
発売日:1971年4月
ジャンル:プログレッシブ・ロック、アート・ロック、ブルース・ロック、クラシック・ロック、ブリティッシュ・ロック
概要
Procol Harumの『Broken Barricades』は、1960年代末から1970年代初頭にかけて独自の文学性と荘厳なロック・サウンドを築いた彼らが、よりギター中心のハードな方向へ踏み出した重要作である。Procol Harumといえば、1967年の歴史的ヒット「A Whiter Shade of Pale」によって知られるバンドであり、バッハ的なオルガン、ブルース、英国的な詩情、幻想的な歌詞を融合した存在として、サイケデリック・ロックからプログレッシブ・ロックへ向かう流れの中で大きな役割を果たした。
しかし『Broken Barricades』は、単に「A Whiter Shade of Pale」の延長線上にある作品ではない。本作では、Matthew Fisher脱退後のバンドが、オルガン主導の荘厳なサウンドから一歩離れ、Robin Trowerのギターをより前面に押し出している。Gary Brookerのピアノとヴォーカル、Keith Reidの象徴的で難解な歌詞、B.J. Wilsonのドラマティックなドラム、Chris Coppingのベースとオルガン、そしてTrowerのブルース色の濃いギターが、これまで以上に緊張感を持ってぶつかり合う。結果として本作は、Procol Harumのディスコグラフィの中でも、特にロック・バンドとしての肉体性が強いアルバムとなった。
本作の位置づけを考えるうえで重要なのは、Robin TrowerにとってこれがProcol Harum在籍最後のスタジオ・アルバムとなった点である。Trowerは本作後に脱退し、ソロ・キャリアでより明確にブルース・ロック、ハードロック、Jimi Hendrixの影響を受けたギター・サウンドを追求していく。『Broken Barricades』には、その移行の兆しがはっきり刻まれている。「Simple Sister」や「Memorial Drive」では、Trowerのギターが楽曲の中心的な推進力となっており、従来のProcol Harumにあったクラシカルなオルガン・ロックとは異なる荒々しさがある。
一方で、Procol Harumらしい文学性と重厚な詩情も失われていない。Keith Reidの歌詞は、本作でも直接的なメッセージよりも、断片的なイメージ、象徴、皮肉、死や崩壊の気配を重視している。アルバム・タイトルの「Broken Barricades」は、「壊れたバリケード」を意味する。バリケードは、境界、防御、抵抗、社会的な分断を連想させる言葉である。それが壊れているということは、防御線が破られた状態、秩序が崩れた状態、あるいは古い価値観がもはや機能しない状態を示している。本作全体には、まさにそのような崩壊後の感覚が漂っている。
1971年という時代背景も、本作の重さを理解するうえで重要である。1960年代の理想主義やサイケデリックな楽観はすでに後退し、ロックはより重く、内省的で、時に暗い方向へ進んでいた。Led Zeppelin、Deep Purple、Black Sabbathがハードロックの新しい基準を作り、King Crimson、Yes、Genesis、Emerson, Lake & Palmerがプログレッシブ・ロックを拡張していた時期である。その中でProcol Harumは、クラシカルな荘厳さだけではなく、ブルース・ロック的な荒さ、詩的な暗さ、バンドとしての緊張を強めていった。『Broken Barricades』は、その変化を如実に示す作品である。
本作は、前作『Home』の暗いブルース感覚を引き継ぎながら、より直接的なロック・アルバムとして鳴っている。ただし、一般的なハードロック作品のように力で押し切るだけではない。Procol Harumの音楽には常に、言葉の不可解さ、英国的な諧謔、宗教的・葬送的な響き、そしてどこか冷めた知性がある。『Broken Barricades』でも、ギターが前面に出る一方で、曲の奥には幻想と不安が沈んでいる。
アルバム全体は全8曲で構成されており、各曲が明確な個性を持つ。冒頭の「Simple Sister」は力強いロック・ナンバーとしてバンドの変化を宣言し、表題曲「Broken Barricades」では抒情と崩壊のイメージが重なる。「Memorial Drive」はTrowerのギターが前面に出たブルース・ロックであり、「Luskus Delph」ではBrookerの叙情的な側面が現れる。「Power Failure」ではB.J. Wilsonのドラムが強烈な存在感を放ち、「Song for a Dreamer」ではTrowerがJimi Hendrixへの追悼ともされる幻想的な楽曲を提示する。そして終盤の「Playmate of the Mouth」「Poor Mohammed」では、Procol Harumらしい奇妙なユーモアとロックの土臭さが混ざり合う。
『Broken Barricades』は、Procol Harumの最も有名な作品ではないかもしれない。しかし、バンドがクラシカルなバロック・ロックのイメージから脱皮し、より荒く、より重く、より内面的なロックへ向かった瞬間を記録した作品として重要である。同時に、Robin Trower在籍期の終着点としても、バンド史上欠かせない一枚である。
全曲レビュー
1. Simple Sister
アルバム冒頭の「Simple Sister」は、『Broken Barricades』が従来のProcol Harumとは異なる強度を持つ作品であることを明確に示す楽曲である。重く鋭いギター・リフと、B.J. Wilsonの力強いドラムが前面に出たこの曲は、バンドのハードロック的な側面を一気に押し出している。オルガンやピアノによる荘厳さよりも、ここではギターとリズムの肉体性が中心にある。
Robin Trowerのギターは、曲全体を支配するほど存在感がある。リフは単純ながらも重く、鋭く、ブルース・ロックの土台を感じさせる。Procol Harumはしばしばクラシカルなバンドとして語られるが、この曲では彼らが同時代のハードロックに匹敵する重量感を持っていたことが分かる。B.J. Wilsonのドラムも非常に重要で、単にビートを刻むのではなく、曲の緊張感を大きく膨らませている。
Gary Brookerのヴォーカルは、力強いロック・サウンドの中でも独特の品格を保っている。彼はブルース・ロック的に荒く叫ぶのではなく、少し距離を置いたような声で歌う。そのため、曲には単なる攻撃性ではなく、Procol Harumらしい冷めた重さが加わる。
歌詞の「Simple Sister」という言葉は、親しみやすいようでいて、Keith Reidらしく一筋縄ではいかない。女性像、家族的な呼びかけ、あるいは社会的な役割をめぐる皮肉として読むこともできる。歌詞全体は明確な物語を語るより、断片的なイメージを重ねることで、人物の輪郭を不安定にする。
オープニングとしての効果は非常に大きい。聴き手はここで、Procol Harumがただ過去の荘厳なイメージに留まるバンドではなく、より硬く、暗く、ギター中心のロックへ向かっていることをすぐに理解する。
2. Broken Barricades
表題曲「Broken Barricades」は、アルバム全体の象徴的な楽曲であり、Procol Harumらしい叙情性と崩壊のイメージが濃く表れた一曲である。前曲「Simple Sister」のハードな推進力に対し、この曲ではより内省的で、悲しげなムードが前面に出る。壊れたバリケードというタイトルは、守るべき線が破られた後の世界を思わせる。
音楽的には、Gary Brookerのピアノとヴォーカルが中心となり、曲全体に静かな荘厳さを与えている。Procol Harumの本質である、教会音楽的な重みとブルース的な哀愁の融合がここにはある。Trowerのギターは前面に出すぎず、楽曲の陰影を支える。前曲のような攻撃的なリフではなく、ここでは旋律の奥に沈む感情を補強する役割を担う。
歌詞では、崩壊した防御線、失われた秩序、もはや戻らない過去への感覚が描かれる。Keith Reidの言葉は具体的な政治的状況を直接説明するわけではないが、タイトルの持つ社会的な響きは強い。バリケードは抗争や革命の象徴でもあり、それが壊れているということは、抵抗の終わり、あるいは新しい混乱の始まりを示す。
この曲の魅力は、感情を大げさに爆発させず、静かに崩壊を見つめる点にある。Procol Harumの音楽には、悲劇を劇的に演じるよりも、すでに終わってしまったものを遠くから眺めるような感覚がある。「Broken Barricades」は、その美学をよく示している。
3. Memorial Drive
「Memorial Drive」は、本作の中でも特にRobin Trowerのギターが強く押し出されたブルース・ロック・ナンバーである。タイトルは「記念道路」あるいは特定の道の名前を思わせるが、そこには記憶と移動、過去を抱えたまま進む感覚が含まれている。曲調は重く、乾いており、Procol Harumの中でもかなりロック色の強い一曲である。
サウンドの中心にあるのは、Trowerのギターである。彼のプレイには、Jimi Hendrix以降のブルース・ロック的な粘りと、英国的な暗さがある。音は太く、フレーズは感情的だが、過剰に派手な技巧へ走るわけではない。Procol Harumというバンドの枠内で、Trowerがどれほど強い個性を持っていたかがよく分かる。
リズム隊も重要である。B.J. Wilsonのドラムは、重さと揺れを同時に持ち、曲に生々しいグルーヴを与えている。Chris Coppingのベースも堅実で、Trowerのギターを支える。Procol Harumはしばしばピアノやオルガンの印象で語られるが、この曲では完全にギター・バンドとして鳴っている。
歌詞には、過去の記憶や失われたものへの視線が感じられる。道を進むことは、未来へ向かう行為であると同時に、過去を背負って移動することでもある。「Memorial Drive」という言葉自体が、記憶の中を走る道路のように響く。
この曲は、Robin Trowerのソロ・キャリアを予感させる意味でも非常に重要である。後の彼のブルース・ロック路線へつながるギターの感触が、Procol Harumの中で最もはっきり表れている。
4. Luskus Delph
「Luskus Delph」は、本作の中でも特にProcol Harumらしい不思議な叙情性を持つ楽曲である。タイトルは一見意味を取りにくく、架空の地名や人物名のようにも響く。Keith Reidの歌詞世界において、こうした不可解な言葉は重要である。明確な意味を提示するのではなく、聴き手に奇妙な情景を想像させる。
音楽的には、Gary Brookerのピアノとヴォーカルが中心となり、静かで美しいバラード調の雰囲気を作る。前曲「Memorial Drive」のギター・ロック的な重さから一転し、この曲ではProcol Harumのクラシカルでメランコリックな側面が表れる。ストリングス的な感覚を思わせる和声や、ゆったりとしたメロディが印象的である。
Brookerの声は、この曲で非常に豊かな表現力を見せる。彼の歌唱は、派手な技巧に頼らず、言葉の重みとメロディの流れによって感情を伝える。Procol HarumにおいてBrookerの声は、単なるロック・ヴォーカルではなく、詩を運ぶ器として機能している。
歌詞は、夢のようでありながら、どこか死や喪失の気配も漂わせる。具体的な物語はつかみにくいが、言葉の響きとイメージによって、遠い場所、沈んだ記憶、消えゆくものが感じられる。『Broken Barricades』の中で、この曲は静かな詩的中心のひとつといえる。
ハードロック的な曲が目立つ本作において、「Luskus Delph」はProcol Harumの本来の叙情性を保つ重要な楽曲である。バンドの荒さと美しさのバランスを取る役割を果たしている。
5. Power Failure
「Power Failure」は、タイトル通り「停電」や「動力の喪失」を意味する楽曲であり、本作の中でも特にリズム面の迫力が際立つ曲である。B.J. Wilsonのドラムが主役級の存在感を持っており、曲全体が崩れそうで崩れない緊張感を生んでいる。タイトルの「力の失敗」は、社会的・心理的な崩壊の比喩としても読むことができる。
音楽的には、ロックンロール、ブルース、プログレッシブな展開が混ざったような構成である。曲は軽快に進む部分もありながら、ところどころでリズムが大きく揺れ、混乱した印象を与える。これは停電や機械の故障というテーマとよく合っている。安定していたはずのシステムが突然乱れる感覚が、演奏そのものに反映されている。
B.J. Wilsonのドラミングは特筆すべきである。彼はProcol Harumの中でしばしば過小評価されがちだが、非常に表現力の高いドラマーであり、この曲ではその力が全面に出ている。単にビートを刻むのではなく、曲のドラマを作る。フィルやアクセントが、楽曲にユーモアと破綻寸前のエネルギーを与えている。
歌詞では、力が失われること、物事が突然機能しなくなることが描かれる。これは実際の停電であると同時に、人間の精神や社会制度、関係性の破綻を示す比喩でもある。Procol Harumらしく、日常的な言葉がより大きな不安へと広がっていく。
「Power Failure」は、アルバムの中で最も躍動的で、同時に奇妙な楽曲のひとつである。重いテーマを扱いながら、どこかユーモラスで、演奏の楽しさもある。Procol Harumの柔軟なロック・バンドとしての魅力がよく出ている。
6. Song for a Dreamer
「Song for a Dreamer」は、Robin Trowerが作曲とヴォーカルを担当した楽曲であり、本作の中でも特に異質で幻想的な一曲である。この曲はJimi Hendrixへの追悼的な意味を持つとされることが多く、そのサウンドにもサイケデリックで浮遊するような質感がある。Procol Harumのアルバムの中にありながら、Trowerの個人的な音楽世界が強く表れた曲である。
音楽的には、ゆったりとしたテンポと、夢の中を漂うようなギターが中心である。Trowerのギターは、ここで攻撃的なリフではなく、空間を歪ませるような音色を作る。Hendrixからの影響は明らかで、音の伸び、ワウ的な揺れ、サイケデリックな感覚が曲全体を包む。
ヴォーカルもGary Brookerとは異なり、より内向的で、儚い響きを持つ。Trowerの声は決して強烈なシンガーというタイプではないが、この曲ではその弱さがむしろ効果的である。夢見る者へ捧げられた歌として、少し遠くから響くような声が曲の雰囲気と合っている。
歌詞では、夢見る者、死、幻想、彼方へ行ってしまった存在への思いが描かれる。Hendrixへの直接的な言及はなくても、曲全体には、現実を超えた場所へ去った音楽家への追悼の気配がある。Procol Harumの文学性とは異なる、よりギタリスト的で感覚的な詩情がここにはある。
「Song for a Dreamer」は、Trowerの脱退とその後の方向性を考えるうえで非常に重要な楽曲である。彼がProcol Harumの枠を越え、より自分自身のギター音楽へ向かおうとしていたことが、この曲からはっきり伝わる。
7. Playmate of the Mouth
「Playmate of the Mouth」は、タイトルからしてKeith Reidらしい奇妙な言葉遊びと皮肉を感じさせる楽曲である。「口の遊び相手」という表現は、会話、欲望、言葉、性的な含み、あるいは消費される言説を連想させる。Procol Harumの歌詞世界では、こうした多義的で少し不気味な表現がしばしば登場する。
音楽的には、やや軽快でありながら、どこか歪んだポップ感覚を持つ。前曲「Song for a Dreamer」の幻想的な雰囲気から一転し、ここではバンドの奇妙なユーモアとロック的な身軽さが表れる。Procol Harumは重厚なバンドであると同時に、こうした皮肉めいた小品を作る力も持っていた。
Gary Brookerのヴォーカルは、曲の奇妙なタイトルに対して過度に芝居がかることなく、落ち着いた調子で歌う。この抑制が、逆に歌詞の不可解さを際立たせている。Procol Harumの楽曲では、言葉が不思議であっても、歌唱は常に品格を保つため、独特の緊張が生まれる。
歌詞のテーマは、言葉と欲望の関係として解釈できる。口は歌う器官であり、食べる器官であり、話す器官でもある。その「playmate」とは何か。聴き手は明確な答えを与えられないが、その曖昧さ自体が曲の魅力である。
この曲は、アルバム終盤に軽さと奇妙さをもたらす。『Broken Barricades』が重くなりすぎないのは、こうした独特の英国的なユーモアが混ざっているからでもある。
8. Poor Mohammed
アルバムを締めくくる「Poor Mohammed」は、Robin Trowerがヴォーカルを取るブルース・ロック色の濃い楽曲である。終曲としては意外なほど土臭く、荒い感触を持っている。Procol Harumの荘厳なイメージとは異なり、ここではTrowerのブルース志向が前面に出る。
サウンドは、シンプルで力強いブルース・ロックを基盤としている。ギターは太く、リズムは重く、曲全体に野太いグルーヴがある。Trowerのギターは、後のソロ作へ直結するような感触を持ち、Procol Harumのアルバムの最後を、バンドの未来ではなくTrower自身の未来を予告するように締めくくっている。
歌詞の「Poor Mohammed」というタイトルは、宗教的・異国的な名前を用いながらも、具体的な物語は明確ではない。Keith Reid的な象徴性というより、ブルース的な人物スケッチにも近い響きがある。哀れな人物、孤独な旅人、あるいは社会から外れた存在への視線が感じられる。
Trowerのヴォーカルは、Brookerの洗練された声とは対照的に、より粗く、ブルース的である。この違いが、曲をProcol Harumの中でも異色のものにしている。アルバムの最後にこの曲が置かれることで、『Broken Barricades』はクラシカルな荘厳さではなく、ギターとブルースの土臭さの中で終わる。
「Poor Mohammed」は、Robin Trower在籍期の終わりを象徴するような楽曲である。Procol Harumの中にあったブルース・ロック的な要素が、ここで独立へ向かう気配を見せている。
総評
『Broken Barricades』は、Procol Harumのキャリアにおいて、非常に重要な転換点に位置するアルバムである。初期のバロック・ロック的な荘厳さや、Matthew Fisherのオルガンを中心としたクラシカルなイメージから距離を取り、Robin Trowerのギターを軸にしたより重いロック・サウンドへ踏み込んだ作品である。これは単なる音楽性の変化ではなく、バンド内の力学が変わりつつあったことを示す記録でもある。
本作の最大の特徴は、Procol Harumらしい文学性と、Trowerのブルース・ロック的な肉体性がぶつかり合っている点にある。「Simple Sister」「Memorial Drive」「Poor Mohammed」ではギターが前面に出て、バンドはハードロック的な迫力を見せる。一方で、「Broken Barricades」「Luskus Delph」では、Gary BrookerとKeith Reidによる叙情的で象徴的な世界が保たれている。この二つの方向が完全に一体化しているわけではないが、その緊張が本作の魅力である。
Robin Trowerの存在は、本作を語るうえで避けて通れない。彼はここで、Procol Harumのギタリストとしてだけでなく、独立した表現者としての方向性を明確に示している。「Song for a Dreamer」は特に重要であり、Jimi Hendrixへの敬意と、自身のサイケデリック・ブルース志向が美しく刻まれている。本作後にTrowerが脱退し、ソロで『Bridge of Sighs』などへ向かうことを考えると、『Broken Barricades』はその前夜としても聴くことができる。
Gary Brookerの歌唱と作曲も、本作の軸であり続けている。Trowerのギターが目立つとはいえ、Procol HarumがProcol Harumである理由は、Brookerの声とピアノ、そしてKeith Reidの歌詞にある。Brookerの声は、ブルースやハードロックの荒さの中でも、英国的な品格と悲しみを保つ。彼が歌うことで、楽曲は単なるロック・ナンバーではなく、詩的な重みを帯びる。
Keith Reidの歌詞は、本作でも不可解で象徴的である。壊れたバリケード、停電、夢見る者、奇妙な人物たち。これらのイメージは明確な物語へ収束しないが、アルバム全体に崩壊、喪失、移行の感覚を与えている。1971年という時代の不安、60年代的な理想の後退、個人と社会の境界の崩れが、直接的なスローガンではなく、断片的な詩として表現されている。
音楽的には、同時代のハードロックやプログレッシブ・ロックと比較しても独自の位置にある。Led ZeppelinやDeep Purpleのような明快な力強さとも、YesやGenesisのような構築性とも異なる。Procol Harumは、クラシック、ブルース、文学、英国的な皮肉を混ぜながら、重く暗いロックを作った。『Broken Barricades』は、その中でも特にギター・ロックとしての側面が強い作品である。
日本のリスナーにとって本作は、「A Whiter Shade of Pale」のイメージだけでProcol Harumを捉えている場合、かなり印象が異なるアルバムとして響くだろう。ここには甘美なバロック・ポップだけでなく、荒いギター、重いドラム、不穏な歌詞、ブルース・ロックの熱がある。Procol Harumの多面性を知るうえで、本作は非常に有効である。
『Broken Barricades』は、完成された統一感という点では、後の『Grand Hotel』や初期の代表作とは異なる粗さも持つ。しかし、その粗さこそが本作の重要な魅力である。バンドの中で異なる方向性がせめぎ合い、古いバリケードが壊れ、新しい道が開きかけている。その緊張をそのまま封じ込めたアルバムとして、『Broken Barricades』はProcol Harumの歴史の中で特別な位置を占めている。
おすすめアルバム
1. Procol Harum『A Salty Dog』
Procol Harumの叙情性とオーケストラルな感覚が最も美しく表れた代表作のひとつ。表題曲の壮大な海洋的イメージをはじめ、Gary BrookerのヴォーカルとKeith Reidの詩世界が高い完成度で結びついている。『Broken Barricades』の内省的な側面を理解するうえで重要な作品である。
2. Procol Harum『Home』
『Broken Barricades』の前作であり、暗くブルース色の濃い作品。Matthew Fisher脱退後のProcol Harumが、より重く、土臭い方向へ向かっていく過程を示している。『Broken Barricades』のハードな音像を理解するための直接的な前段階となるアルバムである。
3. Robin Trower『Bridge of Sighs』
Robin Trowerのソロ・キャリアを代表する名盤。Procol Harum在籍時代に芽生えていたブルース・ロック、サイケデリック・ギター、Jimi Hendrixからの影響が、より明確に展開されている。『Broken Barricades』でTrowerのギターに惹かれたリスナーには必聴の作品である。
4. Traffic『John Barleycorn Must Die』
英国ロックにおけるフォーク、ジャズ、ブルース、プログレッシブな要素の融合を示す重要作。Procol Harumとは異なる方法ながら、ロックに英国的な古層や文学性を持ち込む点で共通する。『Broken Barricades』の内省的で重いブリティッシュ・ロック感覚と相性がよい。
5. Jethro Tull『Aqualung』
1971年発表の英国ロック重要作で、ハードロック、フォーク、宗教的イメージ、社会批評が混ざり合った作品。Procol Harumとは異なる語法だが、同じ時代の英国ロックが、重さと文学性をどのように結びつけていたかを理解するうえで有効である。

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