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イントロダクション:Elasticaは“ブリットポップのバンド”でありながら、実はブリットポップから少し外れていた
Elasticaは、1992年にロンドンで結成されたイギリスのロック・バンドである。中心人物は、ボーカル/ギターのJustine Frischmann。彼女はもともとSuedeの初期メンバーでもあり、後にドラマーのJustin WelchとともにElasticaを結成した。初期メンバーには、ギターのDonna Matthews、ベースのAnnie Hollandも加わり、この4人の編成がバンドの黄金期を作った。
Elasticaの音楽を一言で表すなら、
“ポストパンクの角ばったリフを、90年代のポップな速度で鳴らしたブリットポップ異端児” である。曲は短い。ギターは鋭い。リズムは直線的。歌詞はクールで、皮肉で、性的で、どこか都会的だ。Oasisのようなクラシック・ロックの大仰さも、Blurのような英国的観察眼もあるにはあるが、Elasticaの核はむしろWire、The Stranglers、
Buzzcocks 、
Blondie 、
Talking Heads 、New Waveのほうに近い。
1995年のデビューアルバムElasticaは、UKアルバムチャート1位を獲得し、当時OasisのDefinitely Maybeを上回るペースで売れた“最速売上の英国デビューアルバム”として語られた。アルバムはMercury Music Prizeにもノミネートされ、“
Connection ”、“
Line Up ”、“Waking Up”、
“Stutter” などの楽曲によって、Elasticaは一気に90年代英国ロックの象徴的存在になった。
しかし、彼女たちの物語は短い。成功の後、薬物問題、メンバー交代、長すぎる制作期間、音楽的迷走が続き、2000年にセカンドアルバムThe Menaceを発表した後、2001年に解散した。Pitchforkは、Elasticaが成功後に混乱し、The Menaceの後に解散したこと、そしてFrischmannがその後M.I.A.の
“Galang” を共作し、視覚芸術の道へ進んだことを振り返っている。Pitchfork
Elasticaは、たった2枚のアルバムで終わったバンドだ。だが、90年代英国ロックにおける彼女たちの存在感は非常に大きい。特にデビュー作Elasticaは、今も“短く、鋭く、クールなギター・ポップ”の理想形として輝いている。
アーティストの背景と歴史:Suedeの影から、自分のバンドへ
Elasticaの中心人物Justine Frischmannは、ロンドンのアート/建築系の環境にいた人物であり、もともとBrett AndersonとともにSuedeの初期メンバーだった。Suedeは90年代初頭の英国ロック復興において非常に重要なバンドであり、Frischmannはその黎明期に関わっていた。
しかし、彼女はSuedeを離れる。その後、Justin WelchとともにElasticaを結成した。バンド名は1992年に決まり、初期には別名でライブを行っていたが、ほどなくElasticaとして活動を始める。1993年のデビューシングル
“Stutter” は、BBC Radio 1のDJでDeceptive RecordsのSteve Lamacqの後押しもあり注目を集めた。ウィキペディア
Elasticaが登場した時期は、ブリットポップ前夜から全盛期にかけてである。Suede、Blur、
Oasis 、Pulp、Sleeper、Echobelly、Menswearなどが英国メディアを賑わせていた。FrischmannはBlurのDamon Albarnとの交際でもタブロイドに大きく取り上げられた。だが、彼女はそうした私生活報道から距離を置き、音楽そのもので評価されるため、バンドを一時メディアの前から引かせたこともある。
この判断は重要だ。Elasticaは、ブリットポップのゴシップ的中心にいながら、音楽的にはそれに飲み込まれまいとしていた。彼女たちが目指したのは、60年代英国ロックの復興ではなく、70年代末から80年代初頭のポストパンク/ニューウェーブの再起動だった。
音楽スタイルと影響:Wire、The Stranglers、Buzzcocks、Blondieの鋭い断片
Elasticaの音楽は、ブリットポップというよりポストパンク再解釈である。
最大の特徴は、曲の短さとリフの強さだ。Justine Frischmannは、曲を長く引き伸ばすことを好まず、後年のインタビューで「自分は退屈しやすい。欲しいのは良い部分、ヴァースとコーラス、それで終わり」という趣旨の発言をしている。ウィキペディア
この考え方は、Elasticaのデビュー作に完璧に表れている。曲は2分前後で駆け抜ける。間奏も過剰な展開も少ない。リフ、歌、サビ、終わり。とても効率的で、無駄がない。
影響源として最もよく挙げられるのはWireである。特に
“Connection”はWireの“Three Girl Rhumba”との類似を指摘され、“Line Up”もWireの“I Am the Fly”との関係で問題になった。さらに“Waking Up”はThe Stranglersの“No More Heroes” に似ているとして訴訟になり、いずれも最終的には法廷外で和解した。
この盗作/引用問題は、Elasticaを語るうえで避けられない。しかし、重要なのは、彼女たちが単に過去のリフを借りただけではないという点だ。Elasticaは、70年代末のポストパンクの断片を90年代のポップ・フォーマットに再編集した。リフは鋭く、曲はポップで、歌詞は都会的。まるで古いパンクの刃物を、新しいファッションの中に隠し持っていたようなバンドである。
代表曲の楽曲解説
“Stutter”:性的なもどかしさを笑い飛ばすデビュー曲
“Stutter” は、Elasticaのデビューシングルである。タイトルは「どもる」「つっかえる」という意味を持つが、歌詞では性的な不調や関係のぎこちなさが皮肉っぽく歌われる。
この曲でElasticaは、最初から自分たちの立ち位置を示した。女性ボーカルのロックバンドだからといって、可愛らしく振る舞わない。恋愛を甘く歌わない。むしろ、欲望、失敗、気まずさをクールに笑う。
曲は短く、ギターは鋭い。Justine Frischmannの声は、熱唱ではなく、半分話すように置かれる。この“感情を出しすぎないかっこよさ”がElasticaの核である。
“Line Up”:ポップスター製造装置への皮肉
“Line Up” は、Elastica初期の代表曲である。ギターリフは硬く、リズムは直線的で、サビは非常にキャッチーだ。Wireの影響を指摘された曲でもあるが、Elasticaらしい速度感とポップな切れ味がある。
歌詞は、音楽業界やメディアに並ばされること、見せ物にされることへの皮肉として読める。ブリットポップの渦中で、Frischmann自身がメディアに消費されていたことを考えると、この曲には自画像的な鋭さもある。
“Line up”、つまり並べ。整列しろ。商品になれ。Elasticaはそれに乗りながら、同時にそれを笑っていた。
“Connection”:Elastica最大の名曲、3音のリフが開く90年代の扉
“Connection”は、Elastica最大の代表曲である。イントロのギターリフは、90年代英国ロックの中でも最もすぐ分かるフレーズの一つだ。Wireの“Three Girl Rhumba” との類似で有名だが、Elastica版はそこから独自のポップな爆発へつながっていく。
この曲の魅力は、タイトルそのものにある。“Connection”は、人と人のつながりでもあり、電話や通信でもあり、音楽業界のコネでもあり、性的な接続でもある。歌詞は曖昧で、その多義性が曲を強くしている。
Elasticaはここで、ポストパンクのミニマリズムを、90年代のラジオに届くポップソングへ変換した。短く、鋭く、踊れる。ブリットポップの中でも、これほど無駄のない曲は多くない。
“Waking Up”:怠惰と自己嫌悪を高らかに鳴らす
“Waking Up”は、1995年のアルバム直前にリリースされたシングルで、UKシングルチャート13位を記録した。The Stranglersの“No More Heroes” との類似をめぐる訴訟もあり、最終的にThe Stranglers側が共作者としてクレジットされる形になった。ウィキペディア
曲のテーマは、起きられないこと、何者にもなれないこと、怠惰と自己嫌悪だ。だが、サウンドは非常に痛快である。ギターは太く、サビは強く、まるで「ダメな自分」を祝うような勢いがある。
この曲はElasticaの皮肉なポップ感覚をよく示している。人生が停滞している。だが、曲は前へ進む。この矛盾が気持ちいい。
“Car Song”:車、欲望、速度のポップ・パンク
“Car Song ” は、デビューアルバムの中でもElasticaらしい性的なユーモアとスピード感を持つ曲である。車はロックにおいて自由や逃走の象徴だが、Elasticaの手にかかると、そこに欲望や身体感覚も加わる。
この曲は短く、軽く、だがかなり鋭い。Frischmannの声は感情を盛りすぎず、むしろ冷静に欲望を扱う。女性が欲望の対象としてではなく、欲望する側として歌う。その態度は、当時の英国ロックにおいてかなり重要だった。
“Annie”:メロディの甘さとニューウェーブ感
“Annie” は、Elasticaの中では比較的メロディアスで、少し柔らかい曲である。しかし、柔らかいと言っても甘すぎない。ギターの質感は相変わらず鋭く、曲は引き締まっている。
Elasticaのデビュー作は、鋭いリフの印象が強いが、実はメロディの書き方も上手い。
“Annie” のような曲を聴くと、彼女たちが単に過去のリフを引用するバンドではなく、ポップソングとしてのフックを作れるバンドだったことが分かる。
“Never Here”:不在を歌う、少し陰のある名曲
“Never Here ” は、デビューアルバムの中でもやや内省的な曲である。タイトルは「決してここにいない」。Elasticaの曲には、軽さと同時に、都市的な不在感がある。人はいるのに、心はそこにいない。関係はあるのに、接続されていない。
この曲では、Elasticaのクールさが少し寂しさに傾く。Frischmannの声は相変わらず抑制されているが、その抑制が逆に感情を際立たせる。
“2:1”:不気味なミニマリズムと映画的な空気
“2:1”は、Elasticaの中でも特に不穏で、ミニマルな曲である。後に映画『Trainspotting』 のサウンドトラックにも使われたことで知られる。曲の冷たさ、反復感、少し薬物的な浮遊感は、同映画の空気と非常によく合っている。
Elasticaはポップなシングルの印象が強いが、こうした曲ではポストパンク/アートロック的な暗さも見せる。
“2:1” は、彼女たちが単なるブリットポップの陽気なバンドではなかったことを示す重要曲である。
“Mad Dog God Dam”:The Menaceの混沌を告げる再出発
“Mad Dog God Dam”は、2000年のセカンドアルバムThe Menaceの冒頭を飾る曲である。デビュー作の鋭く整理されたミニマリズムとは違い、ここではもっと雑で、混沌としていて、電子音やノイズも前に出る。
The QuietusはThe Menaceについて、当時の周囲のロックとはかなり違い、初期曲の緊急感を奇妙なシンセやメガホン的な叫びで泥まみれにした作品として評価している。The Quietus
“Mad Dog God Dam” は、その変化を一発で示す曲だ。
“Generator”:壊れた機械のような後期Elastica
“Generator”もThe Menaceを象徴する曲である。デビュー作のクリーンな切れ味に比べ、音がざらつき、より実験的だ。まるで壊れかけの機械がまだ動いているような曲である。
Elasticaの後期は、よく“失敗したセカンド”として語られる。しかし、今聴くと、彼女たちは単にデビュー作を再現したくなかったのだと分かる。
“Generator” には、その拒否と混乱がある。
“How He Wrote Elastica Man”:The FallとMark E. Smithとの奇妙な接続
“How He Wrote Elastica Man”は、The FallのMark E. Smithが参加した曲である。タイトルからしてThe Fallの“How I Wrote ‘Elastic Man’” への明確な参照であり、Elasticaが自分たちのポストパンク的ルーツをかなり自覚的に扱っていたことが分かる。
この曲は、Elasticaの中でも特にアートパンク的で、ポップなヒット曲からは遠い。しかし、Frischmannがただ“売れる曲”を作りたかったわけではなく、ポストパンクの奇妙さそのものを愛していたことが伝わる。
アルバムごとの進化
Elastica:短く、鋭く、完璧に近いデビューアルバム
1995年のElasticaは、90年代英国ロックを代表するデビューアルバムである。1995年3月13日にリリースされ、UKアルバムチャート1位を獲得した。アルバムはMercury Music Prizeにもノミネートされ、“Connection”、“Line Up”、“Waking Up”、
“Stutter” などを収録している。ウィキペディア
このアルバムの最大の魅力は、無駄のなさである。曲が短い。リフが強い。歌詞が鋭い。アルバム全体が約40分もないのに、印象は非常に濃い。Frischmannの言う「良い部分だけを残す」という姿勢が徹底されている。
また、女性だけ/女性中心のバンドとしてのかっこよさも大きい。Justine FrischmannとDonna Matthewsのギター、Annie Hollandのベース、Justin Welchのドラムが作る音は、軽くて鋭く、都会的だ。セクシーだが媚びない。クールだが冷たすぎない。
ただし、このアルバムには盗作/引用問題もつきまとう。WireとThe Stranglersとの類似をめぐる訴訟は、Elasticaの評価に長く影を落とした。だが、たとえその影を含めても、Elasticaが90年代の重要作であることは変わらない。過去のポストパンクを90年代のポップ文化へ再起動した、非常に鮮烈なアルバムである。
6 Track EP:長い沈黙の中間報告
1999年の6 Track EPは、デビュー作からセカンドアルバムまでの長い空白期に発表された作品である。Elasticaは1995年の成功後、すぐに次の作品を出すことができなかった。制作は難航し、メンバーは入れ替わり、バンドの方向性も揺れた。
このEPは、その混乱の中間報告のような作品だ。完成されたデビュー作の続編というより、壊れかけたバンドが新しい形を探している記録である。
Pitchforkは、Elasticaがフォローアップ制作で大きな時間と資金を費やし、最終的にパッチワーク的なEPを残したことに触れている。Pitchfork
この時期のElasticaは、まさにブリットポップの成功の後始末に苦しんでいた。
The Menace:迷走か、再発明か
2000年のThe Menaceは、Elasticaのセカンドにして最後のスタジオアルバムである。発表当時は、デビュー作ほどの熱狂を得られなかった。Pitchforkは、同作が2000年にようやく発表されたものの、UKチャート24位にとどまり、短期間でチャートから消えたと振り返っている。Pitchfork
しかし、時間が経つにつれてThe Menaceは少しずつ再評価されている。The Quietusは、同作が当時のブリットポップ残党ともポストロック勢とも違う、奇妙で活気のある作品だったと論じている。The Quietus
このアルバムは、確かに散漫である。デビュー作のような一貫した鋭さはない。電子音、ノイズ、The Fall的な不条理、ニューウェーブ、デモっぽい荒さが混ざる。だが、その散漫さは、Elasticaが“Connectionのバンド”として固定されることを拒んだ結果でもある。
The Menaceは、名盤というより、解体されていくバンドの記録である。だが、その壊れ方は興味深い。きれいに終わらないところまで含めて、Elasticaらしい。
Justine Frischmannという存在:クール、知性、性的主体性
Elasticaの最大の魅力は、Justine Frischmannの存在である。彼女は、90年代英国ロックにおける最も印象的なフロントパーソンの一人だった。
彼女の声は、派手な歌唱力で圧倒するタイプではない。むしろ、淡々としている。少し低く、少し投げやりで、少し笑っているようにも聞こえる。その声が、Elasticaのリフと非常によく合った。
また、Frischmannのイメージは当時の女性ロック・ミュージシャン像を更新した。彼女は過剰にフェミニンに演出されず、アンドロジナスで、知的で、都会的だった。歌詞でも、女性が欲望の対象としてではなく、欲望する主体として描かれる。
“Stutter”や“Car Song” はその典型である。
一方で、彼女はメディアから私生活を過剰に消費された人物でもある。SuedeのBrett Anderson、BlurのDamon Albarnとの関係ばかりが語られることに、彼女自身は強い違和感を持っていた。だからこそElasticaは、音楽で評価されることを求めた。ウィキペディア
現在のFrischmannは音楽から離れ、視覚芸術家として活動している。近年のインタビューでは、Elastica再結成への意欲は薄く、絵画こそが自分の表現媒体だと語っている。stereoembersmagazine.com
この潔さも、彼女らしい。
Donna Matthews、Annie Holland、Justin Welch:デビュー作を支えたバンドの鋭さ
ElasticaはJustine Frischmannのバンドとして語られがちだが、初期メンバーの存在は非常に大きい。
Donna Matthewsのギターとボーカルは、デビュー作の鋭さに欠かせない。彼女の演奏は、Frischmannのリフと絡み合い、曲にパンク的な勢いを与えた。また、彼女の存在によってElasticaは単なるフロントウーマンのプロジェクトではなく、バンドとしての厚みを持った。
Annie Hollandのベースは、Elasticaの曲を引き締めている。ポストパンクにおいてベースは非常に重要だ。ギターが鋭く切り込む一方で、ベースが曲の腰を作る。
Justin Welchのドラムは、Elasticaの直線的なスピード感を支えた。Elasticaの曲は装飾が少ないため、ドラムの推進力がそのまま曲の強さになる。
この4人のバランスがあったからこそ、Elasticaはあれほどコンパクトで強いアルバムになった。後期にメンバーが変わると、その緊張感は少しずつ変質していった。
盗作論争:Elasticaの評価を複雑にした“引用”の問題
Elasticaを語るうえで、WireやThe Stranglersとの類似問題は避けられない。
“Connection”はWireの“Three Girl Rhumba”、“Line Up”はWireの“I Am the Fly”、
“Waking Up”はThe Stranglersの“No More Heroes”との類似を指摘された。訴訟は最終的に法廷外で和解した。“Waking Up” については、The Stranglers側が共作者としてクレジットされ、ロイヤリティの一部を受け取る形になったとされる。
では、Elasticaは単なる盗作バンドなのか。私はそうは思わない。もちろん、類似があまりに明確だった曲もある。その批判は正当だ。しかし同時に、Elasticaはポストパンクのリフを90年代のポップへ変換する編集能力に優れていた。引用の問題を含んだうえで、彼女たちの音楽は当時の若いリスナーに新鮮に響いた。
ロックは常に引用と再編集の歴史でもある。Elasticaは、その境界線をかなり危うく踏み越えたバンドだった。だからこそ、彼女たちの音楽にはスリルがある。
ブリットポップの中でのElastica:OasisでもBlurでもない、鋭い第三の位置
Elasticaはブリットポップに分類されることが多い。しかし、音楽的にはOasisやBlurとはかなり違う。
OasisはThe Beatles、
The Rolling Stones 、The Whoなどのクラシック・ロック的な大きさを受け継いだバンドである。Blurは英国社会の観察眼、Kinks的なポップ、アートスクール的な知性を持っていた。
Elasticaは、そのどちらでもない。彼女たちはもっと短く、もっと硬く、もっと都会的だ。影響源は60年代よりも、70年代末のポストパンクとニューウェーブに近い。Frischmann自身も、Oasisと一緒にされることには違和感を持っていたとされる。ウィキペディア
だからElasticaは、ブリットポップの中心にいながら、実はブリットポップから少し外れたバンドだった。このズレが、彼女たちを今も面白くしている。
M.I.A.との接続:Elasticaから2000年代ポップへの見えない線
Elasticaの後史で重要なのが、M.I.A.との関係である。Justine FrischmannはM.I.A.の初期活動を支援し、彼女のブレイク曲
“Galang” を共作した。Pitchforkは、ElasticaとM.I.A.を結ぶ線を、英国ポップにおける重要な継承関係として論じている。Pitchfork
これは非常に興味深い。Elasticaの音楽は、ポストパンクの断片を切り貼りして90年代ポップにしたものだった。一方、M.I.A.はダンスホール、エレクトロ、ヒップホップ、世界各地のリズムを切り貼りして2000年代の新しいポップを作った。
つまり、Frischmannの“編集する感覚”は、Elasticaの後も別の形で受け継がれた。Elasticaの短い活動は終わったが、その精神はM.I.A.の初期作品の中に、別の形で残っている。
影響を受けたアーティストと音楽
Elasticaの音楽には、
Wire 、The Stranglers、
Buzzcocks 、Blondie、Talking Heads、The Fall、
New Order 、
Brian Eno 、
The Human League 、The Slits、X-Ray Spex、Happy Mondaysなどの影響が感じられる。
特に重要なのは、ポストパンクのミニマリズムとニューウェーブのポップ感覚である。Elasticaは、複雑な技巧よりも、リフと反復と態度を重視した。曲を短く切り詰める感覚は、WireのPink Flag的でもある。
影響を与えた音楽シーン:短い曲、鋭い女性像、ポストパンク・リバイバルへの伏線
Elasticaは、後のポストパンク・リバイバルにも少なからず影響を与えたと考えられる。The Strokes、Yeah Yeah Yeahs、Franz Ferdinand、The Libertines、Bloc Party、Art Brutなど、2000年代初頭のギター・バンドには、短く鋭いリフとニューウェーブ的なクールさを再評価する流れがあった。
もちろん、その直接の源流はWireやGang of Four、Television、The Fallなどにある。しかし、90年代にその感覚をポップな形で再提示したバンドとして、Elasticaの存在は大きい。
また、女性ロック・フロントパーソン像としても、Justine Frischmannの影響は無視できない。彼女は“女性らしさ”を過剰に演じることなく、知的で、性的で、クールなロック像を提示した。
他アーティストとの比較:Sleeper、Echobelly、Pulp、Wireとの違い
Elasticaは、同時代のSleeperやEchobellyと比較されることがある。いずれも女性ボーカルを擁するブリットポップ期のバンドだ。しかしSleeperがよりポップで日常的、Echobellyがよりメロディアスで社会的な歌詞を持っていたのに対し、Elasticaはもっとポストパンク的で、曲が鋭く、クールである。
Pulpと比べると、どちらも性と都市生活を皮肉に描く。しかしPulpはJarvis Cockerの語りと観察が中心で、よりドラマティックだ。Elasticaはもっと短く、もっと乾いている。
Wireと比べると、Elasticaは明らかに影響を受けている。ただしWireがよりアートパンク的で冷たい実験性を持つのに対し、Elasticaはそのリフをもっとポップでセクシーな90年代ロックへ変換した。
文化的意義:Elasticaは“90年代の速さ”を最も美しく保存したバンドである
Elasticaの文化的意義は、90年代英国ロックの中で、短さ、鋭さ、クールさを極限まで磨いたことにある。
彼女たちは大きな感動を演出しない。
ギターソロで泣かせない。
長いアンセムで観客を抱きしめない。
かわりに、2分半で切り込む。
リフを鳴らし、皮肉を言い、すぐ去る。
この潔さが、今聴いても新鮮だ。Elasticaのデビュー作は、90年代の雑誌、クラブ、タバコ、安い酒、タイトなTシャツ、短い恋、クールなふり、すべてが一瞬で燃え尽きる空気を保存している。
まとめ:Elasticaは、ブリットポップの中で最も短く鋭い閃光だった
Elasticaは、1990年代英国ロックの中で非常に短く、しかし強烈に輝いたバンドである。Justine Frischmannを中心に、彼女たちはポストパンク、ニューウェーブ、パンクの鋭い断片を90年代ポップへ変換し、“Connection”、“Stutter”、“Line Up”、
“Waking Up” といった名曲を残した。
Elasticaは、短く、無駄なく、鋭い90年代ロックの名盤である。
6 Track EPは、長い沈黙の中でバンドの迷いを映した中間報告である。
The Menaceは、デビュー作の再現を拒み、混沌と実験へ向かった問題作である。
Elasticaの音楽は、長くない。
だが、残る。
リフは鋭い。
歌は短い。
態度はクール。
欲望は隠さない。
Elasticaとは、ブリットポップの華やかな時代に、ポストパンクの刃物をポケットに忍ばせて現れた、最もスマートで危険な短命バンドである。
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