
1. 歌詞の概要
The La’sの「Feelin’」は、わずか2分にも満たない短い曲でありながら、バンドの本質をぎゅっと詰め込んだような楽曲である。
タイトルの「Feelin’」は、「Feeling」の省略形。
つまり「感覚」「気分」「予感」「感じること」そのものを指す。
この曲では、その「feeling」が何度も歌われる。
朝、目覚めた瞬間にある感覚。
床に倒れているような混乱。
天井を見上げながら、自分が夢を見ているのではないかと思う感覚。
そして、それでも止められない、どこからか湧いてくる感覚。
「Feelin’」は、恋愛の歌としても聴ける。
だが、もっと広く言えば、理由のない高揚や、音楽に呼ばれてしまうような衝動の歌である。
何かが自分の中で鳴っている。
それがどこから来たのかはわからない。
でも、確かにある。
止められない。
永遠に続いていくような気がする。
この曲の語り手は、その感覚に翻弄されている。
「もう耐えられない」と言うほど、強い。
しかし、それは単なる苦しみではない。
むしろ、苦しいほどに生きている感じがある。
身体の奥に電気が走り、世界が急に色を持つような、あの瞬間だ。
The La’sの魅力は、まさにこの「説明できない感覚」を、極端にシンプルなギター・ロックへ変えてしまうところにある。
「Feelin’」は、1990年にリリースされた唯一のスタジオ・アルバム『The La’s』に収録され、1991年2月4日に同作からの最後のシングルとしてリリースされた。作詞作曲はLee Mavers、プロデュースはSteve Lillywhiteによるものとされている。Wikipedia: Feelin’
演奏時間は約1分50秒。
短い。
しかし、短いからこそ強い。
余計な説明がない。
イントロからすぐに走り出し、ギターのざらつきと軽快なリズムが、まるで古いR&Bやガレージ・ロックの衝動をそのまま90年代初頭へ運んできたように鳴る。
曲は小さな爆発のようだ。
長く燃え続ける炎ではない。
マッチを擦った瞬間の火花。
だが、その火花が妙にまぶしい。
The La’sというバンドの短くも濃い歴史を思うと、この曲の短さそのものが象徴的にも感じられる。
彼らは多くを残したバンドではない。
公式なスタジオ・アルバムは一枚だけ。
だが、その一枚が、後のブリットポップや英国ギター・ロックに大きな影響を与えた。
「Feelin’」は、その中でも特に原始的なロックンロールの衝動に近い曲である。
2. 歌詞のバックグラウンド
The La’sは、リヴァプール出身のバンドである。
リヴァプールといえば、どうしてもThe Beatlesの影が大きい。
メロディの街、ギターの街、海に開かれた港町の感覚。
The La’sにも、その系譜を感じる瞬間がある。
ただし、彼らの音楽は単なる60年代回帰ではない。
The BeatlesやThe Kinks、The Who、スキッフル、フォーク、R&B、ガレージ・ロック。
そうした古い音楽の感触を持ちながら、どこか荒く、未完成で、妙に生々しい。
整えられたレトロではなく、埃のついた古いアンプから出てきたような音なのだ。
The La’sの中心人物はLee Maversである。
彼はソングライターとして非常に高く評価されてきた一方で、録音に対する強いこだわりでも知られる。Pitchforkは『BBC in Session』のレビューで、The La’sを「神話と批評的敬意に包まれたバンド」とし、Lee Maversがほとんどの楽曲を書き、スタジオ録音に満足しなかったこと、バンドが1986年にリヴァプールで結成され、優れたライブ・バンドとして評判を得ていたことを説明している。Pitchfork: BBC in Session
彼らの唯一のアルバム『The La’s』は、1990年10月1日にGo! Discsからリリースされた。アルバムからは「Way Out」「There She Goes」「Timeless Melody」「Feelin’」がシングルとして発表され、「Feelin’」は最終シングルとなった。Wikipedia: The La’s album
だが、このアルバムは、バンド本人、とりわけLee Maversにとって満足のいくものではなかったとされる。
ここがThe La’sの物語をやや複雑にしている。
多くのリスナーにとって『The La’s』は名盤である。
「There She Goes」は時代を超えるギター・ポップの名曲として広く知られ、アルバム全体も英国インディー・ロックの重要作として扱われている。
しかし、Maversはその録音に納得していなかった。
理想の音がある。
頭の中では鳴っている。
しかし、スタジオではそれが捕まえられない。
何度録り直しても、何かが違う。
その「捕まらない音」を追い続けたバンドとして、The La’sは語り継がれている。
「Feelin’」という曲は、その物語と深く響き合う。
なぜなら、この曲はまさに「感覚」について歌っているからだ。
言葉で説明できない。
譜面に書き切れない。
録音しても逃げてしまう。
でも、確かにある。
それが「feeling」なのだ。
「Feelin’」は、シングルとして英国チャート43位を記録したとされる。Wikipedia: Feelin’
大ヒット曲ではない。
しかし、The La’sの魅力を知るうえで非常に重要な曲である。
CultureSonarの記事では、「Feelin’」について、約1分45秒で転がるように進む曲であり、上昇するブルース・リックが反復するヴァースをつなぎ、R&B的な味わいを持ちながらも、Eマイナーへ滑り落ちる瞬間が予想外の物悲しさを加えると評されている。CultureSonar: The La’s: A Group In Search of Perfection
この指摘は、とても鋭い。
「Feelin’」は、陽気に走る曲に聞こえる。
しかし、完全に明るいわけではない。
どこかで影が差す。
ギターのフレーズは軽快なのに、メロディには一瞬だけ沈む色がある。
この小さな翳りが、The La’sらしい。
彼らの曲は、表面的にはギター・ポップである。
だが、ただ爽やかなだけではない。
海風のような明るさの中に、曇り空の気配が混ざる。
短い曲なのに、妙に余韻が残る。
「Feelin’」は、その混ざり方が見事な曲である。
3. 歌詞の抜粋と和訳
歌詞全文は著作権で保護されているため、ここでは短い一節のみを引用する。歌詞の確認にはDorkの歌詞ページを参照した。Dork: Feelin’ Lyrics
I woke up with a feeling
和訳:
ある感覚とともに目が覚めた
この冒頭の一節は、曲全体の扉として非常に重要である。
「目が覚めた」と言っている。
つまり、これは朝の歌でもある。
だが、爽やかな朝ではない。
目覚めたら、何かがすでに自分の中にある。
理由もなく、説明もなく、感情だけが先に起きている。
この「feeling」は、幸福かもしれない。
不安かもしれない。
音楽の衝動かもしれない。
恋の予感かもしれない。
あるいは、まだ名前のついていない何かかもしれない。
重要なのは、語り手がその感覚を選んだわけではないということだ。
目が覚めたら、もうそこにあった。
人間の感情には、そういう瞬間がある。
朝、理由もなく胸がざわつく。
何かが始まりそうな気がする。
昨日までと同じ天井を見ているのに、今日は違って感じる。
自分でもよくわからないが、世界の音量が少し上がっている。
「Feelin’」は、その瞬間をロックンロールにしている。
歌詞引用元:Dork掲載歌詞。著作権は各権利者に帰属する。Dork: Feelin’ Lyrics
4. 歌詞の考察
「Feelin’」の歌詞は、非常に短く、反復が多い。
だからこそ、曲の中心にある言葉が強く残る。
feeling。
ただそれだけだ。
しかし、この言葉はかなり広い。
感情。
気配。
直感。
信念。
音楽的なノリ。
身体の奥にある反応。
The La’sは、そのすべてをひとつの単語に押し込めている。
歌詞の冒頭では、語り手が目覚め、床に横たわっている。
天井を見上げ、自分が夢を見ているのではないかと思う。
ここには、少し混乱した目覚めの感覚がある。
なぜ床にいるのか。
何が起きたのか。
語り手ははっきり説明しない。
けれど、その説明のなさがいい。
この曲は物語を語るための歌ではない。
状態を鳴らす歌である。
目が覚めた。
床にいる。
天井を見る。
夢なのかもしれない。
でも、感覚がある。
もう耐えられないほどの感覚がある。
この流れは、ほとんどロックンロールの啓示のようにも聞こえる。
ある朝、突然、音楽に呼ばれる。
何かが身体の中で鳴り始める。
それを止めることができない。
The La’sの曲には、しばしば「音楽そのものへの信仰」のようなものがある。
ただのラブソングに聞こえても、その奥には、メロディやリズムへの純粋な信頼がある。
「Timeless Melody」という曲名が象徴するように、Lee Maversの中には、時代を超えて鳴るメロディへの強い憧れがあった。
「Feelin’」も同じだ。
歌詞には「信じるもの」についての言及があり、それが結局は「feeling」なのだと歌われる。
つまり、ここでの感覚は単なる気分ではない。
信仰に近い。
理屈ではない。
制度でもない。
誰かが与えた答えでもない。
自分の中に湧き上がる感覚。
それこそが信じるに値するものなのだ。
これは、とてもロック的な考え方である。
ロックンロールは、しばしば理屈より先に身体へ来る。
いい曲を聴いたとき、人はまず説明するのではなく、反応する。
足が動く。
胸が跳ねる。
声が出る。
顔が少し上がる。
「Feelin’」は、その原初的な反応を歌っている。
この曲が約1分50秒で終わることも、歌詞のテーマとよく合っている。
感覚は、長々と説明されると薄くなる。
捕まえようとしすぎると逃げる。
だからThe La’sは、短く鳴らして終える。
一瞬の感覚を、一瞬の曲にする。
ここに潔さがある。
サウンド面では、曲は非常にシンプルだ。
ギターが転がる。
リズムが前に進む。
ボーカルは少し荒く、しかしメロディの芯はしっかりしている。
装飾は少ない。
だが、足りない感じはしない。
むしろ、余計なものがないからこそ、曲の骨格がよく見える。
The La’sの音楽は、プロダクションの豪華さで聴かせるものではない。
ギター、声、メロディ、リズム。
それだけでどこまでいけるかを試すような音楽である。
「Feelin’」は、その試みの成功例だ。
CultureSonarが指摘するように、この曲にはR&B的なノリがある。CultureSonar: The La’s: A Group In Search of Perfection
だが、ブルースやR&Bの形式をただ真似しているだけではない。
The La’sの手にかかると、それはリヴァプールの白っぽい空気をまとったギター・ポップになる。
黒っぽいリズムの粘り。
英国的なメロディの哀愁。
60年代への憧れ。
90年代初頭のインディー感覚。
それらが、小さな曲の中でぶつからずに混ざっている。
この混ざり方が、後のブリットポップにもつながっていく。
OasisやCast、The Coral、そして多くの英国ギター・バンドがThe La’sから影響を受けたと語られるのは、単に「There She Goes」が名曲だからではない。
The La’sが、古いロックンロールの感覚を、90年代の英国の空気に再び接続したからである。
「Feelin’」には、その接続が短く、荒々しく、鮮やかに刻まれている。
歌詞の最後のほうでは、語り手が何かの呼びかけに応答しているような感覚が出てくる。
自分は何かを受け取っている。
そして、それを意味として誰かに渡す。
この流れは、ソングライティングそのものの比喩のようにも読める。
曲を書くとは、何かを受け取ることなのかもしれない。
頭で組み立てるというより、どこかから来る感覚を捕まえる。
それを言葉とメロディにする。
そして聴き手へ渡す。
Lee Maversの完璧主義を考えると、この読み方はとても自然に思える。
彼はおそらく、曲を単なる商品として見ていなかった。
もっと神秘的で、もっと純粋なものとして見ていた。
だからこそ、録音に満足できなかった。
頭の中で鳴っている「feeling」が、テープに完全には入らなかったのかもしれない。
「Feelin’」は、その捕まえられなさを歌っているようにも聞こえる。
感覚はある。
でも、形にするのは難しい。
言葉にすると逃げる。
録音すると薄くなる。
それでも、鳴らさずにはいられない。
この矛盾が、The La’sの美しさであり、同時に悲劇でもある。
彼らは一枚のアルバムしか残さなかった。
だが、その一枚には、未完成であるがゆえの光がある。
完璧に磨かれた作品ではないかもしれない。
しかし、感覚がそのまま走っている。
「Feelin’」は、まさにその光を持っている。
完成された建築物というより、走っている途中の火花。
整えられた名曲というより、湧き上がった衝動の記録。
短く、荒く、でも忘れがたい。
その意味で、この曲はThe La’sというバンドの縮図である。
5. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- There She Goes by The La’s
The La’sを語るうえで絶対に外せない代表曲である。きらめくギター、完璧に近いメロディ、短い反復の中に宿る切なさが美しい。「Feelin’」よりも甘く、透明感があるが、説明できない感覚を一瞬で歌にしてしまう力は共通している。
- Timeless Melody by The La’s
曲名そのものがThe La’sの美学を表している。時代を超えて鳴るメロディへの憧れが、軽やかなギター・ポップとして形になっている。「Feelin’」の衝動が好きなら、この曲ではよりメロディの普遍性に向かうLee Maversの感覚を味わえる。
- Son of a Gun by The La’s
アルバム『The La’s』の中でも、初期ロックンロールやスキッフルの荒い感触が強く出た曲である。「Feelin’」の短さや勢いに惹かれるなら、この曲の跳ねるようなリズムとシンプルなギターの力も響くはずだ。The La’sの根っこの部分がよく見える。
- Alright by Cast
The La’sのベーシストだったJohn Powerが後に結成したCastの代表曲である。The La’sのギター・ポップ的な明るさを、より90年代ブリットポップの大きなアンセム感へ展開したような曲である。「Feelin’」の高揚感を、もっと開かれたサビで味わいたい人に合う。
- Supersonic by Oasis
The La’sが後の英国ギター・ロックに与えた影響を考えるうえで、Oasisは避けて通れない。Oasisはより太く、よりスタジアム向けの音だが、60年代ロックへの憧れを90年代の若者の感覚で鳴らしたという点でつながっている。「Feelin’」の原始的な衝動が、より大きな音で爆発した形として聴ける。
6. 感覚だけを信じる、1分50秒のロックンロール
「Feelin’」は、The La’sの中でも特に短く、荒く、まっすぐな曲である。
しかし、その短さの中に、彼らの本質が詰まっている。
感覚。
メロディ。
ギター。
信じること。
捕まえられないものを、それでも捕まえようとする衝動。
この曲は、長く説明しない。
世界観を丁寧に作り込まない。
壮大な展開もない。
ただ、ある朝に目覚めたときの「feeling」を、そのまま走らせる。
その潔さが素晴らしい。
The La’sは、完璧なキャリアを歩んだバンドではない。
むしろ、未完のバンドである。
録音への不満、短いディスコグラフィー、神話化されたLee Maversの存在。
彼らの物語には、実現しなかった可能性がつきまとう。
だが、「Feelin’」を聴くと、そんな説明は少しどうでもよくなる。
曲が鳴っているあいだ、そこにはただ感覚がある。
ギターが跳ねる。
声が走る。
リズムが転がる。
同じ言葉が戻ってくる。
そして、胸の中に小さな火がつく。
この曲は、The La’sが理想としていた音そのものではなかったのかもしれない。
Lee Mavers本人が満足していたかどうかも、別の問題として残る。
だが、リスナーにとっては、ここに確かな「feeling」がある。
それがすべてなのだと思う。
音楽は、ときに完成度よりも感覚で残る。
完璧に磨かれた音より、少し荒い演奏のほうが胸に刺さることがある。
長く練られた歌詞より、短い言葉の反復のほうが真実に近いことがある。
「Feelin’」は、まさにそういう曲である。
The La’sの魅力は、過去の音楽への憧れを、懐古ではなく現在の衝動として鳴らしたところにある。
60年代の影響は明らかだ。
R&Bやスキッフルの匂いもある。
しかし、彼らの音は博物館の展示品ではない。
生きている。
少し不安定で、少し未完成で、だからこそ熱い。
「Feelin’」は、その生々しさを2分足らずで聴かせる。
曲が終わると、少し物足りない。
もっと聴きたいと思う。
だが、その短さがまたいい。
感覚は長居しない。
やってきて、身体を揺らし、すぐに去っていく。
そして、去ったあとにも残る。
「Feelin’」というタイトルは、これ以上ないほど正しい。
これは、出来事の歌ではない。
人物の歌でもない。
状況説明の歌でもない。
感覚そのものの歌である。
何かが始まる予感。
止められない衝動。
信じるものは理屈ではなく、身体の奥で鳴る何かだという確信。
そのすべてを、The La’sは短いギター・ロックに閉じ込めた。
「Feelin’」は、小さな曲だ。
しかし、その小ささの中で、ロックンロールの根源的な喜びが鳴っている。
目が覚める。
感覚がある。
それだけで、曲は始まる。
そして、その感覚が本物なら、1分50秒でも十分なのだ。

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