1. 歌詞の概要
「See You Soon」は、Beabadoobeeのセカンドアルバム『Beatopia』に収録された楽曲であり、同作の中でもとりわけ繊細で内省的なムードを漂わせる一曲である。タイトルの「またすぐに会おう」という言葉が象徴するのは、恋人や友人といった他者との別れに向けられたものだけでなく、自分自身との“再会”をも暗示している。
歌詞の核には、「自分自身を見失いそうになりながらも、その中で再び心の声に耳を澄まそうとする静かな決意」がある。自然の中で過ごした時間、ひとりで風を感じながら何かを思い出したような描写が随所に見られ、都市の喧騒や人間関係の雑音からいったん距離を置いた先に現れる、「本来の自分」をそっと受け入れるような感覚が全体を包んでいる。
音楽的には、ゆったりとしたテンポとドリーミーなギターの響きが特徴で、Beabadoobeeのかすれた声がその中を優しく漂うように展開される。まるで夢の中を泳いでいるかのような音像と、儚いリリックが深く溶け合った作品である。
2. 歌詞のバックグラウンド
Beabadoobeeは「See You Soon」の制作背景について、「LSDのトリップ中に自然の中で得た感覚を曲にした」と語っている。この発言は単なるサイケデリックな体験談にとどまらず、「現実との距離感」や「感情のリセット」という、本作全体に流れるテーマと深く関係している。
アルバム『Beatopia』は、彼女が7歳の頃に空想していた世界「ビートピア」を大人になって再発見するという構造を持っており、現実から一歩引いた場所で自分自身を再構築することを主題としている。その意味で、「See You Soon」はこのアルバムの核心的な曲の一つであり、感情の整理や再生への第一歩としての“静かな別れ”と“やさしい再会”を象徴している。
また、プロデュースを手がけたMatty HealyとGeorge Daniel(ともにThe 1975)は、この曲でBeabadoobeeの声が最も美しく響くよう、極限までミニマルに、そして空間的にサウンドを設計している。楽器数を絞ったアレンジが、彼女のボーカルと内省的な世界観をより際立たせている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
I wanted to see you soon
すぐにでも君に会いたかったのBut it wasn’t the right time
だけど、それは正しいタイミングじゃなかったSo I stayed in my room
だから、私は自分の部屋に残ったのJust a little while longer
ほんの少しだけ、もう少しだけNow I’m learning how to be alone
今、ひとりでいることを学んでいる最中なんだSo I can see you soon
だから、ちゃんと会いにいけるように
歌詞引用元:Genius Lyrics – See You Soon
4. 歌詞の考察
「See You Soon」は、表面的にはシンプルな別れと再会の物語のように思えるが、実際には“自己回復”という深いテーマを内包している。Beabadoobeeはこの楽曲を通じて、「いま会いたい」と思っても、それが「本当の意味での再会」に至るには時間と準備が必要であるという事実を語っている。
ここに描かれているのは、すぐに誰かにしがみつくのではなく、一度立ち止まり、孤独と向き合い、自分の内側を整えることの大切さである。つまり、「会いたいから会う」ではなく、「ちゃんと会いたいから、まずは自分を整える」という、成熟した愛や友情の姿が描かれているのだ。
また、「自分の部屋にいる」という描写は、Beabadoobeeがかつてローファイ・ベッドルーム・ポップのアイコンと見なされていた時期の彼女自身とも重なって見える。彼女はこの曲の中で、過去の自分とも再会しようとしているのかもしれない。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Night Shift by Lucy Dacus
長く続いた恋の終わりを冷静に見つめる視線が、「See You Soon」の静けさに呼応する。 - Only You by Yazoo
シンセポップの枠を超えて、人と人との距離を美しく描いた楽曲。 - Motion Sickness by Phoebe Bridgers
苦くも切ない記憶を、ポップなメロディに乗せて語る手法が共通する。 - Blue Light by Mazzy Star
夢のような音像と、儚くも確かな感情表現が「See You Soon」に通じる。
6. “静かな再生”のアンセムとして
「See You Soon」は、大きな感情の爆発や激しいサウンドによらずして、聴き手の心を動かす希有な楽曲である。特筆すべきは、言葉の選び方の慎ましさ、そして感情の扱い方の繊細さだ。Beabadoobeeはこの曲で、「誰かに会いたい」という普遍的な想いを、決して焦らず、押しつけず、丁寧に提示している。
その姿勢は、感情の波に飲み込まれがちな現代において、非常に誠実で、かつ新鮮である。焦燥や寂しさを否定せずに受け止め、やがて来る“再会”のために、今は“待つこと”を選ぶ。これは、Beabadoobeeというアーティストの成長を強く感じさせる瞬間でもある。
「See You Soon」は、Beabadoobeeの音楽における新たな地平を示すと同時に、聴く者に“再会のための孤独”という概念をそっと差し出してくれる、静かながら深い一曲である。心が騒がしいときほど、この曲が静かに寄り添ってくれるだろう。
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