発売日: 2012年9月4日
ジャンル: インディーロック、エクスペリメンタルポップ
Deerhoofはカリフォルニア発のアバンギャルドなエクスペリメンタルロックバンドで、長年にわたり独自の音楽スタイルを進化させてきた。結成から20年以上、バンドのメンバーは激しい音楽的変遷を経ながらも、常にリスナーを驚かせ続けている。2012年にリリースされたBreakup Songは、彼らのディスコグラフィの中でも特にユニークで、キャッチーなポップメロディと独特のリズム、さらに鋭いギターワークが融合した作品である。アルバムタイトルからして「失恋の歌」を予感させるが、ここで展開されるのは、むしろ「解放」や「再生」を思わせる明るく奇妙な楽曲の数々だ。
Breakup Songは12曲、総再生時間がわずか30分足らずの短い作品だが、非常に濃密なサウンドの冒険が詰まっている。このアルバムでは、パンキッシュなエネルギーと、ポップなリズム、さらにはラテン音楽からの影響を巧妙に融合している。これは特にドラマーのグレッグ・ソーニアによる、意外性に満ちたリズムアプローチや、サトミ・マツザキの浮遊感あるボーカルが際立っているためで、Deerhoofの独自の実験精神が最大限に発揮されている。また、ローファイな音作りや、遊び心あるサウンドエフェクトがアルバム全体に散りばめられており、聴くたびに新たな発見がある。Deerhoofらしいユーモアと奇抜さに満ちたこの作品は、リスナーに新たな音楽体験を提供している。
各曲解説
1. Breakup Songs
アルバムのタイトル曲にして、軽快でアップテンポなラテンのビートが印象的なオープニングトラック。歯切れの良いギターリフと、サトミの可愛らしいボーカルが織りなす音の波は、リスナーを一気にこの奇妙なサウンドの世界に引き込む。「失恋」というテーマに反して、曲自体はとても明るく、希望に満ちているのが面白い。
2. There’s That Grin
この曲は少し不穏な雰囲気を持ち、サウンドも重厚だ。リズムが複雑で、突然のテンポチェンジが特徴。笑顔の裏に潜む悲しみを暗示する歌詞が、Deerhoof特有の遊び心と深みを持たせている。
3. Bad Kids to the Front
エネルギッシュで荒削りなパンク要素が強調された楽曲。シンプルなビートと鋭いギターが絡み合い、曲全体が疾走感に溢れている。反抗的なスピリットが前面に出ており、リスナーに一種の爽快感を与える。
4. Zero Seconds Pause
タイトル通り、一瞬の間も与えず駆け抜ける曲。短いながらも強烈な印象を残す、エレクトロニックなサウンドが特徴。急速なテンポと緊張感のあるアレンジが、アルバムに緊張感を与えている。
5. Mothball the Fleet
ポップなメロディと、オルタナティブなギターワークが融合したトラック。リズムの変則性や、異質なサウンドエフェクトがアクセントとして効いており、どこか幻想的な世界観が漂う。
6. Flower
比較的静かでミニマルなサウンドが特徴的な曲。サトミの柔らかなボーカルが際立ち、夢幻的な雰囲気を作り出している。花が咲く様子を彷彿とさせるような、穏やかなエネルギーに満ちた曲である。
7. To Fly or Not to Fly
曲名が示すように、飛び立つかどうかの葛藤がテーマ。軽やかで浮遊感のあるアレンジが、リスナーを空に舞い上がらせるような感覚を生み出している。自由と束縛の対立が暗示され、Deerhoofらしいアイロニカルな視点が光る。
8. The Trouble with Candyhands
ラテンリズムとエレクトロニカの要素を融合させた異色の曲。リズムが複雑で、ハンドクラップや不規則なドラムが心地よい違和感を生む。キャッチーでありながら、奥深いアレンジが魅力。
9. We Do Parties
このアルバムの中でも特にキャッチーで、リスナーを踊らせる力強いビートが印象的。タイトルの通り、パーティーを盛り上げるようなエネルギーが感じられ、サトミのボーカルが一層の輝きを放つ。
10. Mario’s Flaming Whiskers III
曲名からも分かるように、ゲーム的な要素が取り入れられたユニークなトラック。音の遊びが多く、ファンキーなリズムが特徴。ゲームのサウンドトラックを思わせるアレンジが、Deerhoofらしいユーモアを感じさせる。
11. Fête d’Adieu
アルバムのクライマックスを飾る、エレガントな一曲。フランス語で「別れの宴」を意味するタイトルにふさわしく、優雅でどこか切ない雰囲気を持つ。サトミの歌声が心に響き、アルバムを締めくくる美しいエンディングとなっている。
アルバム総評
Breakup Songは、タイトルに「失恋」とあるものの、内包するエネルギーはむしろ解放や新しい始まりを感じさせる。Deerhoofは、本作でリズムの実験性や独特のポップセンスを前面に押し出し、ポップとアバンギャルドを絶妙に交差させた。このアルバムは聴くたびに新しい発見があり、リスナーを飽きさせない魅力を持っている。従来のDeerhoofファンはもちろん、新しいサウンドに挑戦したいリスナーにも強くおすすめできる作品だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Merriweather Post Pavilion by Animal Collective
夢幻的なサウンドスケープとエクスペリメンタルなリズムが共通している。ポップでありながら前衛的な要素が満載で、Deerhoofファンに響く要素が多い。
Strawberry Jam by Animal Collective
ポップとエクスペリメンタルが絶妙に融合された作品で、突拍子もない音作りやリズムの変則性が共通している。遊び心と幻想的な雰囲気が楽しめる。
Feels by Animal Collective
感情豊かなボーカルと、メロディの幻想的な広がりが特徴。ポップとアートが交差するサウンドが、Deerhoofのリスナーにも親しみやすい。
Mirrored by Battles
ポリリズムとテクニカルなギターワークが特徴のエクスペリメンタルアルバム。予測不能な構成と、斬新な音使いが印象的で、Deerhoofファンの心を捉えるだろう。
Hissing Fauna, Are You the Destroyer? by of Montreal
ポップでありながら深いテーマに満ちた作品で、感情的な
ボーカルとダンサブルなリズムが印象的。Deerhoofのリスナーが惹かれる要素が多数詰まっている。
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