1. 歌詞の概要
「Mis-Shapes(ミス・シェイプス)」は、Pulp(パルプ)が1995年に発表したアルバム『Different Class』のオープニングを飾る楽曲であり、彼らの社会的メッセージが最も明確に現れた、劣等生たちのための反撃のアンセムである。
タイトルの「Mis-Shapes」とは、「いびつな形をしたものたち」、すなわち「不完全な者たち」「社会のはみ出し者」「型に合わない人々」を意味している。学校や社会、カルチャーの中で異端とされ、冷笑や暴力の対象となってきた人々――その“敗者たち”が、自らのアイデンティティを武器に、世界をひっくり返していこうとする宣言の歌なのだ。
「We’re making a move, we’re making it now(僕らは動き出す、いまこの瞬間に)」という繰り返されるフレーズには、Pulpの、そしてフロントマンであるJarvis Cocker(ジャーヴィス・コッカー)の確かな怒りと、未来への決意が込められている。
この曲は単なる反抗ではない。“いびつな者たち”が自分の存在を肯定し、社会の中心へと殴り込むための音楽である。
2. 歌詞のバックグラウンド
1990年代、ブリットポップの波がイギリス中に広がる中、PulpはBlurやOasisといったバンドとは一線を画していた。彼らの歌には、“労働者階級”の現実や、“アウトサイダー”として生きる者の孤独、欲望、そして怒りが濃密に描かれていた。
「Mis-Shapes」はその象徴であり、Jarvis Cockerが自身の少年時代、保守的な町シェフィールドでいじめられ、からかわれながらも“自分でいること”を貫いた経験が、そのまま投影された楽曲でもある。
彼は語る。「学校で自分と違う人間たちに笑われ、攻撃され、避けられてきた。だけど、彼らが大人になって支配層になったらどうする? そのとき、僕たちはどう生きる?」
それは“異物”たちの反乱宣言であり、サウンドとリリックの両面で、90年代イギリスの若者の不満と渇望を代弁する一撃となった。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Mis-Shapes」の象徴的な歌詞を抜粋し、和訳を添える。
Mis-shapes, mistakes, misfits
Raised on a diet of broken biscuits
いびつな形の者たち、間違った者たち、はみ出し者たち
砕けたビスケットばかりを食べて育った僕ら
Oh, we don’t look the same as you
And we don’t do the things you do
But we live ‘round here too, oh really
僕らは君たちと見た目も違う
君たちみたいなことはしない
でもここで生きてるのは、僕らも同じなんだよ
We won’t use guns
We won’t use bombs
We’ll use the one thing we’ve got more of: that’s our minds
僕らは銃なんて使わない
爆弾もいらない
僕らにはもっと強い武器がある――それは「頭脳」だ
(歌詞引用元:Genius – Pulp “Mis-Shapes”)
4. 歌詞の考察
「Mis-Shapes」は、一見すると“いじめられっ子の復讐劇”にも聞こえるが、その射程は遥かに広い。ここでジャーヴィス・コッカーが訴えるのは、社会の中で少数派であること――それが“恥”でも“欠陥”でもないということを、音楽を通して宣言することなのである。
「君たちとは違うけれど、同じ場所で生きている」
この一節は、社会的包摂を叫ぶ現代のリベラルなスローガンにもつながる力を持つ。そして彼らが使うのは“暴力”ではなく“頭脳”であり、知性と文化の力で対抗していくという姿勢が明確に打ち出されている。
特に「爆弾や銃ではなく、僕らの“考える力”で勝つんだ」というラインは、ジャーヴィスがファッション、音楽、アートという手段を通して自己表現を行ってきた“文化的闘争”の宣言とも取れる。
それはPulpが、見た目のかっこよさやマッチョな成功譚とは一線を画し、「異端であること」を最大の武器にしてきたからこそ書けたリリックである。そして聴き手にとっては、それがまさに「私のことだ」と感じられる瞬間となる。
(歌詞引用元:Genius – Pulp “Mis-Shapes”)
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Common People by Pulp(from Different Class)
階級の壁を皮肉たっぷりに描いたPulpの代表曲。知性と怒りが炸裂する“もうひとつの革命歌”。 - This Is Hardcore by Pulp(from This Is Hardcore)
名声と性の裏側を描いたダークで官能的な一曲。アウトサイダーの視点を深めた楽曲。 - Alright by Supergrass
10代の自由と反抗心を、軽快にポップに描いたブリットポップの名曲。“若さの反乱”という視点で重なる。 - Charmless Man by Blur
エリート社会への皮肉を込めた、ジャーヴィス的視点に近いブリットポップ作品。
6. “異端”であることを肯定する音楽
「Mis-Shapes」は、Pulpというバンドの核そのものを表す楽曲であり、社会の中で「間違い」とされてきた人々が、自分の“いびつさ”を誇りに変えるための旗印である。
この曲は叫ぶ。「君たちと同じじゃない。でも、ここにいる」。
それは、“見た目”“育ち”“趣味”“セクシュアリティ”――あらゆる“普通じゃない”人々の声でもある。
ジャーヴィス・コッカーはこの曲を通じて、かつて笑われ、殴られ、無視された記憶を武器に変えた。
そしてその武器とは、暴力ではなく、美学と知性だった。
「Mis-Shapes」は、すべての不完全な者たちへの賛歌であり、今も変わらず、異端者たちの心に火を灯し続けるのである。
コメント