Blondie by Current Joys(2013)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

Blondie」は、Current Joys(カレント・ジョイズ)が2013年に発表したアルバム『Wild Heart』に収録された楽曲であり、同作の中でも特に個人的で親密な感情が強く表出されたラブソングである。
タイトルの「Blondieブロンディ)」は、特定の女性、あるいは理想化された誰かへの呼びかけと受け取れるが、その実態は曖昧で、むしろ語り手の**“救済の幻想”としての存在**として描かれている。

この曲は、強い思慕と同時に諦め、孤独、すれ違いといった感情を伴っており、「誰かを強く想うこと」そのものが、すでに自分の中で崩れかけている感情であるという痛みが滲んでいる。

繰り返されるリフレインや、ざらついた音質、語尾を伸ばすようなボーカルは、まるで夢の中で誰かの名前を呼び続けるようで、届きそうで届かない感情のもどかしさをそのまま音にしている。

2. 歌詞のバックグラウンド

Blondie」は、Current JoysことNick Rattiganの最初期の創作期に生まれた楽曲であり、自主制作感のあるローファイでミニマルな録音手法がそのまま残されている。

この時期の彼は、Still Soundという別名義からCurrent Joysへと移行したばかりであり、自分の感情と向き合うこと自体が創作の動機となっていた時期である。
そのため『Wild Heart』に収録された曲の多くは、日記的で、どこか脆く、感情が整理されないまま音になっている。

Blondie」は、Nickが語るような片思い、失恋、遠ざかっていく関係性への執着を象徴的に捉えた楽曲であり、彼の持つ“感情を美化せずに曝け出す”という姿勢が強く反映された作品でもある。

この曲は後年、多くのファンによって「誰にも届かない気持ち」を象徴する1曲として愛され、TikTokなどでも静かにバズを生むこととなった。

3. 歌詞の抜粋と和訳

Blondie, I love you / But you don’t feel the same”
ブロンディ 君を愛してる
でも 君は同じ気持ちじゃないんだよね

“You look right through me / Like I’m not even there”
君は僕を見てるのに
まるで 僕が存在してないみたいだ

“I call your name / But you never hear”
君の名前を呼んでも
君には きっと届いてない

Blondie, I need you / But you’re never near”
ブロンディ 僕には君が必要なんだ
でも 君は決して近くにいてくれない

※ 歌詞引用元:Genius

4. 歌詞の考察

Blondie」は、明らかに片思い、あるいは終わった恋の記憶を歌っているが、その描き方は極めて純粋で無防備だ。
「君を愛してる」「君が必要だ」というストレートな表現は、普通なら気恥ずかしさを伴うが、Current Joysの歌声とローファイな録音の質感がそれを私的な呟きに変える

ここでの「ブロンディ」は実在の人物かもしれないし、語り手が自ら作り出した理想かもしれない。いずれにせよ、それは届かない存在、もしくは届かなくなってしまった存在として描かれており、
「目の前にいるのに、僕のことを見ていない」という感覚は、恋愛における最も苦しい孤独のかたちだ。

また、何度も繰り返される「Blondie, I love you」というフレーズは、自己催眠のようでもあり、呪文のようでもある
それは届かない想いを繰り返すことで、かろうじて自分の気持ちを保とうとする試みでもあるが、繰り返すたびにその言葉の切なさが増していくのは、感情がすでに崩壊しつつある証拠でもある。

この曲は、失われた愛に対して“忘れたくない”という願望と、“もう戻れない”という絶望がせめぎ合っている、極めて個人的で普遍的な失恋の詩なのだ。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • The Night We Met” by Lord Huron
     取り戻せない愛への後悔と願いを、幽玄なサウンドで包み込むバラッド。

  • Say Yes” by Elliott Smith
     シンプルなコードと詩の中に、愛への未練がこだまする名曲。
  • “Somebody Else” by The 1975
     誰かを想う気持ちと、もう自分に向いていないという絶望の同居。

  • “Love Will Tear Us Apart” by Joy Division
     愛という感情が関係を壊していく様を冷静に描いたポストパンクの金字塔。

  • Archie, Marry Me” by Alvvays
     届きそうで届かない愛の輪郭を、ポップに描く現代のロマンス。

6. 名前を呼ぶだけの歌——「Blondie」に宿る片思いの永遠性

Blondie」は、Current Joysというアーティストの持つ**“感情の未加工な純度”**がもっともよく表れた楽曲のひとつである。
それは構成も音もシンプルで、言葉もまっすぐであるがゆえに、聴き手の心にストレートに刺さる。

この曲においては、相手に理解されることも、関係を修復することも起こらない。ただ名前を呼び、想いを繰り返すだけの3分間
しかしその反復こそが、人が人を想うときの最も本質的な動作なのかもしれない。

Blondie」は、失われた誰かの名前を、心の中で何度も呼び続けてしまう夜にそっと寄り添ってくれる、祈りにも似たラブソングである。

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