1. 歌詞の概要
「She Plays Bass」は、Beabadoobeeが2019年にリリースしたEP『Space Cadet』に収録された楽曲であり、彼女の初期代表曲のひとつでもある。この曲はタイトル通り、「ベースを弾く女の子」への憧れと友情、そして言葉にしがたい淡い感情を、シンプルかつ軽やかなポップロックで表現した作品である。
歌詞は非常にストレートで、「彼女はベースを弾く」「一緒にいたい」という気持ちを、そのまま短いセンテンスで繰り返す。そこには恋とも友情ともつかない、けれど確かに強く惹かれる感情の流れがあり、それをあえて複雑に説明せず、そのままの言葉で描くことで、かえって普遍性とリアルな体温が伝わってくる。
この曲の魅力は、その“言葉にしきれない気持ち”を、ぎこちないほどまっすぐなリリックと、90年代を思わせる甘酸っぱいギターサウンドで包み込んでいる点にある。
2. 歌詞のバックグラウンド
「She Plays Bass」は、Beabadoobeeが親友であり当時のバンドメンバーでもあったEliana Sewell(エリアナ)に向けて書いた楽曲である。Elianaは実際にベーシストとしてBeaのツアーにも帯同しており、ふたりの絆が音楽を通じて表現された非常に私的な作品となっている。
この曲が生まれた背景には、Beabadoobee自身が音楽活動を始めた当初、自分の周囲にいる人々、とりわけ女性の仲間たちから大きな影響を受けたという事実がある。彼女はギターとベース、つまり「楽器を持つ女の子たち」をひとつのヒロイン像として描き、その姿に対する尊敬と親愛をこの曲に込めているのだ。
Beaはインタビューで「この曲は、ガールフレンドではなく“ガール・フレンド”についての曲」と語っており、それが恋愛に変わるかは重要ではなく、ただ「一緒にいたい」という気持ちが大切なのだという、ジェンダーやラブの枠を超えたニュートラルな感情のかたちを提示している。
3. 歌詞の抜粋と和訳
She plays bass, she plays bass
彼女はベースを弾く、ベースを弾くんだNothing matters ‘cause we’re both in space
何も気にならない、だって私たちは宇宙にいるみたいだからI just want to see her all the time
私はただ、いつも彼女に会いたいだけI just want to see her all the time
それだけでいいの
歌詞引用元:Genius Lyrics – She Plays Bass
4. 歌詞の考察
「She Plays Bass」は、その言葉のシンプルさゆえに、さまざまな感情を重ねられる余白のある作品である。「彼女に会いたい」「一緒にいたい」と繰り返されるフレーズは、恋愛の言葉にも聞こえるし、かけがえのない友情の響きにも感じられる。
特筆すべきは、「Nothing matters ‘cause we’re both in space(私たちは宇宙にいるから、何も気にならない)」という一節だ。この“宇宙”という比喩は、ふたりだけの世界、誰にも邪魔されない関係性、あるいは周囲のルールやラベルから解放された自由な存在であることを象徴している。Beabadoobeeは、そこに安らぎと高揚、そして自分らしさを見出しているのだろう。
また、ベースという楽器に対する憧れや尊敬も、本作のさりげない魅力の一つである。バンドの中で目立ちすぎず、しかし確実に支える存在である“ベース”に、彼女は一種のロールモデルや理想像を重ねているのかもしれない。
このように、「She Plays Bass」は、Beabadoobeeの初期の楽曲群の中でもとりわけ「誰かに惹かれることの純粋さ」と「言葉にならない関係の輪郭」を見事にとらえた一曲なのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Cannonball by The Breeders
力強さと可愛らしさが同居した90年代インディロックの象徴的ナンバー。 - Kiss Me by Sixpence None the Richer
恋の始まりのきらめきと甘さが詰まったラブソング。 - I Wanna Be Your Girlfriend by Girl in Red
同性への淡い恋心をストレートに歌った現代的な青春のアンセム。 - Alaska by Maggie Rogers
自然体の感情を洗練されたポップサウンドで包み込むアプローチが共通する。
6. “ガールズ・ミュージック”の新しい形
「She Plays Bass」は、Beabadoobeeが提示する“ガールズ・ミュージック”の新しいかたちを象徴する作品でもある。ここで描かれるのは、「かわいい女の子」や「恋される女の子」ではなく、自分の意思で楽器を持ち、表現し、影響を与える“能動的な女の子たち”の姿だ。
それは、Beabadoobee自身のアイデンティティとも重なり、「楽器を手にすることで世界と繋がれた」という彼女の音楽人生の原点を思わせる。恋愛でも友情でもない、でも深くて強い感情。それを堂々と歌にして届ける姿は、リスナーにとっても大きなインスピレーションとなるだろう。
「She Plays Bass」は、青春の中にある“説明できない好き”の気持ちや、ただそばにいたいという願いを、音と言葉でそのまま封じ込めた宝石のような一曲である。そして、そのきらめきは、Beabadoobeeというアーティストの最もピュアな輝きを伝えてくれる。
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