発売日: 1971年11月
ジャンル: ライブ・アルバム、ハードロック、ブルースロック、ブギーロック
これは“演奏”ではない、“爆発”だ——ライブという名の祝祭に記録された4人の火花
『Performance: Rockin’ the Fillmore』は、1971年5月、ニューヨークの名門ライブ会場フィルモア・イーストでの4公演を収録した、Humble Pieの初ライヴ・アルバム。
彼らの真骨頂はスタジオではなくステージにある——そのことを世界中に知らしめた、ハードロック・ライヴ史に燦然と輝く名盤である。
スティーヴ・マリオットのソウルフルな咆哮、ピーター・フランプトンの流麗なギター、
リドリーとシャーリーによる重心の低いリズム隊が混然一体となり、
スタジオでは到底出せなかった“熱”と“煙”が、すべてこのアルバムには焼きついている。
まさにロックンロールが生き物として呼吸していた時代の、奇跡の記録なのだ。
全曲レビュー
1. Four Day Creep
オープニングから爆音のブギーで観客を叩き起こす、わずか3分の衝撃。
原曲はR&Bだが、マリオットのシャウトとバンドの一体感が荒く、速く、濃くなって炸裂する。
幕が上がった瞬間にすでに“熱気”が立ち上っている。
2. I’m Ready
ウィリー・ディクソンのブルースが、ここでは原形をとどめないほどのハード・ファンクに変貌。
ジャムの応酬、ギターの咆哮、ドラミングの揺さぶり。
8分以上の中に、“俺たちはいつでも行ける”というロックの自信が詰まっている。
3. Stone Cold Fever
スタジオ盤よりも遥かにグルーヴィかつ野性的。
特にマリオットのボーカルは、まるで喉が裂ける寸前のような鬼気迫る叫び。
それを支えるリズム隊のテンションも尋常ではない。
4. I Walk on Gilded Splinters
原曲はドクター・ジョンだが、これを23分超の呪術的ジャムへと変貌させたこの演奏は、
Humble Pie史上最も異様で、最も凄まじい。
ギターのうねり、マリオットの語り、ドラムの交錯。
観客も演者も、トランス状態に引きずり込まれていくような音響体験。
5. Rolling Stone
再びブルースを下敷きにした重量級ロック。
ここでも、抑制のないギターと“叫び”が交互に波打つ。
演奏のラフさすら美学に変えてしまう、熱の塊のようなナンバー。
6. Hallelujah (I Love Her So)
レイ・チャールズのソウル・クラシックを、教会のような熱狂で包み込む。
“ハレルヤ”と叫ぶマリオットと観客の応酬が、このライヴが単なる音楽ではなく“儀式”であったことを証明する。
7. I Don’t Need No Doctor
最も有名なテイクであり、本作の象徴ともいえるトラック。
イントロから最後まで、攻撃的で挑発的で、とてつもなくかっこいい。
バンドが一丸となって怒涛のエネルギーをぶつける様は、まさに“野獣が檻を壊して飛び出した”ような瞬間。
総評
『Performance: Rockin’ the Fillmore』は、Humble Pieというバンドが“ロックとは何か”を音で語った瞬間を完璧に記録したアルバムである。
それは、録音された「演奏」ではない。
感情、汗、憎しみ、愛、ユーモア、そして熱が渦巻く、“爆発の記録”なのだ。
ピーター・フランプトンは本作を最後にバンドを脱退するが、
この作品は彼にとっても、ギタリストとしての最高潮を刻み込んだステージであった。
そしてスティーヴ・マリオット——彼の魂の叫びは、このアルバムの中で永遠に燃え続けている。
「ロックンロールは生きている」。
この一枚は、その真実を今なお証明し続けている。
おすすめアルバム
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The Who – Live at Leeds
同じ1971年のライヴ盤。爆発力と即興性で双璧をなす名作。 -
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