
発売日:2003年9月9日
ジャンル:ポップ・ロック/パワー・ポップ/フォーク・ロック/ギター・ポップ/オルタナティヴ・ポップ
概要
The Banglesの4作目のスタジオ・アルバム『Doll Revolution』は、1988年の『Everything』以来、約15年ぶりに発表された復活作である。1980年代に「Manic Monday」「Walk Like an Egyptian」「Eternal Flame」などのヒットで世界的な人気を獲得したThe Banglesは、単なるポップ・ヒット・グループではなく、1960年代のギター・ポップ、フォーク・ロック、ガレージ・ロック、パワー・ポップを80年代のメインストリームへ接続したバンドだった。しかし、商業的成功の拡大とともに、メディアがSusanna Hoffsを中心的に扱う構図が強まり、グループ内のバランスは崩れていった。1989年に一度解散したThe Banglesにとって、『Doll Revolution』はその歴史を受け止めたうえで、再び「バンド」として鳴るための作品である。
このアルバムの大きな意味は、The Banglesが80年代のノスタルジーだけに頼らず、自分たちの原点であるギター・ポップ・バンドとしての姿を再確認している点にある。『Doll Revolution』には、過去の大ヒット曲の再現を狙ったような派手なシングル志向は少ない。むしろ、メンバーそれぞれの声、ハーモニー、ギターの響き、簡潔なソングライティング、少しサイケデリックな色合いが中心に置かれている。1980年代の巨大なプロダクションから距離を取り、より自然でバンドらしい音像へ戻っていることが、本作の重要な特徴である。
タイトル曲「Tear Off Your Own Head (It’s a Doll Revolution)」は、Elvis Costelloが書いた楽曲である。この選曲は、本作の姿勢を象徴している。人形のように扱われることへの反発、外部から与えられたイメージを壊し、自分自身の声を取り戻すというテーマが、The Banglesの復活と強く重なる。1980年代の彼女たちは、女性だけのロック・バンドとして注目される一方、メディアや業界から特定のイメージに押し込められることも多かった。『Doll Revolution』というタイトルには、そのイメージからの解放、つまり「人形の革命」という意味が込められている。
メンバーはSusanna Hoffs、Vicki Peterson、Debbi Peterson、Michael Steeleという黄金期の4人である。再結成後のアルバムとして、全員が関わっていることは大きい。The Banglesの本質は、Hoffsだけの声ではなく、Peterson姉妹のギターとリズム、Steeleの低くクールな声、そして4人のハーモニーが交差するところにある。『Doll Revolution』では、その複数の声によるバンド性がしっかりと戻っている。特に、リード・ヴォーカルが曲ごとに交代する構成は、彼女たちが本来持っていた民主的な魅力を再確認させる。
音楽的には、1980年代の『Different Light』や『Everything』と比べて、よりオーガニックで、ギター中心のサウンドが目立つ。60年代ポップ、The Byrds的なジャングリー・ギター、Big Star以降のパワー・ポップ、The Beatles的なメロディ感覚、さらには90年代以降のオルタナティヴ・ポップの落ち着いた音作りが自然に混ざっている。80年代の大きなドラムやシンセサイザーのきらびやかさは後退し、その代わりに、楽曲の芯とハーモニーが前に出ている。
『Doll Revolution』は、復活作でありながら、単純な過去の再現ではない。The Banglesはここで、自分たちの年齢やキャリアを隠すのではなく、それを音楽の中に落ち着いた形で反映させている。若い恋の高揚感だけではなく、自己認識、関係の変化、失ったもの、取り戻したもの、自由への欲求がテーマとして現れる。80年代のThe Banglesが持っていた甘酸っぱいポップ感覚は残っているが、本作ではそこに成熟した距離感が加わっている。
日本のリスナーにとって『Doll Revolution』は、「Eternal Flame」や「Manic Monday」の印象だけでThe Banglesを聴いている場合、バンドの別の側面を知るための重要な作品である。ここにあるのは、ヒット・チャートを席巻するための80年代ポップではなく、ルーツに立ち返ったギター・バンドとしてのThe Banglesである。ペイズリー・アンダーグラウンド、パワー・ポップ、フォーク・ロック、60年代ポップに関心のあるリスナーには、本作の落ち着いた魅力が伝わりやすい。
全曲レビュー
1. Tear Off Your Own Head (It’s a Doll Revolution)
アルバム冒頭を飾る「Tear Off Your Own Head (It’s a Doll Revolution)」は、Elvis Costelloによる楽曲であり、本作全体のテーマを象徴する重要なオープニングである。タイトルからして挑発的で、「自分の頭を引きちぎれ」という過激なイメージと、「人形の革命」という言葉が結びついている。これは、外部から与えられたかわいらしい人形的イメージを破壊し、自分自身の意志を取り戻すという意味に読める。
The Banglesにとって、このテーマは非常に切実である。80年代の成功期、彼女たちは女性だけのバンドとして称賛される一方で、ルックスやイメージが音楽性以上に強調されることも多かった。特にSusanna Hoffsへの注目が集中したことで、バンドとしての均衡が崩れた面もある。この曲を復活作の冒頭に置くことは、その過去に対する批評であり、再出発の宣言でもある。
音楽的には、ギターが前面に出た力強いポップ・ロックである。リズムはタイトで、メロディはCostelloらしいひねりを持ちながらも、The Banglesのハーモニーによって明るく開ける。サビの力強さは、バンドが再び自分たちの声を取り戻したことを印象づける。Hoffsのヴォーカルは甘さを持ちながらも、ここでは芯の強さが前面に出ている。
この曲は、単なるカヴァーではなく、The Banglesの再結成におけるマニフェストとして機能している。人形として見られることを拒否し、バンドとして自らの頭で考え、自らの音を鳴らす。その姿勢が、アルバム全体の出発点になっている。
2. Stealing Rosemary
「Stealing Rosemary」は、The Banglesらしいメロディックなギター・ポップであり、復活後のバンドが持つ落ち着いた成熟を感じさせる楽曲である。タイトルの「Rosemary」は人名としても植物としても読める。ローズマリーは記憶や追悼と結びつく象徴でもあり、この曲にはどこか過去をたどるような空気がある。
音楽的には、ジャングリーなギターと柔らかなハーモニーが中心で、60年代フォーク・ロックやパワー・ポップの影響が感じられる。派手なプロダクションではなく、バンドの演奏と声の重なりが自然に前に出ている。The Banglesの本来の魅力は、こうした過度に飾らないギター・ポップにこそある。
歌詞では、何かを盗む、あるいは取り戻すというイメージが浮かぶ。記憶、愛情、過去の時間、誰かの名前。そのいずれも、明確に説明されるのではなく、断片的な情景として提示される。The Banglesの歌詞は、シンプルな恋愛歌であっても、時に少し謎めいた響きを持つ。この曲もその系譜にある。
「Stealing Rosemary」は、復活作としての『Doll Revolution』が過去を単に懐かしむのではなく、過去の断片を現在のバンド・サウンドの中に再配置していることを示している。派手さはないが、アルバムの温度を整える重要な一曲である。
3. Something That You Said
「Something That You Said」は、本作の中でも特にメロディが美しく、The Banglesのハーモニー・ポップとしての魅力がよく表れた楽曲である。タイトルは「あなたが言った何か」という意味で、会話の中の一言が感情や記憶を大きく動かすことを示している。恋愛や人間関係において、たった一つの言葉が関係の方向を変えてしまうことがある。この曲はその繊細な感覚を扱っている。
サウンドは、明るく透明感がありながら、どこか切なさを含んでいる。ギターはきらめくように鳴り、リズムは軽やかで、コーラスは非常に滑らかである。The Banglesの強みは、甘いメロディを単なる砂糖菓子のように終わらせず、少しの陰影を加える点にある。この曲でも、明るい音の中に微妙な不安が漂う。
歌詞では、相手の言葉が忘れられず、心の中で反復される。具体的に何を言われたのかは曖昧だが、その曖昧さがかえって普遍性を生む。人は、言葉の内容そのものよりも、それが発せられた瞬間の空気や感情に囚われることがある。この曲はその心理をポップな形で表現している。
「Something That You Said」は、The Banglesが再結成後も優れたメロディ・メーカーであることを示す曲である。80年代のヒット曲のような大きな派手さはないが、繰り返し聴くほどにハーモニーと旋律の良さが浮かび上がる。
4. Ask Me No Questions
「Ask Me No Questions」は、タイトルが示す通り、問い詰めないでほしい、深く聞かないでほしいという心理的な距離をテーマにした楽曲である。The Banglesの復活作において、こうした距離感の歌が置かれていることは興味深い。長い空白期間を経たバンドにとって、過去をすべて説明することはできない。言葉にしないまま残る感情がある。
音楽的には、やや抑制されたギター・ポップで、明るさよりも落ち着いたムードが前面に出ている。リズムは堅実で、ギターは曲の輪郭を丁寧に作る。コーラスはThe Banglesらしく美しいが、楽曲全体には少し内省的な空気がある。
歌詞では、質問を拒むことで、語り手の中にある秘密や傷が暗示される。これは恋愛の歌としても読めるが、自己防衛の歌としても読める。人は時に、過去や感情を他者に説明するよりも、沈黙によって守ろうとする。この曲はその感覚を静かに描いている。
「Ask Me No Questions」は、アルバムの中で派手な瞬間を作る曲ではないが、『Doll Revolution』の成熟した側面を支える。The Banglesが若い頃の甘酸っぱいポップ感覚だけでなく、言葉にできない距離や沈黙を扱えるバンドになっていることを示している。
5. The Rain Song
「The Rain Song」は、タイトル通り雨をモチーフにした楽曲であり、The Banglesの持つフォーク・ロック的な柔らかさが感じられる一曲である。雨はポップ・ミュージックにおいて、記憶、悲しみ、浄化、停滞、再生を象徴することが多い。この曲でも、雨は単なる天候ではなく、内面の状態を映すイメージとして機能している。
音楽的には、穏やかでメロディアスな構成で、ギターの響きとヴォーカルの重なりが中心となる。1980年代的な大きな音像ではなく、より自然なアンサンブルが重視されている点が本作らしい。The Banglesの声の重なりは、雨の層のように柔らかく曲全体を包む。
歌詞では、雨の中で感情を見つめ直すような感覚が描かれる。雨は憂鬱であると同時に、過去を洗い流すものでもある。The Banglesの歌唱は、感情を大げさに劇化せず、控えめに漂わせる。その抑制が、曲の余韻を深めている。
「The Rain Song」は、アルバムの中で静かな美しさを担う曲である。派手な復活宣言ではなく、時間の経過と感情の沈殿を表現するような楽曲であり、『Doll Revolution』の落ち着いた成熟をよく示している。
6. Nickel Romeo
「Nickel Romeo」は、タイトルからして少し皮肉とユーモアを感じさせる楽曲である。「安っぽいロメオ」とでも解釈できるこの言葉は、恋愛における軽薄な男性像、あるいは自分を魅力的に見せようとするが中身の伴わない人物を連想させる。The Banglesは、恋愛を甘く描くだけでなく、相手を冷静に観察する視点も持っている。この曲はその側面が表れている。
音楽的には、比較的軽快なポップ・ロックで、ギターのリズムとメロディの明快さが印象的である。曲調は明るいが、歌詞の視点には皮肉がある。この明るさと批評性の組み合わせが、The Banglesらしい。60年代ポップやガレージ・ロックには、甘いメロディの中に辛辣なユーモアを潜ませる伝統があるが、この曲もその系譜にある。
歌詞では、ロマンティックなふりをする相手に対して、語り手が距離を置いているように感じられる。相手の言葉や振る舞いを完全には信じていない。ここでの女性像は、受け身ではなく、相手を見極める立場にある。これは『Doll Revolution』のタイトルが示す自己解放のテーマとも響き合う。
「Nickel Romeo」は、アルバムの中で軽妙なアクセントとして機能する。The Banglesのポップな明るさと、恋愛への冷静な観察眼が結びついた楽曲である。
7. Ride the Ride
「Ride the Ride」は、アルバム中盤に推進力を与えるロック寄りの楽曲である。タイトルは、流れに乗る、体験そのものに身を任せるという意味を持つ。再結成後のThe Banglesにとって、この言葉は単なる恋愛や人生の比喩にとどまらず、再びバンドとして進むことへの姿勢にも聞こえる。
音楽的には、ギターの存在感が強く、The Banglesのロック・バンドとしての骨格が出ている。リズムは前向きで、曲全体にドライヴ感がある。80年代の彼女たちがしばしば華やかなポップ・プロダクションの中で聴かれたのに対し、本作ではこうしたバンド・サウンドの手触りがより明確である。
歌詞では、状況を完全にコントロールするのではなく、その流れに乗って進んでいく感覚が描かれる。これは前向きさであると同時に、人生の不確かさを受け入れる姿勢でもある。The Banglesの復活作において、このようなテーマは自然に響く。長い空白を経た彼女たちは、過去を完全に取り戻すことはできないが、新しい流れに乗ることはできる。
「Ride the Ride」は、アルバムの中でエネルギーを補給する曲であり、The Banglesが再びギターを鳴らしながら前へ進む姿を感じさせる。大げさなアンセムではないが、バンドとしての生命力がよく表れている。
8. I Will Take Care of You
「I Will Take Care of You」は、優しさと保護をテーマにした楽曲であり、本作の中でも特に温かい印象を持つ一曲である。タイトルは「あなたを大切にする」「面倒を見る」という意味を持ち、恋愛だけでなく、友情、家族、仲間への思いとしても読める。再結成したThe Banglesがこのような曲を歌うことには、メンバー同士の関係を修復するような響きもある。
音楽的には、穏やかなメロディと柔らかなハーモニーが中心である。ギターは控えめに鳴り、声の重なりが曲の感情を支える。The Banglesのハーモニーは、単に美しいだけではなく、複数の人間が互いを支え合うような感覚を生む。この曲ではその特性が特に効果的である。
歌詞では、相手を守ること、支えることへの誠実な意志が表明される。若い恋愛の高揚感ではなく、関係を長く保つための思いやりが中心にある。『Doll Revolution』の成熟は、こうしたテーマに表れている。激しい自己主張だけでなく、他者をケアする姿勢もまた、自己を取り戻した後に可能になる関係性として描かれる。
「I Will Take Care of You」は、アルバムの中で感情的な深みを与える曲である。The Banglesの柔らかな側面がよく出ており、復活作に必要な温度を与えている。
9. Here Right Now
「Here Right Now」は、現在の瞬間に意識を向ける楽曲であり、『Doll Revolution』の中でも再出発の感覚が強い一曲である。タイトルは「今ここにいる」という非常にシンプルな言葉だが、長い解散期間を経たバンドにとっては大きな意味を持つ。過去の成功や傷ではなく、今この瞬間にバンドとして存在していること。その事実を確認する曲として聴くことができる。
音楽的には、明るく開かれたポップ・ロックで、メロディの親しみやすさが際立つ。ギターは軽快に鳴り、リズムも前向きである。The Banglesのコーラスは、曲に爽やかな広がりを与える。80年代的なきらびやかさではなく、より自然な明るさがある。
歌詞では、過去や未来に囚われず、現在の感情や関係を受け止める姿勢が描かれる。これは復活作において非常に重要なテーマである。The Banglesは過去のバンドであると同時に、今ここで新しい音を鳴らしているバンドでもある。この曲はその現在性を肯定している。
「Here Right Now」は、アルバムの中で非常にポジティヴな役割を持つ。懐古に沈まず、今のThe Banglesとしての存在を自然に示す楽曲である。
10. Single by Choice
「Single by Choice」は、タイトルが明確に示す通り、自分の意志で一人でいることを選ぶ女性を描いた楽曲である。The Banglesの復活作において、このようなテーマが置かれていることは非常に重要である。恋愛や結婚を当然の到達点とする価値観から距離を取り、自分の状態を自分で選ぶという姿勢が示されている。
音楽的には、軽快で少し皮肉の効いたポップ・ロックである。明るいメロディと、タイトルの持つ自立したメッセージが自然に結びついている。The Banglesの音楽には、女性の感情を甘く描くだけでなく、選択する主体としての女性を描く力がある。この曲はその現代的な側面をよく示す。
歌詞では、一人でいることが孤独や失敗としてではなく、選択として描かれる。これは2000年代のポップ・ロックにおいても重要なテーマであり、The Banglesが過去のバンドとしてではなく、時代に合った視点を持っていることを示している。自己決定の感覚は、アルバム全体の「Doll Revolution」というテーマとも強く響き合う。
「Single by Choice」は、本作の中でもメッセージ性がはっきりした楽曲である。人形のように誰かに所有されるのではなく、自分で自分の人生を選ぶ。その姿勢が、The Banglesらしい明るいギター・ポップの形で表現されている。
11. Lost at Sea
「Lost at Sea」は、タイトル通り、海で迷うことをモチーフにした楽曲である。海は、孤独、方向喪失、感情の深さ、広大な不安を象徴する。『Doll Revolution』の中では、比較的内省的で、少し夢幻的な印象を持つ曲である。
音楽的には、穏やかで広がりのあるサウンドが特徴で、ギターやコーラスが漂うように配置されている。The Banglesのサイケデリック・ポップ的な側面がここにも感じられる。明確なロックの推進力よりも、浮遊感と余韻が重視されている。
歌詞では、方向を見失う感覚が描かれる。恋愛の中で迷っているとも、人生の中で自分の位置を失っているとも読める。長いキャリアと解散期間を経たバンドが、このような迷いを歌うことには説得力がある。復活は明るいだけの出来事ではなく、自分たちがどこへ向かうのかを探す過程でもある。
「Lost at Sea」は、アルバムの中で静かな深みを生む楽曲である。The Banglesのメロディックな美しさと、少し不安定な心理描写が結びついている。
12. Song for a Good Son
「Song for a Good Son」は、タイトルから家族的なテーマを感じさせる楽曲である。「よい息子への歌」という言葉は、親子関係、成長、期待、愛情、あるいは別れを連想させる。The Banglesの80年代作品では恋愛テーマが目立っていたが、本作ではより広い人間関係や人生の時間が扱われる。この曲はその成熟した視野を示している。
音楽的には、落ち着いたトーンで、フォーク・ロック的な誠実さがある。ギターとヴォーカルが中心となり、過度な装飾はない。The Banglesのハーモニーは、ここでも曲の感情を柔らかく支える。派手なフックではなく、言葉とメロディの余韻で聴かせるタイプの曲である。
歌詞では、誰かを見守る視点が感じられる。息子という具体的な言葉があることで、曲には世代や時間の感覚が生まれる。The Banglesのメンバー自身も、80年代の若いバンドから、人生経験を重ねたアーティストへと変化している。その変化が、この曲の落ち着いた感情に反映されている。
「Song for a Good Son」は、The Banglesの成熟を感じさせる曲であり、『Doll Revolution』が単なる再結成のポップ・アルバムではなく、人生の時間を背負った作品であることを示している。
13. Mixed Messages
「Mixed Messages」は、曖昧な態度や矛盾したサインをテーマにした楽曲である。恋愛関係において、相手の言葉と行動が一致しないこと、近づいたり離れたりする態度に振り回されることはよくある。この曲は、その不安定なコミュニケーションをポップな形で描いている。
音楽的には、明るくキャッチーなギター・ポップで、The Banglesらしいハーモニーが印象的である。曲調は軽快だが、歌詞のテーマには不安や苛立ちが含まれている。この対比は、The Banglesの得意とする表現である。甘いメロディの中に、関係の複雑さを忍ばせる。
歌詞では、相手から送られるメッセージが一貫しないことへの困惑が描かれる。2000年代以降の視点では、メールや携帯電話を介したコミュニケーションの曖昧さとも重ねて聴くことができる。直接的な言葉だけでなく、態度や沈黙もまたメッセージになる。曲はその読みづらさを軽やかに表現している。
「Mixed Messages」は、The Banglesのポップな即効性がよく出た曲であり、アルバム終盤に親しみやすい勢いを与えている。恋愛の不確かさを明るいギター・ポップへ変換する手腕が光る。
14. Between the Two
「Between the Two」は、二つのものの間に立つ感覚をテーマにした楽曲である。タイトルは、二人の人物の間、二つの選択肢の間、過去と現在の間、あるいは自分の中の異なる感情の間を意味し得る。『Doll Revolution』全体が、過去のThe Banglesと現在のThe Banglesの間に立つ作品であることを考えると、この曲のタイトルは象徴的である。
音楽的には、やや内省的で、メロディには柔らかな陰影がある。ギターは穏やかに響き、ヴォーカルは過度に感情を押し出さず、落ち着いている。The Banglesのハーモニーは、曲の曖昧な感情を支えるように重なる。
歌詞では、どちらか一方に完全に決められない状態が描かれる。これは恋愛の三角関係としても読めるが、より広く、人生の選択や自己認識の問題としても読める。人はしばしば、明確な答えを出せない中間地点に置かれる。この曲は、その曖昧さを無理に解決しない。
「Between the Two」は、アルバムの終盤で静かな思索をもたらす楽曲である。The Banglesの成熟したポップ感覚がよく表れており、過去と現在の間に立つ復活作としての本作に深みを加えている。
15. Grateful
アルバムの最後を飾る「Grateful」は、タイトル通り感謝をテーマにした楽曲であり、『Doll Revolution』を穏やかで肯定的な余韻の中に閉じる。長い解散期間を経て、再びアルバムを完成させたThe Banglesが、最後に「感謝」を置くことには大きな意味がある。これはファンへの感謝であり、音楽を続けられることへの感謝であり、メンバー同士が再び同じ場所に立ったことへの感謝でもある。
音楽的には、温かく、落ち着いた雰囲気を持つ。大きなクライマックスで終わるのではなく、穏やかにアルバムを締めくくる構成である。The Banglesの声の重なりが、曲に柔らかな光を与えている。復活作の終曲として、過度なドラマではなく、静かな納得感を選んでいる点が印象的である。
歌詞では、過去の経験や現在のつながりに対する感謝が描かれる。『Doll Revolution』には、自立、選択、迷い、再出発といったテーマが多く含まれているが、最後に残るのは、そうした時間を経てなお音楽を鳴らせることへの肯定である。
「Grateful」は、The Banglesの再結成を単なるビジネス的な復活ではなく、時間を経た人間同士の再接続として感じさせる曲である。華やかなヒット曲ではないが、アルバムの締めくくりとして非常に誠実である。
総評
『Doll Revolution』は、The Banglesの復活作であると同時に、彼女たちが本来持っていたギター・ポップ・バンドとしての魅力を再確認するアルバムである。1980年代のThe Banglesは、チャート・ヒットの成功によって広く知られたが、その一方で、バンドとしての音楽的背景や複数の声による魅力が見えにくくなることもあった。本作は、その失われたバランスを取り戻そうとする作品である。
アルバム全体のサウンドは、過去の大ヒット曲の再現ではない。『Different Light』や『Everything』にあった80年代的なプロダクションの輝きは抑えられ、よりギター、ハーモニー、楽曲そのものの良さが前面に出ている。その意味で、『Doll Revolution』はThe Banglesの原点である『All Over the Place』に近い精神を持っている。ただし、若い頃の荒さではなく、長い時間を経た落ち着きと成熟が加わっている。
タイトルの『Doll Revolution』は非常に重要である。人形は、外から見られ、飾られ、動かされる存在である。The Banglesは80年代に、女性バンドとして消費される視線や、特定のメンバーだけに注目が集まるメディア構造に直面した。復活作で「人形の革命」を掲げることは、自分たちを外部のイメージから取り戻すことを意味する。冒頭の「Tear Off Your Own Head (It’s a Doll Revolution)」は、その宣言として非常に効果的である。
本作の魅力は、メンバー全員の声が再び機能している点にある。Susanna Hoffsの甘く少し神秘的な声、Vicki Petersonのギターとソングライティングの骨格、Debbi Petersonのロック的な勢い、Michael Steeleのクールで陰影のある存在感。The Banglesは、単一のフロントマンを中心にしたバンドではなく、複数の視点が交差するグループである。『Doll Revolution』では、その集合体としての魅力が自然に戻っている。
歌詞面では、若い恋愛の高揚感だけでなく、成熟した自己認識が目立つ。「Single by Choice」では自分の意志で一人でいることが肯定され、「Ask Me No Questions」では沈黙や距離が描かれ、「Lost at Sea」では方向喪失の感覚が表現され、「Grateful」では過去を経た感謝が示される。これは、80年代のThe Banglesとは異なる時間の重みである。彼女たちは若さを装うのではなく、経験を経たポップ・バンドとして歌っている。
音楽史的に見ると、『Doll Revolution』は2000年代初頭の再結成アルバムとして興味深い位置を占める。この時期、多くの80年代バンドが再評価され、再結成や復活作を発表した。しかし、その中には単なる懐古やヒット曲の再演に終わるものもあった。The Banglesの場合、本作は懐古に頼りきらず、バンドのルーツである60年代ポップ、フォーク・ロック、パワー・ポップを現在の耳で再構成している点に価値がある。
日本のリスナーにとって、『Doll Revolution』はThe Banglesの大ヒット曲だけを知っている場合にこそ聴く意味がある作品である。「Eternal Flame」のような大きなバラードはないが、The Banglesの本質であるギターの響き、メロディの良さ、複数の声のハーモニー、少しサイケデリックなポップ感覚が詰まっている。派手さよりも、長く聴ける楽曲の良さを重視したアルバムである。
総じて『Doll Revolution』は、The Banglesが自分たちの過去と向き合いながら、再び自分たちの名前で音を鳴らした作品である。大ヒット期の華やかさを期待すると地味に感じられるかもしれない。しかし、その地味さの中に、バンドとしての誠実さと成熟がある。人形として飾られるのではなく、ギターを持ち、声を重ね、自分たちの言葉で歌う。その姿勢こそが、このアルバムの核心である。
おすすめアルバム
1. All Over the Place by The Bangles
1984年発表のデビュー・アルバム。The Banglesの原点である60年代ギター・ポップ、ガレージ・ロック、フォーク・ロックへの愛情が最も生々しく表れた作品である。『Doll Revolution』のギター中心の自然な音作りを理解するうえで、最も関連性が高い。大ヒット前のバンドとしての勢いと、ペイズリー・アンダーグラウンド的な空気を味わえる。
2. Everything by The Bangles
1988年発表の3作目。The Banglesの80年代期の集大成であり、「Eternal Flame」「In Your Room」などを収録している。『Doll Revolution』はこの作品の後、長い空白を経て発表されたため、両作を比較すると、バンドが華やかな80年代ポップからより落ち着いたギター・ポップへ戻った変化が分かる。
3. Brutal Youth by Elvis Costello
1994年発表。『Doll Revolution』冒頭の「Tear Off Your Own Head (It’s a Doll Revolution)」を書いたElvis Costelloの90年代作品であり、パワー・ポップ、ニューウェイヴ、鋭い歌詞感覚が戻ったアルバムである。The Banglesがこの曲を選んだ背景を考えるうえで、Costelloのひねりのあるポップ感覚を知ることができる。
4. #1 Record by Big Star
1972年発表。パワー・ポップの古典的名盤であり、The Banglesを含む多くのギター・ポップ・バンドに影響を与えた作品である。きらめくギター、甘く切ないメロディ、簡潔でありながら深いソングライティングは、『Doll Revolution』の背後にある美学と強くつながっている。
5. Under the Covers, Vol. 1 by Matthew Sweet & Susanna Hoffs
2006年発表。Susanna HoffsとMatthew Sweetによる60年代カヴァー集であり、The Beatles、The Byrds、The Mamas & the Papasなど、The Banglesの音楽的ルーツを直接たどることができる。『Doll Revolution』にある60年代ポップへの愛情をより明確に理解するために関連性の高い作品である。

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