
発売日:1969年8月
ジャンル:ブルースロック、ハードロック、フォークロック、サイケデリックロック
概要
As Safe as Yesterday Isは、Humble Pieが1969年に発表したデビューアルバムである。Small Facesを脱退したSteve Marriottと、The Herd出身のPeter Framptonを中心に結成されたこのバンドは、本作においてすでに独自の音楽性の萌芽を見せている。
後年のHumble Pieは、ソウルフルで荒々しいブルースロック/ハードロック・バンドとして知られるが、本作ではまだスタイルが完全に固まっていない。その代わりに、フォーク、サイケデリック、カントリー、ブルースといった多様な要素が混在し、過渡期特有の実験性と自由さが感じられる。
タイトルのAs Safe as Yesterday Is(「昨日のように安全」)は、一見安心感を示す言葉だが、どこか曖昧で皮肉な響きを持つ。この曖昧さは、アルバム全体の方向性とも一致している。統一されたコンセプトよりも、複数の音楽的アイデアが並置される構成であり、Humble Pieが自らのサウンドを模索していた時期の記録といえる。
また、本作には後にハードロックの象徴的存在となるHumble Pieの初期段階が刻まれている。Steve Marriottのソウルフルなヴォーカルと、Peter Framptonのメロディアスなギターの対比はすでに明確であり、この二人の個性がバンドの方向性を形作っている。
全曲レビュー
1. Desperation
オープニング曲「Desperation」は、フォークロック的な雰囲気を持つ楽曲であり、後のハードロック的Humble Pieとは異なる柔らかな導入となっている。
アコースティックギターを中心としたサウンドと、穏やかなメロディが特徴である。タイトルの「絶望」に反して、音楽は過度に暗くならず、むしろ内省的な静けさを持つ。歌詞では、感情の揺れや不安が描かれているが、強い主張よりも雰囲気が重視されている。
2. Stick Shift
「Stick Shift」は、よりロック色の強い楽曲であり、バンドのエネルギーが前面に出る。タイトルは車のマニュアル変速を指し、動きや速度、コントロールを連想させる。
ギターはリフ主体で、リズムもタイトである。まだ後年ほどの重さはないが、すでにブルースロック的な骨格が見える。Steve Marriottのヴォーカルも、ソウルフルな力強さを発揮している。
3. Buttermilk Boy
「Buttermilk Boy」は、カントリーやフォークの要素を取り入れた軽快な楽曲である。ユーモラスなタイトルと、やや素朴なメロディが印象的である。
演奏は比較的シンプルで、バンドの柔軟性が感じられる。後のハードロック的な重さとは対照的に、アメリカン・ルーツ音楽への関心が表れている。Humble Pieが初期に持っていた多様性を象徴する一曲である。
4. Growing Closer
「Growing Closer」は、より叙情的なバラードであり、Peter Framptonのメロディセンスが感じられる楽曲である。タイトルは「近づいていく」ことを意味し、関係性の変化や感情の深化がテーマとなる。
サウンドは穏やかで、ギターとヴォーカルが丁寧に配置されている。Marriottのソウルフルな歌唱と、Framptonの繊細な作曲が交差することで、バンドの二面性が表れている。
5. As Safe as Yesterday Is
タイトル曲「As Safe as Yesterday Is」は、本作の中でもややサイケデリックな雰囲気を持つ楽曲である。音の配置や展開に実験的な要素があり、1960年代末のロックの空気を反映している。
歌詞は抽象的で、明確なストーリーよりもイメージの連なりが重視されている。サウンドには揺らぎがあり、確固とした安定感を持たない点が、タイトルの皮肉なニュアンスと重なる。
6. Bang!
「Bang!」は、短く直接的なロックナンバーである。タイトル通り、瞬間的な衝撃や爆発をイメージさせる。
ギターとリズムがストレートに押し出され、シンプルな構成ながらエネルギーがある。Humble Pieのロックバンドとしての原初的な勢いが感じられる楽曲である。
7. Alabama ’69
「Alabama ’69」は、アメリカ南部を想起させるタイトルを持つ楽曲であり、ブルースやスワンプ的な要素が感じられる。
演奏はややルーズで、南部ロック的な雰囲気を持つ。英国バンドでありながら、アメリカの音楽文化への強い憧れが表れている。歌詞には、時代や場所のイメージが断片的に描かれる。
8. I’ll Go Alone
「I’ll Go Alone」は、孤独や自立をテーマにしたバラードである。タイトルは「一人で行く」という意味であり、別れや決断の瞬間が描かれる。
サウンドは控えめで、ヴォーカルが中心となる。Marriottの歌唱は感情的でありながらも抑制が効いており、曲の静かな緊張感を支えている。
9. A Nifty Little Number Like You
「A Nifty Little Number Like You」は、軽妙でややユーモラスな楽曲である。タイトルからも分かるように、遊び心のある表現が特徴である。
音楽的にはポップで、リズムも軽快である。アルバムの中で重くなりすぎないようにバランスを取る役割を果たしている。Humble Pieの柔軟な表現力が感じられる一曲である。
10. What You Will
ラスト曲「What You Will」は、本作の中でも最も重く、後のHumble Pieの方向性を予感させる楽曲である。ブルースロック的なリフと、ゆったりとした重いグルーヴが特徴である。
演奏には緊張感があり、バンドのアンサンブルが強く感じられる。Marriottのヴォーカルも力強く、楽曲全体にドラマ性を与えている。
この曲は、後のRock OnやPerformance Rockin’ the Fillmoreへとつながるサウンドの原型といえる。アルバムの締めくくりとして、バンドの未来を示唆する重要な一曲である。
総評
As Safe as Yesterday Isは、Humble Pieのデビュー作として、バンドの出発点と試行錯誤を記録したアルバムである。後年のブルースロック/ハードロック路線と比べると統一感は薄いが、その分、多様な音楽的要素が詰まっている。
本作の最大の特徴は、過渡期の自由さである。フォーク、カントリー、サイケデリック、ブルースロックが混在し、バンドはまだ一つのスタイルに収束していない。しかし、その中でSteve Marriottのソウルフルなヴォーカルと、Peter Framptonのメロディアスな感覚という二つの軸がすでに確立されている。
音楽的には、1960年代末のロックの多様性を反映した作品であり、同時代のTrafficやThe Band、初期Led Zeppelinなどとも共通する要素を持つ。ただし、Humble Pieはその中でも特に“過程”が強く感じられるバンドであり、本作はその発展途上の姿をそのまま提示している。
日本のリスナーにとって、本作はHumble Pieの完成形を示すアルバムではないが、彼らの原点を知るうえで重要である。後の重厚なライブサウンドやブルースロックの爆発力を理解するためには、この初期の多様性を押さえておく必要がある。
As Safe as Yesterday Isは、完成度よりも可能性に価値があるアルバムである。まだ形を定めていないバンドが、さまざまな音楽的要素を試しながら、自らの方向を探っていく過程が記録された作品である。



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