発売日: 2015年7月17日
ジャンル: ビッグビート、エレクトロニカ、テクノ
エコーに生まれた新たな音の波——The Chemical Brothersが再定義したダンス・ミュージックの未来
『Born in the Echoes』は、The Chemical Brothersが2015年にリリースした8枚目のスタジオ・アルバムであり、彼らが長年にわたって築いてきたビッグビートとエレクトロニカの王道を再構築し、進化させた作品である。
1990年代のエレクトロニック・ミュージックの革命における先駆者として、その後のダンス・ミュージックの流れを牽引し続けてきた彼らが、このアルバムでどのように新たな音楽の地平を切り開いたのかは注目に値する。
本作は、ダンス・ミュージックという枠を超え、音響的に実験的でありながらも、リズムとメロディが見事に調和した。
彼らのサウンドは以前のようにエネルギッシュでありながらも、音の余韻や響きを大切にした深みのある作品に仕上がっている。
ゲストにはBeck、Q-Tip、St. Vincentなどが参加しており、さまざまな音楽的要素が融合し、アルバム全体に多彩でダイナミックなサウンドが広がっている。
全曲レビュー
1. Sometimes I Feel So Deserted
アルバムのオープニングを飾るこのトラックは、サイケデリックなシンセサウンドとビートが絡み合い、独特の浮遊感を生み出す。
リズムが反復しながらも、徐々にその音の広がりと深みを増していき、リスナーを異次元の世界へと誘う。
2. Go
このトラックは、アルバムの中でも最もエネルギッシュでアップテンポな一曲。
Q-Tip(A Tribe Called Quest)が参加し、ヒップホップ的なフローとビートが融合して、ダンス・ミュージックに新たなテンションを加えている。
サウンドはシンプルだが、強烈なリズムとともに爆発的なエネルギーを放つ。
3. Under Neon Lights
St. Vincentが参加したこの曲は、彼女のユニークな歌声とダークなサウンドスケープが特徴的。
サイケデリックなシンセと浮遊感のあるビートが、都会のネオンに照らされた夜のような不安感と魅力を表現している。
4. Eve of Destruction
スタティックで荒々しいドラムとシンセサイザーが、破滅的な未来を暗示するような激しいビートを作り上げる。
エネルギッシュで攻撃的なリズムがリスナーを刺激し、カオスと秩序が入り混じるような音楽的な対比が面白い。
5. Go! (Beck’s “Kinetic” Version)
先の「Go」のエネルギーを受けて、Beckのバージョンはさらに自由で流動的なエレクトロニカの要素を取り入れている。
ベックのキネティックなリズム感と、エレクトリックなサウンドの融合が、トラックに新たな深みと広がりを加えている。
6. Born in the Echoes
アルバムタイトルを冠したこのトラックは、音の反響と反復がテーマになっており、音の余韻やサンプルの層が見事に重なり合っていく。
サイケデリックなサウンドが支配する中で、リズムが細かく変化し、まるで音楽が時間の中で拡がり、収束していくような感覚を与える。
7. Rave Tapes
トランシーでグルーヴィーな要素が強調された一曲。
サンプルの反復と深いベースラインが特徴的で、まさにダンスフロア向けのサウンド。
その反復的なグルーヴ感が、聴いているうちに次第に引き込まれていく。
8. Wide Open
この曲ではBeckが再び登場し、軽やかで流れるような歌声とともに、楽曲が優雅に展開していく。
シンセとリズムが広がりを見せる中で、浮遊感と穏やかさを感じさせる一曲となっている。
9. Reflexion
アルバムの中で最も静かな曲であり、エレクトロニカとアンビエントの要素を強く感じさせる。
静かに進行するリズムとメロディが、リフレクション(反映)のテーマにぴったりの内省的な雰囲気を作り出している。
10. Caught in a Wave
アルバムの終盤にふさわしい、リズムとメロディの複雑な絡みが特徴的。
サイケデリックなドリームポップの要素が散りばめられ、音の広がりと一体感が聴き手を深い音楽体験へと導いていく。
総評
『Born in the Echoes』は、The Chemical Brothersが音楽的に新たな高みを目指した作品であり、彼らのサウンドの進化が見事に表れたアルバムである。
ダンス・ミュージックという枠を超えて、サイケデリック、ヒップホップ、エレクトロニカ、そしてポップの要素が融合し、深みと広がりを持つ音楽体験を提供する。
彼らは既存の音楽的ルールに縛られることなく、新しいサウンドの探求を続け、その中で生まれる音のエコーが時間を超えた普遍的な力を持っていることを証明した。
このアルバムは、音楽の未来を感じさせる作品として、リスナーに強い印象を残し続けるだろう。
おすすめアルバム
- Underworld / Barbara Barbara, We Face a Shining Future
エレクトロニカとテクノの革新。『Born in the Echoes』と同じく深く、進化的なサウンドを持つ。 - The Prodigy / The Day Is My Enemy
同じくビッグビートの大物。エネルギッシュで攻撃的なサウンドが共鳴する。 - Daft Punk / Random Access Memories
ダンス・ミュージックとロック、アンビエントの融合。音楽の革新を求めるリスナーにおすすめ。 - Justice / Woman
フレンチ・エレクトロニカの代表作。ダンスとエレクトロニカが融合し、音楽的な冒険を楽しめる。 - Fatboy Slim / Halfway Between the Gutter and the Stars
エレクトロニカとヒップホップ、ロックが絡み合った名作。『Born in the Echoes』に通じるリズム感と実験的アプローチが共鳴する。
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