発売日: 2014年10月31日
ジャンル: アルティメット・ロック、ニュー・ウェーブ、シンセ・ロック
記憶と音が交錯する“ビッグ・ミュージック”——再生するSimple Mindsの現在地
30年以上にわたって進化と変化を続けてきたSimple Mindsが、2014年にリリースしたBig Musicは、まさにその歩みを総括するような作品である。
タイトルに掲げられた“ビッグ”という言葉は、単にスケールの大きさを示すのではない。
それは彼らが培ってきた壮麗なサウンド、時代を超えるヴィジョン、そして再び“未来へ”向かう意志の表明でもある。
80年代に確立したアリーナ級のサウンドと、Street Fighting Years以降に見せた思想性、さらには現代的なプロダクションまでもを融合させたこのアルバムは、懐古的でありながら決して過去にとどまらない。
それは“今のSimple Minds”が鳴らす、等身大のロックなのである。
全曲レビュー
1. Blindfolded
ミステリアスなシンセから始まり、厚みのあるサウンドが空間を包むオープナー。
「目隠しされたままでも、まだ希望を信じられるか?」という問いが、時代の混迷を映し出す。
2. Midnight Walking
“深夜の散歩”というタイトルが示すように、孤独と都市の静寂が交差する楽曲。
リズムとシンセが一体となって、心の内面を巡る旅路を演出する。
3. Honest Town
Jim Kerrが亡き母に捧げたパーソナルなトラック。
“正直な街”という比喩に、故郷グラスゴーと自身の原点が重ねられている。
感情を抑えたヴォーカルが、逆に深い余韻を残す。
4. Big Music
タイトル・トラックにして、アルバムの核を成すアンセム。
壮大でポジティブなエネルギーが全体を包み込み、“音楽こそが希望である”というバンドの哲学が響く。
5. Human
自己の存在に対する問いと、人間性への信頼をテーマにした静かなバラード。
シンプルなメロディが、かえって普遍的なメッセージを強調している。
6. Blood Diamonds
現代社会の欺瞞や搾取を象徴するメタファーとしての“ブラッド・ダイアモンド”。
煌めくサウンドの中に、冷たい現実が鋭く切り込んでくる。
7. Let the Day Begin
The Callのカバー。希望と覚悟を同時に歌う賛歌的なナンバーで、バンドのルーツと信念を感じさせる。
8. Concrete and Cherry Blossom
“コンクリートと桜”という対照的なイメージが並ぶ詩的な楽曲。
都会の硬質さと自然の儚さが交差する、印象深いミディアム・テンポ。
9. Imagination
創造力という人間の力をテーマにしたエネルギッシュなトラック。
シンセとギターの絡みが、80sの空気を現代に再解釈している。
10. Kill or Cure
攻撃性と静寂が同居する、緊張感に満ちたサウンド構成。
“癒しか、破壊か”という二項対立が、自己と社会をめぐる葛藤として響く。
11. Broken Glass Park
痛みや喪失、そしてそこからの再生をテーマにしたエモーショナルなナンバー。
タイトルは現代の荒廃を象徴しつつも、その中に希望の芽を見出している。
12. Spirited Away
アルバムの幕を閉じる、幻想的で解放感に満ちた一曲。
“魂が連れ去られる”という表現が、自由と変容を暗示するように響く。
総評
Big Musicは、Simple Mindsが“今の自分たち”を真正面から肯定したアルバムである。
それは彼らの過去を振り返る行為ではなく、そのすべてを糧にして新たな“今”を鳴らすという、音楽的再生のプロセスだ。
Jim Kerrの歌声にはかつての情熱があり、Charlie Burchillのギターはこれまで以上に物語を語っている。
そして、80年代から現代へと続く“大きな音楽”の系譜が、本作で見事に繋がったのだ。
タイトルが示すように、このアルバムは単なる“音楽”ではない。
それは、時代を生き、闘い、祈ってきたバンドが鳴らす、記憶と希望の交差点——“Big Music”そのものなのだ。
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