1. 歌詞の概要
「Never in My Life」は、1970年にリリースされたMountainのデビュー・アルバム『Climbing!』に収録されたハードロック・ナンバーであり、衝動的な愛の告白と肉体的な欲望が荒々しい音で描き出された、原始的なロックンロールである。
歌詞は非常にシンプルで直接的だが、そのぶん感情の熱量、身体性、そして衝動性がまっすぐに伝わってくる。語り手は「こんなふうに感じたことなんて今まで一度もなかった」と繰り返し歌い、相手の女性に対する強烈な引力と恋の高揚感に圧倒されている。
恋に落ちた瞬間の圧倒的なエネルギーと、言葉では表しきれない本能的な動き――それがこの曲の核であり、聴く者の体温を一気に上げるような熱を帯びている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Never in My Life」は、Mountainのギタリスト兼シンガー、レスリー・ウェストの存在感が際立つ一曲である。彼の野太いヴォーカルと轟くギターリフは、ブルース・ロックとハードロックの橋渡し的存在として、このバンドを唯一無二の地位に押し上げた。
この曲では、特にレスリーのギターリフが印象的で、スライドを多用したリズム感とグルーヴは、のちのサザン・ロックやヘヴィ・ブルースの原型ともなっていく。Mountainの音楽は、英国のブルース系バンド(Creamなど)から影響を受けつつも、アメリカの土着的な“泥臭さ”を備えていた。この曲はその典型と言えるだろう。
また、フェリックス・パパラルディのベースとコーラスもこの楽曲に豊かな厚みを与えており、3人編成にしては驚くほど広がりのある音像が展開されている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
Never in my life
Could I find a girl like you
Never in my life
Could I find a girl like you
人生で一度もなかった
君みたいな女の子に出会えたことなんて
本当に一度もなかったんだ
こんなふうに感じたのは、初めてなんだよ
When I wake up in the morning
You make me feel so good
Bringing me the cider whisky
Feel a bit lonely
朝目覚めたとき
君がそばにいてくれるとすごくいい気分なんだ
サイダーやウィスキーを持ってきてくれて
ちょっと寂しい気持ちも癒されるよ
引用元:Genius 歌詞ページ
この曲の魅力は、“今ここで爆発している感情”だけにフォーカスしている潔さにある。そこには技巧的な言葉も、複雑な比喩もない。あるのは、ただその瞬間に感じている愛と欲望の熱だけである。
4. 歌詞の考察
「Never in My Life」は、構造的にはシンプルな12小節ブルースに近い。しかし、歌詞や演奏の“密度”が非常に高く、短い言葉の中に人生のすべてを詰め込もうとするような勢いがある。
この曲に描かれる女性は、恋人であり、母性を持った存在であり、同時に快楽の象徴でもある。彼女がもたらす“ウィスキー”や“サイダー”という描写は、単なる飲み物以上に、心を癒すもの、あるいは現実を忘れさせる麻酔のような役割を果たしている。
また、サビで繰り返される「Never in my life」というフレーズは、恋に落ちるという出来事の“奇跡性”と“運命性”を強調しており、それが音のエネルギーと完全に同期している点が秀逸である。
これは哲学でも詩でもなく、肉体から出た音楽そのものなのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Mississippi Queen by Mountain
同アルバム収録の代表曲。よりワイルドでセクシャルなグルーヴを体感できる。 - Rock and Roll Hoochie Koo by Rick Derringer
衝動性とセクシャリティに満ちたハードロック・クラシック。 - Gimme Three Steps by Lynyrd Skynyrd
南部系ハードロックの軽妙さとストーリーテリングが融合した好例。 - La Grange by ZZ Top
ブルースと肉体的ビートの快楽的融合。ギターリフのキレが共通。 - Stranglehold by Ted Nugent
より長尺でトランシーなハードロックだが、同様の“ギター主導の官能性”が際立つ。
6. 感情と音が一体化する、ハードロックの本能的美学
「Never in My Life」は、Mountainというバンドの本質を象徴する一曲である。つまりそれは、生きることとロックすることがまったく別物ではない、という哲学だ。レスリー・ウェストの声はシャウトではなく叫びであり、彼のギターは旋律ではなく“情動”そのものである。
1970年という、ロックの地殻変動が起きていた時代に、Mountainはこの曲でブルースの深みとハードロックの爆発力をひとつに結びつけた。それはまるで、心臓の鼓動とギターのフィードバックがシンクロするような感覚だ。
愛の告白としてはあまりに荒削りで、暴力的ですらあるこの曲が、今も聴き手の心を打つのは、そこに一切の嘘がないからだ。
「こんなふうに感じたことなんて、人生で一度もなかった」
その言葉が真実であることを、音が証明している――
それこそが、ロックンロールの美しさなのだ。
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