
ニュー・オーダーの『Power, Corruption & Lies』を初めて聴くなら、バンド演奏と電子音のどちらが主役なのかを決めず、その境界が曖昧になっていく過程を楽しむのがおすすめです。「Age of Consent」ではピーター・フックのベースとギター、ドラムが強く前へ出る一方、「5 8 6」ではシーケンサーや電子的なリズムが存在感を増します。
1983年発表の本作は、ジョイ・ディヴィジョンを母体として生まれたニュー・オーダーが、自分たち独自の方向を明確にしていく重要なアルバムです。ポストパンクの硬質なバンド・サウンドが好きなら「Age of Consent」から、シンセポップやダンス・ミュージックが好きなら「5 8 6」から入ると、その中間地点にある本作の面白さをつかみやすくなります。
まず知っておきたいこと
『Power, Corruption & Lies』は1983年に発表されたニュー・オーダーのセカンド・アルバムです。バーナード・サムナー、ピーター・フック、スティーヴン・モリス、ジリアン・ギルバートの4人による演奏を軸に、ギター、ベース、ドラムとシンセサイザー、シーケンサーなどが組み合わされています。
基本となるオリジナルUK盤は8曲です。
- 「Age of Consent」
- 「We All Stand」
- 「The Village」
- 「5 8 6」
- 「Your Silent Face」
- 「Ultraviolence」
- 「Ecstasy」
- 「Leave Me Alone」
初めて聴く際に注意したいのが、代表曲「Blue Monday」の扱いです。
「Blue Monday」は『Power, Corruption & Lies』と同じ1983年に発表され、アルバム期のニュー・オーダーを理解するうえで非常に重要な曲ですが、オリジナルUK盤のアルバム本編には収録されていません。後年のエディションなどでは関連曲と一緒に聴ける場合があるため、現在の配信やCDでは境界が分かりにくいことがあります。
作品本来の構成を味わうなら、まず「Age of Consent」から「Leave Me Alone」までの8曲を一つのアルバムとして聴き、その後に「Blue Monday」を聴くと整理しやすくなります。
作品・アーティストを選ぶ判断軸
第一の判断軸は、ギター・バンドとして聴くか、電子音楽へ向かうバンドとして聴くかです。
ロック側から入るなら「Age of Consent」が最適です。冒頭からピーター・フックの高音域を使った特徴的なベースが動き、その周囲でギターとドラムが推進力を作ります。
ここで重要なのは、ベースを低音の伴奏としてだけ聴かないことです。ニュー・オーダーではベースがメロディを担い、その下や周囲を別の楽器が埋めるような場面があります。この役割の逆転がバンド独特のサウンドにつながっています。
第二の判断軸は、機械的な反復をどこまで楽しめるかです。
「5 8 6」や「Ecstasy」では、電子的なパターンの反復が曲の中心へ近づきます。通常のロックならドラマーが作るビートを軸に考えるところを、シーケンサーや電子音も同等のリズム装置として扱います。
ただし、生演奏を捨てて完全な電子音楽へ移行したわけではありません。
スティーヴン・モリスのドラムが持つ身体的な勢いと、機械による正確な反復。この二つが同居するところに、『Power, Corruption & Lies』ならではの緊張感があります。
第三の判断軸は、明るい音と沈んだ感情のずれを楽しめるかです。
「The Village」のように軽やかに聞こえる曲もあれば、「Your Silent Face」のように広い空間を感じさせる曲もあります。一方、ヴォーカルや歌詞には距離感や不安定さが残ります。
ニュー・オーダーでは、「暗い内容だから暗い伴奏にする」「明るい曲だから幸福を歌う」といった対応関係が必ずしも成立しません。このずれが、単純なシンセポップともポストパンクとも違う感触を生み出します。
おすすめの聴き方・関連作品
「Age of Consent」で4人のバンドとして聴く
最初は「Age of Consent」を聴き、ベース、ドラム、ギター、ヴォーカルを順番に追います。
特にピーター・フックのベースがどの音域にいるかに注目すると、一般的なロックとの違いをつかみやすくなります。低い場所でコードの土台を支えるだけではなく、耳に残るフレーズを前面で弾いています。
その一方で、バーナード・サムナーのヴォーカルにはロックのフロントマンらしい誇張があまりありません。
演奏は勢いよく進むのに、歌にはどこか距離がある。 この組み合わせがニュー・オーダーらしさの一つです。
「The Village」で明るさを聴く
次に「The Village」へ進むと、『Power, Corruption & Lies』を「暗いポストパンクの作品」とだけ考えられなくなります。
シンセサイザーを含む明るい音色と軽快なリズムが現れ、バンドの別の側面が見えてきます。
ここでは「ギターなのかシンセなのか」を一つずつ当てるより、異なる音色がどう組み合わされているかを聴くのがポイントです。電子楽器が装飾として後から足されているのではなく、曲の骨格そのものへ入り始めています。
「5 8 6」で電子音側へ移動する
アルバムの転換点として聴きたいのが「5 8 6」です。
反復する電子的なパターンに注目すると、ニュー・オーダーがダンス・ミュージックへ接近していく方向がはっきりします。
「Age of Consent」と続けて聴き比べると効果的です。一方はバンド演奏の推進力が分かりやすく、もう一方ではプログラムされた反復が大きな役割を担う。しかし、どちらも同じニュー・オーダーとして聞こえます。
本作の「ロックと電子音楽の融合」は、両者を均等に50%ずつ混ぜることではありません。曲によってバンドと機械の比重を大胆に変えることに特徴があります。
「Your Silent Face」は音の空間を聴く
「Your Silent Face」では、リズムの強さよりシンセサイザーが作る広い空間へ耳を向けます。
長く伸びる電子音とメロディによって、前半とは違う時間感覚が生まれます。クラフトワークをはじめとする電子音楽からニュー・オーダーが受けた影響を考えるうえでも重要な曲です。
一方で、電子音が冷たいだけではなく、むしろ感傷的な響きを生み出している点にも注目です。
ニュー・オーダーのシンセサイザーは未来的な効果音としてだけでなく、メランコリーを表現する楽器として機能しています。
「Leave Me Alone」で再びギターへ戻る
アルバム最後の「Leave Me Alone」では、ギターを中心としたバンド・サウンドが再び印象に残ります。
ここまで「5 8 6」「Your Silent Face」「Ecstasy」などで電子的な音を経験してきたあとに聴くため、単純に1曲目の状態へ戻ったようには聞こえません。
電子音楽へ向かう作品でありながら、最後を完全な機械的サウンドで閉じない。この配置によって、『Power, Corruption & Lies』が「ロックから電子音楽への乗り換え」ではなく、両者を同時に抱えたアルバムであることが分かります。
アルバムの後に「Blue Monday」を聴く
8曲を通したら「Blue Monday」を聴きます。
ここでは電子的なリズムとシーケンスがさらに強く前面に出ます。それでもピーター・フックのベースやバーナード・サムナーのヴォーカルが加わることで、単純なクラブ向け電子音楽とは異なるニュー・オーダーの個性が残ります。
「Age of Consent」→「5 8 6」→「Blue Monday」と並べてみると、ロック・バンドの身体性と機械的な反復が接近していく過程を短時間でつかめます。
「Blue Monday」をアルバム本編に無理に組み込むより、本編8曲を聴いた後の補助線として扱うと、1983年のニュー・オーダーがどこへ向かっていたのかを理解しやすくなります。
次に聴くなら『Movement』か『Low-Life』
『Power, Corruption & Lies』の暗く硬質な部分に惹かれたなら、前作『Movement』へ戻ると変化が分かります。
『Movement』にはジョイ・ディヴィジョンから引き継いだ感触がより強く残っています。そこから『Power, Corruption & Lies』へ進むと、ニュー・オーダー独自の音楽が形成されていく過程を追えます。
反対に、シンセサイザーやダンス・ミュージックとの融合が気に入ったなら、次は『Low-Life』が自然です。ロックと電子音を共存させる方法がさらに洗練され、1980年代のニュー・オーダーらしいサウンドが明確になっていきます。
こんな人に向いている
『Power, Corruption & Lies』は、ポストパンクからシンセポップ、ダンス・ロックへ音楽の興味を広げたい人に向いています。
ギター・ロックを普段聴く人なら「Age of Consent」を起点にすれば、電子楽器がバンドへ入り込む過程を自然に追えます。逆にテクノ、ハウス、シンセポップなど電子音楽を好む人なら、「5 8 6」や「Blue Monday」からバンド演奏側へ遡ると入りやすいでしょう。
ベースを中心にロックを聴きたい人にも適しています。ピーター・フックの演奏は、ベースが低音を支えるだけでなく、曲を識別するメロディを担えることを分かりやすく示しています。
また、1980年代の音楽に興味がある人にとっては、ロックとクラブ・ミュージックを別々の歴史として考えないための重要な作品です。ニュー・オーダーはその両方に足を置きながら、新しいバンド像を作っていきました。
まとめ
『Power, Corruption & Lies』を初めて聴くなら、まず「Age of Consent」でギター、ベース、ドラムによるバンドの推進力をつかみ、「5 8 6」で電子的な反復へ移動するのが分かりやすい聴き方です。
次に「Your Silent Face」でシンセサイザーが作る空間、「Leave Me Alone」で再びギター・バンドとしての側面を聴く。そのあと本編外の同時期の重要曲「Blue Monday」へ進めば、ニュー・オーダーが電子的なダンス・ミュージックへ接近していく方向も明確になります。
本作の魅力は、ロックをやめて電子音楽を選んだことではなく、生身のバンドと機械による反復の両方を必要としたことにあります。
ピーター・フックのベース、スティーヴン・モリスのドラム、ギター、ヴォーカル、シンセサイザー、シーケンサー。それぞれを対立する要素としてではなく、一つのバンドを構成する楽器として聴くことで、『Power, Corruption & Lies』が1980年代のロックと電子音楽を結ぶ重要な作品であることが見えてきます。

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