1. 歌詞の概要
「Seventeen」は、Sharon Van Etten(シャロン・ヴァン・エッテン) が2019年に発表したアルバム『Remind Me Tomorrow』に収録された楽曲で、自己回顧と若さへの賛歌、そして喪失と共感の詩が詰まった彼女の代表作です。タイトルが示す通り、この曲は彼女自身の17歳の頃を振り返りながら、かつての自分に語りかけるように構成されたパーソナルなナンバーであり、同時に、それを聴く“誰か”への励ましでもあります。
歌詞では、若さに潜む無知と自由、未完成な衝動と情熱、そしてそれを受け止められなかったかつての大人たちへのわだかまりと赦しが織り込まれており、過去と現在、感情と理性が複雑に交差します。シャロンは、自分が歩んできた道の痛みと美しさを認めながら、未来への優しい眼差しを向けることで、リスナーにも深い共鳴を呼び起こすのです。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Seventeen」は、シャロン・ヴァン・エッテンが自身のキャリアと人生において大きな転換期を迎えていた時期に生まれた曲です。母となり、女優としての活動(Netflixの『The OA』など)も並行する中で、彼女は音楽への向き合い方を見直し、より大胆に感情を表現する方向へと舵を切りました。
本作では初めて**John Congleton(ジョン・コングルトン)**をプロデューサーに迎え、従来のフォークやアコースティックな路線から一転、シンセや歪んだギター、ドラムループなどを積極的に導入。その中でも「Seventeen」は、最もエモーショナルでストレートな歌唱が印象的なロックバラードとなっています。
この曲の制作過程でシャロンは、「この曲はかつての私に向けたラブレター。けれど、同時に今の10代の女の子たちにも向けて書いたの」と語っており、**時間と世代を超えた“共鳴の詩”**として成立しています。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に「Seventeen」の印象的な一節と和訳を紹介します:
“I know what you’re gonna be
I know that you’re gonna be”
「私は知ってる、あなたが何者になるのかを
あなたがどうなっていくのか、わかってるの」
“I see you so uncomfortably alone
I wish I could show you how much you’ve grown”
「ひとりで、居心地悪そうにしているあなたが見える
どれだけあなたが成長したか、教えてあげられたらいいのに」
“I used to feel like I was seventeen
Now I feel a change is coming”
「かつては17歳のような気持ちだった
でも今、何かが変わろうとしている」
引用元:Genius Lyrics
これらのラインは、記憶と現在、自己と他者、そして母性と共感を巧みに重ね合わせ、聴く人の人生にそっと寄り添うような言葉に満ちています。
4. 歌詞の考察
「Seventeen」の歌詞構成には、一貫して**“時間の反復と反照”というテーマがあります。シャロンは、自分自身の17歳の頃を思い出しながら、まるで別の誰かに語りかけるようにその姿を描き出します。実際にはこれはかつての自分への手紙であり、同時に今を生きる若者たちへのエール**でもあるのです。
「私は知ってる」と語る彼女の声は、説教でも同情でもなく、時間を超えた共感です。あの頃の“何もわからないのにわかった気でいた自分”を赦し、包み込むような姿勢が、リスナーに温かく響きます。
また、「I used to feel like I was seventeen」というラインには、過去の感情を完全に失ったのではなく、今もどこかにその気持ちが残っているという、人生の連続性に対する繊細な感受性が込められています。これは若さへのノスタルジーというより、**若さの本質を知った大人だからこそ語れる“感情の記録”**なのです。
音楽的には、前半の静かな構成から、終盤にかけてボーカルが熱を帯び、ほとんど泣き叫ぶようなシャロンの歌声が爆発するという展開も、まさに感情の高まりそのもの。かつて抑圧されていた感情が、今ようやく音として解き放たれる瞬間でもあります。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Motion Sickness by Phoebe Bridgers
感情の傷跡と成長をテーマにした、知的かつエモーショナルなポップロック。 - Your Best American Girl by Mitski
自己認識と文化的アイデンティティ、そして愛の葛藤を描いた名バラード。 - Depreston by Courtney Barnett
過去の記憶や街の風景を通して人生を見つめ直す、静かな洞察の曲。 - Fast Car by Tracy Chapman
逃避と夢、若さの痛みを描いた名作。語り手の視点が「Seventeen」に近い。 - When We Were Young by Adele
失われた青春と今の自分を照らし合わせる叙情的なバラード。
6. 特筆すべき事項:ニューヨークと自分自身への“再会の歌”
「Seventeen」は、単なる青春の追憶や自己陶酔ではなく、都市と時間、個人と社会の関係性をも織り込んだ作品です。シャロン自身が語るように、彼女はニューヨークという都市に育てられ、時に傷つけられた一人の若者であり、この曲ではその**街との“再会”と“和解”**が重要なモチーフとして表れています。
ミュージックビデオでは、彼女がニューヨークの実際の場所(ブルックリンやかつて住んでいた地域)を歩きながら歌う様子が描かれ、場所と記憶、身体と言葉が結びついた“都市詩”のような作品に仕上がっています。
**「Seventeen」**は、シャロン・ヴァン・エッテンというアーティストが、自身の過去、若さ、そして傷と向き合いながら、それを愛することで今の自分を肯定するという、深い自己回復のプロセスを音楽で描いた詩的傑作です。大人になった今だからこそ言える「大丈夫だよ」という優しいメッセージは、かつての自分に向けられると同時に、同じように揺れる心を抱えた誰かにも届いている――それが「Seventeen」の本当の力なのです。
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