アルバムレビュー：Live at Madison Square Garden by VULFPECK

アルバムレビュー

2025.04.24

発売日: 2019年12月20日（ライブ収録：2019年10月28日）
ジャンル: ライブ・ファンク、ソウル、ミニマル・グルーヴ、DIYジャム、祝祭型ポップ

概要

『Live at Madison Square Garden』は、2019年10月にニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで行われたVULFPECKの初のアリーナ単独公演を記録した、バンド史上最大級の“記念碑的ライブアルバム”である。

無所属、無広告、完全DIYのファンクバンドがMSGを満員にするという異例中の異例。
その記録は映像作品としても配信され、音源としては本作が初の完全音源化。
“インディーでここまでやれる”という一つの神話を作った瞬間が刻まれている。

本作の魅力は、単に演奏力やセットリストの良さにとどまらない。
観客の一体感、ミュージシャンたちの喜び、そして“VULFPECKというプロジェクトが生きている”という証明が詰まった、熱く、愛おしい記録なのだ。

オープニングから会場が一気に爆発するJoe Dartの代表曲。
観客によるコール＆レスポンスの一体感は鳥肌もの。まさに現代ファンクの国歌。

Antwaunのボーカルとバンドの一体感が最高潮に達するパフォーマンス。
“401K”のラインでは爆笑と熱唱が同時に起こるという奇跡が生まれる。

アルバム『Mr. Finish Line』でもおなじみのソウル・バラード。
会場全体がスローダウンし、愛とグルーヴが静かに共鳴する至福の時間。

VULF最大の人気曲。観客全員がサビを歌う光景はまさに“集団ノスタルジーの祭典”。
音楽が“記憶の触媒”になる瞬間が記録されている。

本人登場による爆発的インスト・セッション。
Coryのグルーヴは映像以上に音で聴くと“ベースラインとドラムのダンスパートナー”であることがわかる。

エモーショナルなバラードを巨大な空間で歌いきるTheo。
マディソン・スクエア・ガーデンに静けさをもたらす“音の祈り”。

David T. Walkerのギターとともに贈られる冬の名曲。
季節の温度感と都市の風景が音で立ち上がる、映像的なパフォーマンス。

Joey Dosikによる魂のピアノと歌。
“おばあちゃんへのラブレター”のような歌が、MSGという巨大空間で個人的な記憶として響く不思議な感覚。

全員がステージに戻り、最後は即興と感謝と笑顔で終わる“VULF流グランドフィナーレ”。
ジャンルや技術より、“人間が音楽で繋がる喜び”を体現していた。

『Live at Madison Square Garden』は、単なるライブアルバムではない。
これはDIYでここまでたどり着いた者たちの“集合的ゴールイン”の記録であり、
同時に、そこに立ち会った全員にとっての“始まりの合図”でもあった。

VULFPECKはこの公演をもって無期限活動休止に入るが、
この作品に刻まれたのは“過去最大のグルーヴ”であり、“未来最大の希望”だ。