発売日: 1983年4月
ジャンル: ポストパンク、フォークロック、インディー・ポップ
Pulpのデビューアルバム『It』は、バンドが後に繰り広げる華やかなブリットポップ・スタイルとは大きく異なり、静かなフォークロックとポストパンクの要素が融合したシンプルな作品だ。リリース当時、Pulpはまだ無名のインディーバンドで、後のような大規模な成功には至らなかったものの、このアルバムには彼らの音楽の原点が詰まっている。ジャーヴィス・コッカーの内省的な歌詞と、控えめで繊細なサウンドが特徴で、バンドが後に見せる華やかさや皮肉を感じる前兆が見られる。『It』は、Pulpの原点を知る上で非常に興味深い作品だ。
各曲ごとの解説:
- My Lighthouse
フォーク調のギターと穏やかなメロディが特徴的なオープニングトラック。ジャーヴィス・コッカーの柔らかいボーカルと、繊細なアレンジが、孤独感や希望をテーマにした歌詞と調和している。シンプルでありながら心に響く一曲だ。 - Wishful Thinking
内省的な歌詞と哀愁漂うメロディが特徴の楽曲。ギターが主導するシンプルなアレンジに、コッカーの憂いを帯びたボーカルが重なり、切ない雰囲気を作り出している。Pulpの後の作品にも通じるメランコリックな一面が現れている。 - Joking Aside
ややアップテンポで、ジャングリーなギターが目立つトラック。歌詞には、皮肉とユーモアが入り混じり、後のPulpのスタイルを予感させる要素が含まれている。シンプルな構成ながら、バンドのユニークな個性が垣間見える。 - Boats and Trains
リズミカルで明るいメロディの裏に、どこか内省的な歌詞が流れる楽曲。フォークロックとインディー・ポップの要素が混ざり合い、シンプルながらも奥深い雰囲気を醸し出している。 - Blue Girls
アコースティックギターが前面に出た、静かで美しいバラード。ジャーヴィスの優しいボーカルが、切なくも詩的な歌詞を引き立てている。アルバムの中でも特に感情的な楽曲で、繊細なアレンジが心に残る。 - Love Love
ライトなポップサウンドと、甘酸っぱい恋愛感情を描いた歌詞が特徴の一曲。リズムが軽快で、フォークロックの要素が強く、アルバムの中でも明るいトーンを持つ楽曲だ。 - In Many Ways
締めくくりのトラックは、アルバム全体の内省的でフォーク的な要素を反映した静かなバラード。アコースティックなギターとコッカーの控えめなボーカルが、どこか儚い感情を描き出している。Pulpの初期の感性が凝縮された、感傷的な一曲だ。
アルバム総評:
『It』は、Pulpが後に展開する華やかでアイロニカルなブリットポップスタイルとは異なる、フォークとポストパンクの影響を強く受けたシンプルなデビューアルバムだ。ジャーヴィス・コッカーの詩的で内向的な歌詞と、アコースティックギターを中心とした穏やかなアレンジが特徴的で、控えめでありながら感情に訴える作品となっている。後の派手なサウンドとは違うが、このアルバムにはPulpの音楽的ルーツがあり、彼らの変遷を知る上で重要な一枚だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚:
- Hatful of Hollow by The Smiths
フォークロックとポストパンクを融合させた、同時代のバンドThe Smithsによるコンピレーションアルバム。繊細なメロディと内省的な歌詞が共通しており、Pulpファンに響くだろう。 - Bryter Layter by Nick Drake
アコースティックなフォークサウンドが中心で、内省的な歌詞と静かな美しさを持つ作品。『It』の繊細なアレンジが好きなリスナーにおすすめ。 - Tigermilk by Belle and Sebastian
インディーフォークとポップの要素が融合したデビューアルバム。Pulpの初期作品と同様に、静かで詩的な世界観が広がる作品。 - Different Class by Pulp
Pulpの代表作であり、華やかで風刺的なブリットポップサウンドが展開されるアルバム。『It』とは対照的だが、バンドの成長を感じられる一枚。 - Up the Bracket by The Libertines
インディーロックの名作で、エッジの効いたサウンドとユーモアが特徴。『It』のシンプルなアプローチを楽しんだリスナーにおすすめのアルバム。
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