Cause = Time by Broken Social Scene(2002)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Cause = Time」は、カナダのインディー・ロック集団 Broken Social Scene(ブロークン・ソーシャル・シーン)が2002年にリリースした名盤『You Forgot It in People』に収録された一曲であり、アルバム全体のなかでもひときわ緊張感と躍動感に満ちたトラックである。

そのタイトル「Cause = Time(原因=時間)」は、因果関係の逆転や時間の相対性といった、哲学的・抽象的な問いかけを想起させる。歌詞もまた明確な物語を持たず、むしろ都市に生きる若者の焦燥感、愛と政治、時間と変化の複雑な関係を断片的に投げかけるようなスタイルを取っている。

音楽的には、ギターが幾重にも折り重なる中でドラムが前に出る構成となっており、**混沌の中に焦点を絞るような“進行するエネルギー”**を感じさせる。激情的な感情が爆発するのではなく、むしろ内に向かって高まっていくようなストレスフルな構造が、聴く者の身体と心を同時に揺さぶってくる。

2. 歌詞のバックグラウンド

You Forgot It in People』は、Broken Social Sceneにとってのセカンド・アルバムであり、カナダのインディー・シーンを世界に知らしめた決定的作品である。全体的にポストロックやアートロックの手法を取り入れながらも、楽曲ごとに異なるアプローチが施されており、その中で「Cause = Time」は最も政治的・精神的に切迫したテンションを持つ楽曲として際立っている。

本作では中心人物ケヴィン・ドリューがヴォーカルを務めており、その情動が爆発寸前の歌声が、都市的なビートとギターのテクスチャーのなかに絡み合い、**現代の若者たちが感じる曖昧で名前のつかない“抑圧”**を体現している。

この曲は特定の“意味”を語るというよりも、むしろその“意味が掴めないままに蓄積していく不安”そのものを音と詞で描き出している。そしてそれこそが、Broken Social Sceneというコレクティヴの本質——秩序と混沌、親密さと距離、個人と集合のせめぎ合いに通じている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

英語原文:
“You come in spite of them
You come in spite of them all
To the rattlesnakes and the common law
They’re pulling me in”

日本語訳:
「君はあいつらをものともせずにやって来る
どんな連中の目も気にせずに
ガラガラヘビと社会の規範が
俺を引きずり込もうとしてる」

引用元:Genius – Cause = Time Lyrics

この一節には、社会的圧力や制度のなかで“自分のままでいようとすること”の困難さと、その中で誰かが差し伸べてくれる希望が、詩的に凝縮されている。“rattlesnakes”は危険の象徴、“common law”は法やルールの象徴であり、それらに絡め取られながらも、語り手は「君」という存在に救いを見出そうとしている。

4. 歌詞の考察

「Cause = Time」の歌詞には、政治と個人、恋愛と社会、自由と抑圧といった二項対立的テーマが、あくまで詩的に、断片的に散りばめられている。そのすべてを一本のストーリーに統合することはできないが、だからこそこの曲は現代的な“語れなさ”の象徴として響いてくる。

特に印象的なのは、時間と原因を逆転させるようなタイトルの構造である。時間がすべての原因になるのか、原因が時間を変えていくのか。語り手が直面する社会的困難や関係性の衝突は、そのすべてが“時間”によって浸食されていくようでもある。

ヴォーカルの吐き出すようなフレーズは、明確な怒りや哀しみというよりも、言葉にならない“胸のざわめき”のような感情を伝えてくる。聴き手もまた、そのざわめきに共鳴し、自分の中にある言葉にならない焦燥や疑問と向き合わされる。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • “Disorder” by Joy Division
     内向的な焦燥と音の強度が共鳴する、ポストパンクの金字塔。

  • “Neighborhood #3 (Power Out)” by Arcade Fire
     社会と個人の衝突を描いた、カナダ発・叙情と怒りのロック・アンセム。

  • “Staring at the Sun” by TV on the Radio
     重層的なビートと社会的メッセージが織り交ざる現代的なサイケ・ロック。

  • “Wolf Like Me” by TV on the Radio
     衝動と肉体性が爆発する、制御不能なエネルギーに満ちた一曲。

  • “Y Control” by Yeah Yeah Yeahs
     女性性とコントロールへの反抗を描いた、鋭く美しいガレージ・ロック。

6. 秩序と衝動、そのはざまに立ち尽くす歌

「Cause = Time」は、Broken Social Sceneという存在が提示し得る最も鋭く、最も不確かなリアリズムを鳴らした楽曲である。
それは怒りの歌でありながら叫ばず、愛の歌でありながら甘くなく、
社会へのプロテストでありながら、直接的な言葉は避ける。
そのかわりに、“感じること”をすべてに優先させる。

この曲におけるリズムとギターのせめぎ合いは、
混乱の中でなお歩こうとする人間の心のメタファーでもある。

「Cause = Time」というタイトルが示すのは、
答えではなく、問い続けることの尊さである。

変わり続ける時代に、変わる理由を問うこと。
それ自体が、あるひとつの“アンセム”となり得るのだ。

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