭から示す楽曲である。
2. Tiananmen Square
「Tiananmen Square」は、1989年の天安門事件を題材にした楽曲であり、本作が同時代の政治的事件へ直接反応していたことを示す重要曲である。天安門広場は、民主化を求める学生や市民の運動、そして国家権力による武力弾圧の象徴として、世界的に記憶されている。Chumbawambaはこの事件を、遠い国のニュースとしてではなく、権力と民衆の関係を問う普遍的な出来事として扱っている。
音楽的には、鋭いビートと緊張感のある展開が特徴である。曲は単なる追悼歌というより、報道、抗議、怒り、記憶の断片が交錯するように進む。Chumbawambaらしいコラージュ感覚があり、事件を説明するのではなく、その衝撃を音楽的に再構成している。
歌詞の中心にあるのは、国家が自国民に対して暴力を行使する瞬間の恐ろしさである。同時に、メディアを通じて世界中に流通した映像や象徴が、どのように政治的記憶を作るのかも問われている。天安門事件は、単に中国の出来事ではなく、どの国家にも潜む統制と暴力の問題を照らし出す。「Tiananmen Square」は、Chumbawambaが国際政治を自分たちの音楽の中へ取り込んだ代表的な一曲である。
3. Cartrouble
「Cartrouble」は、Adam and the Antsの楽曲として知られる曲をChumbawamba流に再解釈したものとして位置づけられる。原曲のニュー・ウェイヴ的な軽さやポップな反復を、Chumbawambaはより政治的で皮肉な文脈へ置き換える。カバーや引用は、彼らにとって単なる敬意表明ではなく、既存のポップ文化を別の意味へ書き換える手段である。
サウンドは軽快で、アルバムの中でも比較的ポップな感触を持つ。しかし、その軽さの裏には、消費文化やポップ・スター性への距離感がある。Chumbawambaは、ポップな形式を楽しみながら、それを無邪気には信じない。踊れる音楽の中に批評性を埋め込むことが、彼らの重要な手法である。
歌詞や曲の扱いからは、車、移動、欲望、若者文化、スタイルの消費といったテーマが浮かび上がる。車は自由の象徴である一方、資本主義的な商品でもある。ポップ・カルチャーの中で自由として売られるものが、実際には別の管理や消費へ結びついているという視点が読み取れる。「Cartrouble」は、Chumbawambaのユーモアと批評精神がうまく結びついた楽曲である。
4. Chase PC’s Flee Attack by Own Dog
「Chase PC’s Flee Attack by Own Dog」は、新聞の見出しのような奇妙でコミカルなタイトルを持つ楽曲である。警官が自分の犬に襲われるというような逆転劇を思わせ、権力の象徴が自分の道具によって混乱させられるイメージがある。Chumbawambaは、権力を深刻に批判するだけでなく、笑いものにすることにも長けたバンドである。
音楽的には、短く鋭いパンク/ポスト・パンク的な勢いがある。リズムは忙しく、ボーカルは皮肉を含んでいる。曲全体が一種の風刺劇のように機能し、聴き手に笑いと違和感を同時に与える。これはChumbawambaの政治表現において重要な要素である。権力に対して恐怖だけでなく、嘲笑を向けることが、抵抗の一形態になる。
歌詞のテーマは、警察権力とその滑稽さである。警察犬は通常、国家暴力や治安維持の道具として使われる。しかし、その犬が警官自身を攻撃するなら、権力の秩序は反転する。これは、支配のために作られた装置が、支配者自身を混乱させるという寓話として読める。「Chase PC’s Flee Attack by Own Dog」は、短いながらもChumbawambaの反権力的ユーモアを凝縮した曲である。
5. Rubens Has Been Shot!
「Rubens Has Been Shot!」は、タイトルの叫びのような表現が印象的な楽曲である。誰かが撃たれたという緊急の知らせは、暴力、報道、センセーショナリズムを連想させる。Chumbawambaの作品では、ニュースの言葉や見出しがしばしば音楽の素材となるが、この曲もその流れにある。
サウンドは、緊迫感のある展開を持ち、事件の断片が突然飛び込んでくるような印象を与える。曲は単純な物語として進むのではなく、声やフレーズが衝突し、聴き手に情報の混乱を感じさせる。これは、現実の暴力がメディアを通じてどのように消費されるかを音楽的に再現しているようにも聞こえる。
歌詞では、撃たれた人物そのものよりも、その出来事がどのように語られ、見出し化され、共有されるかが重要になる。現代社会では、暴力はしばしばニュースとして流通し、感情を喚起し、すぐに次のニュースへ置き換えられる。Chumbawambaは、そのメディア的な消費に対して批判的である。「Rubens Has Been Shot!」は、政治的暴力とメディアの関係を鋭く突く楽曲である。
6. Rappoport’s Testament: I Never Gave Up
「Rappoport’s Testament: I Never Gave Up」は、タイトルからして遺言、証言、抵抗の記録を思わせる楽曲である。“I Never Gave Up”という言葉は、どれだけ抑圧されても諦めなかった人物の声として響く。Chumbawambaは、歴史上の抵抗者や忘れられた人々の声を拾い上げることを重要な方法としてきた。
音楽的には、単なるパンク・ソングというより、語りと合唱が組み合わされたような構成を持つ。曲は個人の証言でありながら、集団的な記憶へ広がっていく。Chumbawambaの音楽において、声の複数性は非常に重要である。一人の英雄ではなく、多くの人々の抵抗が重なって歴史が作られる。
歌詞のテーマは、敗北しないこと、あるいは敗北の中でも精神を手放さないことである。権力はしばしば身体を拘束し、社会的に敗北させることができる。しかし、記憶や証言まで完全に消すことはできない。この曲は、抵抗の持続を静かに、しかし強く歌っている。『Slap!』の中でも、政治的な誠実さが際立つ楽曲である。
7. That’s How Grateful We Are
「That’s How Grateful We Are」は、タイトルに強い皮肉を含む楽曲である。「それほど私たちは感謝している」という言葉は、表面的には感謝を示しているが、Chumbawambaの文脈では、権力者、慈善、国家、企業、あるいは上から与えられる恩恵に対する批判として響く。
音楽的には、コーラスの反復が印象的で、皮肉なメッセージを聴き手に強く残す。Chumbawambaは、スローガンのようなフレーズをポップな形で反復することに長けている。この手法によって、曲は単なる抗議文ではなく、耳に残る政治的ポップになる。
歌詞では、支配される側が支配する側へ感謝を強いられる構造が批判されている。労働者、貧困層、被支配者は、わずかな施しや制度的な救済に対して感謝することを求められる。しかし、その感謝は本当に自発的なものなのか。そもそも不平等な構造を作ったのは誰なのか。「That’s How Grateful We Are」は、慈善や温情の背後にある権力関係を鋭く暴く楽曲である。
8. Slap!
タイトル曲「Slap!」は、アルバム全体の精神を象徴する楽曲である。短く強い言葉である“Slap”は、目を覚まさせる一撃であり、怒りの表現であり、相手の顔面に向けられる直接的な反応でもある。Chumbawambaは、ここで政治的な違和感を抽象的な理論としてではなく、身体的な衝撃として表現している。
サウンドは、勢いがあり、パンク的な攻撃性とポップな反復が組み合わされている。曲は聴き手を考え込ませるだけでなく、身体的に反応させる。踊ること、叫ぶこと、笑うこと、怒ることが同時に存在する。これはChumbawambaの政治音楽の核心である。
歌詞のテーマは、社会の偽善に対する即時的な反発である。長い説明ではなく、まず一撃を与えること。権威、メディア、国家、消費文化、道徳的偽善に対して、「それはおかしい」と身体で反応することが重要になる。「Slap!」は、本作のタイトル曲として、アルバム全体の痛烈な風刺と行動への衝動を凝縮している。
9. Stitch That
「Stitch That」は、縫うこと、つなぎ合わせることを連想させるタイトルを持つ楽曲である。Chumbawambaの音楽自体が、パンク、フォーク、ダンス、ニュース、引用、合唱を縫い合わせたような構造を持っているため、このタイトルはアルバムの音楽的手法とも重なる。
サウンドは、コラージュ的な感覚が強く、リズムや声の断片が組み合わされていく。曲は滑らかなポップ・ソングとして整うというより、複数の素材が縫い合わされ、あえて継ぎ目を見せるように構成されている。この粗さが、DIY的な魅力につながっている。
歌詞では、壊れたものを修復すること、あるいは社会が隠そうとする傷口を縫い合わせることが暗示される。だが、傷を縫うことは治癒であると同時に、痛みの存在を証明する行為でもある。Chumbawambaは、社会の破綻をきれいに隠すのではなく、縫い目を見せる。「Stitch That」は、本作のコラージュ的な美学を象徴する楽曲である。
10. Behave
「Behave」は、「行儀よくしろ」という命令形のタイトルを持つ楽曲である。これは、家庭、学校、職場、国家、メディアが個人に対して発する規律の言葉である。Chumbawambaの反権威的な姿勢から考えると、この曲は行儀よくすることを促す歌ではなく、むしろその命令の背後にある支配構造を暴く歌として機能している。
音楽的には、シンプルで反復的な構成が、命令の不快なリズムを強調している。声は一人の内面ではなく、社会から浴びせられる言葉のように響く。Chumbawambaは、権力の言葉をそのまま曲の中に持ち込み、それを反復することで、逆に滑稽さや暴力性を露出させる。
歌詞のテーマは、従順さへの批判である。社会はしばしば、秩序を守ること、礼儀正しくすること、問題を起こさないことを美徳として教える。しかし、その「行儀よさ」は、権力に従うこと、怒りを抑えること、不正義を見ないふりすることにつながる場合がある。「Behave」は、そうした規律の言葉に対するChumbawambaらしい反抗の歌である。
11. Ugh! Your Ugly Houses!
「Ugh! Your Ugly Houses!」は、タイトルからして強い嫌悪とユーモアが同居する楽曲である。「うわっ、君たちの醜い家!」というような言葉は、建築、郊外、消費社会、所有、階級意識への批判として読むことができる。Chumbawambaは、政治を国会や戦争だけでなく、住宅、日常生活、趣味、消費の中にも見出す。
サウンドは、皮肉なエネルギーに満ちており、曲全体が嘲笑のように響く。美しいメロディで社会批判を包むのではなく、醜さに対して醜いと叫ぶ直接性がある。ただし、その直接性にはユーモアがあり、聴き手を単に暗くさせない。
歌詞では、住宅や生活様式が階級や価値観を表すものとして扱われる。家は個人の安全な場所であると同時に、所有、見栄、郊外化、排除の象徴にもなる。醜い家とは、単に建築的に醜いという意味ではなく、そこに宿る社会的な価値観の醜さを示している。「Ugh! Your Ugly Houses!」は、Chumbawambaの生活批評的な視点がよく表れた楽曲である。
12. Knit Your Own Balaclava
「Knit Your Own Balaclava」は、自分で目出し帽を編めというユーモラスで過激なタイトルを持つ楽曲である。バラクラバは、覆面、抗議行動、直接行動、地下活動を連想させる。一方で、それを「自分で編む」という表現には、DIY文化、手仕事、家庭的な行為が含まれる。この二つの要素の結合が、Chumbawambaらしい。
音楽的には、軽快で風刺的な雰囲気があり、危険な行動のイメージをコミカルに処理している。ChumbawambaにとってDIYは、単に安く音楽を作る方法ではなく、権力に依存しない生き方そのものだった。この曲のタイトルは、その姿勢を非常に分かりやすく示している。
歌詞のテーマは、抵抗の自作性である。誰かに革命を与えてもらうのではなく、自分たちで道具を作る。抗議のための覆面すら、自分の手で編む。このイメージには笑いがあるが、同時に強い政治的意味がある。抵抗は日常の中から始まる。「Knit Your Own Balaclava」は、ChumbawambaのDIYアナーキズムを象徴する楽曲である。
13. Sing About Love
「Sing About Love」は、タイトルだけを見ると穏やかなラブソングのように思える。しかしChumbawambaの文脈では、「愛を歌うこと」自体が政治的な問いになる。愛は、商業ポップで消費されるロマンティックな商品でもあり、同時に連帯や共同体を作る力でもある。この曲は、その二重性を扱っているように響く。
サウンドは、比較的メロディアスで、合唱的な温かさを持つ。Chumbawambaは怒りだけのバンドではなく、共同体的な歌の力を重視していた。この曲では、愛というテーマが、個人的な恋愛を越えて、集団的なつながりや相互扶助の意味へ広がっている。
歌詞では、愛を歌うことの可能性と限界が問われる。世界が暴力や不平等に満ちているとき、愛を歌うことは逃避なのか、それとも抵抗なのか。Chumbawambaは、単純な答えを出すのではなく、愛を政治から切り離さない形で提示する。「Sing About Love」は、本作の中で人間的な温度を与える重要な楽曲である。
14. Morality Play in Three Acts
「Morality Play in Three Acts」は、「三幕からなる道徳劇」というタイトルを持つ楽曲であり、Chumbawambaの演劇的・風刺的な側面が強く表れている。道徳劇とは、中世以来の寓意的な劇形式を思わせる言葉であり、善悪、罪、救済、教訓を扱う。しかしChumbawambaは、権力が押しつける道徳をそのまま信じるバンドではない。このタイトルには、道徳そのものへの皮肉が込められている。
音楽的には、場面が切り替わるような構成を持ち、単なるロック・ソングというより小さな劇のように進む。複数の声や視点が交錯し、聴き手は誰の道徳が語られているのかを問い直すことになる。
歌詞のテーマは、社会が作る善悪の物語への批判である。国家、宗教、メディア、学校は、人々に「正しい行動」を教える。しかし、その道徳はしばしば権力を守るために作られている。Chumbawambaは、道徳劇の形式を借りながら、その道徳を逆に解体する。「Morality Play in Three Acts」は、本作の知的な風刺性を強く示す楽曲である。
15. Charlie
「Charlie」は、人物名をタイトルにした楽曲であり、アルバム終盤に個人的な物語のような響きを加える。Chumbawambaの政治性は、抽象的な制度批判だけではなく、個人の生活や名前を持つ人物を通じて表現されることが多い。Charlieという名前は、そうした個人の象徴として機能している。
サウンドは、比較的素朴で、物語を語ることに重点が置かれている。騒がしい政治的コラージュの中に、こうした人物を中心にした曲が入ることで、アルバムは単なるスローガン集ではなく、人間の生活に根差した作品になる。
歌詞では、Charlieという人物の置かれた状況や選択が描かれているように響く。重要なのは、彼が大きな歴史の主人公ではなく、日常の中で制度や社会に影響される一人の人間として存在することだ。Chumbawambaは、政治が個人の生活をどう形作るかを重視する。「Charlie」は、その視点を静かに示す楽曲である。
16. British Colonialism and the BBC
「British Colonialism and the BBC」は、非常に直接的なタイトルを持つ楽曲であり、Chumbawambaのメディア批判と帝国主義批判が結びついた重要曲である。英国の植民地主義とBBCという公共放送を並べることで、国家の歴史、文化的権威、情報の管理、帝国の記憶が一つの問題として提示される。
音楽的には、風刺的で、情報の断片が飛び交うような構成を持つ。Chumbawambaは、ニュースや放送の言葉を曲に取り込むことで、メディアの語り口そのものを批判対象にする。この曲では、BBCが中立的な情報機関としてではなく、英国国家の視点や歴史的権力と結びついた存在として問われている。
歌詞のテーマは、誰が歴史を語るのかという問題である。植民地主義は過去の出来事として処理されがちだが、その語り方や記憶の管理は現在も続いている。BBCのようなメディアは、何を報じ、何を報じないのかによって、国民の歴史認識を形作る。「British Colonialism and the BBC」は、Chumbawambaの批判精神が最も直接的に表れた楽曲のひとつである。
総評
『Slap!』は、Chumbawambaがアナーコ・パンクの直接的な政治性を保ちながら、よりポップでダンサブルな表現へ進み始めた重要なアルバムである。初期作品の粗いパンク・コラージュから、後の『Shhh』や『Anarchy』、さらに大衆的成功へ至る過程を考えるうえで、本作は非常に大きな意味を持つ。ここには、パンク、インディー・ポップ、ダンス・ロック、サンプリング文化、政治的演劇が混ざり合っている。
本作の中心にあるのは、権力への不信である。国家、警察、メディア、植民地主義、道徳、住宅、消費文化、ポップ・カルチャー。Chumbawambaは、政治を狭い意味の政党や選挙に限定しない。日常のあらゆる場所に権力の言葉が入り込んでいることを示し、それを笑い、踊り、歌によって暴く。これは、彼らのアナーキズムが単なる破壊衝動ではなく、生活全体を問い直す思想であることを示している。
音楽的には、非常に雑多である。しかし、その雑多さこそがChumbawambaの強みである。パンクの叫び、フォーク的な合唱、ニュースの見出し、ダンス・ビート、ポップなフック、演劇的な語りが、ひとつのアルバムの中でぶつかり合う。整ったロック・アルバムとして聴くと、時に散漫に感じられるかもしれない。しかし、Chumbawambaにとって音楽は、整理された商品ではなく、政治的なビラ、集会、冗談、合唱、ダンスフロアが混ざった場である。『Slap!』は、その混沌を作品の力にしている。
歌詞面では、歴史的事件や政治的人物を扱う曲が多い一方で、日常の規律や消費文化への批判も目立つ。「Ulrike」や「Tiananmen Square」のような国際政治的な題材と、「Behave」「Ugh! Your Ugly Houses!」「Knit Your Own Balaclava」のような生活に根差した風刺が同居している点が重要である。大きな政治と小さな日常は切り離されていない。Chumbawambaは、その連続性を音楽で示している。
また、本作にはユーモアがある。これは非常に重要である。政治的な音楽は、しばしば重く説教的になりがちだが、Chumbawambaは笑いを武器として使う。警官が自分の犬に襲われるような滑稽なイメージ、目出し帽を自分で編むというDIY的な冗談、醜い家への罵倒。こうしたユーモアによって、権力は恐ろしいだけでなく、笑いものにされる対象になる。笑うことは、支配に対する距離を作る行為である。
日本のリスナーにとって『Slap!』は、「Tubthumping」のイメージだけでChumbawambaを知っている場合、大きな発見になる作品である。ここには、後年のポップなコーラスや集団的な高揚の原型がすでにあるが、その内容ははるかにラディカルで、アナーコ・パンク的で、DIY精神に満ちている。Crass、The Ex、Mekons、Gang of Four、The Pop Group、Negativland、Billy Bragg、Manic Street Preachers初期作品などに関心があるリスナーにとって、本作は政治的ポップの文脈で非常に興味深い。
『Slap!』は、完成された商業ポップ・アルバムではない。むしろ、意図的に騒がしく、断片的で、挑発的で、時に粗い。しかし、その粗さは、作品の政治的生命力そのものである。Chumbawambaは、世界をきれいに説明するのではなく、平手打ちのように聴き手の感覚を揺さぶる。目を覚ませ、行儀よくするな、自分で覆面を編め、歴史の語り方を疑え。『Slap!』は、そのような声が集団的なコーラスとして響く、鋭く愉快な政治的アルバムである。
おすすめアルバム
1. Chumbawamba『Pictures of Starving Children Sell Records』
1986年発表の初期重要作。チャリティ、メディア、消費される苦難への批判を、アナーコ・パンクとコラージュ的手法で展開した作品である。『Slap!』よりも荒く、より直接的な政治性があり、Chumbawambaの出発点を理解するために欠かせない。
2. Chumbawamba『Shhh』
1992年発表のアルバム。『Slap!』で見られたダンス・ミュージックやサンプリング的な感覚がさらに発展し、政治的ポップとしての完成度が高まった作品である。Chumbawambaがパンクからより広い音楽表現へ進んだ過程を確認できる。
3. Chumbawamba『Anarchy』
1994年発表の代表作のひとつ。ポップなメロディ、合唱、政治的歌詞、メディア批判が高い密度で結びついている。『Slap!』のラディカルな精神が、より洗練された形で提示された作品として関連性が高い。
4. Crass『Stations of the Crass』
1979年発表のアナーコ・パンク重要作。反戦、反国家、反資本主義、DIY精神を徹底した姿勢で提示したアルバムであり、Chumbawambaの政治的背景を理解するうえで重要である。『Slap!』の反権威性の根底にあるパンク思想を確認できる。
5. The Mekons『The Mekons Rock ’n’ Roll』
1989年発表のアルバム。パンク以後のバンドが、ロックンロール、政治、ユーモア、批評性をどのように結びつけたかを示す名作である。Chumbawambaと同じく、政治的な怒りを単純なスローガンではなく、ポップ文化そのものへの批評として扱っている。

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