1. 歌詞の概要
「Oriole」は、The Afghan Whigsが2017年にリリースしたアルバム『In Spades』に収録された楽曲であり、同作の中でも特に神秘的で重層的な世界観を有する一曲である。オリオール(Oriole)という言葉は北米に生息する小鳥の名前だが、この曲においては、愛の象徴、幻影、あるいは死と再生のメタファーとして機能しているように感じられる。
全編を通して、不在と再会、記憶と超自然が交差するような幻想的な語り口が特徴であり、まるで夢と現実のあわいを彷徨うかのようなリリックとサウンドが聴き手を包み込む。愛する者の影を追いながら、それが実在するのか、自分の内にしかいないのかを問い続ける語り手の姿は、まるで死者との対話を試みる霊媒者のようにも映る。
2. 歌詞のバックグラウンド
『In Spades』はThe Afghan Whigsにとって9年ぶりとなるアルバム『Do to the Beast』(2014)の続編であり、再結成後2作目となるフルアルバムである。本作のリリース後まもなく、バンドのギタリストであり創設メンバーでもあったデイヴ・ローゼルターが死去しており、本作にはその事実を予見するかのような“死”や“魂の旅路”といったテーマが随所に見受けられる。
「Oriole」は、アルバムの中でも特にそのスピリチュアルな傾向が顕著な一曲で、グレッグ・デュリ自身が「夢の中で降りてきた」と語るように、無意識からの啓示や霊的なビジョンが凝縮されている。音楽的にも、ストリングスと幽玄なギターが織りなすミステリアスなアレンジが、まるで儀式のような静けさと緊張感をもって広がっていく。
3. 歌詞の抜粋と和訳
You come around, you come around
君はふと現れる 何度も 何度でもAnd then you leave
そしてまた去っていくYou’re not the only one who’s lost
迷っているのは君だけじゃない
このフレーズは、喪失と幻視が交錯する「Oriole」の核心を突いている。ここで語られる「君」は、おそらく亡霊、あるいはかつて愛した者の面影であり、語り手はその気配に取り憑かれ、幾度となく“出会い”と“別れ”を繰り返す。
When I sleep, you are there
僕が眠るとき 君はそこにいるIn the shade, I hear your name
陰の中から 君の名前が聞こえる
この歌詞は、夢と死後の世界、あるいは無意識と記憶の世界をつなぐポータルのように響く。語り手はもはや現実の中に「君」を求めていない。彼が触れようとしているのは、時間や空間を超えた、存在そのものの“残響”なのだ。
※歌詞引用元:Genius – Oriole Lyrics
4. 歌詞の考察
「Oriole」は、喪失、死、そして再会の夢を巡る“心の儀式”のような楽曲である。その語りは極めて私的でありながら、同時に普遍的な“別れの後に残る感情”を描いている。とくに印象的なのは、語り手が“君”をただ追憶の中に閉じ込めるのではなく、“今もなお存在するもの”として認識している点だ。
これは亡霊との会話というよりも、自分の心の中に棲み続ける存在——過去の恋人、亡くなった人、あるいは失われた自分自身——との再会を試みる行為だ。鳥である「オリオール」はその媒介であり、また“魂の形をしたメタファー”とも言えるだろう。
The Afghan Whigsの作品にはしばしば“霊的な二重性”が現れる。愛と死、欲望と罪、記憶と幻影。これらは常に入れ子構造で語られ、聴き手に一筋縄ではいかない“感情の迷宮”を提示する。「Oriole」もまた、そんな迷宮の一角であり、出口のない場所から静かに響く祈りのような歌なのである。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- The Mercy Seat by Nick Cave & The Bad Seeds
死刑台に立つ男の視点から語られる“贖罪と神”の詩。 - I Am Trying to Break Your Heart by Wilco
抽象と混乱のなかで心の痛みを描いた現代的ラブソング。 - Lua by Bright Eyes
夜の孤独と依存の交錯を淡く語る、乾いた都市のバラード。 - Teardrop by Massive Attack
生命と喪失、そして“声なき存在”へのラメント。 -
Sleepwalkin’ by Ryan Bingham
夢と現実のはざまで漂う魂を描く、アメリカーナ的霊性の一曲。
6. 鳥の名を借りた、魂の旅路
「Oriole」というタイトルには、単なる自然のモチーフ以上の意味が込められている。それは、亡くなった誰かが鳥となって現れるという古くからの民間信仰を想起させ、同時に、音楽そのものが“魂の痕跡”となって生き続けることを示唆しているようでもある。
この楽曲の静けさ、そして反響のように広がるサウンドは、まるで記憶が“音”としてこの世に残っていく様を描いているかのようだ。死は終わりではなく、再び誰かの心の中に宿る形で続いていく——その感覚を、グレッグ・デュリは美しくも切なく描き出している。
The Afghan Whigsは、かつて「欲望のロックンロール」を奏でたバンドであった。しかし「Oriole」では、その欲望が昇華され、より静かで敬虔な“祈りの音楽”へと変容している。だからこそ、この曲はただのバラードではない。これは、記憶に生き続ける者たちへのオマージュであり、音楽という名の魂の記録なのだ。
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