
楽曲の概要
「Boys Will Be Boys」は、Dua Lipaが2020年に発表した2作目のアルバム『Future Nostalgia』の最終曲である。Dua Lipa、Kennedi Lykken、Justin Tranter、Jason Eviganが作詞・作曲し、KozことStephen Kozmeniukがプロデュースを担当。Rupert ChristieとLorna Blackwoodも制作に参加している。ディスコ、ファンク、1980年代のポップを現代的なダンスミュージックへ組み替えたアルバムの中で、この曲はピアノ、ストリングス、合唱を前面に出した異色の作品である。
テーマもアルバムのほかの曲とは大きく異なる。「Don’t Start Now」や「Physical」「Levitating」が恋愛や欲望、解放感をダンスフロアへ結びつけるのに対し、「Boys Will Be Boys」は女性が日常生活で身につけざるを得ない警戒心や、男女に異なる行動基準を求める社会を扱う。タイトルは男性の問題行動を「男なんだから仕方ない」と済ませる決まり文句を逆手に取ったものだ。アルバムの華やかな世界を最後にいったん止め、そこまでとは違う現実へ聴き手を戻す役割を持っている。
歌詞の概要
歌詞は、女性にとって身近になりすぎた自己防衛の習慣から始まる。暗くなる前に帰ろうとすること、夜道で危険を感じたときに鍵を護身用として握ることなど、本来なら特別な行動であるはずのものが「当たり前」になっている状況が描かれる。Dua Lipa自身も後のインタビューで、学生時代にバス停から自宅まで数分歩くだけでも、少年たちから声をかけられたり追いかけられたりすることを恐れ、鍵を指の間に挟んで帰った経験を語っている。
そこから曲は、個人的な恐怖を社会的な問題へ広げていく。女性の側には幼いころから危険を避け、振る舞いを調整し、周囲に注意することが求められる。その一方で男性側の問題行動は、タイトルの「boys will be boys」という言葉によって軽く扱われることがある。歌詞はこの非対称性を問題にしており、少女たちは早くから「女性として」自衛することを学ばされるのに、少年たちは未熟さを許され続けるという構図を示している。
ただし、すべての男性を同じ人物像として攻撃する歌ではない。Lipa自身、この曲を誰かを非難するためではなく、会話を始めるきっかけにしたかったと説明している。問題の中心にあるのは個々の男性の性格ではなく、問題行動を年齢や性別によって許してしまう考え方である。そのためタイトルは、男性についての単純な断定ではなく、その言葉を使って責任を曖昧にする文化への批判として読む必要がある。
制作背景・時代背景
『Future Nostalgia』は、Dua Lipaが2017年のデビューアルバムから大きくサウンドを発展させた作品である。1970〜80年代のディスコ、ファンク、シンセポップを参照しながら、それらを2020年代の精密なポップ・プロダクションへ変換した。「Don’t Start Now」「Physical」「Hallucinate」など、アルバムの大部分ではベースラインと四つ打ちのビートが強い推進力を作っている。
「Boys Will Be Boys」は、その統一感を意図的に崩す。Dua Lipaはアルバムを力強い曲で始め、同じく強いメッセージを持つこの曲で終わらせたかったと説明しており、本人にとって歌詞の存在意義が大きかった。制作のきっかけには、自身が学校から帰宅するときに感じていた恐怖についてスタジオで話したことがあった。女性のエンパワーメントを歌ってきた一方、「女性として成長する過程で経験すること」を直接扱った曲はそれまで書いていなかったという。
この問題意識は#MeToo運動以降に可視化された議論とも重なるが、歌詞の出発点は抽象的な社会評論ではなく、Lipa自身の日常的な経験にある。2021年のITV Newsのインタビューでも、彼女は学生時代に実際に鍵を指の間へ挟んで歩いていたと説明している。2023年にも、夜道で鍵を準備したり、バッグを強く持ったり、電話をしているふりをしたりする女性の経験について語っており、この曲の題材が一時的なスローガンではなかったことが分かる。
歌詞の抜粋と和訳
この曲では、タイトルの「boys will be boys」という慣用的な表現そのものが重要なモチーフになっている。直訳すれば「男の子は男の子」という意味だが、実際には男性の乱暴さや未熟な行動を「男だから仕方ない」と許容するときに使われる表現である。
Dua Lipaはこの決まり文句をそのまま肯定するのではなく、その後に少女がやがて「women=女性」になるという対照を置く。少女には危険を避ける方法や大人としての振る舞いを早くから学ばせながら、少年側の未熟さはいつまで許されるのか、という疑問が生まれる。曲の批判は「boys」という単語そのものより、責任を免除するために使われる言葉の仕組みに向けられている。
サウンドと歌詞の考察
「Boys Will Be Boys」が『Future Nostalgia』で際立つ最大の理由は、それまでアルバムを動かしてきたディスコの快楽から距離を取ることである。完全にリズムを捨てているわけではなく、Kozによるドラム、ベース、シンセサイザーも使われているが、耳の中心に来るのはDan BinghamのピアノとDrew Jureckaがアレンジしたストリングスである。冒頭から曲はダンスフロアへ飛び込むのではなく、歌詞を聞かせるための空間を作る。アルバムを通して身体を動かしてきた聴き手を、最後に歌詞へ集中させるような配置になっている。
ストリングスの使い方もかなり劇的だ。ヴァイオリンやヴィオラは背景を薄く埋めるだけではなく、メロディに沿って大きく動き、曲が進むにつれてスケールを広げていく。『Future Nostalgia』の多くの曲では、反復するベースやシンセがグルーヴを作るのに対し、ここでは持続する弦の響きが感情の流れを作る。そのため同じアルバムに収録されていても、ナイトクラブよりミュージカルや劇的なポップ・バラードに近い印象がある。
そこへStagecoach Epsom Performing Arts Choirの合唱が入ることが、この曲の意味をさらに変えている。Dua Lipa一人が経験を告白しているだけなら、歌は個人的な記憶として聞こえる。しかし複数の若い声が重なることで、内容は一人の体験を越え、世代をまたいで繰り返される問題のように響く。特に「少女が成長して女性になる」という歌詞の発想と若い声の合唱が組み合わさることで、これから同じ警戒心を身につけるかもしれない世代の存在まで連想させる。
Dua Lipaのボーカルも、アルバムの代表的なダンス曲とは少し違う。「Physical」のようにリズムへ強く食い込んだり、「Levitating」のように軽快に跳ねたりするより、ここでは一つひとつの言葉を比較的明確に置いていく。彼女の低めで厚い声質がストリングスの上に乗ることで、歌詞は会話的でありながら重さを持つ。さらに皮肉を明示する部分では、言葉の意味を曖昧にせず、聴き手へ直接話しかけるような態度が前面に出る。
この直接性は、本曲について評価が分かれやすい部分でもある。『Future Nostalgia』の多くの曲は、恋愛や自立というテーマをダンスミュージックの高揚感へ溶かし込んでいる。それに対して「Boys Will Be Boys」は、何を問題にしているのかをかなり明確に説明する。ストリングスと合唱も内容の深刻さを強調するため、アルバムの軽快で洗練された流れからすると意図的に異質である。一部の批評では、この演劇的なアレンジがメッセージを強調しすぎるという見方も示された。
しかし、アルバム最終曲として考えると、その異質さ自体に意味がある。『Future Nostalgia』ではDua Lipaが恋愛の主導権を握り、欲望を肯定し、自分の判断で相手を選ぶ女性像が繰り返し登場する。「Boys Will Be Boys」は、その自由な女性像が存在する現実の側には、夜道を歩くだけで行動を変えなければならない状況もあることを示す。前の10曲で描かれた自信と自由を否定するのではなく、それを十分に享受するためには何が障害になっているのかを最後に持ち出すのである。
タイトルの反復も同様に二重の働きをする。「boys will be boys」という言葉は本来、問題を深刻に受け止めないための軽い決まり文句である。それを壮大なストリングスと合唱の中で何度も聞かせると、逆にその言葉の不自然さが浮かび上がる。なぜ少女には危険を避けるための成熟を求めながら、少年には未熟さを許すのか。曲は複雑な社会問題への答えを提示するというより、日常的すぎて見過ごされている言葉と行動の非対称性を、アルバムの最後に大きく拡大して見せている。
この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
「The Man」 by Taylor Swift
女性と男性で同じ行動への評価が変わるダブルスタンダードを扱った曲。「Boys Will Be Boys」より軽快なシンセポップだが、日常に入り込んだ性別による期待の違いを直接的な言葉で問い直す点が近い。
「Man’s World」 by MARINA
社会が女性へ課してきた役割や男性中心の価値観を、華やかなポップサウンドから批判する曲。ストリングスを含むドラマティックな音作りと明確な社会的メッセージという点でも共通している。
「Just a Girl」 by No Doubt
女性だからという理由で行動を制限されたり、弱い存在として扱われたりする状況を皮肉った1995年の曲。パンク/スカ寄りの演奏によって怒りを表す点は異なるが、歌詞の問題意識にはつながりがある。
「Quiet」 by MILCK
女性に沈黙や従順さを求める圧力に対して、自分の声を取り戻そうとする曲。「Boys Will Be Boys」の合唱が個人的な経験を集団の声へ広げるのと同様、複数の声が重なること自体がメッセージになる。
「Future Nostalgia」 by Dua Lipa
同じアルバムのオープニング曲。こちらでは女性としての自信と主導権を遊び心のあるファンク・ポップで示している。最終曲「Boys Will Be Boys」と並べると、Lipaが語った二つの異なる女性の強さが見えてくる。
まとめ
「Boys Will Be Boys」は、『Future Nostalgia』のディスコ中心の流れをあえて崩し、女性が幼いころから身につける自己防衛と、男性の未熟な行動を許容する社会的な言葉を正面から扱った曲である。ピアノ、劇的なストリングス、若い声を含む合唱は、Dua Lipa個人の記憶をより広い経験へ拡張する。歌詞は意図的に直接的で、そのためアルバム内では異質に聞こえるが、その違和感こそが最終曲としての役割でもある。自由と自信に満ちたダンス・ポップを鳴らした後で、その自由が現実社会では誰にでも同じように与えられているわけではないことを提示する作品である。
参照元
- 『Future Nostalgia』公式アルバムクレジット
- Apple Music
- ITV News
- Vogue France
- MusicBrainz

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