アルバムレビュー:Distant Light by The Hollies

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発売日: 1971年9月
ジャンル: ソフトロック、フォークロック、プログレッシブ・ポップ


黄昏に射す光——ポップスからの脱皮と再出発のドキュメント

Distant Light』は、イギリスのロックバンドThe Holliesが1971年に発表した通算11作目のスタジオアルバムであり、バンドの音楽的成熟と変容を如実に映し出す作品である。
このアルバムをもって、創設メンバーでリードシンガーのAllan Clarkeがいったん脱退(のち復帰)し、グループとしての節目となった点でも象徴的な一作である。

前作『Confessions of the Mind』(1970)で社会的テーマへの関心を強めていた彼らは、本作においてより洗練されたソフトロック、プログレッシブな要素、内省的なフォークサウンドへと接近。
レコーディングはロンドンのAbbey Road Studiosで行われ、当時としては珍しく16チャンネル録音による複雑なアレンジや、オーケストラとの融合、環境音の使用、壮大な構成力が試みられている。

そして何より、アルバム最後を飾る「Long Cool Woman (in a Black Dress)」の大ヒットにより、バンドはアメリカ市場で再ブレイクを果たす。
本作は、終わりと始まり、内省と躍動が交錯する、そんな移行期の傑作なのである。


全曲レビュー

1. What’s Wrong with the Way I Live?

シンプルでメロディアスなフォーク調の楽曲。
自由な生き方への疑問と反抗の精神がにじむ、控えめながらも芯の強いオープニング。

2. Look What We’ve Got

コーラスの美しさが際立つミディアムテンポのポップチューン。
失われゆくものへの愛惜と、それでも得たものの価値を噛みしめるような歌詞が印象的。

3. Hold On

切迫したリズムとエレクトリックなアレンジが特徴。
不安定な社会情勢の中での希望や持続をテーマにした、70年代的メッセージソング。

4. Pull Down the Blind

ダークなムードを持つスロー・バラード。
“ブラインドを下ろす”というイメージが、逃避や内向性、そして人間関係の終焉を象徴している。

5. To Do with Love

温かく包み込むようなバラード。
愛することの本質と、その行為に込められる祈りのような感情が繊細に描かれている。

6. Promised Land

フォークロック的なギターとオーケストラが融合。
理想郷=“約束の地”への憧れと現実のギャップが浮かび上がるドラマチックな一曲。

7. Long Dark Road

アメリカのカントリーロックを想起させるシンプルな構成。
孤独な旅路と再出発の決意を歌い上げた、静かに心に残る名曲。

8. You Know the Score

テンションの高いギターとファズ・ベースがうねる、ロック色の強いナンバー。
現実を見つめ、逃げずに向き合う姿勢を示すようなメッセージが込められている。

9. Cable Car

タイトル通り、ケーブルカーに乗った旅を描いたような風景描写的楽曲。
ストリングスとブラスが交錯し、まるでミュージカルの一場面のような広がりを持つ。

10. A Little Thing Like Love

軽快なポップ調で進むが、内容はやや皮肉と風刺が効いたラブソング。
愛という“ささいなこと”に振り回される男の哀しさがにじむ。

11. Long Cool Woman (in a Black Dress)

本作最大のヒット曲にして、アメリカチャート2位を記録。
CCR風のスワンプロック調サウンドと、Allan Clarkeのハスキーなボーカルが新鮮。
ホリーズらしからぬスタイルでありながら、世界的に最も知られた楽曲となった。


総評

Distant Light』は、The Holliesが“ヒット曲志向の英国ポップバンド”というイメージから抜け出そうとする努力と、その中で生まれた不安と希望の記録である。
豊かなアレンジ、内省的な歌詞、そして新たな音楽的挑戦が交差するこのアルバムは、単なる移行期ではなく、ひとつの成熟と再出発の形として高く評価されるべきだ。

ロック史において『Long Cool Woman』だけが語られがちだが、アルバム全体には70年代初頭の空気感と、英国バンドのアメリカ志向、社会意識と個人的葛藤が鮮やかに織り込まれている。
“遠くの光”とは、未来か、それとも失われた希望か。
その問いを残しながら、ホリーズは新しい場所へと歩みを進めたのである。


おすすめアルバム

  • The Byrds – Ballad of Easy Rider (1969)
    英国フォークロックとカントリーの融合。『Distant Light』と通じる自由な旅の感覚。
  • Crosby, Stills, Nash & YoungDéjà Vu (1970)
    アコースティックと内省性、社会的視点を併せ持つ、70年代初頭の理想的コーラス・ロック。
  • Badfinger – Straight Up (1971)
    ポップ感覚と重厚なサウンドの均衡。同時代的英国ポップの優れた例。
  • America – America (1971)
    “長い道”と“遠くの光”を思わせる、静かな憧れと風景描写に満ちたデビュー作。
  • Procol Harum – Broken Barricades (1971)
    プログレ・ポップと内省的な叙情が織りなす、知的で重厚なロック作品。

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