発売日: 1990年11月13日(US編集盤)
ジャンル: ショーゲイザー、ドリームポップ、ノイズポップ、インディーロック
“霧の国”から届いた序章集——Lush、少女たちの白昼夢が束ねられた祝祭
『Gala』は、Lushが1990年に北米向けにリリースしたコンピレーション・アルバムであり、1989年〜1990年にかけて発表された3枚のEP(『Scar』『Mad Love』『Sweetness and Light』)をまとめた編集盤である。
つまり本作は、Lushというバンドの“原初の声”を一気に体験できる、いわば“夢の断章集”とも言える作品である。
まだ“ショーゲイザー”という言葉が定着する前夜、英国インディー・シーンの中でノイズとメロディ、フィードバックと囁き声を両立させたこのバンドは、既に異彩を放っていた。
Cocteau Twinsのロビン・ガスリーがプロデュースを手がけた楽曲も含まれており、霧がかったギター・サウンドと少女の囁きが重なり合う、“夢と現実のあわい”のような音世界が構築されている。
代表曲レビュー(抜粋)
1. Sweetness and Light
冒頭を飾る名曲。穏やかに波打つギターと“光と甘さ”をめぐる歌声が、まるで朝靄の中に差し込む光のように広がる。
2. Sunbathing
逆光の中でまどろむような、サイケデリックな浮遊感と、時折現れる鋭いギターの閃光が心地よい。
3. Breeze
微風のような音像に、抑えきれない情緒が編み込まれたバラッド。 Lushの儚さが最もよく表れた楽曲のひとつ。
4. De-Luxe
『Mad Love』収録曲で、ノイズポップ的な疾走感と洗練されたコード感覚が共存するLushらしいアンセム。
5. Thoughtforms
初期Lushを象徴するダーク・ドリームポップ。「考えの形」という詩的で曖昧な主題が、音の中で具現化されている。
6. Etheriel
Lushの美学の原型とも言える重要曲。波のように押し寄せるギターと霞むボーカルが、理想のショーゲイザー像を提示する。
7. Baby Talk
初期衝動の象徴的トラック。尖った言葉と揺れるコード進行が、少女の怒りと官能を切り取ってみせる。
総評
『Gala』は、Lushというバンドが“何者であったか”を示す貴重な記録であり、単なるEP編集盤以上の意味を持つ作品である。
ここに収められた楽曲群は、フィードバックの洪水と囁くような歌声の中に、若さ、痛み、美しさ、そして喪失感をすでに抱えている。
この時点で彼女たちはまだ“完成”には程遠い。
だが、その不完全さこそが、ショーゲイザーというジャンルに新しい感情を吹き込んだ。
『Gala』は、白昼夢の“はじまりのかたち”を刻んだ、ノイズにまみれた詩集である。
おすすめアルバム
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Spooky / Lush
Lushの1stフルアルバム。『Gala』の延長線上にある美しき完成形。 -
Heaven or Las Vegas / Cocteau Twins
霧と光が交差するドリームポップの究極点。Lushの音の母胎。 -
Nowhere / Ride
轟音と叙情が出会った、UKショーゲイザーの象徴作。 -
Just for a Day / Slowdive
内省的で波のようなサウンドスケープ。『Gala』の陰影に通じる。 -
Isn’t Anything / My Bloody Valentine
夢とノイズの曖昧な境界を描いた“前夜”の金字塔。
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