
発売日: 2015年4月
ジャンル: アンビエント、サウンドトラック、ポストクラシカル、サイケデリック・ミニマリズム、アートロック
概要
『Musique de Film Imaginé』は、The Brian Jonestown Massacre(以下BJM)が2015年に発表した作品であり、
“架空のフランス映画のサウンドトラック”
というコンセプトのもと制作された、バンド史上もっとも異色かつ芸術性の高いアルバムである。
Anton Newcombe は本作で、
- 1960年代フランスのニューウェーブ映画(ヌーヴェルヴァーグ)
- François de Roubaix
- Jean-Luc Godard
- Ennio Morricone
- そして現代ポストクラシカル(Max Richter など)
といった音楽的影響を大胆に融合し、
「映画の存在しない映画音楽」 を構築した。
ボーカル曲は少なく、
- ストリングス
- アナログシンセ
- ピアノ
- 管楽器
- ミニマルなドラム
- アンビエント的テクスチャ
が中心の、極めて静謐で、映像的な作品となっている。
BJM の中でも
“ロックの形を完全に解体した”
数少ないアルバムであり、
『Aufheben』(2012)で確立した“穏やかな音響の美”が、ここではさらに映画音楽的に研ぎ澄まされている。
Anton Newcombe の
“作曲家”
“映像作家的プロデューサー”
としての才能がもっともはっきりと表れた作品とも言える。
全曲レビュー
1曲目:Après le Vin
フランス映画のエンドロールを思わせる、甘くメランコリックなストリングス。
短いが、アルバム全体の“静けさの美”を完璧に提示する。
2曲目:Philadelphie Story
柔らかいシンセとストリングスが重なる、アンビエント寄りの幻想曲。
霧の中で光が揺れるような美しさ。
3曲目:La Dispute
ピアノとストリングスの緊張感が漂う、ドラマティックな小曲。
不穏さと優雅さのバランスが見事。
4曲目:L’Enfer
タイトル(“地獄”)の通り、深い不安と冷たさが支配するアンビエント。
映画のサスペンスシーンのような緊張が続く。
5曲目:Il est né le divin enfant
古典的旋律を引き伸ばして再解釈した曲。
宗教音楽とアンビエントの融合が神秘的。
6曲目:Le Cadeau
やさしい旋律が広がるフォーク寄りの小品。
映画の“静かな日常”のような落ち着きがある。
7曲目:Le Sacre du Printemps
Stravinsky を思わせるタイトルだが、内容はアンビエント寄りのサイケ。
ゆっくりと音が成長していく構造が美しい。
8曲目:Le Souvenir
淡いピアノとストリングスが交互に呼吸するようなバラード。
アルバムの中でも最も“感情”が強く表れた曲。
9曲目:L’Ennui
単調なリフを中心に構築され、クラウトロックの反復感も漂う。
映画の長いシーンを支えるような音楽。
10曲目:Bonbon
軽いサイケポップ風のアクセント。
本作では珍しい、少し“遊び”を感じる一曲。
11曲目:L’Enfance
子どもの記憶のように柔らかく、不思議な温度を持った小曲。
ピアノの旋律が特に美しい。
12曲目:Au Sommet
アルバムの締めにふさわしい、静かで崇高なアンビエント。
そのまま映画が終わっていくような余韻を残す。
総評
『Musique de Film Imaginé』は、
The Brian Jonestown Massacre の中でも最も“音楽的成熟”が美しく結晶した作品
である。
ロック性はほぼゼロ。
ガレージ、ノイズ、サイケの混沌もない。
その代わりに、
- 映画音楽的構成
- ストリングスの透明感
- アンビエントの深い静寂
- 60年代ヨーロッパの香り
- 心理的な陰影
が匂い立つ。
Anton Newcombe が “作曲家としてのアイデンティティ” を本格的に発揮した作品であり、
実際に映画がなくても、
映画の情景が自然と脳内に浮かぶ
という点で異様に完成されたアルバムだ。
サイケデリックロックという括りを外し、
“現代の架空サウンドトラック作品”
として聴くと、本作の価値はさらに際立つ。
BJM を深く追っているリスナーにとっては、
“混沌と美が昇華された後期の到達点”
として必聴の作品。
おすすめアルバム(5枚)
- Aufheben (2012)
本作の直接的な前身。静けさと秩序が生まれた名盤。 - Thank God for Mental Illness (1996)
アンビエント性とフォークの源流を理解する上で役立つ。 - And This Is Our Music (2003)
メロディと美意識が強いアルバム。本作との対比が鮮やか。 - Angelo Badalamenti / Twin Peaks OST (1990)
映画的サウンドスケープ × 静寂の美の文脈として最適。 - Air / Virgin Suicides (2000)
“架空の映画音楽”という世界観で最も近い地点にある名作。



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