
1. 歌詞の概要
Be The Oneは、Dua Lipaが2015年に発表した楽曲である。
のちに2017年のデビューアルバムDua Lipaに収録され、彼女の初期キャリアを代表する一曲となった。
この曲は、Dua Lipaのブレイク前夜を語るうえで欠かせない。
New Rulesで世界的なポップスターとして爆発する前、彼女がまだ新しい声としてリスナーの前に現れ始めた時期に、Be The Oneはじわじわと広がっていった。
タイトルのBe The Oneは、直訳すれば、その人になる、唯一の存在になる、という意味である。
歌詞の中心にあるのは、関係のすれ違いと、そこからもう一度戻りたいという願いだ。
主人公は、自分が間違えたことを認めている。
相手との間に何かが壊れた。
でも、それを完全に終わったものとして受け入れてはいない。
まだやり直せるかもしれない。
まだ相手にとってのその人になれるかもしれない。
まだ愛は消えていないかもしれない。
この曲には、そういう切実な粘りがある。
ただし、Be The Oneは重苦しい失恋バラードではない。
むしろ音は明るい。
シンセはきらびやかで、ビートは軽く、メロディは大きく開けている。
サビには、夜の街を走り抜けるような爽快感がある。
ここが、この曲の魅力である。
歌詞では、後悔やすれ違いが歌われている。
でも、サウンドは沈まない。
むしろ、相手へもう一度届こうとするエネルギーとして前へ進む。
Dua Lipaの声も重要だ。
彼女の声は、デビュー初期から低めで、少しスモーキーで、芯が太い。
高くきらめくアイドル的な声ではなく、アルト寄りの落ち着いた声質がある。
Be The Oneでは、その声が曲の甘さを引き締めている。
もしこの曲がもっと軽い声で歌われていたら、ただの明るい恋愛ポップになっていたかもしれない。
だがDua Lipaの声には、若さと同時に、少し影がある。
その影が、歌詞の後悔をちゃんと支えている。
Be The Oneは、謝罪の歌であり、再挑戦の歌である。
そして、自分を信じようとする歌でもある。
相手にもう一度選ばれたい。
でも、それはただ受け身で待つことではない。
自分がその人になるのだ、という意志がある。
Dua Lipa自身も、この曲について、自信、忍耐、欲しいもののために戦うことに関わる曲として語っている。
その言葉どおり、Be The Oneは恋愛の歌でありながら、ポップスターとしての彼女の初期の姿勢にも重なる。
私はここにいる。
私は諦めない。
私はその存在になれる。
この曲は、そういう前向きな自己宣言としても響くのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
Be The Oneは、Lucy Taylor、Nick GaleことDigital Farm Animals、Jack Tarrantによって書かれた楽曲である。
プロデュースはDigital Farm Animalsが担当している。
2015年10月30日にリリースされ、のちにDua Lipaのセルフタイトルのデビューアルバムへ収録された。
興味深いのは、この曲がDua Lipa自身の作詞曲ではないという点である。
Dua Lipaのデビューアルバムの中でも、彼女がソングライティングに関わっていない曲のひとつとして知られている。
この事実は、最初は彼女にとって少し引っかかりがあったようだ。
自分で書いた曲ではないものを歌うことに、ためらいがあった。
だが、実際に歌ってみると、曲の楽しさやメロディの強さを感じ、自分のものとして歌えるようになっていった。
これは、ポップシンガーにとって非常に重要な話である。
ポップミュージックでは、必ずしも歌い手がすべての曲を書くわけではない。
だが、曲を本当に生きたものにするには、歌い手がその感情を自分の声で引き受けなければならない。
Be The Oneは、まさにその成功例である。
曲を書いたのは別のソングライターたちだった。
しかし、Dua Lipaの声が入ることで、この曲は彼女の初期キャリアの象徴になった。
彼女の低く、強く、少し憂いを帯びた声が、曲の中に自分だけの重心を作った。
この曲の背景には、恋愛の中のミスコミュニケーションがある。
お互いを思っているのに、うまく伝わらない。
言葉がずれる。
タイミングが合わない。
相手を傷つけてしまう。
それでも、まだ完全には終わっていないと思いたい。
Be The Oneの歌詞は、そうした関係の修復願望をポップな形にしたものだ。
また、この曲はリリース直後にいきなり大ヒットしたわけではない。
最初は大きくチャートを動かすことなく、あとからヨーロッパのラジオなどを通じて広がっていった、いわゆるスリーパーヒットである。
ドイツやベルギーなどで支持を集め、やがて英国でも2017年に改めて注目され、UKシングルチャートのトップ10に入った。
この遅れて花開く流れは、Dua Lipaのキャリアの初期を象徴しているようにも見える。
一夜で突然世界を制したというより、強い曲を持ち、ライブやメディア露出を重ね、少しずつポップシーンの中心へ近づいていく。
Be The Oneは、その過程の中で大きな役割を果たした。
音楽的には、シンセポップ、ドリームポップ、ユーロポップの要素を持つ曲である。
音像は軽く、空気を多く含み、どこか80年代ポップの明るい残響も感じさせる。
だが、完全なレトロソングではない。
ビートの処理やボーカルの立たせ方には、2010年代半ばのポップらしい清潔な輪郭がある。
曲の持つ明るさは、後年のDua Lipaのダンスポップ路線にもつながる。
Future Nostalgiaのような完成されたディスコポップとはまだ違うが、身体を動かしながら感情を処理するというDua Lipaらしい方向性は、すでにここにある。
悲しいのに踊れる。
後悔しているのに前を向ける。
恋愛の失敗を、ただ泣くのではなく、リズムに変える。
Be The Oneは、その原点に近い曲である。
3. 歌詞の抜粋と和訳
歌詞の権利に配慮し、ここでは短いフレーズのみを引用する。
Be the one
和訳:
その唯一の存在になる
このフレーズは、曲のタイトルであり、もっとも重要な願いである。
ここで歌われるthe oneは、単なる恋人という意味を超えている。
相手にとって特別な人。
代わりのいない人。
最終的に選ばれる人。
そうした意味が重なっている。
ただし、この言葉には少し不安もある。
すでに自分がthe oneだと確信しているわけではない。
むしろ、なりたいと願っている。
相手の心が離れたかもしれないからこそ、もう一度その場所へ戻りたい。
その願いが、サビの高揚感につながっている。
もうひとつ、短いフレーズを挙げる。
I see the moon
和訳:
月が見える
この一節は、曲に夜の情景を与える。
月はポップソングにおいて、しばしば距離や孤独、ロマンティックな時間を象徴する。
昼のはっきりした光ではなく、夜のやわらかい光。
相手と離れていても、同じ空の下にいるという感覚。
Be The Oneの中で月が見えるという描写は、関係の不安を少し夢のような空気に変えている。
ただ現実的に謝っているのではない。
夜の中で、相手へ届きたいと願っている。
そのロマンティックな距離感が、この曲の音像とよく合っている。
引用元・権利表記:歌詞はDua Lipaによる楽曲Be The Oneからの短い引用。歌詞の権利は各権利者に帰属する。
4. 歌詞の考察
Be The Oneの歌詞は、恋愛における修復の願いを描いている。
ここで重要なのは、主人公が完全に被害者の位置にいないことだ。
むしろ、自分が何かを間違えたことを認めているように聞こえる。
関係が壊れた原因の一部は自分にもある。
そのうえで、もう一度やり直したいと願っている。
この視点が、曲に誠実さを与えている。
ポップソングでは、相手が悪い、私は傷ついた、という構図も多い。
それはそれで力を持つ。
だがBe The Oneでは、もっと複雑だ。
自分も悪かった。
でも、まだ終わらせたくない。
相手に届きたい。
もう一度、自分を信じてほしい。
この感情は、かなり普遍的である。
恋愛において、人はいつも正しく振る舞えるわけではない。
言いすぎることがある。
黙りすぎることもある。
タイミングを間違える。
相手を不安にさせる。
そして、あとになって気づく。
Be The Oneは、そのあとになって気づいた側の歌だ。
ただし、後悔だけで終わらない。
この曲には、取り戻しに行く力がある。
サウンドが明るいのは、そのためだろう。
後悔の中に沈んでいる曲ではなく、後悔をエネルギーへ変えている。
過去を悔やむよりも、今から何ができるかを見ようとしている。
この前向きさは、Dua Lipaの声によってさらに強くなる。
彼女の声は、感傷に浸りすぎない。
切ない歌詞を歌っていても、芯が立っている。
泣きながら頼み込むというより、まっすぐ相手の目を見て言っているように聞こえる。
私は間違えた。
でも、まだ終わっていない。
私はその人になれる。
この強さが、Be The Oneの魅力である。
また、この曲はDua Lipaの初期イメージを決定づけた一曲でもある。
New Rules以降のDua Lipaは、失恋から立ち上がる女性、ルールを作る女性、自分をコントロールする女性という印象が強い。
しかしBe The Oneでは、彼女はまだ相手へ向かって手を伸ばしている。
ここには、後年のクールなDua Lipaとは少し違う、切実でロマンティックなDua Lipaがいる。
それでも、弱くはない。
Be The Oneの主人公は、相手に選ばれたいと願っている。
だが、自分をただ小さくしているわけではない。
むしろ、自分が選ばれる価値のある存在になろうとしている。
このニュアンスが大切だ。
曲の中の願いは、依存というより、再確認に近い。
私たちはまだ終わっていない。
私はまだあなたにとって大切な存在になれる。
だから、もう一度見てほしい。
この感情は、恋愛だけでなく、キャリアにも重なる。
当時のDua Lipaは、まだ世界的スターになる前だった。
Be The Oneは、リスナーに向かって、私はその存在になれると宣言しているようにも聞こえる。
この重なりは、おそらく後付けの解釈でもある。
だが、ポップソングはキャリアの文脈によって意味が変わる。
デビュー初期のDua LipaがBe The Oneと歌うとき、それは恋人に向けた言葉であると同時に、ポップシーンへ向けた言葉にもなる。
私は忘れられる新人ではない。
私は一時的な存在ではない。
私はthe oneになれる。
今の彼女の成功を知ってから聴くと、この曲には予言めいた響きがある。
音楽的には、Be The Oneの反復性が非常に効果的である。
サビのフレーズは何度も戻ってくる。
メロディもすぐに覚えられる。
だが、単調にはならない。
むしろ、繰り返すたびに願いが強くなる。
恋愛の修復願望とは、反復する感情である。
もう一度。
もう一回だけ。
また信じて。
もう一度私を見て。
その繰り返しが、曲の構造と合っている。
ビートは軽やかだが、歌詞の中の思いはしつこい。
このしつこさが、ポップとしての中毒性を生んでいる。
また、曲の音像には夜の空気がある。
明るい曲ではある。
しかし、真昼の太陽の下ではない。
ネオン、月、夜風、車の窓、クラブ帰りの道。
そんな風景が似合う。
後悔は、夜に強くなる。
昼間は平気な顔ができても、夜になると相手のことを思い出す。
Be The Oneは、その夜の後悔を、踊れるポップに変えている。
ここにDua Lipaの魅力がある。
彼女のポップは、身体を動かすことと感情を整理することを結びつける。
踊ることで忘れるのではない。
踊りながら、感情をもう一度見つめる。
Be The Oneは、その初期形なのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- New Rules by Dua Lipa
Dua Lipaを世界的に押し上げた代表曲。Be The Oneが関係を取り戻したい歌だとすれば、New Rulesは戻ってはいけない相手から自分を守る歌である。恋愛の失敗をポップなルールへ変えるという意味で、二曲は対照的に響く。初期Dua Lipaの成長を聴くうえで欠かせない。
- Blow Your Mind (Mwah) by Dua Lipa
デビューアルバム収録曲で、より強気でファッション性のあるポップソング。Be The Oneのロマンティックな切実さに対して、こちらは自信と挑発が前に出ている。Dua Lipaの低い声が持つクールな魅力を、よりアップテンポに味わえる。
- Physical by Dua Lipa
Future Nostalgia期の代表曲で、80年代ポップの熱と現代的なダンスサウンドが融合している。Be The Oneのシンセポップ的な明るさが好きな人なら、Physicalの圧倒的な推進力にも惹かれるはずだ。初期の夢見るようなポップから、完成されたダンスポップへ進化した姿が分かる。
- Lush Life by Zara Larsson
2010年代半ばのヨーロッパ系ポップの軽やかさを感じられる曲。Be The Oneと同じく、明るいサウンドの中に恋愛の揺れを含んでいる。メロディの抜けがよく、少しトロピカルな空気もあるため、初期Dua Lipaのポップ感と相性がいい。
- Rather Be by Clean Bandit feat. Jess Glynne
ダンスポップの軽快さと、相手と一緒にいたいというストレートな感情が結びついた曲。Be The Oneのように、恋愛の願いを明るく、風通しのよいサウンドで包んでいる。2010年代UKポップの洗練と親しみやすさを味わえる一曲である。
6. 未来のポップスターが、最初に自分の場所をつかみにいった曲
Be The Oneの特筆すべき点は、Dua Lipaがまだ世界的ポップスターとして完成する前に、すでに彼女の核を示していたことにある。
低く強い声。
切ない歌詞を、沈みすぎずに歌うバランス。
シンセポップの明るさ。
恋愛の痛みを、身体が動くリズムへ変える力。
これらは、後のDua Lipaの音楽にもつながっていく。
もちろん、Be The Oneの時点では、まだFuture Nostalgiaのような完全なディスコポップの世界はない。
LevitatingやDon’t Start Nowのような余裕もない。
New Rulesのような明確なキャラクター性も、まだ形成途中である。
しかし、この曲には原石の輝きがある。
Dua Lipaの声が入った瞬間、曲の輪郭が決まる。
サウンドは軽くても、声が浮きすぎない。
ポップなのに、少し大人びて聞こえる。
その声の重心が、彼女を他の若いポップシンガーと違う場所へ置いていた。
Be The Oneは、その声の魅力を早い段階で広く伝えた曲だった。
また、この曲がスリーパーヒットだったことも、重要な物語である。
すぐに爆発するのではなく、時間をかけて広がる。
ヨーロッパのラジオから火がつき、少しずつ各国で支持を得て、英国でも再び上昇していく。
この広がり方は、曲のテーマともどこか重なる。
諦めないこと。
欲しいもののために粘ること。
一度で届かなくても、もう一度届こうとすること。
Be The Oneという曲そのものが、まるでそのメッセージを体現したように、時間をかけてリスナーへ届いた。
ポップソングには、最初の瞬間にすべてを奪う曲もある。
一方で、何度も聴くうちに生活へ入り込み、気づいたら忘れられない曲になるものもある。
Be The Oneは、後者の力を持っていた。
メロディは覚えやすい。
サビは高揚感がある。
だが、Dua Lipaの声が少し低く沈むことで、単なる明るい曲にならない。
聴くたびに、後悔と希望の両方が残る。
この両方があるから、曲は長く聴ける。
歌詞の主人公は、相手に戻りたいと願っている。
だが、この曲は過去へ戻るだけの歌ではない。
むしろ、未来をもう一度作ろうとする歌である。
関係が壊れた。
でも、そこで終わらせない。
自分がその人になる。
そう言うことで、主人公は受け身の悲しみから少し抜け出している。
この姿勢は、Dua Lipaのポップスター像とよく合う。
彼女の大きな魅力は、感情を持ちながらも自分を失いすぎないところにある。
恋愛の痛みを歌っても、ただ崩れ落ちるのではない。
自分の身体、自分の声、自分の視線を保つ。
Be The Oneにも、その萌芽がある。
後年のDon’t Start Nowでは、失恋を乗り越えた女性が踊りながら相手を振り切る。
New Rulesでは、自分を守るためのルールを作る。
Be The Oneでは、まだ相手へ向かっている。
だが、その向かい方にも、すでに強さがある。
私はその存在になりたい。
私はなれる。
その自信が、曲の奥に流れている。
この曲を今聴くと、初期Dua Lipaの少し懐かしい質感も楽しめる。
2010年代半ばのシンセポップ。
少しトロピカルなリズムの気配。
空気を含んだプロダクション。
ミュージックビデオのファッションや色彩。
そこには、当時のヨーロッパポップの空気がある。
しかし、ただの時代ものにはなっていない。
なぜなら、曲の中心にある感情が普遍的だからだ。
すれ違った相手に、もう一度届きたい。
自分の間違いを認めても、愛を諦めきれない。
誰かにとっての唯一の存在になりたい。
この願いは、時代が変わっても残る。
Be The Oneは、恋愛における再挑戦の歌である。
そして、Dua Lipaというアーティストの再確認の歌でもある。
歌い手本人が書いた曲ではなかった。
それでも、彼女はそれを自分の声で引き受けた。
その結果、この曲は彼女の初期キャリアの象徴になった。
ポップにおいて、誰が書いたかはもちろん重要だ。
だが、誰がどう歌ったかも同じくらい重要である。
Be The Oneは、Dua Lipaが歌ったからDua Lipaの曲になった。
その声が、曲に夜の深さを与えた。
その声が、後悔を弱さではなく意志へ変えた。
その声が、初期の彼女をただの新人ではなく、これから大きくなる存在として印象づけた。
Be The Oneは、未来のポップスターがまだ走り出したばかりの時期に、自分の場所をつかみにいった曲である。
そして今聴くと、その場所を本当に手に入れた彼女の原点として、いっそう輝いて聞こえる。
参照元
- Be The Oneは2015年10月30日にリリースされ、Dua Lipaのセルフタイトルのデビューアルバムに収録された楽曲である。
Be the One – song information
- 楽曲はLucy Taylor、Nick Gale、Jack Tarrantによって書かれ、Digital Farm Animalsがプロデュースを担当した。
Be the One – credits and background
- Be The Oneはリリース後すぐに大ヒットしたわけではなく、ヨーロッパで徐々に広がったスリーパーヒットとして知られている。
Be the One – commercial performance
- Official Chartsでは、Be The Oneの英国でのチャート推移やシングル売上チャートでの動きが確認できる。
Official Charts – Be The One by Dua Lipa
- Dua Lipaはこの曲について、自信、忍耐、自分が欲しいもののために戦うことに関わる曲として語っている。
Be the One – background

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