発売日: 2012年11月13日
ジャンル: グランジ、オルタナティヴ・メタル、ハードロック
沈黙を破る咆哮——Soundgardenが“野生”に帰った日
16年の沈黙を破り、Soundgardenが帰ってきた。
2012年にリリースされたこのKing Animalは、彼らの再結成後初のスタジオ・アルバムであり、また最後のフルアルバムともなった。
1990年代のグランジ・ムーブメントを牽引し、独自の重厚なサウンドとクリス・コーネルのカリスマ的なボーカルで時代を塗り替えた彼らが、再び“野性”の姿で現代に牙を剥いた作品である。
しかしその“牙”は、かつての若き怒りとは違う。
より鋭く、より知的に、より哀しく響く。
このアルバムには、再生と成熟、そして“終わり”の気配すらも漂っている。
Soundgardenは、ただ90年代をなぞることなく、その延長線上にある今を生きるロックバンドの姿を描き出したのだ。
全曲レビュー
1. Been Away Too Long
まさに復活の狼煙。
直線的なリフと疾走感が、「長く離れていたが戻ってきた」というメッセージを力強く刻む。
2. Non-State Actor
政治的な影を帯びた歌詞と、ファズの効いた重たいギター。
国家でも個人でもない“匿名の権力”をめぐる問題提起のような楽曲。
3. By Crooked Steps
変拍子とユニゾンリフが生み出すグルーヴ。
Soundgardenらしい複雑な構成美とヘヴィネスが融合した秀作。
4. A Thousand Days Before
中東音楽的なスケールを感じさせるギターワークが印象的。
過去に取り憑かれたような歌詞とメロディが妖しく響く。
5. Blood on the Valley Floor
低音が地を這うようなスローナンバー。
沈んだ空気の中に、時折訪れるギターの咆哮が光る。
6. Bones of Birds
崩れゆくものの美しさを描く、哀愁を帯びたバラード。
コーネルの声が、風のように儚く、しかし力強く響く。
7. Taree
ベン・シェパードのベースラインが印象的な、サイケデリックな一曲。
自然への回帰と、破壊された故郷への憧憬が滲む。
8. Attrition
2分台のコンパクトなロックナンバー。
パンキッシュな衝動が、アルバム中盤のアクセントとなっている。
9. Black Saturday
アコースティックから始まり、次第に増幅するダイナミクス。
タイトルの“黒い土曜日”が暗示するように、喪失と混沌を描く。
10. Halfway There
静かなメロディと開放的なサウンド。
どこかレディオヘッド的でもある、内省と浮遊の間にあるような曲。
11. Worse Dreams
陰影のあるコード進行と、徐々に迫ってくる不穏なリズム。
夢の中の悪意を可視化するような不気味さがある。
12. Eyelid’s Mouth
うねるようなリフと複雑な拍子。
耳をつかんで離さない、不協和と快楽の狭間を行く曲。
13. Rowing
アルバムの締めを飾るのは、ほとんどブルースのような反復と語り。
「漕ぎ続ける」というフレーズが、人生とバンドそのものを象徴している。
総評
King Animalは、Soundgardenがただ“再結成バンド”として蘇ったのではなく、“いまを生きる表現者”として帰還したことを刻んだアルバムである。
かつてのラウドなグランジではなく、内側から滲み出る静かな怒りと憂鬱、そして諦めきれない衝動が、楽曲全体を覆っている。
この作品を聴くとき、我々は“ノスタルジー”ではなく、“時間を経たロックの本質”と出会うことになる。
クリス・コーネルの歌声は、あの時代のままではない。
だが、その変化こそが、このアルバムを唯一無二たらしめているのだ。
おすすめアルバム
-
Black Gives Way to Blue by Alice in Chains
——グランジバンドの再生と悲しみを刻んだ、2010年代の傑作。 -
The Devil Put Dinosaurs Here by Alice in Chains
——内省的で重厚なヘヴィネスが共鳴する。Soundgardenと双子のような存在感。 -
Badmotorfinger by Soundgarden
——初期の爆発力と複雑性が融合した代表作。King Animalの原点がここにある。 -
Chris Cornell (Self-titled)
——コーネルのソロ・キャリアの集大成。彼の多面性と孤独がにじむ。 -
Fear Inoculum by Tool
——長い沈黙を経て戻ってきた知性派ロック。重厚で哲学的な音世界が近似する。
コメント