
1. 楽曲の概要
「The perfect body」は、ロンドン出身のシンガーソングライター、Gretelの楽曲である。Gretelは以前、Gretel Hänlyn名義でも活動していたアーティストで、本名はMadeleine Haenleinとされる。初期にはGretel Hänlyn名義でEP『Slugeye』を発表し、その後、Gretel名義へ移行している。
本曲は2026年4月にリリースされたデビュー・アルバム『Squish』に収録されている。主要配信サービスや音楽データベースでは、曲名は「The perfect body」と表記されている。ユーザー指定の「Body」は、この曲を指している可能性が高い。アルバム内では終盤に配置され、作品全体の感情的な到達点として機能している。
作詞作曲にはMadeleine HaenleinとAlexander Crossanがクレジットされている。プロデュースにはSeth EvansとMura Masaが関わっている。Mura MasaはGretelの初期作品にも関与しており、Gretelの音楽的成長を支える重要な共同制作者の一人といえる。
Gretelの音楽は、オルタナティブ・ロック、インディー・ロック、シューゲイズ、ポップの要素を横断する。低く深い声、重さのあるギター、感情を直接的に扱う歌詞が特徴だ。「The perfect body」では、その特徴がより内省的な方向へ向かっている。身体への違和感、自己像、他者からの視線、宗教的な祈りの言葉が重なり、単なる自己嫌悪の歌ではなく、身体と心の関係をめぐる複雑な楽曲になっている。
2. 歌詞の概要
「The perfect body」の歌詞は、自分の身体をどう受け止めるかという問題を中心にしている。語り手は、鏡に映る自分の姿に満足できず、他者が見ている自分と、自分が見ている自分との間に隔たりを感じている。ここで描かれるのは、外見を変えたいという単純な願望だけではない。自分自身を他者の目を通して見たい、つまり自己認識そのものを変えたいという欲求である。
歌詞には「完璧な身体」「鏡」「まぶたの下の平穏」「宗教」「子どもを持つこと」「若さ」といった語が登場する。これらは、それぞれ別々の欲望を表しているようでいて、根底では同じ問題に結びついている。語り手は、自分の身体を安心できる場所として感じられていない。だからこそ、身体の形だけでなく、精神的な救い、知性、母性、若さまでを求める。
この曲で重要なのは、語り手が自分の苦しみを単に悲劇として語っていない点である。歌詞には「私は欲しい」という反復が多く含まれているが、それは欲望の強さを示すと同時に、欲望が尽きない状態も示している。身体を変えれば解決するのか、他者に認められれば解決するのか、信仰を持てば解決するのか。その答えは明確には示されない。
アルバム『Squish』全体は、歪んだ感情、自己認識、恋愛、怒り、疲労感などを扱う作品である。その中で「The perfect body」は、身体に向けられる社会的圧力と、そこから生じる内面的な傷を直接扱う曲として位置づけられる。終盤曲であることもあり、アルバムの個人的なテーマを締めくくる役割を持っている。
3. 制作背景・時代背景
Gretelは2020年代前半に登場した英国の若いシンガーソングライターである。初期作品では、オルタナティブ・ロックの粗さとポップなメロディ感覚を併せ持つ作風が注目された。2022年のEP『Slugeye』、2023年のEP『Head of the Love Club』を経て、2026年にデビュー・アルバム『Squish』をリリースした。
『Squish』は、Gretelにとって初のフルアルバムであり、これまでのEPで提示してきた感情表現とバンド・サウンドを拡張した作品である。アルバムには「Squish」「Fire blooming trees」「Maybelline」「Unbloom」「Witch hunt」「Darkness, be my friend」などが収録されている。全体として、90年代以降のオルタナティブ・ロックやシューゲイズの影響を感じさせつつ、現代的なインディー・ポップの編集感覚も含んでいる。
「The perfect body」が扱う身体イメージの問題は、2020年代のポップ・ミュージックにおいて重要なテーマの一つである。SNSを通じて外見が絶えず可視化され、比較される時代において、身体は個人的なものにとどまらず、社会的な評価の対象になりやすい。Gretelの歌詞は、その圧力を抽象的に語るのではなく、鏡や身体の部位、出産能力、若さといった具体的な語を通じて描いている。
同時に、この曲はオルタナティブ・ロックの文脈にもつながっている。Gretelの声は、一般的なポップ・ボーカルの軽さよりも、低さと陰影を持つ。そこに歪んだギターや重いリズムが加わることで、歌詞の主題が過度に説明的にならず、音そのものの圧力として伝わる。身体への不安を扱いながらも、曲が静的なバラードに閉じていない点が重要である。
4. 歌詞の抜粋と和訳
歌詞は権利保護の対象であるため、ここでは批評上必要な短い範囲のみ引用する。
give me the perfect body
和訳:
完璧な身体をください
この一節は、曲全体の中心にある欲望を端的に示している。ここでの「perfect body」は、単に理想的な外見を意味するだけではない。語り手にとってそれは、自分を責めずに済む身体であり、他者の視線に耐えられる身体であり、精神的な平穏を得るための条件でもある。
ただし、歌詞は「完璧な身体」が本当に救いになるとは断定しない。むしろ、欲望が身体から信仰、知性、母性、若さへと広がっていくことで、問題の根深さが見えてくる。身体を変えたいという願いの背後には、自分をそのまま見ることができない苦しさがある。
もう一つ重要なのは、語り手が自分自身を「他者のように見たい」と願う点である。これは、自己像が内側からだけでは成立していないことを示している。他者の目には自分が違って見えているかもしれない。だが、その視点を自分のものにできない。そのずれが、曲の緊張を生んでいる。
5. サウンドと歌詞の考察
「The perfect body」は、Gretelの持つオルタナティブ・ロック的な重さと、告白的なソングライティングが結びついた楽曲である。曲の中心にはボーカルがあり、声の低さと息遣いが歌詞の切実さを支えている。Gretelの歌唱は、過度に技巧を見せるというより、言葉の重みを残す方向で設計されている。
サウンド面では、アルバム『Squish』全体に見られるギター主体の質感が背景にある。Gretelの楽曲には、歪んだギター、厚みのある低音、急に感情が噴き出すようなダイナミクスがしばしば登場する。「The perfect body」でも、歌詞の内省性に対して、サウンドは完全には沈み込まない。むしろ、身体への違和感が音の圧力として表れるような構造になっている。
この曲の聴きどころは、反復される「I wanna」の使い方にある。単なるフックではなく、終わらない欲望のリズムとして機能している。何かを欲しがる言葉が繰り返されるほど、語り手が何を得ても満たされない状態にあることが浮かび上がる。メロディの反復も、その心理的な循環を強めている。
歌詞に登場する「Lord」という呼びかけも重要である。宗教的な祈りの形を取りながら、曲は明確な信仰告白にはならない。むしろ、誰かに身体を作り替えてほしい、別の見え方を与えてほしいという、行き場のない願いとして響く。ここでの祈りは、救済への確信ではなく、救済を求める姿勢そのものを表している。
プロダクションの面では、Mura Masaの関与も見逃せない。Mura Masaは電子音楽、ポップ、オルタナティブの境界を横断するプロデューサーであり、Gretelの音楽においても、ロック的な演奏感と現代的な音像を結びつける役割を果たしている。「The perfect body」は、派手なビートで前に出る曲ではないが、声と楽器の距離感、音の密度、終盤へ向かう感情の積み上げに、現代的なプロダクション感覚がある。
Gretelの過去曲と比べると、この曲はより直接的に身体と自己認識を扱っている。「Slugeye」や「Head of the Love Club」期の楽曲では、物語性やキャラクター性、恋愛や怒りの感情が前面に出ることが多かった。それに対して「The perfect body」は、より個人的で、逃げ場の少ない主題に向かっている。アルバムの最後に近い位置にあることで、作品全体の内面性を引き受ける曲になっている。
また、この曲は現代の女性アーティストによる身体表現の流れとも接続できる。摂食障害、身体醜形、外見へのプレッシャーといったテーマは、近年のインディー・ロックやオルタナティブ・ポップで繰り返し扱われている。ただし、Gretelの場合は、問題を社会批評として整理しすぎない。あくまで語り手の言葉として出てくるため、聴き手は説明ではなく、声の圧力を通じてその主題に触れることになる。
6. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- Body Terror Song by AJJ
身体への違和感や自己認識の不安を、直接的な言葉で扱う楽曲である。フォーク・パンク的な素朴さの中に、身体が自分のものとして感じられない感覚が表れている。「The perfect body」の歌詞面に惹かれる人には関連性が高い。
- I Know the End by Phoebe Bridgers
静かな告白から大きな音像へ展開していく構成が特徴である。個人的な不安を広い終末感へ拡張する点で、Gretelの内省的なロック感覚と近い。声の置き方にも、感情を抑えながら強度を出す共通点がある。
- Seventeen by Sharon Van Etten
年齢、記憶、自己像の変化を扱ったロック・ソングである。若さへの意識や、過去の自分との距離を歌う点で、「The perfect body」に含まれる若さと身体のテーマに通じる。ボーカルの力強さも聴きどころである。
- Drunk Walk Home by Mitski
怒り、自己破壊的な感情、身体的な叫びが結びついた曲である。短い楽曲ながら、ボーカルとギターの爆発力によって、言葉になりきらない感情を音に変えている。Gretelの荒さを含んだ表現が好きな人に向いている。
- Celebrity Skin by Hole
外見、名声、女性性、消費される身体をテーマにしたオルタナティブ・ロックの代表的な一曲である。「The perfect body」が内側から身体を見つめる曲だとすれば、「Celebrity Skin」は社会の視線にさらされる身体を外側から描く曲といえる。
7. まとめ
「The perfect body」は、Gretelのデビュー・アルバム『Squish』の中でも、身体と自己認識の問題をもっとも直接的に扱った楽曲である。曲名にある「完璧な身体」は、外見上の理想だけを指すのではない。語り手が求めているのは、自分を受け入れられる感覚、他者の目と自分の目のずれを埋める視点、そして身体をめぐる不安からの解放である。
サウンドは、Gretelらしいオルタナティブ・ロックの重さを保ちながら、歌詞の内省性を支えている。低く深いボーカル、反復されるフレーズ、密度のあるプロダクションが、身体への違和感を単なるテーマではなく、曲全体の感触として成立させている。
Gretelのキャリアにおいて、この曲は初期EPからデビュー・アルバムへ進む中で、より個人的で核心的な表現へ踏み込んだ楽曲といえる。『Squish』という作品の終盤に置かれることで、アルバム全体に流れる不安、欲望、自己変容の主題を引き受けている。Gretelのソングライティングの強みが、声、言葉、ギター・サウンドの接点で明確に示された一曲である。
参照元
- Shazam – The perfect body by Gretel
- Dork – Gretel “The perfect body” Track Profile
- Dork – Gretel “Squish” Album Profile
- DIY Magazine – Gretel introduces long-awaited debut album “Squish”
- Apple Music – Gretel Artist Page
- The Line of Best Fit – Gretel Hänlyn is on the rise
- Notion – Gretel Hänlyn on Seeking Catharsis Not Stability

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