
1. 歌詞の概要
Orioleは、The Afghan Whigsが2017年に発表した楽曲である。
収録アルバムはIn Spades。2017年5月5日にSub Popからリリースされた、再結成後2作目、通算8作目のスタジオ・アルバムである。Bandcampのアルバム情報では、Orioleは5曲目に置かれ、曲長は4分5秒と記載されている。(Bandcamp)
この曲は、The Afghan Whigsの中でもかなり妖しく、儀式的なムードを持つ曲である。
タイトルのOrioleは、鳥の名前でもある。
アメリカムクドリモドキの仲間を指す言葉で、明るい色彩を持つ鳥を連想させる。
しかし、Greg DulliはPopMattersのインタビューで、OrioleというタイトルはロサンゼルスのBirdlandと呼ばれる通りの名前に由来すると語っている。(PopMatters)
この「鳥」と「通り」の二重性が、曲の感じにとても合っている。
鳥のように自由なイメージ。
だが、実際には街の中にある通り。
空へ飛ぶものと、地面に刻まれた場所。
Orioleは、そのあいだで揺れる曲だ。
歌詞には、ろうそく、鍵をかけたドア、円を描く行為、divination、cleromancyといった言葉が出てくる。
これは恋愛の部屋でありながら、同時に儀式の場でもある。
誰かと身体を重ねる親密さが、占いや魔術のようなものへ変わっていく。
特にcleromancyという言葉は重要である。
Sub PopのIn Spades紹介文では、cleromancyはくじ、サイコロ、カードなどの偶然の投げ方によって運命を占う行為だと説明されている。In Spadesというアルバム全体が、こうした神秘的な内的論理を持つ作品として紹介されている。(Sub Pop)
つまりOrioleは、恋愛や欲望を、偶然と運命の儀式として描く曲なのだ。
相手と関係を持つ。
だが、それは単なるロマンスではない。
火を灯し、ドアを閉め、円を描き、その中へ落ちていく。
そこで見えるものは、愛なのか、破滅なのか、過去の亡霊なのか。
Greg Dulliの歌には、昔からこの種の危うさがある。
愛は救いではなく、罠でもある。
欲望は快楽であり、同時に自己破壊でもある。
相手を求めることは、自分の暗い部分へ入り込むことでもある。
Orioleは、そのThe Afghan Whigs的なテーマを、後期のより映画的でオカルト的な音像の中に置いた曲である。
アコースティック・ギターは静かに始まる。
ストリングスが湿った夜の空気を作る。
Dulliの声は、甘く、低く、少し危険だ。
そして曲が進むにつれ、柔らかな部屋は儀式の部屋へ変わっていく。
この曲は、恋の歌であり、呪いの歌であり、記憶の中の誰かへ別れを告げる歌でもある。
Drowned in SoundのインタビューでDulliは、Orioleについて、自分が直接別れを言えなかった、今はもうこの世にいない人物への別れの方法であり、特定の人物と状況に対して深い感情的な響きを持つ曲だったと語っている。(Drowned in Sound)
この背景を知ると、Orioleの儀式性はさらに重くなる。
これは単なる官能的な夜の曲ではない。
死者への呼びかけ、別れられなかった人への遅れた儀式、記憶の中でしかもう会えない相手への歌でもある。
2. 歌詞のバックグラウンド
In Spadesは、The Afghan Whigsの再結成後の重要作である。
バンドは1990年代にGentlemenやBlack Loveなどで、オルタナティブ・ロックとソウル、R&B、ファンク、ノワール的な歌詞世界を結びつけた独自のスタイルを築いた。PitchforkのGentlemen再発レビューでも、同作は壊れていく関係の感情的混乱を描き、インディー・ロックとブラック・ソウル、ファンク、ジャズの要素を融合させた作品として位置づけられている。(Pitchfork)
The Afghan Whigsの音楽には、最初から「ロック・バンドの音」以上のものがあった。
黒いスーツのようなソウル。
夜の街のようなギター。
罪悪感と欲望が絡み合う歌詞。
Greg Dulliの、自分を傷つけながら相手も傷つけるような語り口。
その美学は、再結成後も続く。
2014年のDo to the Beastを経て、2017年のIn Spadesでは、より神秘的で映画的な方向へ進んだ。PitchforkはIn Spadesについて、R&Bの影響、Springsteen的な大きな叙事性、弦やホーンを含む多層的な構成を持つ作品として評し、ロマンスが苦味へ変わる成熟した感情風景を描いていると紹介している。(Pitchfork)
Orioleは、その中でもアルバムの核心に近い曲である。
アルバム紹介で強調されているcleromancyという言葉は、まさにOrioleの歌詞に出てくる。(Sub Pop)
運命をカードやくじによって占う。
偶然に意味を見出す。
投げられたものの配置から、未来や隠された真実を読み取ろうとする。
これは、Dulliの歌世界そのものに近い。
過去の恋。
死者の記憶。
身体の欲望。
罪悪感。
偶然の出会い。
終わらなかった別れ。
それらの断片を投げ、配置を見て、意味を探す。
Orioleは、そんな曲である。
また、この曲のミュージックビデオも、曲のオカルト的な世界を強めている。
The FADERはOrioleのビデオについて、1960年代風の魔女の集会、Hitchcock的なブロンドのヒロイン、サフィックな魔女たちの幻覚、暗いダンス儀式を描いたものとして紹介している。Dulliの歌詞にあるオカルト的参照を、映像がかなり直接的に視覚化しているという説明である。(The FADER)
ここで面白いのは、Orioleが決して古典的な「悪魔の歌」ではないことだ。
ろうそくや円や占いといった言葉は出てくる。
しかし、本当に怖いのは超自然そのものではない。
怖いのは、人間の欲望である。
誰かを求めること。
過去に戻ろうとすること。
死者へ別れを言えなかったこと。
自分の中にある暴力や破壊衝動を見てしまうこと。
MusicOMHのレビューは、Orioleについて、超自然、暴力、性が絡み合う曲として触れ、ろうそくを灯し、ドアに鍵をかける場面から、円を描いて落ちていく儀式へ進み、Dulliが自分の頭の中にある暴力を認めるような展開になっていると評している。(musicOMH)
つまりOrioleは、The Afghan Whigsが長年描いてきた欲望と罪のドラマを、魔術的な言語で語り直した曲なのである。
3. 歌詞の抜粋と和訳
歌詞の全文は、DorkやSpotifyなどの歌詞掲載サービスで確認できる。ここでは権利に配慮し、短い一部のみを引用する。
引用元:Dork Oriole Lyrics、Spotify掲載歌詞
作詞・作曲:Greg Dulli
収録アルバム:In Spades
リリース:2017年
レーベル:Sub Pop
プロデュース:Greg Dulli
Light the candle
和訳:
ろうそくに火を灯せ
この冒頭は、部屋の空気を一瞬で変える。
ろうそくは、親密な夜の道具でもある。
同時に、儀式の道具でもある。
祈り、追悼、魔術、秘密の時間。
電気ではなく、ろうそくであることが重要だ。
人工的な明るさではない。
揺れる火。
影を作る光。
消えそうで消えない小さな炎。
Orioleは、この火から始まる。
Lock the door too
和訳:
ドアにも鍵をかけろ
ドアに鍵をかけることで、空間は閉じる。
外の世界から切り離される。
誰も入ってこない。
誰も出ていかない。
これは官能的な密室でもあり、危険な密室でもある。
愛のための部屋なのか。
儀式のための部屋なのか。
閉じ込められる場所なのか。
この一節によって、曲は一気に不穏になる。
Draw the circle
和訳:
円を描け
円は、魔術や儀式において境界を作る形である。
内側と外側を分ける。
守る。
呼び出す。
閉じ込める。
この曲では、円は恋愛の比喩にも見える。
ふたりだけの輪。
同じ場所を回り続ける関係。
抜け出せない循環。
過去へ戻る円。
Dulliの歌世界では、恋愛は直線的に前へ進むものではない。
むしろ、同じ傷の周りを何度も回るものとして描かれることが多い。
Orioleの円も、そのように響く。
I’ll fall into you
和訳:
君の中へ落ちていく
この表現は、とてもThe Afghan Whigsらしい。
愛する、抱く、近づく、ではない。
落ちる、である。
fall into you。
相手へ向かう行為が、意志的な接近ではなく、落下として描かれる。
つまり、コントロールを失っている。
これは恋愛の陶酔であり、危険でもある。
相手の中へ落ちることは、救いかもしれない。
しかし、そのまま戻れなくなることでもある。
Divination
和訳:
占い
ここで曲は、はっきりと神秘的な領域に入る。
占いとは、未来や隠された意味を読もうとする行為である。
人は不確かなとき、占う。
愛が本物なのか。
相手が戻ってくるのか。
過去に意味があったのか。
死者はどこへ行ったのか。
自分は許されるのか。
Orioleの占いは、そうした不安から生まれているように聞こえる。
Cleromancy
和訳:
くじやサイコロによる占い
cleromancyは、非常に珍しい言葉である。
Sub Popのアルバム紹介では、この言葉が、サイコロを投げる、カードを引くといった偶然の配置によって運命を読む占術だと説明されている。(Sub Pop)
この言葉が歌詞に出てくることで、Orioleは単なるムードではなく、アルバム全体のテーマへ深く結びつく。
In Spadesというタイトル自体も、カードのスートを思わせる。
運命、賭け、黒いマーク、切り札。
Orioleは、そのカードがめくられる瞬間の曲なのだ。
4. 歌詞の考察
Orioleは、欲望を儀式として描く曲である。
恋愛や性的な親密さを、ただ感情の交流としてではなく、魔術的な行為として捉えている。
ろうそくを灯す。
ドアに鍵をかける。
円を描く。
相手の中へ落ちる。
占いを行う。
偶然から運命を読み取る。
この流れは、ほとんど儀式の手順のようだ。
しかし、この儀式で呼び出されるものは何だろうか。
愛か。
過去の記憶か。
死者か。
自分の中の暴力か。
それとも、もう消えたはずの欲望か。
DulliがDrowned in Soundで語ったように、この曲には「直接別れを言えなかった、もういない人」への別れという個人的な背景がある。(Drowned in Sound)
この発言を踏まえると、Orioleの儀式は、恋愛の儀式であると同時に、追悼の儀式でもある。
会えない人へ別れを告げるために、歌が必要だった。
言えなかった言葉を、ろうそくと円と占いの中で言い直す。
現実では終わらせられなかった関係を、曲の中で終わらせる。
そう考えると、この曲の官能性には、死の気配が重なる。
The Afghan Whigsの音楽は、昔から愛と暴力、欲望と罪悪感、快楽と自己破壊を切り離さずに描いてきた。
Gentlemenでは、それが壊れていく恋人同士の心理戦として鳴っていた。
Black Loveでは、より映画的な犯罪と愛の暗さとして広がった。
In SpadesのOrioleでは、それがオカルト的な儀式として再構成されている。
Dulliの歌詞は、直接的な説明を避ける。
何が起きたのか。
相手は誰なのか。
罪は何なのか。
死者は誰なのか。
それらは、はっきり語られない。
代わりに、イメージが置かれる。
ろうそく。
ドア。
円。
占い。
鳥の名を持つ通り。
この断片が、聴き手の中でひとつの暗い部屋を作る。
その部屋の中で、何かが呼び出される。
サウンド面でも、Orioleは非常に巧妙だ。
最初は静かで、ほとんど誘惑のように始まる。
アコースティック・ギターは柔らかい。
Dulliの声は甘い。
ストリングスは暗い光沢を持つ。
しかし、曲は安心させない。
言葉が儀式の方向へ進むにつれ、音も少しずつ不穏さを増す。
美しいが、どこか腐敗している。
甘いが、後味が苦い。
この質感こそ、The Afghan Whigsである。
彼らの音楽におけるソウルの影響は、単に黒人音楽的なグルーヴを借りることではない。
欲望を肉体的に歌うこと。
罪を声の中に残すこと。
甘いメロディを、苦い経験で汚すこと。
Orioleにも、そのソウルの闇がある。
5. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- Demon in Profile by The Afghan Whigs
In Spadesの先行曲として発表された楽曲。PitchforkもIn Spades発表時に、この曲のビデオ公開を報じている。Orioleのオカルト的な密室感に対して、Demon in Profileはよりバンドの劇的なロック/ソウル感が前面に出る。アルバム全体の雰囲気を知るには必聴である。(Pitchfork)
- Toy Automatic by The Afghan Whigs
In Spades収録曲。DulliはDrowned in Soundのインタビューで、Toy AutomaticはOrioleの終盤の要素から発展し、ふたつの曲が兄妹のようになったと語っている。Orioleの余韻がどのように別の曲へつながったのかを聴くうえで重要である。(Drowned in Sound)
- Algiers by The Afghan Whigs
2014年のDo to the Beast収録曲。再結成後のThe Afghan Whigsが、ウェスタン風の映像美とソウルフルな暗さをどう結びつけたかがよくわかる曲である。Orioleの映画的な質感が好きな人には、Algiersの乾いたドラマも響く。
- Debonair by The Afghan Whigs
1993年のGentlemen収録曲で、バンドの古典的代表曲。Orioleのようなオカルト性はないが、Greg Dulliの自己破壊的で危険な恋愛観はここにすでにある。The Afghan Whigsの暗い官能性を理解するには避けて通れない曲である。
- Candy Cane Crawl by The Twilight Singers
Greg Dulliの別プロジェクト、The Twilight Singersの楽曲。The Afghan Whigsよりもドリーミーで夜の街の匂いが強く、Orioleのような甘い暗さとつながる。Dulliの声が持つ、誘惑と喪失の混ざった質感を別角度から味わえる。
6. ろうそくの火で始まる、別れのための黒い儀式
Orioleは、The Afghan Whigsの後期を代表するような、暗く美しい曲である。
派手なロック・アンセムではない。
しかし、聴き終えたあとに長く残る。
その理由は、この曲がただの雰囲気作りに終わっていないからだ。
ろうそく、鍵、円、占い。
これらのイメージは、いかにもオカルト的である。
だが、その奥には、人間のどうしようもない感情がある。
別れを言えなかった人。
もう会えない人。
終わらせられなかった関係。
今も身体の中に残る欲望。
自分の中の暴力。
偶然に意味を求める心。
Orioleは、それらをひとつの儀式にする。
人は、現実でできなかったことを、歌の中で行うことがある。
謝れなかった。
抱きしめられなかった。
別れを言えなかった。
許せなかった。
忘れられなかった。
そういう未完了の感情を、音楽の中で儀式化する。
Dulliがこの曲を、直接別れを言えなかった人物への別れの方法だったと語っていることを考えると、Orioleはまさにそのような歌である。(Drowned in Sound)
だから、この曲の官能性は軽くない。
身体の歌でありながら、死の歌でもある。
欲望の歌でありながら、喪失の歌でもある。
魔術の歌でありながら、非常に人間的な後悔の歌でもある。
The Afghan Whigsは、こういう二重性を鳴らすのがうまい。
甘く歌うほど怖くなる。
美しく響くほど、奥の傷が深く見える。
ロマンティックな言葉が、すぐに呪文へ変わる。
Orioleは、その典型である。
この曲の中で、部屋は閉じられる。
ドアには鍵がかかる。
ろうそくが灯る。
円が描かれる。
その内側で、誰かが誰かの中へ落ちる。
それは恋愛の一夜にも見える。
だが同時に、死者を呼び出す降霊術にも見える。
あるいは、自分自身の過去へ落ちていく行為にも見える。
そこで行われる占いは、未来を知るためだけのものではない。
過去に意味を与えるためのものでもある。
なぜあの人は去ったのか。
なぜ自分は言えなかったのか。
なぜあの関係は終わらなければならなかったのか。
その問いに答えを求めて、カードを引く。
サイコロを投げる。
偶然の配置を見る。
だが、答えは出ない。
それでも、儀式を行うことには意味がある。
Orioleは、答えを得るための曲ではない。
別れを行うための曲である。
The Afghan Whigsの音楽は、常に大人の闇を描いてきた。
若い痛みではなく、繰り返してしまう痛み。
初めての罪ではなく、何度も知っている罪。
それでもまた同じように惹かれてしまう欲望。
Orioleには、その成熟した暗さがある。
若いころのDulliなら、もっと露骨に毒を吐いたかもしれない。
しかし2017年のOrioleでは、その毒はもっと静かに、深く回る。
声は甘い。
音は美しい。
だが、曲全体が黒い儀式のように進む。
それがたまらなく魅力的なのだ。
Orioleは、In Spadesというアルバムの神秘的な心臓のような曲である。
鳥の名を持ち、通りの名を持ち、ろうそくの火を持ち、占いの言葉を持つ。
そこに、Greg Dulliの私的な別れと、The Afghan Whigsの長年のテーマである欲望と罪が重なる。
聴き終えたあと、部屋にはまだろうそくの匂いが残っているように感じる。
火は消えたかもしれない。
だが、煙はまだ漂っている。
Orioleは、その煙のような曲である。

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