アルバムレビュー：Testament by All Saints

発売日: 2018年7月27日
ジャンル: エレクトロポップ、オルタナティブR&B、ドリームポップ、UKソウル

概要

『Testament』は、All Saintsが2018年にリリースした5枚目のスタジオ・アルバムであり、2016年の復活作『Red Flag』を経た彼女たちの“音楽的証言（Testament）”として位置づけられる成熟作である。

本作は、デビュー当時から深く関わってきたプロデューサー、ウィリアム・オービット（William Orbit）を再び迎え、グループの原点であるトリップホップ的美学と、現代的なエレクトロ・ソウルを融合したサウンドへと昇華させている。

歌詞の主題は一貫して内面の探求にあり、自己認識、信頼、喪失、連帯といった普遍的なテーマが、多層的なハーモニーとミニマルなトラックに乗せて表現される。

All Saintsはこの作品で、かつてのガールズグループという枠を完全に超え、今や英国音楽シーンにおける“語るべき声”を持った存在であることを静かに証明している。

1. Who Do You Love
柔らかなエレクトロ・ビートと透明感あるボーカルで幕を開ける、自己と他者の境界を問うスロウ・ナンバー。

2. Three Four
都会的な緊張感が漂うミニマルなトラック。テンポは落ち着いていながら、内側で感情が蠢く。

3. Love Lasts Forever
本作のリードシングル。時間と愛の持続性をテーマにした、普遍的で優しい楽曲。ミドルテンポながらサビの高揚感が印象的。

4. Nowhere to Hide (Interlude)
短いインストゥルメンタル。息継ぎのような役割を果たしつつ、感情の流れをなだらかに切り替える。

5. No Issues
90年代を想起させるR&Bビートと軽やかなハーモニーが絶妙。ポジティブなマインドと自信に満ちた歌詞が耳に残る。

6. After All
ウィリアム・オービットとのコラボレーションが復活したトラック。空間系のサウンドと繊細なハーモニーが溶け合う名曲。

7. I Would
過去の後悔と赦しをテーマにしたバラード。ピアノとエレクトロが融合するドラマチックな構成。

8. Don’t Look Over Your Shoulder
恋愛の終焉と自己回復を描く楽曲。リズムとハーモニーの緻密な絡みが、All Saintsの表現力を証明している。

9. Fumes
浮遊感あるシンセと、壊れそうなボーカルが織りなす幻想的な一曲。感情の残り香（fumes）を詩的に描写。

10. Testament in Motion
本作のタイトルを冠するクライマックス曲。ポリリズミックな構成と語るようなボーカルが印象的。まさに“証言”の名にふさわしい内面の吐露。

11. Breathe and Let Go
緊張から解放へと向かう穏やかなエンディング曲。深呼吸のような安らぎが漂い、アルバムに優しく幕を下ろす。

『Testament』は、All Saintsの音楽的集大成であると同時に、未来への静かな決意表明でもある。

本作において彼女たちは、音数を減らし、テンポを落とし、語りかけるように歌うことによって、聴く者に“聴くこと”を強く促している。
それは、若さの叫びではなく、経験を経た者だけが持つ“余白と沈黙の力”に満ちている。

また、ウィリアム・オービットとの再会は本作の重要な核であり、特に「After All」や「Testament in Motion」におけるスペーシーなサウンドは、初期All Saintsを知るリスナーにとって感動的ですらある。

同時に、“時間を経て戻ってきた者”としての視点が、歌詞や曲調に深く浸透しており、再結成グループによくあるノスタルジーではなく、明確な“今”が刻印されているのが最大の美点だ。

『Testament』は、その名の通り、All Saintsがなぜ今なお必要とされるアーティストであるのかを静かに証明してみせた、真摯な音楽的声明文なのである。

『Testament』のアートワークは、黒を基調としたミニマルな構成であり、彼女たちの意志と沈黙を象徴するかのような無機質な美しさを備えている。

かつての“ストリート系ファッション”からは脱却し、より洗練されたシルエットとモノトーンの美学が貫かれており、“成熟したAll Saints”の姿を如実に映し出している。

アートと音楽が密接に結びついた本作は、まさに“作品”と呼ぶにふさわしい佇まいを持つ。ビジュアルも含めて、“音を聴く”という体験そのものを再定義してくれるアルバムである。