発売日: 2025年1月31日
ジャンル: R&B、シンセポップ、トラップ、アートポップ
概要
『Hurry Up Tomorrow』は、The Weekndが2025年に発表した6作目のスタジオ・アルバムであり、彼の音楽的 alter ego としての最終章を飾る作品である。
本作は、『After Hours』(2020年)と『Dawn FM』(2022年)に続く三部作の完結編として位置づけられ、死、再生、贖罪といったテーマを通じて、The Weeknd(本名:Abel Tesfaye)の自己解体と再構築を描いている。
アルバムは、2022年のツアー中に声を失った出来事から着想を得ており、その経験が作品全体の内省的なトーンと構成に影響を与えている。
プロダクションには、Oneohtrix Point Never、Mike Dean、Max Martin、Metro Boomin、Giorgio Moroder、Justiceなど、多彩なプロデューサーが参加し、R&B、シンセポップ、トラップ、ブラジリアンファンクなどのジャンルを融合させたサウンドが展開されている。
また、Anitta、Travis Scott、Lana Del Rey、Future、Florence Welchなど、多数のゲストアーティストが参加し、作品に多層的な深みを加えている。
全曲レビュー(抜粋)
1. Wake Me Up
アルバムの幕開けを飾るこの曲は、Michael Jacksonの「Thriller」を彷彿とさせるサウンドと、Giorgio Moroderの映画音楽的なアレンジが融合した、壮大なシンセポップ・ナンバー。
The Weekndの過去と現在が交錯するような構成で、リスナーを物語の世界へと引き込む。
5. São Paulo (feat. Anitta)
ブラジリアンファンクのリズムと、Anittaの情熱的なボーカルが特徴的なダンス・トラック。
サンパウロでのライブパフォーマンスを経て完成されたこの曲は、アルバムの中でも異彩を放つ存在である。
9. Cry for Me
The S.O.S. Bandの「I Wanna Be the One」をサンプリングした、80年代のR&Bを現代的に再解釈した楽曲。
失恋と後悔をテーマにした歌詞が、The Weekndのエモーショナルなボーカルと相まって、深い感情を呼び起こす。
14. Enjoy the Show
アルバムの感情的な中心を担うこの曲は、自己破壊と名声の重圧をテーマにしたバラード。
Futureのボーカルが加わることで、過去のヒット曲「Can’t Feel My Face」へのセルフリファレンスが生まれ、作品全体の物語性を強化している。
22. Hurry Up Tomorrow
アルバムのタイトル曲であり、The Weekndのalter egoの終焉を象徴する楽曲。
David Lynchの映画『イレイザーヘッド』の楽曲「In Heaven」にインスパイアされたこの曲は、夢と現実、死と再生の境界を曖昧にするような構成となっている。
総評
『Hurry Up Tomorrow』は、The Weekndが自身の音楽的キャリアと向き合い、過去の作品群を総括しながら新たな道を模索する、壮大なコンセプト・アルバムである。
アルバム全体を通じて、死、贖罪、再生といったテーマが繰り返され、The Weekndというキャラクターの終焉と、Abel Tesfayeとしての再出発が描かれている。
サウンド面では、過去の作品で培ったシンセポップやR&Bの要素に加え、ブラジリアンファンクやアートポップなどの新たな試みが取り入れられ、多様性と統一感が見事に融合している。
また、アルバムのリリースと同時に発表された同名の映画や、限定版のアートワークなど、視覚的な演出も含めた総合的な芸術作品としての完成度も高い。
The Weekndのキャリアの集大成として、そして新たな章への序章として、音楽ファンにとって必聴の一作である。
おすすめアルバム(5枚)
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After Hours / The Weeknd
三部作の第一章として、自己破壊と孤独をテーマにしたダークなR&Bアルバム。『Hurry Up Tomorrow』の物語の起点となる作品。 -
Dawn FM / The Weeknd
三部作の第二章。死後の世界を舞台にしたコンセプト・アルバムで、シンセポップと哲学的なテーマが融合している。 -
Random Access Memories / Daft Punk
レトロなサウンドと現代的なプロダクションが融合したアルバム。『Hurry Up Tomorrow』のサウンド面での影響が感じられる。 -
Melodrama / Lorde
個人的な感情と普遍的なテーマを融合させたポップ・アルバム。『Hurry Up Tomorrow』の内省的な側面と共鳴する。 -
The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars / David Bowie
アーティストのalter egoの終焉を描いたコンセプト・アルバム。The Weekndのキャラクターの終焉と重なるテーマを持つ。
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