発売日: 2015年11月6日
ジャンル: エレクトロポップ、アートポップ、インディートロニカ
『Art Angels』は、カナダのアーティストGrimesが手がけた4枚目のスタジオアルバムで、彼女の独自の音楽スタイルをさらに進化させた作品である。前作『Visions』で提示されたエクスペリメンタルなエレクトロニカの要素を引き継ぎつつ、よりポップでキャッチーなメロディを取り入れたこのアルバムは、Grimesのアーティストとしての多様性とクリエイティブなビジョンが全面に押し出されている。すべての楽曲の作詞・作曲・プロデュースをGrimes自身が担当し、ポップでありながらも彼女特有の奇抜さが感じられる。アルバム全体を通して、エネルギッシュなエレクトロポップと内省的なリリックが絡み合い、リスナーを多彩な音楽の世界へと引き込む。
各曲ごとの解説:
- laughing and not being normal
アルバムのオープニングを飾る短いインストゥルメンタル風の曲で、オーケストラ的なストリングスが前面に出たシネマティックなサウンドが印象的。メロディは美しくも不穏で、アルバム全体のテーマを示唆する導入となっている。 - California
明るいポップなメロディに反して、歌詞は批判的で内省的。Grimesは、音楽業界や批評に対する失望を歌っている。フォークポップ風のサウンドが心地よい一方で、彼女の独特の皮肉とユーモアが光る。 - Scream (featuring Aristophanes)
台湾のラッパーAristophanesをフィーチャーした実験的なトラックで、ギターリフと荒々しいボーカルが特徴的。ラップは中国語で、攻撃的なビートが印象に残る。異国風の不協和音とパンク的なエッジが、アルバム全体にスリリングな雰囲気を与える。 - Flesh without Blood
キャッチーなメロディと明るいサウンドが際立つポップソング。歌詞は失恋や裏切りをテーマにしており、軽快なビートとGrimesのハイトーンなボーカルが、悲しみの中にも希望を感じさせる。シングルとしても成功した一曲で、彼女のメロディメーカーとしての才能が光っている。 - Belly of the Beat
ミニマルなビートとドリーミーなシンセサウンドが特徴の曲。自己表現と音楽の解放感をテーマにしたリリックが、繊細なサウンドと調和している。リズムの柔らかさと浮遊感のあるメロディが、リスナーを包み込む。 - Kill V. Maim
攻撃的でエネルギッシュなダンスナンバー。Vampireの視点で描かれたリリックは、ジェンダーやアイデンティティに対する挑戦的なメッセージが込められている。ポップパンクやエレクトロの要素が融合し、激しいサウンドが印象的な一曲だ。 - Artangels
アルバムのタイトルにもなっている曲で、軽やかで明るいポップソング。メロディはキャッチーだが、歌詞は暗いテーマを持ち合わせている。Grimesのボーカルが優雅に響き、アルバム全体の中でも比較的リラックスした雰囲気を持っている。 - Easily
軽やかでドリーミーなサウンドが特徴のミッドテンポトラック。シンセとアコースティックギターが絡み合い、グルーヴィーで柔らかなムードを醸し出している。自由で解放された感覚が漂う、アルバムの中でも特にリラックスした曲。 - Pin
リズミカルでダンサブルなエレクトロポップナンバー。キャッチーなシンセリフと高揚感のあるメロディが特徴で、ポップなサウンドの中にGrimesらしいエッジが感じられる。歌詞は自己探求やアイデンティティに関するテーマが織り込まれている。 - Realiti
最も人気の高い楽曲のひとつで、広がりのあるシンセサウンドが心地よいエレクトロポップナンバー。Grimesがアジアを旅した経験からインスパイアされており、リリース当初はデモとして公開されたが、ファンからの支持を受けてアルバムに正式収録された。幻想的なメロディと切ない歌詞が感情的な余韻を残す。 - World Princess Part II
ファンタジーの世界を描いたリリックが特徴で、シンセのリフが美しくも力強い。アルバムの中でも特にドラマチックな展開を見せる楽曲で、Grimesのファンタジックな側面が色濃く反映されている。 - Venus Fly (featuring Janelle Monáe)
Janelle Monáeとのコラボレーションによる、力強いエレクトロクラッシュナンバー。攻撃的でエネルギッシュなビートが印象的で、女性の力強さをテーマにしたリリックが込められている。GrimesとMonáeの相性も抜群で、アグレッシブなエネルギーが満載。 - Life in the Vivid Dream
短く静かな曲で、ピアノを中心としたシンプルなサウンド。夢と現実の境界を描くリリックが、穏やかでメランコリックなメロディに乗せられている。アルバムの流れの中で一息つかせるような、静かな瞬間を提供している。 - Butterfly
アルバムの最後を飾る楽曲で、明るく爽やかなメロディとシンセサウンドが融合したポップナンバー。自由を象徴する蝶をテーマにしており、軽やかで解放感のあるフィナーレを演出している。
アルバム総評:
『Art Angels』は、Grimesが音楽プロデューサー、作曲家、パフォーマーとしてのスキルを全て発揮したアルバムで、ポップミュージックとエクスペリメンタルな要素を見事に融合させた作品だ。攻撃的でダンサブルな曲から、ドリーミーでメランコリックな曲まで、多彩なサウンドスケープが楽しめる。特に「Kill V. Maim」や「Realiti」などのトラックは、彼女の個性を存分に発揮した名曲であり、Grimesの音楽的成長を感じさせる。商業的なポップミュージックとは一線を画しながらも、キャッチーなメロディを駆使したこのアルバムは、インディーミュージックとメインストリームの垣根を超える一枚である。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚:
- Visions by Grimes
『Art Angels』の前作で、よりダークでエクスペリメンタルなエレクトロニカを展開したアルバム。ミニマルで幻想的なサウンドが、Grimesの音楽の原点を知るには最適。 - LP1 by FKA twigs
アートポップとエクスペリメンタルなR&Bを融合させた作品で、独特の音響と内省的なリリックが特徴。Grimesのファンには、FKA twigsの繊細かつ大胆なサウンドが響くはず。 - Emotion by Carly Rae Jepsen
80年代のシンセポップを現代風にアレンジしたアルバムで、キャッチーなメロディと感情的な歌詞が魅力。『Art Angels』のポップサウンドを気に入ったリスナーにおすすめ。 - Born This Way by Lady Gaga
ポップミュージックとメッセージ性のある歌詞を融合させたアルバムで、自己表現やアイデンティティの探求をテーマにしている。エネルギッシュで解放的なサウンドが、『Art Angels』と通じる。 - TALKING IS HARD by WALK THE MOON
エレクトロポップとインディーロックを融合させたアルバムで、ダンサブルなリズムとキャッチーなメロディが特徴。Grimesのポップな側面を好むリスナーにとって心地よい作品。
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