
発売日:2006年11月13日
ジャンル:ポップ、R&B、ダンスホール、レゲエ・ポップ、エレクトロ・ポップ
概要
All Saintsの『Studio 1』は、2006年に発表された3作目のスタジオ・アルバムであり、2001年の解散後に再結成した彼女たちが、新たな時代のポップ・グループとして再出発を図った作品である。All Saintsは1990年代後半の英国ポップ・シーンにおいて、Spice Girlsとは異なるクールで都会的なガール・グループ像を提示した存在だった。デビュー作『All Saints』ではR&B、ヒップホップ、UKポップを洗練された形で取り込み、「Never Ever」「Bootie Call」「Pure Shores」などを通じて、90年代末の英国ポップにおける重要な地位を確立した。
2000年の『Saints & Sinners』では、William Orbitが関わった「Pure Shores」「Black Coffee」などに象徴されるように、よりアンビエントで洗練されたポップ・サウンドへ接近した。しかし、その成功の直後にグループは分裂し、メンバーはそれぞれソロ活動や女優業などへ移行する。『Studio 1』は、その空白を経て再び4人が集まったアルバムであり、キャリア上では「復帰作」であると同時に、2000年代半ばのポップ・ミュージックに適応しようとした実験作でもある。
本作の最大の特徴は、従来のAll SaintsらしいR&B寄りのクールなヴォーカル・スタイルを残しながら、ダンスホール、レゲエ、エレクトロ、クラブ・ポップの要素を前面に押し出している点にある。特にリード・シングル「Rock Steady」は、アルバム全体の方向性を象徴する楽曲で、レゲエ/ダンスホール的なリズムをポップに再構成し、2000年代半ばのクラブ感覚と英国ガール・グループの洗練を結びつけている。
プロダクション面では、90年代末のR&Bポップよりもビートが硬く、低音が明確で、シンセや電子的な処理も多い。これは、2000年代半ばのポップ・シーン全体が、Timbaland、The Neptunes、ダンスホール、エレクトロクラッシュ、UKクラブ・サウンドの影響を受けていたことと関係している。All Saintsは本作で、単に過去のヒット曲の雰囲気を再現するのではなく、当時のダンス・ポップの質感へ自分たちを接続しようとしている。
一方で、『Studio 1』はAll Saintsの過去作と比べると、評価が分かれやすい作品でもある。『All Saints』や『Saints & Sinners』にあったメランコリックなR&Bバラード、都会的なミッドテンポ、透明感のあるメロディを期待すると、本作の明るくリズム重視のアプローチはやや意外に響く。だが、復帰作として見れば、この方向転換は必然性を持っている。2006年のポップ市場では、90年代型のR&Bポップだけでは時代性を保ちにくく、All Saintsは新しいビート、新しいクラブ感覚、新しい遊び心を取り込む必要があった。
歌詞面では、恋愛、自己主張、誘惑、関係の駆け引き、別れ、再起、女性同士の連帯といったテーマが中心となる。All Saintsの魅力は、過度にアイドル的な無邪気さへ寄らず、常に少し距離を置いたクールさを持っていた点にある。本作でも、恋愛の高揚を甘く歌い上げるというより、相手との力関係、自分の立ち位置、傷つけられた経験、そしてそれでも前に進む姿勢が描かれる。
『Studio 1』は商業的には大きな成功を収めたとは言いにくいが、All Saintsのディスコグラフィにおいては重要な位置を持つ。90年代末の成功に閉じこもらず、2000年代のポップ・サウンドへ大胆に接近した作品であり、後の再評価においては、当時の英国ポップがダンスホールやエレクトロをどのように取り込んでいたかを示す一枚として聴くことができる。
全曲レビュー
1. Rock Steady
「Rock Steady」は、『Studio 1』の幕開けを飾るだけでなく、アルバム全体の方向性を決定づける楽曲である。レゲエやダンスホールのリズムを基盤にしながら、ポップ・ソングとして非常に整理された構成を持つ。低音の効いたビート、跳ねるようなリズム、メンバーのクールなヴォーカルが組み合わされ、All Saintsの復帰を強く印象づける。
タイトルの「Rock Steady」は、ジャマイカ音楽の歴史におけるロックステディを連想させると同時に、「揺るがずに進む」「安定して乗る」という意味合いも持つ。本曲では、リズムの揺れと自己確信が重なり、再結成後のAll Saintsが自分たちのペースを取り戻す宣言のように響く。楽曲の持つ軽快さは、単なるダンス・チューンとしての楽しさだけでなく、過去の混乱を経て再び立ち上がるグループの姿にも結びついている。
歌詞では、恋愛や誘惑の駆け引きが描かれるが、その語り口は受け身ではない。相手に振り回されるのではなく、自分たちが場をコントロールする側として振る舞う。All Saintsのヴォーカルは、熱唱型ではなく、抑制されたクールな声の重なりによって魅力を生む。この曲でも、その距離感が非常に効果的である。過剰に感情を押し出さず、余裕を持ってビートに乗ることで、楽曲の洗練が際立つ。
「Rock Steady」は、2000年代半ばのポップにおけるダンスホール影響を反映しつつ、All Saintsらしい都会的な冷静さを保った成功曲である。復帰シングルとして、過去の再現ではなく新しい時代への適応を示した点で、本作の象徴的なトラックといえる。
2. Chick Fit
「Chick Fit」は、タイトルからも分かるように、女性の自己主張、身体性、ファッション感覚、遊び心が強く出た楽曲である。サウンドはエレクトロ・ポップ的で、ビートは硬く、クラブ向けの機能性が高い。All Saintsの過去作にあったR&B的な滑らかさよりも、ここではリズムとフレーズの切れ味が重視されている。
「Chick Fit」という言葉は、女性が自分らしく決めている状態、あるいは魅力的で隙のない姿を示すように響く。歌詞では、恋愛対象として見られる女性ではなく、自分の見せ方を自分で決める女性像が前面に出る。2000年代半ばのガール・ポップでは、セクシュアリティと自己主張のバランスが重要なテーマだったが、この曲もその文脈に置くことができる。
音楽的には、反復されるフレーズとビートの強さが中心で、メロディの美しさよりも態度やグルーヴが重視される。All Saintsのヴォーカルは、ここでも感情過多にならず、やや挑発的で乾いた質感を保つ。甘さを抑えた歌い方が、曲のエッジを際立たせている。
この曲は、『Studio 1』の中でも特に2000年代的なクラブ・ポップの感覚が強い。90年代後半のAll Saintsを代表するバラードやミッドテンポとは異なるが、再結成後の彼女たちがより攻撃的でファッション性の高いサウンドへ踏み込んだことを示す重要なトラックである。
3. On and On
「On and On」は、アルバム序盤の勢いを保ちながら、よりメロディアスな側面を見せる楽曲である。タイトルは「ずっと続く」「延々と繰り返す」という意味を持ち、恋愛関係や感情の循環を示している。関係が終わりそうで終わらない、同じやり取りが繰り返される、あるいは気持ちだけが残り続けるという感覚が、曲全体に流れている。
サウンドはポップで聴きやすいが、リズムには軽いダンス感覚があり、静的なバラードではない。All Saintsのヴォーカル・ハーモニーは、ここで比較的柔らかく響く。彼女たちの魅力は、個々の強烈な歌唱力を競うタイプではなく、声のトーンを合わせながら都会的な空気を作る点にある。この曲では、そのグループとしての声のまとまりがよく表れている。
歌詞のテーマは、繰り返される関係の中での疲労と執着である。何度も同じ問題に戻ってしまう恋愛、終わったはずなのに心の中で続いてしまう思い、あるいは相手との距離を整理できない状態が描かれる。タイトルの反復性は、音楽面にも反映されており、曲は安定したグルーヴの中で進み続ける。
「On and On」は、『Studio 1』の中で過去のAll SaintsらしいR&Bポップの感触と、本作のダンス寄りの音像をつなぐ役割を果たしている。派手なインパクトは「Rock Steady」や「Chick Fit」ほどではないが、アルバムの流れを滑らかにする重要な楽曲である。
4. Scar
「Scar」は、タイトル通り「傷跡」をテーマにした楽曲であり、本作の中でも比較的内面的な色合いが強い。All Saintsの過去作には、失恋や心の傷をクールなR&Bポップとして表現する楽曲が多くあったが、この曲はその系譜に近い。ダンスホールやエレクトロ色が目立つアルバムの中で、感情の陰影を深める役割を担っている。
音楽的には、ビートは抑制されつつも現代的で、ヴォーカルが前面に置かれている。過剰にドラマチックなストリングスや大きなバラード展開に頼らず、比較的クールなプロダクションの中で痛みを表現している点がAll Saintsらしい。傷を見せる曲でありながら、感情をむき出しに叫ぶのではなく、一定の距離を保っている。
歌詞では、過去の関係によって残された傷、癒えたように見えてまだ残る痛み、そしてその傷を抱えたまま生きる姿勢が描かれる。「scar」は一時的な痛みではなく、時間が経っても身体や心に残る痕跡である。All Saintsの歌詞における恋愛は、単なるロマンスではなく、自分の人格や記憶に影響を与える経験として扱われる。この曲は、その側面をよく示している。
「Scar」は、アルバムの中で感情的な重みを持つ曲であり、明るいクラブ・ポップ一辺倒ではない『Studio 1』の奥行きを作っている。復帰作としての本作において、過去の傷をどう扱うかというテーマは、グループ自身のキャリアにも重ねて読むことができる。
5. Not Eazy
「Not Eazy」は、タイトル通り、簡単にはいかない関係や状況を扱った楽曲である。表記の「Eazy」は、通常の「Easy」ではなく、少し崩したスペリングになっており、曲全体にもラフでストリート寄りの感覚がある。All SaintsのR&B/ポップ的な基盤と、2000年代半ばのダンスホール/クラブ・サウンドの影響が交差している。
音楽的には、リズムの跳ねと低音の存在感が重要である。メロディは過度に甘くならず、むしろフレーズの反復やヴォーカルの態度によって曲が進む。All Saintsのメンバーは、ここでも強く歌い上げるより、ビートの上で言葉を置いていくようなスタイルを取る。この抑制された歌唱が、曲のクールな印象を作っている。
歌詞では、恋愛や人間関係の中で生じる困難が描かれる。相手との関係は単純ではなく、気持ちがあっても問題があり、近づきたくても簡単には進めない。タイトルの「Not Eazy」は、そうした現実的な複雑さを端的に表している。All Saintsは、恋愛を夢のような幸福としてだけではなく、駆け引きや誤解、傷、プライドが絡むものとして描くことが多い。この曲もその流れにある。
「Not Eazy」は、アルバムのダンス寄りの方向性を保ちながら、感情の複雑さを加える楽曲である。リズムの軽さと歌詞の不安定さが対照的に響き、All Saintsらしいクールな緊張感を生み出している。
6. Hell No
「Hell No」は、拒絶と自己主張を強く打ち出した楽曲である。タイトルの「Hell No」は非常に直接的な否定であり、相手の要求や態度に対して明確に「無理だ」と突き返す言葉である。『Studio 1』の中でも、女性の主体性を前面に出した曲として重要な位置を占める。
サウンドは攻撃的すぎるロックではなく、ポップ/R&Bの枠内にあるが、ビートは硬く、フレーズには強い切れ味がある。All Saintsのヴォーカルは、ここでも叫ぶのではなく、冷静に拒絶する。その冷たさがむしろ強さとして機能している。怒りを感情的に爆発させるのではなく、相手を見限るような余裕がある。
歌詞では、相手に振り回されない姿勢、都合よく扱われることへの拒否、関係の中で自分の価値を守る意志が描かれる。All Saintsの音楽では、恋愛における女性は受け身の存在ではない。相手を選び、拒み、関係を終わらせる権利を持つ。この曲は、その姿勢を非常に分かりやすく示している。
「Hell No」は、本作の中でアルバムの態度を引き締める曲である。軽快なダンス・ポップの流れの中に、明確な境界線を引く強さを持ち込み、All Saintsのクールな女性像を再確認させる。
7. One Me and U
「One Me and U」は、アルバム中盤に配置された、より親密でメロディアスな楽曲である。タイトルは「私とあなた」という二者関係を示しており、恋愛の中での結びつき、距離、個人としての自分と相手との関係がテーマとなる。表記の「U」は2000年代ポップらしいカジュアルさを持ち、曲全体にも軽さと親しみやすさがある。
音楽的には、これまでのクラブ寄りの曲に比べて、やや柔らかなR&Bポップの質感が強い。ビートは控えめながらもリズム感があり、ヴォーカル・ハーモニーが曲の中心となる。All Saintsの声の重なりは、過去作でも重要な魅力だったが、この曲ではそれが比較的自然な形で生かされている。
歌詞では、恋愛関係における一体感と個人性のバランスが描かれる。「me」と「you」が並ぶことで、二人が近い関係にある一方、それぞれ別の主体であることも示される。恋愛は一体化の幻想を生むが、実際には自分と相手の違いをどう扱うかが重要になる。この曲は、そのような距離感を、重くなりすぎないポップ・ソングとして表現している。
「One Me and U」は、『Studio 1』の中でAll Saintsのメロディアスな側面を支える楽曲である。強いシングル向けのインパクトよりも、アルバムの中で感情の流れを整える役割を果たしている。
8. Headlock
「Headlock」は、タイトルが示すように、関係に捕らえられる感覚や、相手との力関係を扱った楽曲である。「headlock」は格闘技などで相手の頭を押さえ込む技を意味し、身体的な拘束のイメージが強い。恋愛関係にこの言葉を用いることで、愛情、支配、執着、逃げられなさが重なって表現される。
音楽的には、リズムがタイトで、やや緊張感のあるサウンドになっている。ビートは曲を前へ進めるが、開放的というより、少し閉じ込められたような圧力がある。ヴォーカルも感情を大きく広げるのではなく、抑えたトーンで進み、曲の拘束感を強めている。
歌詞では、相手に引き寄せられながらも、その関係が自由を奪っているような感覚が描かれる。恋愛において、強い魅力はしばしば支配や依存と隣り合わせになる。「Headlock」という言葉は、その危うさを非常に身体的に示している。All Saintsは、こうした関係の不均衡を、過度に悲劇的にせず、クールなポップ・ソングとして提示する。
この曲は、本作における恋愛の暗い側面を担う一曲である。軽快な表面の下にある緊張感が、All Saintsの大人びたポップ性を支えている。
9. Too Nasty
「Too Nasty」は、タイトル通り、挑発的でセクシュアルな態度を前面に出した楽曲である。「nasty」という言葉は、下品さ、危険さ、刺激、性的な大胆さを含む。All Saintsは初期からクールで少し不良っぽいガール・グループ像を提示していたが、この曲ではその側面がより2000年代的なクラブ・ポップとして表現されている。
サウンドは低音が強く、リズムも肉体的である。メロディの美しさより、ビート、フレーズ、態度が中心となる。ヴォーカルは挑発的だが、過剰に演劇的にはならない。All Saintsらしい抑えた声の使い方によって、曲は露骨になりすぎず、クールな距離感を保っている。
歌詞では、女性の欲望や自信が表現される。ポップ・ミュージックにおいて、女性アーティストがセクシュアリティを扱う場合、しばしば外部からの視線に従属する危険がある。しかしAll Saintsの場合、その視線を自覚したうえで、自分たちの側からコントロールする姿勢がある。「Too Nasty」は、そうした自己演出の曲として聴くことができる。
本作の中では、アルバムのクラブ的な側面を強めるトラックであり、洗練されたR&Bポップというより、より直接的に身体へ訴える曲である。All Saintsの復帰作が過去の清算だけでなく、新しいポップの攻撃性を取り込んでいたことを示している。
10. In It to Win It
「In It to Win It」は、タイトルから明確な勝負意識が感じられる楽曲である。「参加するからには勝つ」という言葉は、競争、自己実現、復帰、そして音楽シーンへの再挑戦を示す。All Saintsが再結成後に発表したアルバムの中にこの曲があることは、非常に象徴的である。
音楽的には、ビートが前向きで、曲全体に推進力がある。メロディは大きく開けるというより、リズムに乗って進んでいくタイプであり、アルバムの現代的なポップ感覚を保っている。ヴォーカルは力強いが、過度な熱唱ではない。All Saintsの強みであるクールな集団性がここでも生きている。
歌詞では、勝つために戻ってきたという姿勢、困難を乗り越える意志、相手や状況に対して引かない態度が描かれる。恋愛の文脈にも読めるが、グループのキャリアを踏まえると、音楽業界への復帰宣言としても機能する。過去の成功に安住するのではなく、再び競争の中へ入っていく意志が示されている。
「In It to Win It」は、アルバム後半においてエネルギーを再び高める楽曲である。商業的な結果とは別に、作品内ではAll Saintsが自分たちの存在感を再確認する曲として重要な意味を持つ。
11. Flashback
「Flashback」は、記憶、過去、回想をテーマにした楽曲であり、復帰作である『Studio 1』の文脈において特に重要な意味を持つ。タイトルの「Flashback」は、突然過去の場面が蘇る感覚を示す。恋愛の記憶としても読めるが、グループの過去や、かつての成功と分裂の記憶を想起させる言葉でもある。
音楽的には、ややメランコリックなトーンがあり、アルバム中盤から後半のダンス寄りの流れに対して、感情的な奥行きを加えている。ビートは現代的だが、メロディにはAll Saintsの初期作品にも通じる切なさがある。声の重なりも比較的柔らかく、過去を振り返る曲としてふさわしい質感を持っている。
歌詞では、終わったはずの関係や感情が、ふとした瞬間に戻ってくる様子が描かれる。記憶は直線的ではなく、突然現在に侵入してくる。忘れたと思っていた相手、傷、幸福な瞬間、後悔が、フラッシュバックのように蘇る。この感覚は、All Saintsの再結成という現実とも重なる。過去は消えたわけではなく、現在の中に別の形で残っている。
「Flashback」は、『Studio 1』の中で感情的な余韻を持つ重要曲である。アルバム全体が新しいビートやクラブ感覚を目指している中で、この曲はAll Saintsが本来持っていたメランコリックなR&Bポップの魅力を思い出させる。
12. Fundamental
アルバムの最後を飾る「Fundamental」は、タイトル通り「根本的なもの」「本質的なもの」を主題にした楽曲である。終曲としてこの言葉が置かれることは象徴的である。『Studio 1』は新しいサウンドへ接近したアルバムだが、最後にはAll Saintsにとって何が本質なのかを問うような形で締めくくられる。
音楽的には、アルバムの流れを総括するように、ポップ、R&B、ダンス感覚がバランスよく組み合わされている。派手な終幕というより、比較的落ち着いた形で作品を閉じる。ヴォーカルの重なりが中心にあり、グループとしての存在感を改めて示している。
歌詞では、関係の中で変わらないもの、自分にとって必要なもの、表面的な駆け引きを超えて残る感情が描かれる。タイトルの「Fundamental」は、恋愛にも、自己認識にも、グループの再出発にも重なる。新しいビートや時代性を取り込みながらも、All Saintsの核にあるのは、クールな声の重なり、都会的な距離感、傷や迷いを抱えた大人のポップ感覚である。
終曲としての「Fundamental」は、アルバム全体を大きく劇的に締めくくるわけではない。しかし、その控えめな着地はAll Saintsらしい。過剰に勝利を宣言するのではなく、自分たちの本質を確認するように終わる。『Studio 1』という復帰作の最後にふさわしい楽曲である。
総評
『Studio 1』は、All Saintsが2000年代半ばのポップ・シーンへ再び参加するために制作した、挑戦的な復帰作である。90年代末から2000年代初頭にかけての彼女たちの代表曲にあった、メランコリックなR&Bポップやアンビエントな洗練を期待すると、本作はかなり異なる印象を与える。ここでは、ダンスホール、レゲエ・ポップ、エレクトロ、クラブ向けの硬いビートが前面に出ており、All Saintsは過去の自分たちを再現するのではなく、当時のポップの流れに合わせて自らを更新しようとしている。
この方向性が最も成功しているのが「Rock Steady」である。この曲は、ダンスホール的なリズムをポップに消化しながら、All Saintsらしいクールなヴォーカルと洗練を保っている。復帰シングルとしても非常に強く、アルバム全体の意図を明確に示している。また、「Chick Fit」「Too Nasty」「In It to Win It」などでは、2000年代的なビートと女性の自己主張が結びつき、当時のクラブ・ポップの空気が反映されている。
一方で、本作の魅力はダンス寄りの曲だけにあるわけではない。「Scar」「Flashback」「Fundamental」などでは、All Saintsがもともと持っていた陰影のあるR&Bポップの資質が見える。傷跡、記憶、関係の本質といったテーマは、彼女たちの成熟したイメージによく合っている。特に再結成後の作品であることを考えると、過去の傷や記憶を扱う曲は、単なる恋愛歌以上の意味を持つ。
歌詞面では、恋愛の駆け引き、自己防衛、拒絶、記憶、女性の主体性が中心にある。All Saintsは、ガール・グループでありながら、過度に無邪気なキャラクター性やアイドル的な明るさに頼らないグループだった。本作でもその特徴は保たれている。恋愛においても、ただ愛される存在ではなく、相手を選び、拒み、距離を取り、過去の傷を抱えながら自分を守る女性像が描かれる。
ただし、アルバム全体として見ると、『Studio 1』は過渡期の作品でもある。リード曲「Rock Steady」の完成度が高い一方で、アルバム全体が同じ水準の強い個性を保っているわけではない。2000年代半ばの流行を取り込んだ結果、All Saints特有のメランコリックな深みがやや薄く感じられる部分もある。特に初期の「Never Ever」や「Pure Shores」のような、空気そのものを変えるような名曲を期待すると、本作はより軽く、ビート中心に聞こえるだろう。
しかし、その軽さは必ずしも欠点ではない。『Studio 1』は、All Saintsが過去の成功に縛られず、新しい時代のポップ・サウンドへ踏み込んだ記録である。再結成グループのアルバムがしばしばノスタルジーに寄りがちな中で、本作は明確に2006年の音を志向している。ダンスホールやエレクトロの影響を取り入れたプロダクションは、当時の英国ポップがどのようにグローバルなリズムを吸収していたかを示している。
キャリア上の位置づけとして、『Studio 1』はAll Saintsの代表作とは言いにくいかもしれない。だが、彼女たちの変化と再挑戦を知るうえでは欠かせない作品である。90年代末のR&Bポップ・グループとしてのイメージから、2000年代のクラブ・ポップへ向かおうとした意志が刻まれている。その後、All Saintsは2016年の『Red Flag』でより成熟した大人のポップへと再び評価を回復するが、その前段階として『Studio 1』は重要な橋渡しになっている。
日本のリスナーにとっては、本作はAll Saintsのディスコグラフィの中で、最もリズム重視かつクラブ寄りの作品として聴くことができる。90年代UKポップ、R&B、ダンスホール・ポップ、2000年代の女性グループ・サウンドに関心があるリスナーには、時代性の強い一枚として興味深い。特に「Rock Steady」は、All Saintsの再結成期を象徴する重要曲であり、本作を聴く理由として十分な存在感を持っている。
『Studio 1』は、完全な復活作というより、再出発のための実験作である。そこには成功した瞬間もあれば、時代の音に接近しすぎたことで個性がやや薄まる瞬間もある。しかし、All Saintsが自分たちのクールな声と女性像を、2000年代半ばのビートの上で再構築しようとした意義は大きい。過去の栄光をなぞるのではなく、もう一度ポップの現在形へ入っていこうとした作品として、『Studio 1』はAll Saintsのキャリアの中で独自の意味を持つアルバムである。
おすすめアルバム
1. All Saints『All Saints』
1997年発表のデビュー・アルバム。R&B、ヒップホップ、UKポップを洗練された形で融合し、「Never Ever」「Bootie Call」などを収録した代表作である。『Studio 1』で見られるクールなヴォーカル・スタイルや都会的な女性像の出発点を知るうえで最も重要な作品である。
2. All Saints『Saints & Sinners』
2000年発表のセカンド・アルバム。「Pure Shores」「Black Coffee」を含み、アンビエントなポップ感覚とR&B的な洗練が結びついた作品である。『Studio 1』とは方向性が異なるが、All Saintsが持つメランコリックで大人びたポップ性を理解するには欠かせない一枚である。
3. Sugababes『Taller in More Ways』
2005年発表の英国ガール・グループ重要作。R&B、エレクトロ、ポップをバランスよく取り入れ、2000年代半ばのUKポップの洗練を示している。『Studio 1』と同じ時代の女性グループが、現代的なビートとポップ・メロディをどのように結びつけていたかを比較するうえで関連性が高い。
4. Nelly Furtado『Loose』
2006年発表のポップ/R&B作品。Timbalandのプロダクションを軸に、エレクトロ、ヒップホップ、ダンス・ポップを大胆に取り入れたアルバムである。『Studio 1』と同時期のポップが、リズムの硬さやクラブ感覚をどのように前面化していたかを理解するために有効な作品である。
5. All Saints『Red Flag』
2016年発表の復帰作。『Studio 1』からさらに時間を経て、All Saintsが成熟した大人のポップ・グループとして再評価されたアルバムである。より落ち着いたR&B/ポップの質感を持ち、彼女たちの声の重なりやメランコリックな魅力が自然に生かされている。『Studio 1』の再出発が、その後どのような成熟へつながったかを知るうえで重要である。

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