Cat Scratch Fever by Ted Nugent(1977)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Cat Scratch Fever(キャット・スクラッチ・フィーヴァー)」は、1977年にリリースされたテッド・ニュージェント(Ted Nugent)の代表曲にして、彼のイメージを決定づけたセクシャルかつアグレッシブなハードロック・アンセムである。同名のアルバム『Cat Scratch Fever』のリードシングルとして発表され、アメリカ国内でゴールドディスクを獲得、Nugentのキャリアの中でも最も商業的に成功した曲の一つとして知られている。

タイトルの“Cat Scratch Fever”とは、実際にはネコひっかき病(猫からの細菌感染症)を指す医学用語だが、この曲においてはあからさまにセックスの隠喩として用いられており、女性に対する欲望と中毒的な衝動を、病気というかたちでパロディ的に描いている。

歌詞は直線的で、抑えの効かない肉体的欲求、そしてそれに取り憑かれたような語り手の姿が、荒々しいユーモアとロックンロール的誇張をもって描かれている。極めて男性的でマッチョな世界観だが、それゆえに70年代アメリカのハードロック精神を象徴する一曲ともなっている。

2. 歌詞のバックグラウンド

この楽曲が発表された1977年は、ディスコブームとパンクムーブメントがアメリカ・イギリス両方で台頭し、ロックがその居場所を問い直されていた時代でもある。そんな中、テッド・ニュージェントはあくまで**“ギターと肉体と声”で勝負するロックの原点を貫いた**存在であり、「Cat Scratch Fever」はその姿勢を凝縮したような作品であった。

Nugentはソロキャリア以前に、アンボイ・デュークス(The Amboy Dukes)というサイケ・ハード系のバンドで活躍していたが、ソロになって以降は、よりストレートで肉感的なハードロックを打ち出している。その中でもこの楽曲は、アイコニックなギターリフ、わかりやすくエネルギッシュな歌詞、そしてライブでの爆発力を兼ね備えており、いわば「テッド・ニュージェントという人物そのもの」のテーマ曲のように機能している。

3. 歌詞の抜粋と和訳

Well, I don’t know where they come from
奴らがどこから現れるのか、俺にもわからないが

But they sure do come
とにかくやって来るんだ、確実にな

I hope they’re coming for me
出来れば俺のところに来てほしいって思ってるぜ

And I don’t know how they do it
どうやってあんなことをするのかもわからないが

But they do it real good
だけど、あれは本当にうまいんだよ

I hope they do it for free
無料でやってくれるといいんだけどな

They give me cat scratch fever
そして俺は“キャット・スクラッチ・フィーヴァー”にやられるんだ

Cat scratch fever!
キャット・スクラッチ・フィーヴァー!

(参照元:Lyrics.com – Cat Scratch Fever)

表現は単純で露骨、だがその“わかりやすさ”こそがこの曲の魅力でもある。リフレインとリズムの一体感が、肉体的な快楽とギターの衝動を完全に一致させている

4. 歌詞の考察

「Cat Scratch Fever」の詞は、そのまま読むと女性を性的対象として消費しているようにも見えるが、ここで重要なのはこの曲が“自虐的な中毒者の語り”として描かれているという点である。語り手は一方的に“やられている”のであり、支配しているわけではない。むしろ彼の肉体と精神は、“フィーヴァー”という形で支配されているのだ。

この構造を理解すれば、単なるマチズモの発露ではなく、70年代ロックが抱えていた“快楽と破滅の紙一重”な関係性が、この歌詞の根底に流れていることが見えてくる。性的欲望を“病気”という形で語ることで、彼自身がそれをコントロールできていないことが露呈しており、その脆さと暴力性の混在がロックのリアリズムでもある。

また、この楽曲はライブでの爆発力が非常に高く、ギターリフの鋭さ、反復されるサビ、そして観客との掛け合いを想定した構造により、“参加するロック”としての側面が非常に強い。歌詞の意味を超えて、感覚的に共鳴するアニマルなロック体験を提供しているのだ。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Whole Lotta Rosie by AC/DC
     セクシャルで疾走感あふれるギターリフと、圧倒的なエネルギーを持つラブソング。

  • Hot Blooded by Foreigner
     同じく性的欲望をテーマにしたハードロック。キャッチーで危険な香り。
  • Rock and Roll, Hoochie Koo by Rick Derringer
     グルーヴィーなギターと生々しいヴォーカルが魅力のロック・クラシック。

  • Hair of the Dog by Nazareth
     支配と被支配の力関係をテーマにした重厚なハードロック。

6. “欲望と音が直結するロックの純形”

「Cat Scratch Fever」は、1970年代後半のアメリカが持っていた肉体的で反知性的なロックへの渇望を、最もシンプルに、そして最も鮮烈に表現した楽曲である。洗練やアイロニーとは無縁の、“欲望のままに鳴らすギター”という姿勢が、ここにはある種の誠実さとして響く。

この曲が今もロックDJセットや映画のサウンドトラックで使われ続けるのは、それが時代を超えて“本能的にアガる”音楽であることの証明だろう。複雑な理屈を必要とせず、ただ“フィーヴァー”に身体を任せてしまえばよい――そんな音楽の原始的な快楽が、テッド・ニュージェントのギターとともにここにある。

「Cat Scratch Fever」は、ロックが“叫び”だった時代の、生々しく、暑苦しく、でもだからこそ忘れられない一夜の記録なのである。

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