Dreams by The Cranberries(1993)楽曲解説

Spotifyジャケット画像

1. 歌詞の概要

「Dreams」は、アイルランドのオルタナティヴ・ロック・バンド**The Cranberries(クランベリーズ)**が1993年に発表したデビューアルバム『Everybody Else Is Doing It, So Why Can’t We?』のファーストシングルであり、純粋な恋のはじまりと、そのときめきに満ちた“夢見心地”を描いた珠玉のラブソングである。

この曲の主人公は、初めて本気の恋に落ちた女性。彼女は、自分がこれまで知らなかった感情の渦に巻き込まれ、自分自身が変わっていく感覚と、恋によって生き方すら変えられてしまう可能性に驚き、そして喜んでいる
歌詞には“夢(Dreams)”という言葉が象徴するように、現実と非現実の境界が溶け合うような、多幸感と恍惚のムードが漂っている。

一方で、この“夢”には不安も影を落としておらず、まるで“この幸福はいつか壊れてしまうのではないか”という一抹の儚さも感じられる。
そうした高揚感と繊細な傷つきやすさが同居した感情の揺らぎこそが、「Dreams」という曲の最大の魅力なのである。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Dreams」は、バンドにヴォーカリストのドロレス・オリオーダン(Dolores O’Riordan)が加入してまもなく書かれた楽曲であり、彼女の初恋の体験がベースになっている
曲中の語り手は、恋に落ちて初めて「誰かの存在が自分のすべてを変えてしまう」ことを体感している。

ギタリストのノエル・ホーガンが書いたデモ音源に、ドロレスが歌詞を乗せて完成したこの曲は、バンドの原点を象徴する作品でもある。
音楽的には、当時流行していたグランジやブリットポップの潮流とは異なり、アイリッシュ・ポップとインディー・ロックを融合させた軽やかなドリームポップのような音像を提示している。

また、「Dreams」は、リリース当初は注目されなかったものの、アメリカのラジオで徐々に人気を博し、MTVでも繰り返しオンエアされたことで、The Cranberriesが国際的なブレイクを果たすきっかけとなった曲となった。

3. 歌詞の抜粋と和訳

“Oh, my life is changing every day / In every possible way”
ああ 私の人生は毎日変わっていくの
あらゆる形で

“And oh, my dreams / It’s never quite as it seems”
そして 私の夢たちは
思っていたのとは ちょっと違っていた

“I know I felt like this before / But now I’m feeling it even more”
こんな気持ちになったことはあるけど
今はもっと深く感じているの

“Because it came from you”
だって それはあなたから来たものだから

“You’re a dream to me”
あなたは 私にとって夢みたいな人

引用元:Genius

4. 歌詞の考察

この曲に流れるのは、“初恋”という感情が持つ圧倒的な純粋さと、その高揚感に酔いしれる心の描写である。
「Oh, my life is changing every day」という冒頭のラインには、恋に落ちた瞬間から日常が一変していく感覚がリアルに表現されている。

「It’s never quite as it seems」というフレーズには、夢や恋に対する期待と現実のわずかなズレが描かれており、それが決してネガティブではなく、むしろ「想像よりももっと素敵だった」という驚きとして語られているのが印象的だ。

「You’re a dream to me」という一節は、恋する相手の存在そのものが“夢”と等価であるという強い理想化を含んでいるが、それは若さゆえの幻想ではなく、むしろ本物の感情に気づいた人間だけが言える率直な真実とも取れる。
ドロレスの声の揺らぎ、感情の階調、そしてメロディの透明感が、この歌詞の持つ陶酔と儚さのコントラストを見事に際立たせている。

この曲は、“恋をしたすべての人が通る道”を、特別に美しい言葉と音楽で彩った記録であり、聴くたびに人が人を想うときの無垢さや傷つきやすさを呼び覚ますような力を持っている。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • “There She Goes” by The La’s
     恋に落ちた瞬間の高揚をスウィートに描いた、90年代UKポップの名曲。

  • Just Like Heaven” by The Cure
     夢のような恋と、それが消えていく瞬間を、軽やかに描いたラブソング。
  • “Only in Dreams” by Weezer
     恋の空想と現実のギャップをユーモラスに、そして切なく描いた青春ロック。

  • “Fade Into You” by Mazzy Star
     恋することの陶酔と孤独が共存する、美しく悲しいドリームポップ。

  • “You and Me Song” by The Wannadies
     恋の中で変わっていく自分を肯定する、明るくピュアなオルタナティヴ・ラブソング。

6. 恋に落ちることは、世界が変わること——「Dreams」に込められた青春の記憶

「Dreams」は、誰もがかつて感じたであろう**“世界が一変するような恋の感覚”をそのまま音にした奇跡のような楽曲**である。
恋は決して現実的な選択ではなく、感情の渦に身を任せること。でもだからこそ、それは“夢”なのだと、この曲は教えてくれる。

そしてその夢は、手が届くものかもしれないし、そうでないかもしれない。
だが大切なのは、その感情が生まれたという事実。「あなたがいたから、私はこんなふうに変わった」——その想いこそが、“恋”の本質であり、美しさなのだ。

ドロレスの声は、その瞬間の繊細な変化を、涙が浮かびそうなほどの透明感で包み込む。
「Dreams」は、恋することの奇跡を信じさせてくれる、永遠のラブソングである。

コメント

タイトルとURLをコピーしました