1. 歌詞の概要
「Am I Really Going to Die（アム・アイ・リアリー・ゴーイング・トゥ・ダイ）」は、White Lies（ホワイト・ライズ）が2022年にリリースした6枚目のスタジオアルバム『As I Try Not to Fall Apart』のオープニング・トラックであり、死の恐怖、存在の不確かさ、そして“現代人の無力な問いかけ”を鮮烈なポストパンク・ビートに乗せて提示する、哲学的かつ皮肉なアンセムである。
この曲で語り手が投げかけるのは、タイトルにあるそのままの疑問――「本当に自分は死ぬのか？」という根源的な問いである。
それは一見シンプルなようでいて、現代社会における加速度的な情報過多、メディア、医療、宗教、そして“永遠に若く健康である”という幻想への懐疑を伴って響く。
語り手は病気の診断を待っているのか、あるいはすでに何かを宣告されたのか。明確なストーリーは語られないが、身体の異常と心の不安が交差するなかで、「自分の死」と「世界の終わり」が重なっていくような、終末的なパーソナルソングとなっている。
2. 歌詞のバックグラウンド
2022年のアルバム『As I Try Not to Fall Apart』は、パンデミック以降の不安定な社会、変化する人間関係、そして精神の崩壊寸前にある個人の心理状態を、ホワイト・ライズらしい耽美性とポップな構造で描いた意欲作である。
「Am I Really Going to Die」はそのアルバムの冒頭を飾る楽曲であり、最初の一音から“存在の問い”が始まってしまっているという切迫感を持っている。
メンバーのHarry McVeighはこの曲について、「死についての歌であると同時に、“死にたくない”という切実な気持ちを覆い隠すような皮肉と美しさの歌でもある」と語っている。
さらに、曲調はホワイト・ライズの過去の作品に比べても特に80年代的で、Depeche ModeやJapan、Bauhausといったダーク・シンセポップの影響が色濃く反映されている。
このサウンドスタイルが、歌詞の“絶望とユーモアの交差”をより際立たせている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
“Am I really gonna die / Ordering a coffee?”
「僕は本当に死ぬのか？ / コーヒーを注文してるこの瞬間に」
“Reading the news / Thinking of nothing?”
「ニュースを読んで / 何も考えていないこのときに？」
“I don’t wanna go / In a hospital bed / Where they check my vitals and shake their heads”
「病院のベッドの上で死にたくない / 医師が僕のバイタルを見て、首を振るような場所で」
“Is there something in my blood? / A ghost in my head?”
「血の中に何かがいるのか？ / 頭のなかに幽霊でもいるのか？」
このように、歌詞は非常に具体的な日常の情景を通して、死という抽象的なテーマを浮き彫りにしている。
それは壮大さではなく、現実のくだらなさのなかにこそ“死のリアリティ”があるという認識からくる表現である。
歌詞全文はこちら：
White Lies – Am I Really Going to Die Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
この曲の最大の特徴は、“死”という重たい主題を、皮肉と日常描写の繰り返しで浮き彫りにしている点にある。
語り手は「死ぬかもしれない」という事実と向き合っているが、それを悲劇的にではなく、少し俯瞰した目線で捉えようとしている。
「コーヒーを飲んでるときに死ぬのか？」「ニュースを読んでるときに？」といった問いかけは、私たちが死というものを“もっと劇的なもの”として捉えていることへの反論である。
実際には、死は常に生活の中に潜み、タイミングも選ばず、意味もないままにやってくる。
それゆえ、語り手は「もしかして、本当に死ぬのか？」と、冗談のように、だが深く切実に自問し続ける。
また、「血の中の異物」「頭の中の幽霊」といったフレーズは、病の兆候であると同時に、現代人の“漠然とした不安”の象徴として機能している。
それは診断もつかず、癒しもなく、ただ不気味に居座り続ける“何か”への恐れだ。
つまりこの曲は、“死ぬこと”よりも“死ぬかもしれないと思いながら生きること”の方が苦しいのだという、生のなかにある死の影を描いているのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Enjoy the Silence by Depeche Mode
沈黙に包まれた言葉の不在と愛の不確かさを、耽美的なサウンドで描いた名曲。 - Disorder by Joy Division
内的混乱と自己崩壊寸前の精神状態を、パンクの冷気で刻んだ初期の代表作。 - Something in the Way by Nirvana
日常と絶望の曖昧な境界を、囁くような声で歌い上げた“気配のような曲”。 - Third of May / Ōdaigahara by Fleet Foxes
死と再生、記憶の水脈を辿る壮大なフォーク・アートロック。 -
America by Sufjan Stevens
国家と自己の境界線で喪失する若者の祈りを綴った深いエレジー。
6. “死にたくない。でも、死ぬかもしれない。そのとき、僕はどこにいる？”
「Am I Really Going to Die」は、White Liesのキャリアにおける新たなスタートを告げると同時に、人生における“恐怖と諦観”を詩的に、そして皮肉に描いた楽曲である。
この曲が問いかける「本当に自分は死ぬのか？」という疑問は、**誰しもが抱いたことのある問いでありながら、けっして口に出すことのない“最後の呟き”**でもある。
White Liesはその問いを、壮大でも悲劇的でもなく、むしろ乾いた感情と、エレガントなサウンドで包み込んでみせた。
だからこそ、この曲を聴いたあと、私たちは思わず黙り込んでしまう。
そして気づく――“生きてること”が、どれほど不思議で奇跡的かを。
それがこの曲の持つ、静かで圧倒的な力なのだ。
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