アルバムレビュー：Christmas with The Smithereens by The Smithereens

アルバムレビュー

2025.05.10

発売日: 2007年10月9日
ジャンル: クリスマス・ロック、パワーポップ、ロックンロール

『Christmas with The Smithereens』は、The Smithereensが2007年にリリースしたホリデー・アルバムであり、
古き良きロックンロールと1950〜60年代のポップセンスをまとった**「ロックバンドによる本気のクリスマス作品」である。
オリジナル曲に加え、チャック・ベリーやビング・クロスビーらのクラシック・ナンバーも交えながら、
The Smithereensならではの硬派でどこか寂しげなクリスマス・スピリット**が詰まった一枚となっている。

本作は『Meet The Smithereens!』に続くコンセプチュアルな企画作であり、
“ホリデーの喧騒の中に、孤独や記憶をそっと包む”という、
甘さ一辺倒ではない大人のクリスマス感情を、誠実な演奏とともに描いている。
ローファイなギター、ウォームなベース、控えめなコーラス、
そしてパット・ディニツィオの朴訥としたヴォーカルが、
パーティーではなく“夜のクリスマス・ドライヴ”のような時間を演出する。

全曲レビュー
総評
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全曲レビュー

1. Waking Up on Christmas Morning
本作唯一の新曲にしてオープニング・ナンバー。
クリスマスの朝に目覚めたときの静かな幸福と哀愁が、美しいメロディに乗って広がる。
パットの声が心地よく滲む、The Smithereensらしい“静かな幕開け”。

2. Santa Bring My Baby Back (to Me)
エルヴィス・プレスリーで知られるロックンロール・クリスマス・クラシックを、
よりギターの効いたガレージ風にアレンジ。
軽快ながらどこか切実な“再会の願い”が滲む。

3. Merry Christmas, Baby
ブルース色の強いこの曲では、シンプルなアレンジで“夜のムード”を演出。
ロマンティックというよりは、失われた愛への回想として聴こえてくる。

4. Rockin’ Around the Christmas Tree
原曲の跳ねたグルーヴを活かしながら、スミザリンズ流にタイトに演奏。
ブラスなしでも成立するのは、彼らのリズム隊の強さゆえ。

5. Christmas Time All Over the World
ドゥーワップ風のコーラスが心地よく響く、ミッドテンポのロマンティック・ナンバー。
“世界中がクリスマスになる瞬間”というテーマが、どこか70年代的なユートピア感を醸す。

6. Christmas（The Whoカバー）
ロック・オペラ『Tommy』からの異色カバー。
宗教的ニュアンスのある楽曲だが、ここでは純粋に“問いかけとしてのクリスマス”に再構築されている。
力強くも哲学的な選曲。

7. ‘Twas the Night Before Christmas
有名な詩にメロディをつけたトラック。
語りと演奏が交差する形式で、どこか実験的ながら、温かみのある仕上がり。

8. Run Rudolph Run
チャック・ベリーの王道クリスマスロックンロール。
ギターが主役の楽曲で、Smithereensのガレージ感と見事に合致。
アルバムの中でもっともエネルギッシュな一曲。

9. Silent Night
定番の聖歌を、極限までミニマルにアレンジ。
囁くようなヴォーカルが、深夜の静寂を思わせる美しさを湛えている。
“祝福”というより“祈り”に近いアプローチ。

10. Auld Lang Syne
年末年始の定番ソングを締めに配置。
テンポを落とし、重みを持たせたアレンジで、別れと再会、過去と未来への思いをそっと結晶化。
ノスタルジックで静かな余韻が残るラスト。

総評

『Christmas with The Smithereens』は、ロックバンドが“ホリデー”というテーマを真摯に捉えた稀有な一枚である。
過剰に明るくもなければ、宗教的な荘厳さに頼るわけでもない。
バンドの“人間味”そのものが、アルバム全体の情緒を支配している。

この作品におけるクリスマスは、プレゼントでも雪景色でもなく、
「過ぎ去った時間に思いを馳せること」であり、「もう会えない誰かと心だけでも繋がろうとすること」なのだ。
だからこそ、The Smithereensのように“シンプルなロック”を貫くバンドにしか作れないホリデーアルバムになったのである。

冬の夜、静かに音量を下げて、少し黄ばんだライトの中で聴きたくなる、
**メランコリックで温かい“人生のクリスマス・アルバム”**である。

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