
- イントロダクション:Battlesという、リズムの建築家たち
- アーティストの背景と歴史:異なるロック地下水脈から集まった4人
- 音楽スタイルと影響:マスロック、電子音楽、ポストパンク、機械的ファンク
- 代表曲の解説:Battlesの楽曲世界
- アルバムごとの進化
- EP C / B EP:実験機械の設計図
- Mirrored:マスロックの未来を提示した傑作
- Gloss Drop:喪失の後に生まれたカラフルな変化
- La Di Da Di:インストゥルメンタル・バンドとしての完成
- Juice B Crypts:デュオ化したBattlesの過密な迷宮
- 影響を受けた音楽:Don Caballero、Helmet、電子音楽、ミニマリズム
- 影響を与えた音楽シーン:マスロックの再定義
- 他アーティストとの比較:Battlesのユニークさ
- ライブ・パフォーマンス:人力で機械を動かす緊張感
- アートワークと視覚性:Dave Konopkaのデザイン感覚
- ファンや批評家の評価:革新性と過剰さのあいだ
- 社会的・文化的意味:ロック・バンドはまだ変形できる
- まとめ:Battlesは、マスロックを未来の遊具に変えたバンドである
イントロダクション:Battlesという、リズムの建築家たち
Battles(バトルス)は、ニューヨークで2002年に結成されたエクスペリメンタル・ロック/マスロック・バンドである。中心人物はIan WilliamsとJohn Stanier。結成時にはTyondai Braxton、Dave Konopkaも在籍し、ギター、ベース、キーボード、ループ、エフェクト、ドラム、声を精密な機械のように組み合わせながら、ロック・バンドの概念を大きく拡張してきた。現在のラインナップはIan WilliamsとJohn Stanierのデュオであり、最新スタジオ・アルバムは2019年の Juice B Crypts である。(en.wikipedia.org)
Battlesの音楽を一言で表すなら、「人力で作られた未来の機械音楽」である。John Stanierのドラムは巨大なエンジンのように正確で、Ian Williamsのギターとキーボードは歯車のように細かく噛み合う。そこにループ、サンプル、ピッチ処理された声、突発的なリフ、変拍子が入り込み、曲はまるで自己増殖する幾何学模様のように展開する。
彼らはしばしばマスロックの文脈で語られる。だが、Battlesは単なる技巧派ロックではない。複雑な拍子や構造を使いながら、そこに遊び心、ダンス感覚、ポップな色彩、電子音楽の反復美を持ち込んだ。Atlas のような曲を聴けば分かる。難解であるはずの構造が、なぜか身体を揺らす。実験音楽でありながら、奇妙にキャッチーなのだ。
Pitchforkは2007年の Mirrored レビューで、Battlesが生身のバンドとコンピューター技術の融合という考えを、Disco Inferno以降で最も押し広げた存在だと評している。(en.wikipedia.org) これはBattlesの核心をよく突いている。彼らはロック・バンドでありながら、ロック・バンドが人力で鳴らすべき音の限界を、ソフトウェアと身体能力の両側から拡張した。
アーティストの背景と歴史:異なるロック地下水脈から集まった4人
Battlesは、ニューヨークで2002年に結成された。メンバーの出自は非常に濃い。Ian WilliamsはDon CaballeroやStorm & Stressで活動していたギタリスト/キーボーディストであり、ポストロックやマスロックの文脈に深く関わっていた。John StanierはHelmetやTomahawkで知られるドラマーであり、硬質で重量感のあるビートを叩く人物だった。Tyondai Braxtonは作曲家/ボーカリスト/電子音楽家としての性格を持ち、Dave KonopkaはLynx出身で、ギター、ベース、エフェクト、ループ、デザインの面でも重要な役割を果たした。(en.wikipedia.org)
この4人が集まった時点で、Battlesは普通のロック・バンドにはならない運命にあった。Ian Williamsの細かく分割されたギター・パターン、John Stanierの強靭でミニマルなドラム、Dave Konopkaの音響的なループ感覚、Tyondai Braxtonの奇妙な声と電子処理。それぞれが別の実験室から持ち寄った装置を、ひとつの巨大な機械に組み込んだようなバンドだった。
初期には EP C、B EP、シングル Tras などをリリースし、Warp Recordsはそれらをまとめて EP C / B EP として2006年に発表した。(en.wikipedia.org) この時期のBattlesは、まだ完全なポップ性には到達していないが、すでに驚異的な精密さと異様なグルーヴを持っていた。音は硬く、リフは分解され、ドラムは人間離れしている。
2007年、彼らは1stアルバム Mirrored をWarp Recordsから発表する。録音はMachines with Magnetsで行われ、先行シングル Atlas は大きな注目を集めた。Mirrored は批評的に高く評価され、同年の多くの年間ベストに選ばれた。(en.wikipedia.org)
しかし、2010年にTyondai Braxtonが脱退する。これはBattlesにとって大きな転機だった。彼の声と電子的な処理は Mirrored の象徴的な要素だったからだ。2011年の Gloss Drop では、Battlesはその穴をゲスト・ボーカリストとより鮮やかなリズムの方向性で埋めた。2015年の La Di Da Di では、完全にインストゥルメンタル・バンドとしての側面を前面に出し、2018年にはDave Konopkaが脱退する。2019年の Juice B Crypts では、Ian WilliamsとJohn Stanierのデュオとして、さらに密度の高い音楽を展開した。(pitchfork.com)
Battlesの歴史は、メンバーが減るたびに音楽が単純になる物語ではない。むしろ、減るたびに別の複雑さを獲得してきた。4人組から3人組へ、そして2人組へ。人数は少なくなったが、音の迷路はむしろ別の方向へ広がっている。
音楽スタイルと影響:マスロック、電子音楽、ポストパンク、機械的ファンク
Battlesの音楽スタイルは、マスロック、エクスペリメンタル・ロック、ポストロック、電子音楽、ポストパンク、アヴァン・ロック、ミニマル・ミュージック、プログレッシブ・ロック、ファンクを横断している。だが、彼らの本質は「構造」と「グルーヴ」の関係にある。
マスロックは、複雑な拍子、変則的なリフ、精密なアンサンブルを特徴とする。Battlesはその伝統を受け継ぎながら、そこに電子音楽のループ感覚を持ち込んだ。Ian Williamsのフレーズは、ギターで弾かれているにもかかわらず、しばしばシーケンサーのように感じられる。短いパターンが繰り返され、少しずつズレ、別のパターンと噛み合い、立体的なリズム建築を作る。
John Stanierのドラムは、Battlesの心臓である。Helmet時代から知られる彼の演奏は、硬く、太く、驚くほど正確だ。クラッシュ・シンバルを非常に高くセットする独特のステージ姿も有名だが、それ以上に重要なのは、彼のビートが複雑な音の中で常に柱になることだ。音がどれほど細かく分裂しても、Stanierのドラムがあることで、曲は崩れずに走り続ける。
Battlesの音楽には、ロックでありながらファンク的な身体性もある。Atlas や Ice Cream、The Yabba のような曲では、変拍子や複雑な構成にもかかわらず、聴き手の身体が反応する。これは非常に重要だ。Battlesは、難解な音楽を頭だけで聴かせるのではなく、リズムの快楽として提示する。
また、彼らは電子音楽の影響を強く受けているが、完全に機械へ移行しない。音の多くは人間が演奏している。だが、その演奏はループされ、加工され、重ねられ、機械のように再構成される。つまりBattlesの音楽は、人間と機械の中間にある。汗をかくロボット、あるいは感情を持ったシーケンサーのような音楽である。
代表曲の解説:Battlesの楽曲世界
Atlas
Atlas は、Battlesの代表曲であり、2000年代マスロック/エクスペリメンタル・ロックを象徴する楽曲である。2007年の Mirrored に収録され、Tyondai Braxtonのピッチシフトされた声、John Stanierの強靭なドラム、機械的でありながら奇妙に踊れるリフが強烈な印象を残す。
この曲の面白さは、声が「歌詞を伝えるための声」ではなく、楽器として機能している点にある。Braxtonの声は高く加工され、まるで子どもの合唱と機械音声が混ざったように響く。そこに重いドラムと幾何学的なリフが加わり、曲は巨大な玩具工場のように動き出す。
Pitchforkの Mirrored レビューでも、Atlas はロボット的なロック、グラムやクラウトロックの要素を持つ曲として紹介されている。(pitchfork.com) まさにこの曲は、Battlesの発明を最も分かりやすく示す。人間が演奏しているのに、人間だけではない。ロックなのに、ロックのフォームから逃げている。
Tonto
Tonto は、Mirrored の中でも特に構築美が際立つ楽曲である。リフは細かく折り重なり、ドラムは不動の柱のように鳴り、曲全体が少しずつ高みに向かっていく。
この曲には、Battlesの「積み上げる」能力がよく表れている。単純なAメロ、Bメロ、サビの構成ではなく、音のブロックを少しずつ組み替えながら進む。まるでレゴで作った塔が、自動的に別の形へ変形していくようだ。
Tonto はまた、映像的な楽曲でもある。United Visual Artistsとのビデオ作品でも知られ、Battlesの音楽が視覚的な幾何学と相性がよいことを示した。(en.wikipedia.org)
Race: In
Race: In は、Mirrored の冒頭を飾る楽曲であり、アルバム全体の世界へ聴き手を突入させる役割を持つ。最初からリズムと音の断片が絡み合い、普通のロック・アルバムではないことを宣言する。
曲名の通り、何かの競技が始まるような緊張感がある。ただし、これは直線的なレースではない。コースは曲がりくねり、時間は伸び縮みし、リフは予想外の角度で折れ曲がる。Battlesの音楽は、常に前へ進んでいるのに、同時に迷路の中にいるようでもある。
Ice Cream
Ice Cream は、2011年の Gloss Drop を代表する楽曲である。Matias Aguayoをゲスト・ボーカルに迎え、Battlesの音楽にラテン的な陽気さ、奇妙なポップ感覚、ダンスミュージックの軽さが加わった。
Tyondai Braxton脱退後、Battlesはどう変わるのかという問いに対し、Ice Cream は明るく、ひねくれた答えを示した。声はゲストに任せながらも、リフの細かさ、ドラムの正確さ、音の組み立て方は完全にBattlesである。
Pitchforkは Gloss Drop について、Braxton脱退後に Mirrored を再現するのではなく、ポップとリズムを強調したアルバムになったと評している。(pitchfork.com) Ice Cream はその象徴だ。難解さを失わずに、色彩を明るくしたBattlesである。
My Machines
My Machines は、Gloss Drop に収録された楽曲で、Gary Numanをゲストに迎えている。タイトルからしてBattlesに似合っている。機械、反復、冷たい声、精密なアンサンブル。Gary Numanの存在は、ニューウェイヴ/シンセポップの機械的美学をBattlesのマスロックへ接続する。
この曲では、リズムが非常に力強い。Stanierのドラムが巨大なプレス機のように鳴り、Ian WilliamsとDave Konopkaの音がその周囲を走る。Gary Numanの声は人間的でありながら、どこか無機質に響く。Battlesの機械美学と見事に噛み合った曲である。
Futura
Futura は、Gloss Drop の中でもインストゥルメンタル・バンドとしてのBattlesを強く感じさせる曲である。タイトル通り、未来的な響きがあり、リフは硬質で、構成は明るく開かれている。
この曲は、Battlesがボーカルなしでも十分に物語を作れることを示す。彼らの音楽において、メロディは歌だけに宿るのではない。ギターの断片、キーボードの音色、ドラムの配置、それらがすべてメロディの役割を果たす。
The Yabba
The Yabba は、2015年の La Di Da Di を象徴する楽曲である。La Di Da Di は全編インストゥルメンタルであり、Battlesが声に頼らず、リズムと構造だけでどこまで曲を展開できるかを示した作品だった。
The Yabba は、ゆっくりと巨大な装置が起動するように始まり、徐々に複雑な音の群れが組み上がっていく。ドラムは大きく、リフは細かく、曲は遊び心を持ちながら進む。Battlesの音楽にある「おかしな精密機械」の魅力がよく出ている。
FF Bada
FF Bada も La Di Da Di の重要曲である。軽快で、どこかコミカルで、リズムの跳ね方が非常にBattlesらしい。彼らの音楽は複雑でありながら、しばしばユーモラスだ。音がまじめにふざけている。
この曲を聴くと、Battlesのリフがいかに「言葉の代わり」になっているかが分かる。ボーカルがなくても、フレーズが会話しているように感じる。ギターとキーボードが短い言葉を投げ合い、ドラムがその会話の机を叩く。そんな印象を受ける。
Titanium 2 Step
Titanium 2 Step は、2019年の Juice B Crypts からの楽曲で、Liquid LiquidのSal Principatoをフィーチャーしている。Pitchforkはこの曲の公開時、Juice B Crypts がIan WilliamsとJohn Stanierのデュオ体制で制作され、Shabazz Palaces、Tune-Yards、Xenia Rubinos、Jon Anderson、Prairie WWWWなど多数のゲストを迎えたアルバムだと報じている。(pitchfork.com)
この曲は、Battlesのデュオ期のカオスを象徴する。リズムは鋭く、音は密集し、ゲストの声がパーカッシブに絡む。Liquid Liquid的なポストパンク/ダンスの感覚が、Battlesの複雑な構造と接続されている。
Fort Greene Park
Fort Greene Park は、Juice B Crypts の中でも比較的焦点の合った楽曲として評価されることが多い。Pitchforkは同アルバムのレビューで、全体には過密な印象があるとしつつ、この曲についてはひとつのテーマを発展させる抑制がある例として触れている。(pitchfork.com)
この曲では、Battlesが「足す」だけでなく「絞る」ことによって生まれる強さを示している。音数が多いバンドだからこそ、焦点が定まった瞬間の美しさが際立つ。ニューヨークの公園名を冠したタイトルも、彼らの都市的で幾何学的な音楽に不思議と似合う。
アルバムごとの進化
EP C / B EP:実験機械の設計図
2006年にWarpからリリースされた EP C / B EP は、初期EPをまとめた作品であり、Battlesの設計図のようなアルバムである。まだ Atlas のような大きなポップ性は前面に出ていないが、リズム、反復、分裂したリフ、硬質なアンサンブルはすでに完成度が高い。
この作品は、マスロックの技巧と電子音楽的なループ感覚が結びつく過程を記録している。曲は冷たく、時に無機質だが、演奏の身体性は強い。Battlesが最初から「ロック・バンドをソフトウェア的に再構成する」発想を持っていたことが分かる。
Mirrored:マスロックの未来を提示した傑作
2007年の Mirrored は、Battlesの代表作であり、2000年代実験ロックの重要作である。Atlas、Tonto、Race: In などを収録し、バンドの特異な音楽性を世界へ示した。
Pitchforkは同作を、21世紀のソフトウェアを用いてリアルタイムのロック音を操作し、生身の演奏と電子処理を融合した作品として評価している。(pitchfork.com) これはまさに Mirrored の革新性である。Battlesは、録音後に電子音を追加したのではない。演奏そのものがすでに電子的な思考で組み立てられている。
Mirrored の魅力は、複雑さが喜びになっていることだ。普通なら難解になりそうな構造が、なぜか明るく、遊び心に満ちている。音は奇妙だが、閉じていない。むしろ、聴き手を巨大な音の遊園地へ招き入れる。
Gloss Drop:喪失の後に生まれたカラフルな変化
2011年の Gloss Drop は、Tyondai Braxton脱退後の最初のアルバムである。多くのリスナーは、Battlesが Mirrored の象徴的な声を失った後にどうなるのかを注目していた。彼らの答えは、ゲスト・ボーカリストを招き、よりカラフルでリズム志向の作品を作ることだった。
Matias Aguayo、Gary Numan、Kazu Makino、Yamantaka Eyeらが参加し、アルバムは多国籍で奇妙なポップ感覚を持つ作品になった。Pitchforkは、Gloss Drop が Mirrored の再現ではなく、ポップとリズムを重視し、ハウス、ロック、ソカ、ダンスホールの要素を取り入れた作品だと評している。(pitchfork.com)
このアルバムは、Battlesが危機を変化へ変えた作品である。声を失ったことで、むしろ外部の声を入れる自由を得た。バンドは閉じるのではなく、開いた。
La Di Da Di:インストゥルメンタル・バンドとしての完成
2015年の La Di Da Di は、全編インストゥルメンタルのアルバムである。ゲスト・ボーカルもなく、Battlesは3人だけで音の建築を進める。ここでは、曲が歌ではなく、リズムと構造の運動として成立している。
この作品は、Gloss Drop のカラフルさから少し引き締まり、より演奏そのものに焦点が当たっている。John Stanierのドラム、Ian Williamsのリフ、Dave Konopkaのループと低音が、非常に精密に組み合わされる。ボーカルがないことで、音の細部がより際立つ。
The Yabba や FF Bada には、Battlesらしい奇妙なユーモアと身体性がある。インストゥルメンタルでありながら無表情ではない。むしろ、楽器が言葉の代わりに笑い、走り、跳ねている。
Juice B Crypts:デュオ化したBattlesの過密な迷宮
2019年の Juice B Crypts は、Dave Konopka脱退後、Ian WilliamsとJohn Stanierのデュオとして制作されたアルバムである。日本では2019年10月11日に先行リリースされ、海外では10月18日にリリースされたと紹介されている。(turntokyo.com)
このアルバムには、Shabazz Palaces、Tune-Yards、Xenia Rubinos、Jon Anderson、Prairie WWWWなど、多数のゲストが参加している。(pitchfork.com) デュオになったにもかかわらず、音はむしろ過密だ。サウンドは細かく切り刻まれ、ゲストの声が入り乱れ、曲は短い断片が高速で接続されるように進む。
Pitchforkは同作について、魅力的な瞬間や細部は多いが、全体として要素を詰め込みすぎていると批判的に評した。(pitchfork.com) 一方でNMEは、複雑で入り組んだ作品でありながら、Battlesの最良の作品が持つ喜びと即時性を捉えていると評価している。(nme.com)
この評価の分裂は、Juice B Crypts の性格そのものを表している。過剰で、忙しく、時に散らかっている。しかし、その散らかり方に、デュオになったBattlesが新しいバンドとして再起動しようとするエネルギーがある。
影響を受けた音楽:Don Caballero、Helmet、電子音楽、ミニマリズム
Battlesの音楽的ルーツは、各メンバーの出自に強く反映されている。Ian Williamsが在籍したDon Caballeroは、マスロック史において非常に重要なバンドであり、複雑なギター・パターンと変拍子の構造で知られる。Battlesはその技巧的な伝統を受け継ぎつつ、より電子音楽的な方向へ進めた。
John Stanierが在籍したHelmetは、硬質で切断的なリフと強烈なドラムによって、1990年代オルタナティヴ・メタル/ポストハードコアに大きな影響を与えた。Stanierのドラムには、その重さと正確さが残っている。Battlesの音がどれほど電子的になっても、ドラムだけは常に肉体的な衝撃を持つ。
電子音楽からの影響も大きい。Warp Recordsに所属していることも象徴的だが、Battlesの音楽にはIDM、テクノ、ミニマル、ループ・ミュージックの発想がある。ただし、彼らはそれをコンピューターだけで作るのではなく、バンド演奏として再現する。
ミニマリズムの影響も見逃せない。短いフレーズを繰り返し、少しずつずらし、重ねる方法は、Steve Reich以降のミニマル・ミュージックにも通じる。ただしBattlesの場合、その反復は学術的な静けさではなく、ロックの圧力と遊び心を持っている。
影響を与えた音楽シーン:マスロックの再定義
Battlesは、2000年代以降のマスロックやエクスペリメンタル・ロックに大きな影響を与えた。彼ら以前にも、Don Caballero、Shellac、Slint、Tortoise、Hellaなど、複雑な構造や実験性を持つバンドは存在した。しかしBattlesは、そこへ電子音楽、ダンス感覚、ポップな奇妙さを大胆に持ち込んだ。
特に Mirrored の影響は大きい。ロック・バンドがコンピューター時代にどう変化できるかという問いに対し、Battlesはひとつの鮮やかな答えを示した。演奏をやめて電子音楽になるのではない。演奏そのものを電子的に考える。その発想は、後の多くのインストゥルメンタル・バンドや実験的ポップに影響した。
また、Battlesは「複雑なのに楽しい」という価値観を広めた。マスロックは時に、技巧の見せ合いや難解さに偏ることがある。しかしBattlesは、複雑なリズムをユーモラスでダンサブルなものへ変えた。これは非常に大きい。彼らは知的な音楽を、身体で楽しめるものにした。
他アーティストとの比較:Battlesのユニークさ
Battlesは、Don Caballero、Hella、Tortoise、Trans Am、Lightning Bolt、Can、Talking Heads、Aphex Twin、Animal Collectiveなどと比較できる。しかし、彼らはそのどれとも完全には一致しない。
Don Caballeroとの関係は明白である。Ian Williamsの出自もあり、複雑なギター構造には共通点がある。しかしBattlesは、Don Caballeroよりも電子音楽的で、ポップで、色彩が明るい。
Hellaと比べると、Battlesはより整理され、デザインされている。Hellaが暴走する超絶技巧の爆発だとすれば、Battlesは精密に設計された暴走装置である。
Tortoiseと比べると、Battlesはより硬く、より機械的で、より攻撃的だ。Tortoiseがジャズやダブを含むポストロックの柔らかい建築だとすれば、Battlesは金属とプラスチックでできた未来の遊具である。
Canとの比較では、反復とグルーヴの点で共通するが、Canが有機的なトランスを作るのに対し、Battlesはよりデジタルで幾何学的だ。Canが流れる川なら、Battlesは複雑な水力発電装置である。
ライブ・パフォーマンス:人力で機械を動かす緊張感
Battlesのライブは、録音作品とは別の緊張感を持つ。彼らの音楽は非常に構築的で、ループやエフェクトも多用されるが、それをステージ上で人間が実際に組み上げていく様子には独特のスリルがある。
John Stanierのドラムは、ライブでさらに圧倒的だ。無駄のない動き、強烈な打撃、巨大なシンバルへの一撃。複雑なループやフレーズが周囲で動く中、Stanierはまるで工場の中心にある巨大なピストンのようにリズムを打ち続ける。
Ian Williamsは、ギター、キーボード、サンプラー、ループを行き来しながら、複数の役割を同時にこなす。特にデュオ期には、彼が担う音の密度が大きくなった。TURNのインタビュー記事でも、デュオになったBattlesが「完全に新しいバンド」になったことが強調されている。(turntokyo.com)
Battlesのライブは、完璧に同期した機械を見ているようでありながら、同時にいつ壊れるか分からない人力の緊張感がある。そこが美しい。彼らの音楽は、機械の正確さに憧れながら、人間の身体でそれに挑む音楽なのだ。
アートワークと視覚性:Dave Konopkaのデザイン感覚
Battlesの世界観には、アートワークも大きく関わっている。初期EPから La Di Da Di までのアートワークは、メンバーだったDave Konopkaが手がけていた。Battles Atlasの資料では、KonopkaがEPやアルバムのカバー、ツアーポスター、グッズなどをデザインしていたことが紹介されている。(battlesatlas.com)
Battlesの音楽は、視覚的にも非常に幾何学的だ。ループ、反復、ズレ、積み上げ。これらは音だけでなく、デザインにも通じる。彼らのアートワークには、人工物と自然、ミニマルな構図、奇妙な色彩感覚があり、音楽の精密さと遊び心を視覚的に補強していた。
Juice B Crypts のアートワークはAndrew Kuoによる絵画をもとにしたものと紹介されており、Konopka脱退後の新しい視覚的段階を示している。(battlesatlas.com)
Battlesは、音だけでなく、視覚的にも「設計された混沌」を持つバンドである。
ファンや批評家の評価:革新性と過剰さのあいだ
Battlesは、デビュー以来、批評家から高く評価されてきたバンドである。特に Mirrored は、2000年代エクスペリメンタル・ロックの重要作として広く認識されている。Pitchforkは同作を、ロックとテクノロジーの融合を押し広げたアルバムとして高く評価した。(pitchfork.com)
一方で、Battlesの評価は常に「過剰さ」と隣り合わせでもある。Juice B Crypts では、その過剰さが魅力と感じられるか、散漫さと感じられるかで評価が分かれた。Pitchforkは詰め込みすぎを批判し、NMEは複雑ながら即時性と喜びを保っていると評価した。(pitchfork.com, nme.com)
この評価の揺れは、Battlesというバンドの本質でもある。彼らはいつも、ちょうどよい範囲を少し超える。フレーズを重ねすぎる。リズムを複雑にしすぎる。音を詰め込みすぎる。しかし、その「しすぎる」ことが、Battlesの推進力でもある。音楽の限界を突破するとは、時にバランスを失う危険を引き受けることでもある。
社会的・文化的意味:ロック・バンドはまだ変形できる
Battlesの文化的意味は、ロック・バンドという形式がまだ変形可能であることを示した点にある。2000年代、ロックはすでに多くの形式を消費し尽くしたようにも見えていた。ギター、ベース、ドラム、ボーカルという基本編成で、何が新しくできるのか。その問いにBattlesは、テクノロジーと身体性の融合で答えた。
彼らは、ロックを過去の様式として保存するのではなく、ソフトウェア時代の身体音楽として作り直した。ループを使う。音を加工する。声を楽器にする。ギターをシーケンサーのように扱う。ドラムを機械のように叩く。しかし、そこには人間の演奏の緊張感がある。
Battlesの音楽は、AIやプログラムによる完全な自動生成ではない。むしろ、機械的なものに人間がどこまで近づけるか、そしてその過程でどんなズレや熱が生まれるかを示している。現代の音楽制作がますますデジタル化する中で、Battlesのアプローチは今も重要だ。
まとめ:Battlesは、マスロックを未来の遊具に変えたバンドである
Battlesは、音楽の限界を突破するマスロックの先駆者である。Ian Williams、John Stanier、Tyondai Braxton、Dave Konopkaによって始まったこのバンドは、初期EPで実験的な設計図を示し、2007年の Mirrored でマスロックと電子音楽の融合を決定的な形にした。
Atlas は、ロック・バンドがロボットのように踊る未来を示した。Tonto は、幾何学的な音の建築を作った。Gloss Drop ではTyondai Braxton脱退後の穴をカラフルなゲストとリズムで埋め、La Di Da Di では完全なインストゥルメンタル・バンドとしての完成度を示した。Juice B Crypts では、デュオ体制となった彼らが、過密で混沌とした新しい迷宮を作り出した。
Battlesの音楽は、難しい。だが、冷たくはない。複雑で、奇妙で、機械的でありながら、どこかユーモラスで、身体を揺らす力がある。彼らはマスロックを、数学の問題ではなく、未来の遊具に変えた。
ロック・バンドはまだ変形できる。ギターはまだ別の機械になれる。ドラムはまだ新しいエンジンになれる。人間はまだ、機械のように演奏しながら、機械には出せない熱を出せる。Battlesは、そのことを20年以上にわたって証明し続けている。

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