発売日: 1983年11月10日
ジャンル: ハードロック、ニュー・ウェーブ、ダンスロック、グラムロック
夜の欲望と破壊衝動——“反逆の叫び”が80年代ロックを塗り替えた夜
1983年にリリースされたBilly Idolのセカンド・アルバムRebel Yellは、前作で築いたダークでグラマラスなイメージをさらに洗練させ、アイドルの名を一気にロックの“アイコン”へと押し上げた金字塔である。
タイトルの“Rebel Yell(反逆の叫び)”は、南北戦争時代の南軍兵士の雄叫びに由来する言葉だが、ビリーにとっては文字通り“夜の衝動”と“自由への本能”を象徴するスローガンとなった。
ギタリストSteve Stevensによる技巧的かつ暴力的なギターワーク、プロデューサーKeith Forseyのダンサブルなビート設計。
そして、ビリー自身のカリスマ的存在感が三位一体となって、“ダンスフロアで暴れるロック”という新たな地平を切り開いた。
本作は、ただのロックアルバムではない。
80年代という時代を象徴する“スタイルそのもの”なのだ。
全曲レビュー
1. Rebel Yell
オープニングからいきなり炸裂する名曲中の名曲。
Stevensのギターが点火し、ビリーのシャウトが全身に火をつける。
「In the midnight hour she cried, ‘More, more, more!’」というコーラスは、性的メタファーでありながら、あらゆる欲望への賛歌として鳴り響く。
2. Daytime Drama
レトロなシンセサウンドとファンキーなビートが絡むミッドテンポ・ナンバー。
昼ドラ(Daytime Drama)を題材に、愛憎や裏切りといった人間劇を皮肉交じりに描く。
3. Eyes Without a Face
アルバムのハイライトであり、最も内省的なバラード。
タイトルはジョルジュ・フランジュの映画『顔のない眼』に由来し、“感情を失った愛”というテーマを繊細に浮き彫りにする。
中盤のギターソロとラップ風パートの対比が美しく、ビリーの感傷的な側面が光る名曲。
4. Blue Highway
アメリカの荒野と自由を駆け抜けるような、ロマンティックで疾走感あふれるロックンロール。
バイクや夜のハイウェイというモチーフが、“彷徨える若者像”を映し出す。
5. Flesh for Fantasy
ファッション誌のようなタイトルとサウンドだが、中身はかなりダークで官能的。
官能=消費物としての身体というテーマを、ビートと映像的イメージで描き出す。
当時のMTV文化を語る上でも欠かせない、ビジュアル時代の象徴的トラック。
6. Catch My Fall
ビリーの声が最もソウルフルに響く一曲。
「俺が倒れそうになったら、支えてくれ」というストレートなメッセージの中に、意外な脆さがにじむ。
ベースラインが印象的で、サウンド的にもクール。
7. Crank Call
パンクの名残を感じさせる短くてシンプルなロックナンバー。
いたずら電話というテーマが象徴するように、退屈と不安の中で爆発する若者のエネルギーが詰まっている。
8. (Do Not) Stand in the Shadows
少しラテン風味のギターと疾走するビート。
社会や他者に影のように埋もれるな、というメッセージが込められた一曲。
サビのコーラスがライヴで映える。
9. The Dead Next Door
アルバムの締めくくりは、死と孤独を見つめた暗く静かな曲。
“隣人の死”というメタファーが、名声や快楽の果てに訪れる空虚さを象徴している。
ダークでドリーミーな余韻を残す終曲。
総評
Rebel Yellは、Billy Idolのアイコン性を確立しただけでなく、80年代という時代そのものを切り裂いた“鋭利なスタイルの塊”である。
パンクのスピリット、ハードロックの重量感、シンセポップのモード感が共存し、それを一人のカリスマが統率することで成り立っている。
ビリー・アイドルは決して“本物の不良”ではない。
彼は、不良という概念を再構築し、ヴィジュアル化したパフォーマーだった。
本作はその最たる証明であり、“反逆”すらポップに仕立て直してしまう80年代の魔術を体現している。
叫べ、踊れ、燃え尽きろ。
それが“Rebel Yell”の意味するところなのだ。
おすすめアルバム
- INXS – Kick
ダンスとロックの融合が完成した名盤。セクシーで攻撃的なサウンドは共通点が多い。 - The Cult – Electric
ハードロックとゴシックな美学を併せ持つ、ビリーの同時代的ライバル。 - David Bowie – Scary Monsters (And Super Creeps)
アートと反骨の間を揺れる、80年代の“変身の美学”。 - Depeche Mode – Black Celebration
内省と官能、ダークさを持ったシンセ・サウンド。『Eyes Without a Face』が好きなら必聴。 - Simple Minds – New Gold Dream (81–82–83–84)
ロマンティックな叙情とダンサブルなサウンドの融合。時代性と耽美が共存する名作。
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