Every Time the Sun Comes Up by Sharon Van Etten(2014)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Every Time the Sun Comes Up」は、Sharon Van Etten(シャロン・ヴァン・エッテン) が2014年にリリースしたアルバム『Are We There』のラストを飾る楽曲です。この曲は、アルバム全体を貫く傷ついた愛、内面の混乱、再生への希求といったテーマに対して、皮肉とユーモアを織り交ぜながら独特の語り口で締めくくるナンバーとなっています。

タイトルの「太陽が昇るたびに」というフレーズが象徴するのは、繰り返される日常、逃れられない現実、そして希望の兆し。シャロンはこの楽曲で、自己否定や不安に満ちた心情を、あえて淡々と、時には戯けて語ることで、弱さとユーモアが共存する人間のリアルな姿を描き出しています。

2. 歌詞のバックグラウンド

Are We There』は、シャロン・ヴァン・エッテンが自身の感情をより深く掘り下げた、キャリアの中でも最もパーソナルかつダークなアルバムの一つとされています。元恋人との関係性の終焉や、そのなかで経験した感情の揺らぎを軸に構成されており、各曲は内省と喪失、希望と怒りといった多面的な心理を映し出します。

そんなアルバムの締めくくりとして「Every Time the Sun Comes Up」が選ばれたことは、非常に象徴的です。というのもこの楽曲は、制作中に偶発的に生まれたものであり、リハーサルの合間に即興で歌われた歌詞をそのまま録音し、採用したという背景があります。そのぶん、他の曲よりも素朴で、即興的で、むき出しの“素のシャロン”が垣間見えるような仕上がりになっており、**アルバムを完璧に閉じる“隙のある余白”**として機能しています。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に「Every Time the Sun Comes Up」の印象的な一節と和訳を紹介します:

“People say I’m a one-hit wonder
But what happens when I have two?”

「私は一発屋だって言われるけど
もし二発目があったら、どうなるの?」

“I washed your dishes
But I shit in your bathroom”

「あなたの皿を洗ってあげた
でも、あなたのトイレでうんちもした」

“I stayed in your house
And I cried on your couch”

「あなたの家に泊まって
あなたのソファで泣いたの」

“Every time the sun comes up, I’m in trouble”
「太陽が昇るたびに、私はまたトラブルの中」

引用元:Genius Lyrics

この歌詞は一見、コミカルで奇妙にも見えますが、その背後には社会的な役割への違和感、セルフイメージの揺らぎ、そしてどこか諦めにも似た日常への受容がにじみ出ています。

4. 歌詞の考察

「Every Time the Sun Comes Up」は、シャロン・ヴァン・エッテンの作品群のなかでも異彩を放つ存在です。彼女の多くの曲が悲しみや喪失を真摯に描くのに対し、この曲ではそうした感情をブラックユーモアと自嘲のフィルターを通して描くことで、リスナーに別のアプローチを提示しています。

たとえば、“I washed your dishes, but I shit in your bathroom”というラインは、「いいこともしたけど、恥ずかしいこともした」という人間らしさの告白であり、清濁合わせ呑む自己肯定とも読めます。また、“Every time the sun comes up, I’m in trouble”というサビの繰り返しには、**「生きているだけで、何かしらトラブルを抱えてしまう私」**という感覚がユーモアと共に表現されており、ある種の“生きづらさ”に対する共感がにじみ出ています。

このように、「Every Time the Sun Comes Up」は、完璧であることを求められる現代社会に対する軽やかなアンチテーゼでもあり、シャロンが自身の傷や矛盾を隠さず晒す姿勢が、多くのファンにとって魅力的に映った理由でもあります。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Avant Gardener by Courtney Barnett
    日常のどうでもよさと不安をユーモラスに語るロックソング。脱力感と詩的感性が共通。

  • Sea of Love by Cat Power
    哀しみと諦めが共存する簡素なバラード。素朴な歌声が「Every Time…」に通じる。

  • Motion Sickness by Phoebe Bridgers
    痛みをユーモアで包み込みながら感情を解放する、現代的インディーポップ。

  • I’m Clean Now by Grouper
    ミニマルで内省的、感情をそのまま残すようなアプローチが似ている。

  • Numbers by Daughter
    自己嫌悪と無力感を繊細に描く楽曲。日々の繰り返しの中にある苦しみを歌う。

6. 特筆すべき事項:弱さとユーモアの肯定――“ありのまま”を讃えるラストソング

「Every Time the Sun Comes Up」は、**シャロン・ヴァン・エッテンの“完成されていない美しさ”**を象徴する一曲です。この曲は他の多くのバラードとは違い、感情を緻密に整えるのではなく、あえて粗く、雑然としたまま提示することによって、人間らしさと真実味を際立たせています。

そして何よりも、この曲の本質は、**「私たちは完璧ではない。でも、毎日太陽は昇るし、また一日が始まる」**という、ある種の“人生のあきらめ”と“静かな希望”の同居にあります。完璧じゃなくても、昨日と同じようなミスをしても、それでも明日は来る。その繰り返しの中で、自分自身をちょっとだけ許していく――それがこの曲の持つ深い慰めなのです。


**「Every Time the Sun Comes Up」**は、シャロン・ヴァン・エッテンが自分の不完全さをユーモアと共に抱きしめ、リスナーに「それでいいんだよ」とささやきかける、やさしくて不思議なラストソングです。悲しみの終わりに笑いがあり、涙のあとにちいさな光がある――そんな人生の余白を音楽にしたような一曲です。

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