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インストゥルメンタル・ロックを知るなら、まず定番アーティストから
インストゥルメンタル・ロックは、ボーカルを主役に置かず、ギター、ベース、ドラム、キーボードなどの演奏によって楽曲を成立させるロックの総称である。1950〜60年代のギター・インストから、サーフ・ロック、プログレッシブ・ロック、ポストロック、マスロックまで、その歴史は長い。
歌がないぶん、メロディを担うギターの音色、リズム隊の変化、楽曲の展開、音量のダイナミクスなどが前面に出やすい。同じインストゥルメンタルでも、The VenturesとExplosions in the Skyではサウンドも曲の長さも大きく異なる。
その幅広さを知るには、まず各時代の代表的なアーティストを聴くのがわかりやすい。ここではギター・インストの原型から現代的なポストロック/マスロックまで、入口として押さえておきたい10組を紹介する。
インストゥルメンタル・ロックとはどんなジャンルか
インストゥルメンタル・ロックの初期史では、1950年代末から1960年代のエレクトリック・ギター文化が重要である。Duane Eddy、The Shadows、The Ventures、Dick Daleらは、ボーカルなしでも印象的なギターのフレーズによってヒット曲を成立させた。
その後、ロックのアルバム志向が強くなると、プログレッシブ・ロックやジャズ・ロックなどでも長いインストゥルメンタルが作られるようになる。1990年代以降には、TortoiseやMogwaiなどのポストロック勢が、反復、音響、ダイナミクスを重視した新しいインストゥルメンタル表現を発展させた。
さらにDon Caballeroのようなマスロック、Explosions in the Skyのようなギター中心のポストロックなどへ枝分かれしていく。つまりインストゥルメンタル・ロックは単一の様式ではなく、「歌を中心としないロック」という大きな枠組みとして捉えると理解しやすい。
インストゥルメンタル・ロックの定番アーティスト10選
1. The Ventures
1958年にアメリカ・ワシントン州で結成されたThe Venturesは、インストゥルメンタル・ロックの歴史を語るうえで欠かせないバンドである。1960年の「Walk, Don’t Run」のヒットをきっかけに広く知られるようになり、日本のエレキ・ブームにも大きな影響を与えた。
明確なギター・メロディと安定したリズムを中心にした演奏は、インスト・ロックの基本形として非常にわかりやすい。アルバム『Walk, Don’t Run』から聴けば、初期エレクトリック・ギター音楽の魅力をつかめる。
まず「歌がなくてもギターだけで曲の主役を作れる」というインストゥルメンタル・ロックの基本を知るために聴きたい。
2. The Shadows
イギリスのThe Shadowsは、1960年代初頭のギター・インストを代表するグループである。Cliff Richardのバック・バンドとしても活動しながら、独自のインストゥルメンタル作品で大きな成功を収めた。
代表曲「Apache」では、Hank Marvinの明確なギター・メロディと特徴的なトーンが中心となる。速さや技巧を誇示するのではなく、フレーズそのものの美しさで曲を成立させている点が重要だ。
後の英国ギタリストにも大きな影響を与えた存在であり、The Venturesと聴き比べれば1960年代初頭のインスト・ロックがどれほど豊かな文化だったのかが見えてくる。
3. Dick Dale
1937年生まれのDick Daleは、サーフ・ギターを代表するアメリカのギタリストである。1960年代初頭の南カリフォルニアを舞台に、大音量のアンプと高速のピッキング、強烈なリヴァーブを組み合わせた独特のギター・サウンドを確立した。
代表曲「Misirlou」は、伝統的な旋律を猛烈なエレクトリック・ギターへ変換した楽曲として知られる。The VenturesやThe Shadowsよりも攻撃的で、後のパンクやガレージ・ロックにも通じる演奏の勢いがある。
インストゥルメンタル・ロックの中でも、ギターの音圧とリズムの激しさを楽しみたい人におすすめである。
4. Tortoise
1990年代のシカゴで登場したTortoiseは、ポストロックという言葉の定着と深く関係する重要バンドである。ロックの編成を使いながら、ジャズ、ダブ、ミニマル・ミュージック、電子音楽などを取り込んだ。
1996年の『Millions Now Living Will Never Die』では、ベース、ドラム、ギター、ヴィブラフォン、電子音などを緻密に配置している。代表曲「Djed」は20分を超える長尺曲で、反復と編集によって構成が次々と変化する。
インスト・ロックを「ギタリストがメロディを弾く音楽」から、バンド全体で音響を設計する音楽へ広げた存在として重要である。
5. Mogwai
1995年にスコットランドのグラスゴーで結成されたMogwaiは、ポストロックを代表するバンドのひとつである。静かなギターの反復から巨大な轟音へ移行するダイナミクスを得意とし、1990年代後半以降のインストゥルメンタル・ロックに大きな影響を与えた。
1997年のデビューアルバム『Mogwai Young Team』では、静寂とノイズ、単純なフレーズの反復を組み合わせた独自のサウンドを確立した。作品によってボーカルを使うこともあるため完全なインスト専業ではないが、インスト中心のロックを広く普及させた重要な存在である。
6. Godspeed You! Black Emperor
カナダ・モントリオールで1990年代に結成されたGodspeed You! Black Emperorは、長大な構成と大編成による演奏で知られるポストロック・グループである。
ギター、ベース、ドラムに加えて弦楽器などを用い、短いポップソングではなく複数のパートが連続する長尺曲を作る。1997年の『F♯ A♯ ∞』や2000年の『Lift Your Skinny Fists Like Antennas to Heaven』は代表作として知られている。
初心者にはやや長尺だが、ロックのアルバムが歌やサビに頼らず、構成と音量変化だけでどこまでスケールを広げられるのかを体験できる。
7. Explosions in the Sky
1999年にテキサス州オースティンで結成されたExplosions in the Skyは、2000年代のインストゥルメンタル・ポストロックを代表するバンドである。
複数のギターによる反復するフレーズを重ね、静かな導入から徐々に音数と音量を増やしていく構成を得意としている。2003年の『The Earth Is Not a Cold Dead Place』は、そのスタイルを理解するための代表作である。
メロディが明確で、長尺曲でも展開を追いやすい。現代的なインストゥルメンタル・ロックを初めて聴く人には特におすすめしやすいバンドだ。
8. Don Caballero
1991年にピッツバーグで結成されたDon Caballeroは、マスロックの形成に大きな役割を果たしたインストゥルメンタル・バンドである。
変拍子、複雑なリズム、絡み合うギターを特徴とし、特にDamon Cheの強力なドラムはバンドのサウンドを決定づけている。1998年の『What Burns Never Returns』は代表作のひとつで、一般的なロックの4拍子やヴァース/コーラス構成とは異なる発想を味わえる。
ポストロックのゆったりした展開より、リズムや演奏技術に注目してインスト・ロックを楽しみたい人に適している。
9. Mono
1999年に東京で結成されたMonoは、日本を代表するインストゥルメンタル・ロック・バンドのひとつであり、海外でも広く活動してきた。
静かなギターから巨大な轟音へ発展するポストロック的な構成を軸に、ストリングスを取り入れたスケールの大きなアレンジも特徴としている。2006年の『You Are There』などでは、ギターの反復と音量変化を使いながら長い楽曲を構築している。
Explosions in the SkyやMogwaiが気に入ったリスナーが、日本のインストゥルメンタル・ロックへ広げる際にもおすすめである。
10. Russian Circles
2004年にシカゴで結成されたRussian Circlesは、ポストロックとポストメタルを横断するインストゥルメンタル・トリオである。
ギター、ベース、ドラムというシンプルな編成ながら、ループやエフェクトを活用して重層的なサウンドを作り出す。2006年の『Enter』以降、ヘヴィなリフと繊細なギターを組み合わせた作品を発表してきた。
MogwaiやExplosions in the Skyより重量感があり、メタル的なギターリフも多い。インストゥルメンタル・ロックからさらにヘヴィな音楽へ進みたい人には格好の入口である。
まず聴くならこの3組
インストゥルメンタル・ロック初心者なら、The Ventures、Explosions in the Sky、Tortoiseの3組を聴き比べるとジャンルの幅がわかりやすい。
The Venturesは、ギターがボーカルの代わりにメロディを担当する古典的なインスト・ロックの魅力を最も理解しやすい。まず「Walk, Don’t Run」を聴けば、シンプルなフレーズとバンド演奏だけで楽曲が成立する面白さをつかめる。
Explosions in the Skyは現代的なギター・インストへの入口である。複数のギターを重ねながら徐々に展開を大きくしていくため、歌がなくても曲に明確な起伏を作れることがわかる。
Tortoiseはさらに別方向を示している。ギターだけを主役にせず、リズム、ベース、電子音、ヴィブラフォンなどを組み合わせることで、インストゥルメンタル・ロックの可能性を大きく広げた。
関連ジャンルへの広がり
現代のインストゥルメンタル・ロックをさらに掘り下げるなら、マスロックは重要な関連ジャンルである。Don Caballeroのように変拍子や複雑なフレーズを重視するバンドを起点にすると、リズムそのものを楽しむインスト・ロックの系譜が見えてくる。
一方、The VenturesやDick Daleからはサーフ・ロックやガレージ・ロックへ、Tortoiseからはジャズ、ダブ、電子音楽へ広げることができる。MogwaiやExplosions in the Skyからはポストロック、Russian Circlesからはポストメタルへ進む流れも自然である。
同じ「歌のないロック」でも、メロディ、リズム、音響、即興、轟音のどこを中心にするかによって音楽は大きく変わるのである。
まとめ
インストゥルメンタル・ロックは、The VenturesやThe Shadowsに代表される1960年代のギター・インストから、Tortoise、Mogwai、Explosions in the Skyなどのポストロックまで、長い歴史を持つ幅広い音楽である。
最初はThe Venturesでギター・メロディの基本を知り、Explosions in the Skyで長い構成とダイナミクスを体験すると理解しやすい。そこからTortoiseへ進めば、インスト・ロックが電子音楽やジャズ、ダブなどと結びついた方向も見えてくる。
さらに複雑なリズムを求めるならDon Caballero、壮大な長尺曲ならGodspeed You! Black Emperor、重量感ならRussian Circlesと、好みに応じて枝分かれできる。ボーカルがないからこそ、ギターの音色、ベースとドラムの動き、曲の構成そのものへ意識を向けられることが、インストゥルメンタル・ロックの大きな魅力である。

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