発売日: 1974年7月
ジャンル: ハードロック、ブルースロック、サザンロック
概要
『Avalanche』は、Mountainが1974年に発表した4作目のスタジオ・アルバムであり、バンドの第一期を締めくくる“重く、冷たく、崩れ落ちる”ような終末的作品である。
フェリックス・パパラルディが最後に参加したMountainアルバムでもあり、彼の繊細なプロデュース感覚とレスリー・ウェストのヘヴィなギターワークがぶつかり合う、“氷雪の山脈”のような重厚さをたたえている。
本作では、カバーとオリジナルが混在しつつ、いずれも山のような重量感を持つサウンドで貫かれている。
前作までのブルース的叙情は後退し、より無骨でラウドな方向に傾いており、時に荒涼とした音像が70年代中期のアメリカン・ロックの停滞と重なるようでもある。
タイトルの「Avalanche(雪崩)」は、まさにそのまま、制御不能な質量が押し寄せてくるような音のメタファーとなっている。
全曲レビュー
1. Whole Lotta Shakin’ Goin’ On
ジェリー・リー・ルイスのロカビリー名曲を、重戦車のようなハードロックに変換したカバー。
原曲の跳ねるリズムは姿を消し、代わりにスローモーションのような重量感が支配する。
ヴォーカルも野太く、まさにMountain流の“暴力的ロックンロール”。
2. Sister Justice
ブルージーなリフとメロディが際立つオリジナル曲。
“正義の姉妹”というタイトルが示す通り、法や道徳をめぐる寓話的リリックが特徴。
アメリカ社会へのほのかな皮肉もにじむ。
3. Alisan
短くも叙情的なインストゥルメンタル・トラック。
レズリー・ウェストのギターが、叫ぶのではなく“語る”ように歌う一曲で、アルバム中で唯一の静かな瞬間。
タイトルの“アリサン”は実在の女性とも読めるが、詳細は不明。
4. Swamp Boy
南部の湿地帯を思わせるヘヴィ・グルーヴが印象的。
タイトル通り、サザン・ロックとブルースが混交したサウンドで、泥臭くも哀愁のある展開。
レズリー・ウェストのヴォーカルが魂をむき出しにする。
5. (I Can’t Get No) Satisfaction
ローリング・ストーンズの代表曲を、さらに鈍重に、ブルース寄りに再解釈したカバー。
原曲のリフを引き延ばし、よりドロドロとした感触を与えている。
“満足できない”という叫びが、Mountain流に肥大化した一曲。
6. Thumbsucker
サイケデリックなギター・フレーズと、うねるようなリズムが交錯するヘヴィ・ナンバー。
“親指しゃぶり”という奇妙なタイトルは、未成熟さや依存の象徴とも取れる。
後半のインプロヴィゼーションも聴きどころ。
7. You Better Believe It
ストレートなロックンロールで、アルバムの中では比較的スピーディーな一曲。
演奏のグルーヴ感が強く、ライブ映えしそうなナンバー。
“信じるしかないんだ”というメッセージが、どこか疲れたようなトーンで語られるのが印象的。
8. I Love to See You Fly
愛と自由をテーマにしたミッドテンポの楽曲。
ギターのコード進行とメロディに、アメリカン・ロック的な明るさと郷愁が入り混じる。
本作の中では最も“希望”の光を感じさせるトラック。
9. Back Where I Belong
帰属意識とアイデンティティをテーマにした力強いナンバー。
ギター・リフとシャウトが噛み合い、“自分の居場所”を探し求める感情がストレートに伝わる。
ラストに向けてエネルギーを再点火するような感触。
10. Last of the Sunshine Days
アルバムのクロージングを飾るにふさわしい、寂寥感あふれる楽曲。
“陽だまりの日々はもう終わった”というタイトルが象徴するように、パパラルディの歌声には明らかな諦念と祈りがこもる。
この曲を最後に、Mountainの“第一期”は終焉を迎えることになる。
総評
『Avalanche』は、Mountainというバンドがその名の通り“音の山塊”として頂点から崩れ落ちていく過程を、静かに、そして重々しく記録した作品である。
そこには前作までの幻想性や抒情性は影を潜め、代わりに無骨なグルーヴと剥き出しの感情が支配している。
“音楽的な完成度”という意味では決してピークとは言えないが、その代わりに剥き出しの“終わりの美学”が刻まれている。
Mountainはこの後に解散し、後の再結成期まで沈黙を迎えるが、その終幕がこれほど“物語性”を持つバンドも珍しい。
『Avalanche』はまさに、崩落の中でなお咆哮を続ける“雪崩のロックンロール”なのである。
おすすめアルバム(5枚)
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West, Bruce & Laing – Why Dontcha (1972)
Mountainの流れをくむパワートリオ。レスリー・ウェストのラウドな美学が引き継がれる。 -
Cream – Goodbye (1969)
解散を前提とした最終作。『Avalanche』と同じ“終わりの美”をたたえる。 -
ZZ Top – Tres Hombres (1973)
サザン・ロックの要素とブルースの融合。『Swamp Boy』的世界観に共鳴。 -
Johnny Winter – Still Alive and Well (1973)
アメリカ南部の泥臭いギター・ロック。Mountainの硬質さと好対照をなす。 -
The Rolling Stones – Sticky Fingers (1971)
“重く、黒く、艶やか”なロックの最高峰。Mountainのカバーとの比較も楽しめる。
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