Gang of Four『Entertainment!』はなぜ踊れて、なぜ政治的なのか

※本記事は生成AIを活用して作成されています。
TUNESIGHT DIALOGUE

※本記事は、TuneSightに登場する架空のライターによる創作対談です。

1979年、リーズのGang of Fourが発表したデビュー・アルバム『Entertainment!』は、ポストパンクの歴史を語るとき必ず名前が挙がる一枚だ。Andy Gillの切断するようなギター、Dave Allenのファンクに根差したベース、Hugo Burnhamの硬質なドラム、Jon Kingの演説と歌唱の間を行くヴォーカル。その音楽は驚くほど身体的なのに、歌詞は消費、労働、性愛、歴史、階級、権力関係を執拗に疑っている。

だが、「政治的な歌詞をファンクに乗せたバンド」と整理するだけでは、このアルバムの奇妙さは見えてこない。今回はAlex、Sophie、Marcusの3人が、なぜ『Entertainment!』は踊れるのか、そしてなぜ踊ることそのものが批評になり得たのかを掘り下げる。

※本記事は、TuneSightに登場する架空のライターによる創作対談です。

政治的だから難しい、という先入観を最初の30秒で壊す

Alex

『Entertainment!』って「政治的なポストパンクの名盤」という説明から入ると、かなり損するアルバムだと思うんですよ。

一曲目の「Ether」を再生した瞬間、まず来るのは思想じゃなくて身体でしょう。Dave AllenのベースとHugo Burnhamのドラムが動き始めて、その隙間へAndy Gillのギターが突っ込んでくる。政治的なメッセージを理解する以前に、リズムに反応してしまう。

Marcus

そこはすごく重要ですね。

政治音楽というと、歌詞をちゃんと読んで、主張を理解して、賛成か反対か考えるものだと思われやすい。でもブラック・ミュージックの歴史を見れば、政治と身体性はずっと分離されていない。

ファンクなんて典型的ですよ。身体を動かす音楽でありながら、共同体、セクシュアリティー、黒人としての自己肯定、社会的な緊張が全部入ってくる。

Gang of Fourはそこからかなり多くを学んでいる。ただし、ファンクをそのまま演奏しているわけではない。

Alex

むしろファンクを壊しながら使っていますよね。

Marcus

そう。

James Brownの音楽では、一つ一つの楽器がリズム装置になるでしょう。ギターも和音を豊かに鳴らすというより、短いカッティングでグルーヴを作る。

Andy Gillも発想としては近い。でもGillの場合、そのギターが気持ちよく滑らない。

途中で切れる。ノイズになる。変な場所にアクセントを置く。

ファンクの「踊らせる力」を残しながら、「快楽に完全には没入させない力」を追加している。

Sophie

だから一曲目が「Ether」なのは象徴的だと思います。

歌われている背景には北アイルランドと英国国家の暴力という重い問題がある。でも音楽は「これから政治の授業を始めます」という顔をしていない。

むしろ聴き手をまず巻き込む。

そして巻き込んだ後で、「あなたがいま楽しんでいるこの状況も、本当に無邪気なのか」と聞いてくる。

Marcus

そこなんですよ。

『Entertainment!』は、政治について歌いながら踊れるのではない。踊っている身体そのものを政治の中へ連れ込む。

Alex

いきなり核心に来ましたね(笑)。

Marcus

でも結論じゃないです。問題は、彼らがどうやってそれを可能にしているかだから。

Andy Gillのギターは、コードではなく「禁止線」を引く

Alex

じゃあギターの話をさせてください。

『Entertainment!』を特徴づけている最大の音の一つは、間違いなくAndy Gillのギターです。でも、いわゆるギター・アルバムとして聴くとかなり変。

Gillは曲を埋めないんですよ。

普通のロック・ギターなら、ベースとドラムの上にコードを置いて、音楽を一枚の壁みたいにつなげる。でも「Natural’s Not in It」なんかを聴くと、Gillは逆に空間を分断する。

ガッ、ガッ、と音を置いて、すぐ消える。

Sophie

空間を作るのではなく、区切る。

Alex

そう。

僕には「ここから先へ入るな」という線を引いているように聞こえる。

ただ、その線があるからDave Allenのベースがものすごく見えるんですよ。

Marcus

あれは面白いですよね。普通はギタリストが音を減らしたら、音楽が薄くなる。でもGang of Fourでは、音を減らすほどグルーヴが太くなる。

Alex

ベースとドラムに空間を渡しているから。

それとGillのギターって、アタックがすごく重要です。音を伸ばして「良いトーン」を聴かせるタイプではなく、弦を叩いた瞬間の硬さが音楽になる。

「Damaged Goods」のギターも、リフとして覚えやすいけど、普通のロック・リフとは違う。音程より切れ味を覚えるんですよ。

Sophie

その切れ味が、このバンドの歌詞とも一致していますよね。

Jon Kingの言葉も、長い物語を語るタイプではない。広告コピー、政治スローガン、日常会話の断片みたいな短い言葉を反復する。

音楽も文章も、一続きの「自然な流れ」を疑っている。

Marcus

「Natural’s Not in It」というタイトル自体が、その思想をかなり端的に示していますね。

私たちは恋愛や欲望や男女関係を「自然なもの」だと考えやすい。でも本当にそうなのか。社会や商品やメディアによって欲望そのものが形作られているのではないか。

そこでGillのギターが滑らかなロマンティシズムを拒否している。

Alex

ラブソングっぽいコード進行なんて絶対に鳴らしてくれない(笑)。

Marcus

だから重要なんです。

歌詞が「欲望は構築されている」と言っている横で、ギターも「この曲は自然に流れているわけじゃない」と音で示す。

Dave AllenとHugo Burnham──政治を踊らせた本当の中心

Sophie

でも、Andy Gillばかり語られるのは少し不公平だと思うんですよ。

Alex

それは分かる。

Sophie

だって『Entertainment!』が踊れる最大の理由はDave AllenとHugo Burnhamでしょう。

Marcus

完全にそうです。

僕はこのアルバムをロックより先にリズム隊から聴くべきだと思っているくらい。

特にDave Allenのベース。彼はルート音を弾いてギターを支えるという発想ではなく、ベースラインそのものが曲のフックになっている。

「Not Great Men」「Damaged Goods」「At Home He’s a Tourist」。どれもベースだけ抜き出しても曲の性格が分かる。

Alex

「Not Great Men」は特にいい。

ギターがあれだけ断片的でも曲が前へ進むのは、AllenとBurnhamが止まらないから。

Marcus

そしてBurnhamが面白い。ファンクから影響を受けているけど、ものすごくタイトで硬い。

ファンクのドラムって、場合によっては身体を包み込むような柔らかい「溜め」があるでしょう。でもGang of Fourは機械みたいに直線的な瞬間が多い。

ただ、完全な機械じゃない。

バスドラムとスネアの圧力には肉体がある。

Alex

パンクの勢いも残っているんですよね。

Marcus

そう。パンクとファンクが平均化されて半分ずつになるんじゃなくて、両方が100パーセントある。

ファンクの反復性と、パンクの攻撃性。

これが後のダンス・パンクにつながっていく理由でもあると思います。

Sophie

2000年代にFranz FerdinandやBloc Partyが登場したとき、Gang of Fourの名前が改めて頻繁に出てきたのも分かりやすいですよね。

ギター・ロックなのにクラブ的な身体性がある。

Alex

ただ、そこには違いもあると思う。

Franz Ferdinandは踊ること自体をかなり肯定的に扱える。でも『Entertainment!』は、踊って気持ちよくなった瞬間に「その欲望はどこから来た?」と尋ねてくる。

Marcus

Exactly。

Sophie

急に英語(笑)。

Marcus

それくらい大事なんです。

「Damaged Goods」──恋愛を商品として歌う

Marcus

その話なら「Damaged Goods」ですね。

普通に聴けば失恋や関係の破綻を扱った歌として成立する。でもタイトルからして「傷物の商品」です。

恋愛関係を商品の流通や返品の語彙で捉えている。

これは『Entertainment!』全体にある手法ですよね。資本主義について「資本家が労働者を搾取しています」と直接説明するのではなく、私生活の中に商品経済の言葉がどれだけ侵入しているかを見る。

Sophie

そこがGang of Fourの政治性の中で一番面白いところだと思います。

彼らは「政治的なテーマ」を歌うだけじゃない。

恋人との関係、家での過ごし方、セックス、テレビを見ること、退屈すること。それらがすでに政治や経済とつながっていると考える。

「政治」という専用の部屋があるんじゃなくて、生活全体に権力関係がある。

Alex

だから説教臭くならないんですかね。

Marcus

ある意味では、かなり説教臭いですよ(笑)。

Alex

言いましたね。

Marcus

Gang of Fourは相当理屈っぽいバンドです。

ただし、その理屈を音楽が裏切るんですよ。

「Damaged Goods」の内容を冷静に分析している間にもベースラインは気持ちいいし、ドラムは踊らせる。

つまり頭では商品化された欲望を批判しているのに、身体はその商品であるレコードを楽しんでいる。

そこに矛盾が生まれる。

Sophie

しかもアルバムのタイトルが『Entertainment!』。

感嘆符まで付いている。

Marcus

そう。

自分たちだって音楽産業の商品を作っているわけです。政治的に正しい場所から安全に消費社会を批判しているわけじゃない。

自分たちもその内部にいる。

そこが強い。

『Entertainment!』というタイトルと、パンダを描いたジャケット

Sophie

ジャケットもそこにつながっています。

『Entertainment!』のアートワークはAndy GillとJon Kingによるものですが、有名なのがパンダとカウボーイの絵です。

表面上は子ども向けの教材みたいに単純化されたイメージ。でもそこに植民地主義や資源、国家間の力関係を思わせる文章が組み合わされている。

これは当時のパンク的なコラージュとは少し違います。

Alex

Sex Pistols周辺のJamie Reid的な切り貼りとは違う感じですよね。

Sophie

そう。

こちらはもっと図解的というか、教育資料を装っている。

「これはこういう意味です」と説明しているようで、読めば読むほど、その説明自体がイデオロギーなんじゃないかと思えてくる。

Gang of Fourがリーズ大学周辺のアートスクール文化や政治思想から出てきたバンドだという背景も、ここでは無視できない。

Marcus

広告の方法に近いですね。

複雑な現実を一枚の絵と短い言葉へ圧縮する。

でも彼らは広告を模倣することで、逆に広告が日常的にやっている単純化を見せる。

Sophie

そしてアルバム名が『Entertainment!』でしょう。

ものすごく挑発的です。

政治的な内容を持つ作品に『Manifesto』みたいな名前を付けるのではなく、『Entertainment!』。

つまり「これは娯楽ですよ」と言っている。

Alex

それ、本気でもあるんじゃないですか。

Sophie

もちろん。

そこが大切です。

政治的だから楽しんではいけない、なんてGang of Fourは考えていない。むしろ娯楽そのものを真剣に考えている。

私たちは何を楽しいと思うのか。なぜそれを欲しいと思うのか。誰がその欲望を作っているのか。

『Entertainment!』が批判しているのは娯楽ではない。娯楽を「政治とは無関係」と考える態度だ。

Marcus

それですね。

「At Home He’s a Tourist」──自分の生活から疎外されるということ

Alex

僕はアルバムで一番Gang of Fourらしい曲を挙げるなら「At Home He’s a Tourist」かもしれない。

ギターもベースもドラムも、全部が完成されている。

でもタイトルが変なんですよね。「家にいるのに観光客みたい」。

Marcus

疎外という概念を、ものすごく日常的な言葉にしているんですよ。

自分が暮らしている社会なのに、自分のものという感じがしない。

自分の身体、自分の欲望、自分の家、自分が買う商品。そのどれもが自分で選んでいるようで、すでに用意された選択肢かもしれない。

ただ、これを哲学用語で歌わないところが良い。

Sophie

そしてこの曲には有名な『Top of the Pops』の一件があります。

1979年、「At Home He’s a Tourist」が英国でチャートに入り、Gang of FourはBBCの『Top of the Pops』への出演機会を得た。しかし歌詞にある避妊具を意味する表現の変更を求められ、バンドはそれを受け入れず、出演は実現しなかった。

Alex

自分たちが歌っていることを、そのまま実演してしまった。

Sophie

まさにそう。

テレビという巨大な娯楽装置から「ここを変えれば出られます」と条件を提示される。

商業的には出演したほうが得でしょう。

でもその交換条件を拒否する。

Marcus

ただ、それを「パンクだから妥協しなかった。格好いい」で終えると浅い気もします。

重要なのは、彼らがメディアを拒絶していたわけではないこと。

Gang of Fourはポップ・ミュージックをやっている。レコードを売りたいし、多くの人に届くことにも関心がある。

Sophie

そうなんです。

メジャーのEMIと契約して『Entertainment!』を出しているわけですから。

「商業主義なんて嫌いだから地下にいる」というバンドではない。

むしろ商業空間へ入りながら、そこで要求される交換条件を観察している。

Alex

それって音楽と同じですね。

ファンクに入るけど、ファンクに完全にはならない。

ポップに入るけど、ポップに完全には従わない。

Marcus

自分を外側の人間にしない。

そこが彼らの政治性の強さだと思います。

「Not Great Men」──歴史から英雄を降ろす

Marcus

僕が歌詞で一曲選ぶなら「Not Great Men」です。

歴史を動かすのは「偉人」だけではないという視点を、短いフレーズで反復する。

学校で習う歴史は王、首相、将軍、革命家など固有名詞を中心に並べられがちですよね。でも実際には社会を維持してきた無数の労働や集団的な行動がある。

Gang of Fourはそこに焦点を移す。

Sophie

それも70年代末の英国では強い意味を持ちます。

リーズという工業都市から出てきたバンドが、労働や階級について歌う。

ただ、彼らは労働者階級のロマンティックな代弁者を演じるわけでもない。

Marcus

そこ、大事ですね。

Sophie

英国ロックには「本物の労働者階級」というイメージ自体が商品化される歴史もあるでしょう。

服装、アクセント、男らしさ、パブ、フットボール。階級がスタイルになる。

Gang of Fourはそこにも距離がある。

Alex

音楽にも「英雄」がいない感じがありますよね。

「Not Great Men」という思想をバンド編成でやっている。

Andy Gillが派手なギターソロを弾いて全部持っていくわけじゃない。

Marcus

まさに。

ギター、ベース、ドラム、ヴォーカルが互いの領域を埋めずに存在する。

一人のスターを残り三人が支える構造になっていない。

だからこの曲は、歌詞と演奏形態がかなり一致している。

Alex

Gillは目立ちますけどね(笑)。

Marcus

もちろん。

でも目立つことと支配することは違う。

Gillのギターがあれだけ個性的なのに、Dave Allenのベースを消さないでしょう。

むしろ互いの違いが見える。

政治思想として完全に成功している共同体だ、なんて言うつもりはない。でも音響的には権力の一極集中が起きにくい。

Sophie

それがこのアルバムの民主的なところかもしれない。

Marcus

「民主的」は少し美化しすぎかな(笑)。

Alex

早速反論された。

Marcus

もっと緊張しているんですよ、この音。

民主的な調和というより、四者が互いに譲らず、それでも同じ曲を演奏している。

僕はそっちのほうが好きですね。

「Anthrax」──ラブソングそのものを疑う

Alex

最後の「Anthrax」も避けられない。

あれはギター好きとしては異常な曲ですよ。

フィードバックを延々鳴らしているような音から始まって、「これ、曲が始まっているの?」という状態が続く。

それまでの曲ではGillのギターは短く切っていたのに、ここでは逆にノイズを持続させる。

でもコードを鳴らすわけではない。

Marcus

歌詞もアルバムの締めとして完璧なんですよ。

ラブソングそのものへの不信がある。

ポップ・ミュージックは恋愛を大量に歌ってきた。でも、人間の感情が本当にそんなに単純なのか。

愛を歌えば真実になるのか。

Gang of Fourはそこを疑う。

Sophie

しかもJon KingとAndy Gillのヴォーカルが重なる部分が、普通のハーモニーではない。

片方が恋愛について語りながら、もう片方が別のテキストを話すような構造になる。

聴き手はどちらを聞けばいいのか分からなくなる。

Marcus

それがメディア環境みたいなんですよね。

広告、恋愛映画、ポップソング、ニュース、個人的な感情が同時に流れ込んでくる。

私たちは自分自身の感情だと思っているけど、それがどこまで自分のものなのか分からない。

Alex

でも、ここで重要なのは「ラブソングなんて全部嘘だ」と言って終わってないことだと思う。

Marcus

そう。

むしろ「なぜ自分はこの形式で愛を語ってしまうんだろう」と自己批判している。

Gang of Fourの政治って、敵を指さして終わらないんです。

自分たちも対象になる。

Sophie

だから『Entertainment!』なんでしょうね。

このアルバム自体も娯楽商品であり、ラブソングを批判する曲もまたロック・ソングとして発売される。

出口がない。

Alex

でも出口がないのに踊れる。

Marcus

そこがすごい。

それでも「政治的ロック」と呼ぶことへの違和感

Sophie

私はこのアルバムを「政治的ロックの名盤」と紹介すること自体には少し抵抗があります。

Alex

政治的なのに?

Sophie

政治的だからこそ。

「政治的ロック」というジャンルを作ってしまうと、それ以外の音楽は政治的ではないことになるでしょう。

でもGang of Fourが言っているのは、むしろ逆じゃないですか。

ラブソングも政治的だし、ディスコも政治的。服を買うことも、テレビを見ることも、家で退屈していることも政治と無関係ではない。

Marcus

同意します。

彼らの強さは「政治を音楽へ持ち込んだ」ことではない。

音楽の中には最初から経済も人種も階級もジェンダーも企業もメディアも存在している、と露出させたこと。

Alex

ただ、僕はそれを考えすぎると音の楽しさを失う気がするんですよ。

「Damaged Goods」のイントロを聴いて、「これは商品化された欲望の批判で……」とか考える前に、単純に格好いいじゃないですか。

Marcus

もちろん。

むしろ格好よくなければ成立しない。

政治性を理解してもらうために音楽を餌にしているんじゃない。

グルーヴそのものが考え方なんです。

Sophie

どういう意味?

Marcus

例えば反復。

消費社会も反復するでしょう。働く、稼ぐ、買う。広告を見る。欲しくなる。また働く。

一方、ダンス・ミュージックも反復によって身体を動かす。

Gang of Fourはその二つを同じ音楽の中に置く。

だから「反復は悪い」と言っているわけでもない。

同じ構造が、支配にも快楽にもなる。

Alex

なるほど。

それなら音楽を楽しむことと批評することが分離しない。

Marcus

そう。

Gang of Fourにとって、踊ることは思考を止める行為ではない。身体で矛盾を経験することなんです。

最高傑作、入口の一枚、そして一曲だけ選ぶなら

Alex

Gang of Fourの最高傑作なら、僕は迷わず『Entertainment!』です。

1981年の『Solid Gold』もかなり好きなんですよ。「What We All Want」や「Paralysed」はもっと乾いていて、Gillのギターも異様になっている。

でも『Entertainment!』には、まだバンドが発見している途中の勢いがある。

ファンク、パンク、ダブ、アートスクール的な発想。その全部が一つのスタイルに完全には整理されていない。

初心者にもこれを勧めます。

Sophie

私も最高傑作は『Entertainment!』。ただし初心者向けなら少し迷います。

『Entertainment!』を一枚通して聴くと、後半はかなり厳しい。「Anthrax」まで行くと、踊れるポストパンクという入口からずいぶん遠い場所まで連れていかれる。

もっとポップな側面から入るなら、1982年の『Songs of the Free』も面白いと思う。「I Love a Man in a Uniform」のように、リズムの魅力がより直接的になっている。

でも代表作という意味ではやはり『Entertainment!』。

Marcus

最高傑作は僕も『Entertainment!』なんだけど、一曲だけなら「Not Great Men」を選びます。

Alex

「Damaged Goods」じゃない?

Marcus

迷います。

ただ、「Not Great Men」にはこのバンドの政治とグルーヴの関係が一番凝縮されている。

歴史についての歌なのに、音楽は講義にならない。ベースとドラムが身体を動かして、その上で歴史観そのものをひっくり返す。

Alex

僕は「Damaged Goods」。

ギターの入り方、Dave Allenのベース、Burnhamのドラム、Kingのヴォーカル。三分台でGang of Fourの特徴を全部説明できる。

しかも説明的に聞こえない。

過小評価された曲なら「Contract」を挙げたい。

鋭いギターとリズムの噛み合わせが最高なんだけど、代表曲の陰に隠れやすい。

Sophie

私は一曲なら「At Home He’s a Tourist」。

あのタイトルだけでGang of Fourの世界観が見えるんですよ。

自分の家、自分の文化、自分の生活なのに、どこか他人が設計した場所を歩いている感じ。

それが70年代末の英国だけではなく、現在にもかなり通じる。

過小評価なら「Return the Gift」ですね。欲望や交換を扱うテーマが、アルバム全体の消費社会批判と密接につながっている。

Marcus

あと僕は「Anthrax」を初心者に一番最初には勧めないけど、最終的には絶対に聴いてほしい曲だと思う。

Alex

入口じゃなく出口。

Marcus

そう。

『Entertainment!』を「踊れるギター・ロック」として好きになった人が、最後にあそこへ行って、「このバンド、思っていたよりずっと面倒だな」と気づく。

Sophie

それは最高の褒め言葉ですね。

対談を終えて

『Entertainment!』が踊れる理由と政治的である理由は、本来別々のものではない。Dave AllenとHugo Burnhamが作る強靭なグルーヴ、Andy Gillがそこへ刻む空白と衝突、Jon Kingが日常語の中から拾い上げる商品、恋愛、労働、歴史、疎外。それらは、身体と思想を一つの場所へ置くための異なる方法だった。

Gang of Fourは政治的主張をダンス・ビートで聴きやすくしたのではない。踊ること、恋すること、買うこと、働くこと、娯楽を消費することの内部に、すでに政治が存在すると考えた。だから『Entertainment!』という題名は皮肉であると同時に、本気でもある。

「Damaged Goods」のベースラインで身体が動いた瞬間、聴き手は批評の外側にはいられない。楽しんでいる自分自身まで作品の中へ組み込まれてしまう。1979年から長い時間が過ぎても『Entertainment!』が妙に現在形で響くのは、その問いからいまだ簡単には降りられないからだ。

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