Red Eyes by The War on Drugs(2014)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Red Eyes」は、アメリカのインディーロック・バンド、The War on Drugsが2014年にリリースしたアルバム『Lost in the Dream』の中心曲であり、アルバム全体のトーンを象徴するエモーショナルなナンバーである。疾走感あふれるドラムループと、アダム・グランデュシエル(Adam Granduciel)のもがくようなヴォーカル、そしてギターとシンセが幾層にも重なったサウンドは、聴く者を「記憶と夢のあいだ」に誘う。

“Red Eyes”というタイトルは、直訳すれば「赤い目」、すなわち疲労、泣いた後、あるいは薬物使用を暗示する表現とも取れるが、この曲ではもっと広義的に、“過去を引きずりながら前に進もうとする者の疲弊と意志”を象徴している。物語の主人公は、失ったものや痛みを抱えながら、それでもなお走り続けようとする。そしてその姿は、夢や幻覚のなかに迷い込んだままの現代人の心象に重なる。

歌詞は非常に詩的で断片的。明確なストーリーを語るというよりは、感情の揺れや風景のスナップショットをつなぎ合わせたような構成で、音楽と共に感覚的に“理解される”ように設計されている。

2. 歌詞のバックグラウンド

The War on Drugsのフロントマンであるアダム・グランデュシエルは、前作『Slave Ambient』の成功を受けて、一時的な精神的不調やパニック障害を経験したと語っており、『Lost in the Dream』はまさにその鬱屈と再生の記録とも言える作品である。

「Red Eyes」はそのなかでも希望の兆しを感じさせる楽曲であり、アルバムに漂う孤独や迷走の中にあって、“光の方向へと走り出す瞬間”を象徴するような存在となっている。音楽的には、ブルース・スプリングスティーンやトム・ペティに通じるアメリカーナのDNAを引き継ぎつつ、シューゲイザー的な音のレイヤーと現代的なサウンドデザインが融合しており、“懐かしさ”と“新しさ”が同時に鳴るという独特の魅力を持っている。

サビの「I would keep you here, but I can’t」というラインには、愛や救済の不可能性という痛みが込められており、それを疾走するビートに乗せることで、“悲しみと希望の同時進行”というアルバムのテーマが凝縮されている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、「Red Eyes」の印象的なフレーズとその和訳を紹介する。

“Come and see / Where I witness everything”
来てみてくれ 俺がすべてを見てきたこの場所に

“On my knees / Beat it down to get to my soul”
ひざまずいて 魂にたどり着くまで叩き続けた

“Like a weed / I’m growing just to tear it down”
雑草のように伸びて でもまた壊してしまう

“I would keep you here, but I can’t”
君をここに留めておきたい でもできないんだ

“Just to be near you / Still standing in the shadow of your soul”
ただ君の近くにいたいだけ 君の魂の影の中で立ち尽くしてる

“Red eyes, red eyes are coming back”
赤い目が戻ってくる その気配がまた迫ってくる

歌詞引用元:Genius – The War on Drugs “Red Eyes”

4. 歌詞の考察

「Red Eyes」の歌詞は、非常に内省的かつ比喩的で、明確なプロットを持たない分、聴き手それぞれの経験や感情を投影しやすい構造になっている。テーマとしては、精神の浮遊、不在への渇望、断絶された愛、そして再生の可能性が混在しており、まさに“夢と現実の狭間”にある詩世界だ。

「I would keep you here, but I can’t」というリフレインは、誰かを救いたくてもできないという無力感と、関係性の終焉への悲しみを象徴している。そして「Red eyes are coming back」という一節は、過去の痛みや不安、トラウマが再び忍び寄ってくる感覚を描き出しており、そこに漂うのは**過去から逃れられない人間の性(さが)**だ。

しかしその一方で、音楽はとてつもなく前向きで、疾走感に満ちている。この**“感情の重さ”と“音の軽やかさ”のコントラスト**こそが、「Red Eyes」の核心であり、The War on Drugsの真骨頂である。過去を背負いながら、それでもなお“どこかへ向かう”意志。その姿が、聴き手の感情と深く共鳴するのだ。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Under the Pressure by The War on Drugs
     同アルバムのオープニング。重圧の中での再生と浮遊感が美しく交差する名曲。

  • Don’t Swallow the Cap by The National
     精神的混乱と希望の狭間を行き来する、詩的で内省的なロック。

  • Sprawl II (Mountains Beyond Mountains) by Arcade Fire
     無力感と自由への欲望が重なり合う、ダンスと内省が共存する楽曲。

  • Shuggie by Foxygen
     レトロなサイケデリアと現代的エモーションの融合。感覚的な迷宮を彷徨う曲。

6. “疾走する内面”としてのRed Eyes

「Red Eyes」は、The War on Drugsの音楽が持つ最大の魅力──感情的な混乱を、音楽の美しさと疾走感によって肯定する力──が最も明確に表れた曲である。何かが崩れかけているのに、音はどこまでも前へ進む。悲しみを乗り越えるのではなく、悲しみごと抱えて“走る”。その姿勢は、現代のポスト・アメリカーナとして、極めて現代的でありながら普遍的な魅力を放っている。

そして、この曲は単なる“逃避”ではなく、傷ついた心を引きずりながらも、誰かを想い、ある場所へと向かおうとする、人間の本質的な“旅”の歌なのだ。


「Red Eyes」は、失われたものを胸に抱いたまま、再び歩き出すための音楽である。その赤い目は、痛みの記憶でありながらも、光に向かって開かれた眼差しでもある。

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